オーバーロード ありのままのモモンガ 作:まがお
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俺の名はブレイン・アングラウス。
過去にガゼフに負け、以来ガゼフに勝つことを目標にして、修行を続けている。
刀を振るい、武の頂きを目指す剣士だ。
以前は、ある傭兵団の用心棒なんてやってたりもしたが、偶然俺が留守の間に壊滅していた。
その場に残っていた奴らの話は、要領を得ないものばかりだったが、とてつもない怪物に出会ったという事だけは分かる。
そんなやつがいるならばと、俺は傭兵団に見切りをつけ、そいつを探しに行くことにした。
ガゼフに勝つ為、俺の踏み台となってもらおう。
そして、ある村でついに見つけた。
畑仕事を猛スピードで終わらしていく女性がいたのだ。
然程目立ってはいないが、実戦で鍛えられたと思われる、動く為の無駄の無い筋肉。アレだけ動いているのに、汗一つかかない体力。
間違いない、アレが傭兵団たちが出会ったという怪物だろう。
女性というのは意外だったが、武を志す者に性別は関係ない。
「おい、そこのお嬢ちゃん」
「はい、なんですか?」
「俺の名はブレイン、ブレイン・アングラウスだ。俺と勝負しろ。まぁ、断っても俺は止まらないがな」
そう言って刀の鞘を腰から外し、抜刀術の構えを取る。
武技〈領域〉、自身の半径3メートルを完全に知覚することにより、技の精度を極限まで高めることが出来る。
そして武技〈神閃〉、知覚不可能な程の神速の一刀を放つ。
これらを組み合わせ、相手の急所を一撃で切り裂く〈秘剣・
ガゼフに勝つために編み出した、最強の一撃をもって、俺はこの強者を倒す!!
「――なぁ、教えてくれ…… 俺は、弱いのか?」
駄目だった…… 自身の持つ最強の一撃を、放つことすら出来なかった。
自身の武技〈領域〉ですら、知覚出来ない程の速さの拳。
俺はただの一撃で倒された。
「どうすれば、それ程の高みに到達できるんだ? 君の拳には、執念のようなモノが感じられた…… どうすればいいんだ?」
「知りません!! 私は妹を養うので一杯一杯なんです。高みなんてどうでも良いですし、妹を守れたらそれでいいです」
なぜだ、自分よりも小柄な彼女のことが、大きく、力強く見える。
俺はずっとガゼフを超えるために剣を振るっていた。
そうか、自分の為じゃなく、誰かを守る為の力か――
――あいつ、ガゼフが剣を掴んだのも民を守る為、そして今も王の下で剣を振るっていたな。
俺では勝てない訳だ……
「ありがとう、目が覚めたよ。迷惑をかけてすまなかった。名前を聞いてもいいか?」
「エンリですけど……」
「ありがとう、エンリ。俺はまた一から鍛え直す。俺が誰かを守れる程に強くなったら、もう一度勝負してくれ」
「……」
村を離れ、歩きながら、今後のことを考える。
今度は誰かを守るために、剣を振ってみよう。
――正義の味方、笑ってしまいそうだが、子供の頃に夢見た存在を目指して、修行をするのも悪くない。
「さっきの人…… いったい何だったんだろう?」
私の様な村娘に一発でやられるなんて、普段は運動とかしない人なのかな?
エンリは自分の力に、気づく事はなかった……