ちゃんとお金をとらないと不公平、ということね。
税金、罰金、和解金などが大手テック起業に課された時にその金額に驚いてしまうことがありますが、テック・マーケットの恐ろしいところはその金額が果たして起業にとって痛いのかどうかすら判断し辛いことでしょう。
しかしEUがGoogle(グーグル)に対して課した50億ドルの罰金は史上最大の罰金となっており、さすがのGoogleも「イテててて」となったのでした。裁判所命令を受けて早速、方針を変更しています。先日発表されたところによると、EU経済圏にGoogleのアプリがプリ・インストールされたデバイスを出す際には、デバイス製造元はGoogleに対してライセンス料を払わないといけなくなるようです。
なぜデバイス製造元がライセンス料を支払わないといけないの?
あれ? デバイス製造元の支払いが増えるの? Googleが悪かったんじゃないの? と一瞬混乱しそうになりますが、これはGoogleが独占的な立場を利用して自分のビジネスに優位に事を進めることを防ぐ目的なのです。
GoogleのAndroid OSは世界のモバイルマーケットにおいて80%のシェアを占めています。質の高いプロダクトであること、そして無料のオープンソース・ソフトウェアであることが要因です。しかしAndroid OSのフルバージョンを使うためにはデバイス製造元はGoogleによるSearchやChromeといったアプリ・パッケージをプリ・インストールすることが条件とされてきました。もちろんユーザーの多くは最初から入っているアプリはそのまま受け入れてしまうので、Googleの巨大な広告ビジネスが強固になったわけです。しかしこの行ないは不公平な競争優位をGoogleに与えてしまっているとEUは論じ、7月にはこの慣習を変更するように裁判所から命じられました。そして公式ブログに先日、今回の変更について投稿されたというわけです。
それによると、Androidはオープンソースであり、デバイス製造元たちはソフトウェアを自分たちで変更できる、という点は変わりません。どのようなソフトウェアをプリ・インストールするかを選ぶこともできます。しかしGoogleのモバイルアプリ・パッケージ(Play Store、Gmail、YouTube、Mapsなど)がデバイスにプリ・インストールされEU経済圏に出荷される時にはGoogleに対してライセンス料を支払う必要があり、SearchとChromeの2つのアプリに関してはまた別のライセンスが必要となると説明しています。
このライセンス料がどのような仕組みになるのか、より詳細な情報を米GizmodoはGoogleに対して求めましたが、まだ返答はもらっていません。
果たして、競合アプリを作るモチベーションとなるのか?
一見すると、これはGoogleの”独占市場”における行動に課せられた罰則を別のところへとスライドさせているようにも見えます。しかし、実はこれこそがEU規制側の狙いでした。これによって競合他社はGoogleに対抗するプロダクトを自社で開発し、製造元にプリ・インストールしてくれないか掛け合うモチベーションが生まれたのです。ライセンス料を払わないといけなくなったため、競争が少し公平になったというわけですね。面白いです。
より大きな疑問としては、今になって競争モチベーションが発生しても本当に何かが変わるのか、という点です。Microsoftほどの巨大な会社をもってしても、Googleの検索エンジンに対抗することは極めて難しいわけです。ユーザー発信型のビデオ・ストリーミング市場ではYouTubeに適うプラットフォームは存在していません。とは言え、どちらのサービスも常に新しいユーザーによるコンテンツ制作、新しいアルゴリズム・データが必要であるという点では間違いありません。競合アプリがAndroidのスマートフォンにプリ・インストールされることでGoogleのシェアを少しずつ奪うということは理論上は可能です。
そしてこれによって本当に製造側がライセンス料を払うのか、もしくはライバルのアプリをプリ・インストールするのかというのも大きな疑問です。どんなアプリもデバイスを購入した後にユーザーによってダウンロードすることができるわけです。ライセンス料をわざわざ払ってまでプリインストールするモチベーションはそれほど大きくないように思います。
新しいポリシーは10月29日に施行開始となるようです。しかしまだ確定したわけでも無いとのこと。現在、GoogleはEUによる今回の反トラスト判決を上告しています。50億ドルは大きいですからね...。