昨年度の産業構造審議会では、職務発明規定の改正が実務(といっても私の仕事という意味での実務)への影響が大きいだろうと思って、(新)産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会を追いかけていましたが、商標の方は保護対象の拡充、つまり、色彩・動き・ホログラム・位置・音からなる新しい商標の方は、とりあえず様子見ということで、知的財産政策部会商標制度小委員会も知的財産分科会商標制度小委員会商標審査基準ワーキンググループも追いかけていませんでした。
ところが、年明けに『平成26年特許法等の一部改正 産業財産権法の解説』を読む機会があって、
ところが、年明けに『平成26年特許法等の一部改正 産業財産権法の解説』を読む機会があって、
徐々にその重要性が気になりはじめたのが、いわゆる「商標的使用」に関する商標26条1項6号の改正です。
具体的には、改正商標法26条1項6号として、以下の条文が入りました。
(商標権の効力が及ばない範囲)
第二十六条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
一 ~ 五 (略)
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標
2 (略)
第二十六条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
一 ~ 五 (略)
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標
2 (略)
これまで商標法上に明文の規定はありませんでしたが、多数の裁判例において、「商標的使用」であるか否かを判断し、「商標的使用」でない場合、そのような商標の使用を商標権侵害ではないとしてきました*1。
このような裁判例の考え方を明文化し、「商標的使用」の立証責任については、これを抗弁事由と位置付けて被告に立証責任を負わせたのが上記の規定です。
改めて、読み返してみますと、すごい規定ですね*2。
これについて、上記で紹介した『平成26年特許法等の一部改正 産業財産権法の解説』では、以下のような説明がなされています。
ⅰ 従来の制度及び改正の必要性
商標は、本来的には自他商品等の識別のために使用すべきものであり、自他商品等の識別機能を発揮する形での商標の使用はいわゆる「商標的使用」と称されている。こうした「商標的使用」でない商標の使用については商標権侵害を構成しないものとする裁判例はこれまで数多く蓄積されているが、こうした裁判例は商標法上の特定の規定を根拠とするものではない。
そのため、本来保護すべき範囲以上の権利を商標権者に与えるような事態や、当該商標権者以外による商標の使用が必要以上に自粛されるような事態等の発生をあらかじめ防ぐべく、これら裁判例の積み重ねを明文化する必要がある。
ⅱ 改正条文の解説
いわゆる「商標的使用」がされていない商標、すなわち「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」に対しては、商標権の効力が及ばないこととした。
商標は、本来的には自他商品等の識別のために使用すべきものであり、自他商品等の識別機能を発揮する形での商標の使用はいわゆる「商標的使用」と称されている。こうした「商標的使用」でない商標の使用については商標権侵害を構成しないものとする裁判例はこれまで数多く蓄積されているが、こうした裁判例は商標法上の特定の規定を根拠とするものではない。
そのため、本来保護すべき範囲以上の権利を商標権者に与えるような事態や、当該商標権者以外による商標の使用が必要以上に自粛されるような事態等の発生をあらかじめ防ぐべく、これら裁判例の積み重ねを明文化する必要がある。
ⅱ 改正条文の解説
いわゆる「商標的使用」がされていない商標、すなわち「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」に対しては、商標権の効力が及ばないこととした。
正直な感想は、「えっ?!これだけ?」という感じです。
「裁判例の積み重ねを明文化」ということですが、26条1項に規定して抗弁事由であるとしつつ、「商標的使用」でないことの立証責任を被告に負わせたことについての説明は全くありません。。。
そもそも、日本における「商標的使用」という考え方は日本特有というか、米国や欧州のそれとは結構違っていて、海外展開の際に、頭を悩ます問題の一つです。
米国や欧州における「商標的使用」の考え方を理解していないと、以前、この記事でお話をしたアンブッシュ・マーケティングが何故問題になるのか、理解できないように思います*3。
それならというわけで、審議会でどんな議論がされているか確認しようと思い、配布資料や議事録を確認したところ・・・、議事録上はほんとんど議論された形跡がありません。。。*4
いわゆる「商標的使用」の話、こんな簡単な議論で法改正してしまって、本当に良かったのか、色々と疑問がありますが、当面は、商標法26条1項6号に関する裁判例を注目していくしかなさそうです。
それにしても、昨年(2014年)、「平成26年度特許法等改正説明会」にもきちんと参加して、説明会のテキストもきちんと読んだはず。。。
なのに何故気が付かなかったのか?
と思ったら、テキストの説明用の資料には記載がありませんでしたので、おそらく説明会で話をしていないのではないかと思います*5。
こんな大事な話、きちんと説明してくれないと困りますね*6。
<脚注>
*1 大阪地裁昭51年2月24日判決(ポパイ事件)、東京地裁昭51年10月20日判決(清水一家二十八人衆事件)、東京地裁昭62年8月28日(通行手形事件)、東京地裁平10年7月22日(オールウェイズ・コカコーラ事件)、東京地裁13年1月22日(タカラ本みりん事件)、東京地裁平16年3月24日(がん治療最前線事件)、東京地裁平成22年10月21日・知財高裁23年3月28日(ドーナツ事件)、東京地裁23年5月16日(QuickLook 事件)、東京地裁平成26年11月14日判決(SHIPS事件)等々。
*2 立証責任については原告説と被告説がありましたが、抗弁事由として立証責任を被告に負わせ、しかも「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない」ことを証明しなければならないとなると、単純に「商標的使用」となってしまう場合が、これまで以上に増えることになるのではないでしょうか?
これって、2020年東京オリンピックへの伏線(?)でしょうか?
*3 ブランディングやマーケティングの話が絡む面白い話(なはず)なので、できれば近いうちに米国や欧州における「商標的使用」の基本的な考え方だけでも紹介できればと思っています。が、脚注でこのようなことを書いて、忘れていることがたくさんあるので・・・。ごめんなさい。
*4 平成24年5月28日に開催された第27回商標制度小委員会の配布資料1『新しいタイプの商標の保護の導入に伴う「商標」の定義の見直し等について(19頁)』と議事録(2頁)に、若干の記載があります。
*5 私が説明会の途中で眠ってしまっていないかぎり・・・。
*6 どこかの団体の圧力とかで、「新しい商標」に関する改正に目を向けさせて、「商標的使用」については議論をせず(させず?)に、意図的に改正した、なんてことはありませんよね。。。
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