(商標権の効力が及ばない範囲)

第26条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。

一 自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標

二 当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。次号において同じ。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又は当該指定商品に類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する商標(改正、平3法律65)

三 当該指定役務若しくはこれに類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期又は当該指定役務に類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する商標(本号追加、平3法律65)

四 当該指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について慣用されている商標(改正、平3法律65)

五 商品又は商品の包装の形状であつて、その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標(本号追加、平8法律68)

2 前項第1号の規定は、商標権の設定の登録があつた後、不正競争の目的で、自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を用いた場合は、適用しない。

〔旧法との関係〕8条1項

〔趣旨〕

本条1項は、商標権の効力が制限される場合を規定する。すなわち、業務を行う者がその商品又は役務について本項各号に掲げる商標を普通に用いられる方法で使用をする場合にまで商標権の効力を及ぼすのは妥当でないと考えられるからである。本項の立法趣旨は3つある。第1に過誤登録に対する第三者の救済規定であると考えられる。すなわち、他人の肖像等については4条1項8号で、また商品又は役務の普通名称等は3条1項1号から3号までによって特別顕著性がないものとして登録されないのであるが、誤って商標登録があった場合でも商標登録の無効審判手続によるまでもなく、他人に商標権の効力を及ぼすべきではないとの趣旨によるのである。この点はとくに47条の除斥期間が経過して無効審判の請求ができなくなった後に実益がある。第2はその商標自体は不登録理由に該当しないため商標登録を受けることができ、したがって、類似部分については禁止権の効力が及ぶこととなったが、その類似部分に本条に掲げられたものを含むため、その部分にまで商標権の効力を及ぼすのは妥当ではないと考えられるときに、当該部分の禁止的効力を制限する場合である。たとえば、仮に「アスカレーター」と「エスカレーター」とが類似であるとし、「アスカレーター」は登録要件を満たしているが「エスカレーター」は普通名称であるというような場合があるとすると「アスカレーター」は登録されるが当該商標権の効力は本条によって「エスカレーター」には及ばないのである。第3は後発的に本条に定めるものとなった場合に商標権の効力を制限し、一般人がそのものを使うことを保証するためである。

例えば、従来から使用されていた登録商標の名称と同一の名称の都市ができた場合等が考えられよう。

なお、平成8年の一部改正では、1項柱書において、同項各号に掲げる商標が商標の全体の構成となっている場合だけでなく、商標の一部の構成となっている場合にも、商標権の効力は、その商標の部分には及ばないとする趣旨を明らかにするために、商標権の効力が及ばないとされる同項各号に掲げる商標には「他の商標の一部となっているものを含む」旨を括弧書で明記した。すなわち、ハウスマーク(同一事業者に係る取引商品(役務)の全般にわたって使用される代表的出所標識)に代表されるような識別力のある商標に識別力のない文字等を結合させた商標については、連合商標制度を廃止した後も、同一人であれば当該ハウスマーク等の登録商標に類似する独立の商標として登録が可能である。しかし、このような登録商標の存在は、第三者に当該識別力のない文字等の使用を躊躇させることともなり、当該文字等を使用する第三者に対して不当な権利行使を生ぜしめることともなる。さりとて、このような登録を抑制するためではあっても、識別力のない文字等との結合であることを理由に全ての商標についてその登録を拒絶することとするのも行き過ぎである。そこで1項柱書に、結合商標中の当該識別力のない文字等の部分には商標権の効力が及ばない旨を確認的に規定することとしたのである。

本項では「普通に用いられる方法」による場合にだけ商標権の効力が制限されるので、それ以外の場合には適用はない。慣用商標について特に「普通に用いられる方法で」と限定しなかったのは慣用商標というのは常に当該商品又は役務について普通に用いられている状態にあるから、特にことわるまでもないとの理由による。

また、平成3年の一部改正では、「商標」の定義の改正及び商品と役務の間にも類似があり得るとして調整したことに伴い、第1項に第3号として役務に係る商標権の効力が及ばない商標として「当該指定役務若しくはこれに類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期又は当該指定役務に類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する商標」を追加するとともに、商品に係る商標権の効力についても「当該指定商品に類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する商標」には及ばないよう第2号を手当てすることとした。

さらに、平成8年の一部改正では立体商標制度を導入したことに伴い、2号及び3号における商品の「形状」には立体的形状も読み込むこととし、この「形状」には「包装の形状」が含まれることとした。これは3条1項3号の改正に対応するものである。したがって、当該指定商品若しくはこれに類似する商品又は当該指定役務に類似する商品の形状(包装の形状を含む。)を普通に用いられる方法で表示する立体商標については商標権の効力は及ばないのである。また、5号は、4条1項18号に新設された立体商標についての不登録理由に対応して設けたものである。

2項は、1項1号についての適用除外を規定したものである。

〔字句の解釈〕

〈不正競争の目的で〉他人の信用を利用して不当な利益を得る目的でという意味である。