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Chim↑Pomが、「ロボット」でなく「人間」レストランを開く理由

Chim↑Pomが、「ロボット」でなく「人間」レストランを開く理由

『NEWTOWN 2018』
インタビュー
杉原環樹
テキスト・編集:矢島由佳子 撮影:西田香織

アート集団・Chim↑Pomが、10月14日より、『にんげんレストラン』をオープンしている。場所は、10月7日に営業終了した「歌舞伎町ブックセンター」だ。歌舞伎町の観光スポットとして人気を博している「ロボットレストラン」と対抗するようなこのイベントの名前と内容だが、イベント開催のきっかけ、そして歌舞伎町ブックセンターの閉店には、実際にロボットレストランが大きく関係しているのだという。その真相を、Chim↑Pomに聞きに行った。

Chim↑Pomは、2016年より、プロジェクト『Sukurappu ando Birudo』を継続している。「Scrap and Build」ではなく、あえてローマ字表記にしているのは、日本では馴染みのあるこの言葉が実は、中世の街並みが今も生きている他国では通じない、和製英語であるからだ。2年前のインタビューで、2020年の『東京オリンピック』に向けた再開発が急進している日本に対する違和感を表したChim↑Pomが、2018年の今抱いている新たな違和感、「個人」に対して感じている価値、そして、昨今バズワードのように使われている「多様性」という言葉の見解などについて語ってくれた。

ホームレスが寝泊まりしたり、酔っ払いが来たり、立ちションしたり、本当に街に根差した道として育っていくんじゃないかなって。(稲岡)

—Chim↑Pomは、2016年10月に解体直前の歌舞伎町振興組合ビルで展覧会『「また明日も観てくれるかな?」~So see you again tomorrow, too?~』を開き(参考記事:Chim↑Pomが熱弁する結成からの10年と「全壊する個展」の意義)、翌年7月には解体されたビルの瓦礫や作品の残骸を使い、高円寺のキタコレビルで『Sukurappu ando Birudo プロジェクト 道が拓ける』を開催、『Chim↑Pom通り』という誰でも24時間自由に通れる公道を作りました。まず、なぜ作品として「道」を作ろうと思ったのか、という話から聞かせていただけますか?

稲岡:日本や東京の大きな流れとしての「スクラップ&ビルド」をテーマにしたプロジェクトを立ち上げたなかで、歌舞伎町で「スクラップ編」をやって、高円寺は「ビルド編」になるような2部構成をみんなで話していたんですけど。歌舞伎町では「スクラップ&ビルド」という流れ自体を俯瞰して見るような試みをやったのに、高円寺でただなにかを作っちゃうのはどうなんだろう? という思いがすごくあって。

—『また明日も観てくれるかな?』が「スクラップ」で、『道が拓ける』が「ビルド」と、そう簡単に分けてしまうのは違うと。

稲岡:スクラップにもビルドにも批評的な立場でいながらそれを体現したかったのに、わかりやすくスペースをもうひとつビルドするというのは、なんか違うなあって。で、「もともとChim↑Pomはどういうことをやっていたんだっけ?」って話し合っていったら、結局、アトリエとしてだったり、撮影現場としてだったり、あと介入する場所として常に「道」を使ってきたんですよね。

左から:稲岡求、岡田将孝、エリイ、卯城竜太、林靖高
左から:稲岡求、岡田将孝、エリイ、卯城竜太、林靖高

—デビュー作『SUPER RAT』(2006年)から、東京の名所の上空にカラスを集める『BLACK DEATH』(2007年~)、渋谷駅の通路に設置された壁画に新たなピースを付け加える『LEVEL7 feat.「明日の神話」』(2011年)まで、道や公共の場を使った作品が多いですよね。

『SUPER RAT』(2006年)© Chim↑Pom Courtesy of the artist / 無人島プロダクション
『SUPER RAT』(2006年)© Chim↑Pom Courtesy of the artist / 無人島プロダクション
『BLACK DEATH』(2007年~)© Chim↑Pom Courtesy of the artist / 無人島プロダクション
『BLACK DEATH』(2007年~)© Chim↑Pom Courtesy of the artist / 無人島プロダクション
『LEVEL7 feat.「明日の神話」』(2011年)© Chim↑Pom Courtesy of the artist / 無人島プロダクション
『LEVEL7 feat.「明日の神話」』(2011年)© Chim↑Pom Courtesy of the artist / 無人島プロダクション

稲岡:そんなふうに公共空間に入り込んで作品を作ってきた自分たちが、今回はスタジオというプライベートスペースのなかに道を作り、公共空間を作る側になるというのは面白いなと思ったんです。しかも、歴史を辿ると、今『Chim↑Pom通り』がある場所は、もともと本当の道だったらしいんですよ。

—キタコレビルは戦後直後からあるバラック風の建物ですが、住人たちがDIYに増改築するなかで、もともと道だった場所も「屋内」になっていた。そこをChim↑Pomが、もう一回道に戻したわけですね。

