「いきなり!ステーキ」のステーキ提供システム特許が知財高裁で復活

特許公報5946491号より

ペッパーフードサービス社によるいきなり!ステーキのビジネスの根本部分であるステーキ量り売りシステムの特許(5946491号)が昨年の11月に異議申立により取消になった件については既に書きました

この取消決定を取り消すための訴訟が知財高裁で行なわれていましたが、10月17日に特許庁による取消決定を取り消す、すなわち、特許を有効に残すという判決が出されました(判決文要旨)。

本特許の請求項1の内容は以下のとおりです(異議申立における訂正請求の結果を反映済)。

【請求項1】

 お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、お客様からステーキの量を伺うステップと、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、カットした肉を焼くステップと、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むステーキの提供方法を実施するステーキの提供システムであって、

上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札と、上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と、上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印しとを備え、上記計量機が計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力することと、上記印しが上記計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載されたシールであることを特徴とする、ステーキの提供システム。

異議申立では、札,計量機及びシール(印し)という特定の物品を使ってはいても、全体としては特許法上の発明(技術的思想の創作(=技術的アイデア))に該当しないとされたわけですが、知財高裁は以下のように判示しました。

本件特許発明1の技術的課題(栗原注:お客様に,好みの量のステーキを,安価に提供すること),その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果(栗原注:お客様の要望に応じてカットした肉が他のお客様の肉と混同することを防止することができるという効果等)等の技術的意義に照らすと,本件特許発明1は,札,計量機及びシール(印し)という特定の物品又は機器(本件計量機等)を,他のお客様の肉との混同を防止して本件特許発明1の課題を解決するための技術的手段とするものであり,全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するということができる。

ちょっと違和感があるというか特許庁の審査実務から乖離しているのではないかという印象です。明らかに人為的取り決めに関するアイデアであっても、たとえば「結果をメモ用紙に書くステップ」を足せば、メモ用紙という物品が課題解決に貢献しているということで、発明該当性はクリアーできてしまうのでしょうか?(弁理士という立場的にはある意味朗報ですが)

なお、注意したいのは、この裁判で問題になっているのは発明該当性のみである点です。進歩性・新規性は問題とされていません(元々の異議申立の申立理由がそうであったためです)。異議申立が可能な期間は過ぎてしまっているため、今後、無効審判で、本特許の出願日前から同等の行為が行なわれていたことを立証すること等により進歩性・新規性について争うことは可能です(なお、無効審判は利害関係者しか請求できません)。

また、特許権を侵害するのは、請求項に記載された構成要素をすべて実施した場合だけなので、ステーキの量り売り商売をやれば必ずこの特許権を侵害するというわけではありません。