日本時計師会・会長 末和海 ご挨拶 (2015年掲載)

皆様こんにちは、日本時計師会 会長の末 和海でございます。

昨年8月に某HP上で「日本時計師会」の2013年10月 再発足以来の活動状況のあらましを、中でも特に我々の再優先目的であるCMW(公認上級時計師:Certified Master Watchmaker)認定試験の再開状況についてご報告させていただきましてからはや1年余りが経ちました。
此の度当会のHPを立ち上げましたので、此の機会に改めてこの資格試験のご紹介と再開以来の経過についてご報告させて戴きます。

この資格試験はヨーロッパで1500年代に発足したいろいろな職業のギルド制の中で公認のマイスター資格が確立され時計師に就いても徒弟5年 平時計師2年の修練を経た後、部品から自作した時計を提出し、ギルド長の評価に合格して初めて公認されると言うものでした。
1700年代にはアメリカのボストン ニューヨーク シカゴ等で時計製造が開始され、1900年代にはアメリカ時計学会(HIA)が発足、30年代にはCW(Certfiede Watchmaker)の資格試験が開始され、40年代にはCMW資格認定試験が開始されました。

此の資格試験は、我が国では1954年にHIAのCMWとCWの認定試験が導入され、以降1980年までの27年間に関係業界(時計のメーカー、輸入、卸、修理、小売業 等)から800人のCMWの資格が認定され、我が国の機械(メカ)式時計の技術技能の向上に大きく貢献しました。

この試験の実施機関は27年間にHIA日本支部、アメリカ時計師会(AWI)日本支部、日本調時師協会(JTM)、日本時計師会(JWI)と受け継がれましたが、CMW試験の難易度は世界に通用するヨーロッパのマイスター、アメリカのCMWに準ずる高度のレベルを維持していました。
(CW試験の方は当時の我が国の時計師にとっては易し過ぎて受験者がゼロでした)

然しながら1970年代から始まった時計のクォーツ化旋風の結果、我が国のメカ時計の生産も修理も激減する結果となり1981年以降の30余年間此の認定試験も中断のやむなきに至りました。

この間の我が国のメカ時計に関する技術技能のレベルダウンは正に目を覆う物があり、メカ時計の開発からアフターサービスに至る市場はスイス勢の席巻する所と成り、奪還は極めて困難と言った状況であります。

この惨状を打開する一助として私共 日本時計師会が昨年(2014年)このCMW試験の再開を果たした訳ですがその実施状況は前回のご報告のあと 第二次試験は昨年12月中旬全国で唯一一名の第一次合格者(近江時計眼鏡宝飾専門学校 講師 染谷泰輔氏)が関西会場で受験、試験時計2個の厳重な性能試験 ワークマンシップ 採点等を経て今年2月末にCMW認定試験合格が確定しました。

染谷氏は1985年生まれの当年30歳で同専門学校前副校長でありました(故)東條勝利先生(1978 JWI-CMW)の愛弟子であり、東條先生亡き後準講師の伊藤光俊氏と共に近江時計眼鏡宝飾専門学校の将来を担う優秀な「時計師」であります。
染谷氏のCMW認証式は3月14日(土)午前11時から銀座「テクノスイス」に於いて10数名の関係者と報道陣を集めて挙行 続いて銀座「Sun-Mi本店」でささやかならが祝賀会を開催(午後4時終了)致しました。
なおご報告が遅くなりましたが今年度のCMW試験は3月末受付け、3名の受験者の第一次試験は4月下旬セイコーミュージアムに於いて実施(3名とも関東地区出身)6月末2名の合格確定、第二次試験は9月下旬同じくセイコーミュージアムで実施され11月末2名とも合格が決定されました。

1954年(60年前)本邦最初のCMW試験の受験者は全国で2名から始まったとは言え、再開後此の2年間の状況から言えることは(1)我々の活動が関係業界にまだまだ知られていないのではないか、(2)CMW試験の内容とレベルが関係者によく知られていないのではないか(何れもPR不足?)(3)試験の内容のレベルが高すぎるのではないか、(4)受験費用が高額すぎるのではないか、等が考えられ、これ等の対策として(1)(2)に対しては此れまでは聞かれれば答える取材には適当に応じる程度であったマスコミ対策を積極的に此方から活用するように方向転換を図る(特にHPを重視)(3)(4)に就いては関係者への打診と組織内の検討を繰り返し、下記のようにアメリカから導入以来此れまでCMW一本であった認定試験を次年度2016年には此れを分割し、CMWの前段階として公認時計師(CW:Certified Watchmaker)試験を新設する事としました。

新旧のCMW試験の概要は下記の通りです。詳細は別記「2016年度 日本時計師会(JWI)、公認上級時計師(CMW)、公認時計師(CW)認定試験の実施について」をご覧ください」をご覧下さい。

改訂後の内容は、一次と二次の一部を入れ替えたのみで従来と全く同じですが、従来の制度では一次試験に合格した後3年以内に二次試験に合格しなければ何の資格も得られなかったのが、改定後のCW試験は従来のCMWの一次試験より内容がより実戦的になり、合格すればCW資格が認証され生涯有効となります。また将来更に上位のCMW資格に挑戦するには何時でも何年たってからでもその年の秋季のCMW試験を受ける事ができます。
従来と同様に一度にCMWに挑戦する場合は従来のCMW第一次試験(春季)二次試験(秋季)と全く同様にCW試験を春に、続いてCMW試験を秋に受験して頂くと当年度に合格することが出来ます。

なお受験資格は通常の時計修理が出来て、時計旋盤の使用経験があり、CW受験時に時計専門学校又は同等の教育機関在学中か卒業年次内の方で在籍の教育機関の推薦が得られる者又は先輩CMWの推薦が得られる者なら誰でもよく、年齢 学歴 職歴 性別は一切不問です。
CMW試験の資格試験は当然CW合格者のみとなります。

又近年のメカ式時計の少量化の中での多様化 複雑化 高級化 の傾向が著しく部品の入手は極めて困難となっており、時計師の機能部分の製作能力が問われる傾向が強く、従来の時計旋盤作業に板物部品の製作課題として裏押さえ(押し鳥バネ)の製作の追加を予定しています。将来的には面板チャックを使用したアンクル受けの製作等も検討中です。