稲岡:そこにも、「東京の積み重ねてきた歴史を発掘する」みたいな面白さがあったし、道にすべてを埋め立てるというのはスクラップアンドビルドの極致にも思えた。あと、キタコレの増改築の歴史は完全に個人によるDIYだったから、その延長線で工事をすること自体が批評的なのでは、と思ったんです。

アイデアを話し合っていったときに、卯城くんが「道にするんだったら、24時間開放して、誰でも使えるようにしたほうがいい」って言って。そうしたら、たとえばホームレスが寝泊まりしたり、酔っ払いが来たり、立ちションしたり、いろんなことが起こる、本当に街に根差した道として育っていくんじゃないかって。

:「都市は人なり」ということを、その前からテーマとして持っていて。ただアスファルトを敷くだけでは、本当の道にはならない。ちゃんと人が使う道を作ろうとすることで、都市を作るには、なにをどう育てていけばいいのかを考えられるんじゃないかとも思ったんですよね。

林靖高
林靖高
稲岡求
稲岡求

—『Chim↑Pom通り』ができて1年以上が経ちますが、今はどうなっているんですか?

岡田:キタコレは僕らのスタジオでもあるんですけど、誰でも使っていい公衆トイレも作っていて。街の一部として、今のところ定着しつつあるかなと思います。

エリイ:会議してたりすると横に人が通るよね。

:Chim↑Pomのことを知らないでも楽しんでいる人が結構います。キタコレ内にバーがあるんですけど、そこにいろんな人が来るようになって。やっぱり、バーとかがあると、道として認識されるから人が来るようになるんですよね。

卯城:このあいだバーに呑みに行ったら、ベロベロな人が道のうえでゲロ吐いてた(笑)。去年の阿波踊りの日とか、若者たちが寝袋持って入って来て寝ようとしてたよね。

:野宿にちょうどいい場所だと思って来たんだろうね(笑)。なかなか野宿できるところって、今どきないから。警察がすぐ来るし。『Chim↑Pom通り』は、そうやって育ってきている感じはあります。

エリイ:最近、私が占い番組(『Chim↑Pomエリイの占い実験実行犯 エリマニ』)を始めたんですけど、黒門先生という風水の先生がキタコレに来てくれて、コンパスみたいなものを持って、「旗でもなんでもいいから、入り口に向けて、この角度で立てたほうがいい」って言われて。旗をつけたときから、人の流れが明らかに増えた(笑)。

卯城:あの番組めっちゃ面白いんだよな。俺、個人的にすげぇ好き(笑)。

『Chim↑Pomエリイの占い実験実行犯 エリマニ』。「#3 Chim↑Pomエリイの占い実験実行犯 エリマニ #03 エリイ、風水でスタジオを改造する。」より。
『Chim↑Pomエリイの占い実験実行犯 エリマニ』。「#3 Chim↑Pomエリイの占い実験実行犯 エリマニ #03 エリイ、風水でスタジオを改造する。」より。(サイトを見る
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イベント情報

『にんげんレストラン』
『にんげんレストラン』

2018年10月14日(水)~10月28日(日)
会場:東京都 新宿 旧歌舞伎町ブックセンタービル

参加予定アーティスト:
BLACKSMOKER(KILLER-BONG、山川冬樹、カイライバンチ)
切腹ピストルズ
ミラクルひかる
康芳夫
平井有太マン
jan and naomi
関優花
加藤翼(+和田晋侍+Jeremy Woolsy+平野由香里)
松村宗亮
伊東宣明
会田誠
松田修
三野新
Aokid
Smappa!Group
電撃ネットワーク[若手班]
西尾康之
ヘルマン・ニッチ
篠崎裕美子
contact Gonzo
MEGANE
涌井智仁
森村泰昌
ほか

『グランドオープン』

2018年11月22日(木)~2019年1月26日(土)
会場:東京都 品川 ANOMALY

番組情報

『Chim↑Pomエリイの占い実験実行犯 エリマニ』

隔週火曜24:00~25:00に占いTVで放送中

プロフィール

Chim↑Pom(ちんぽむ)

2005年、卯城竜太・林靖高・エリイ・岡田将孝・稲岡求・水野俊紀により結成。時代と社会のリアルに全力で介入した強い社会的メッセージを持つ作品を次々と発表。東京をベースに、世界中でプロジェクトを展開する。2015年アーティストランスペース「Garter」をオープン、キュレーション活動も行う。福島第一原発事故による帰還困難区域内で、封鎖が解除されるまで「観に行くことができない」国際展『Don't Follow the Wind』をたちあげ作家としても参加、2015年3月11日にスタートした。近年の主な著作に『芸術実行犯』(朝日出版社)、『SUPER RAT』(パルコ)、『エリイはいつも気持ち悪い』(朝日出版社)、『Don't Follow the Wind』(河出書房新社)、『都市は人なり 「Sukurappu ando Birudo プロジェクト」全記録』(LIXIL出版)がある。

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