写真はイメージ=123RF 働き方改革関連法が6月に成立しました。残業時間の規制や、正社員と非正規社員の不当な待遇格差の解消、高収入専門職の労働時間の規制除外――といった内容で、日本の労働慣行の大きな転換点といえそうです。
働き方は人間の寿命にも大きな影響を与えるという説があります。米コロンビア大学ビジネススクールのシーナ・アイエンガー教授の著書「選択の科学」(原題:The Art of Choosing)にそのことが書いてあります。英ロンドン大学の長年にわたる研究プロジェクト「ホワイト・ホール・スタディー」が基になっています。
この研究は英国の20歳から64歳の公務員男性約1万人を対象とし、さまざまな階層に所属する公務員の健康状態を追跡して比較したものです。調査の結果、地位の高くない職業階層の心臓病発症などによる死亡率が上級職の3倍も高いという事実が判明しました。
■選択の自由は健康上のメリットになる
さらにいえば、階層が上がっていくほど平均寿命が延びるというのです。著書によれば、その理由は「選択の自由度に対する認識が健康に大きな影響を及ぼす」からだそうです。
つまり、自分で物事を判断できる権限が大きいほど健康に良い影響を与えるということです。地位が高い人は責任も重く、大きなストレスを抱えることは間違いないのでしょうが、それ以上に自分で考えて判断することができる、選択の自由を持つことの方が健康上のメリットが大きいということなのです。
これは会社の場合も同じでしょう。上司は一般社員よりも元気ではないでしょうか。会社員は組織の一員ですから、いくら自分で考えてアイデアを提案しても、上司が認めてくれなければ採用されません。会社員なら多かれ少なかれこういう経験はするものですが、自分の考えたことが実行に移せないのは非常に大きなストレスです。
一方、社長とまではいかなくても、会社で地位が高い人はそれに伴う責任もある一方、権限も増大します。自分で判断して実行できる職務が多いほど、仕事も面白くなります。
■シニア社員は独立して起業するチャンス
この点に生き生きと働く上でのヒントがあります。若いうちは無理でも定年が視野に入っているシニア社員は独立して起業するチャンスです。以前のコラム「早期退職で起業もいいけれど 定年後ならより生き生き 」でも述べましたが、私は多くの人にも定年後の起業を勧めています。
その理由は定年後なら退職金も年金もあるので、仕事がなくてもたちどころに食べていけなくなるということはありません。借金をしたり、人を雇ったりしなければ、あまり不安はないのです。
私自身、会社員として定年の60歳まで勤めた後、半年だけ会社の再雇用で働き、その後独立しました。会社を辞めて自分一人で仕事をするようになると、全ての世界観が変わりました。
■嫌な仕事は引き受けなければいい
今の仕事に全く悩みやストレスがないわけではありません。が、少なくとも会社員時代と違い、ほとんどのことは自分で解決することが可能です。どうしても嫌な仕事は引き受けなければいいだけです。
いっそのこと、定年後に働くなら「雇用される」働き方ではなく、自らの意志で独立してはどうでしょう。その方が健康にもいいし、何よりも楽しいと思います。
ある説によれば、サラリーマン社長よりオーナー社長の方が長生きなのだそうです。オーナー社長の仕事は、サラリーマン社長とは比較にならないぐらい大変そうに見えますが、これも自由に何でもできるからなのでしょう。シニア社員は健康を保つ上でも定年後は起業して自分の好きな仕事に取り組んでみてはいかがでしょうか。
大江英樹 野村証券で確定拠出年金加入者40万人以上の投資教育に携わる。退職後の2012年にオフィス・リベルタスを設立。著書に「定年男子 定年女子 45歳から始める『金持ち老後』入門!」(共著、日経BP)など。http://www.officelibertas.co.jp/ 本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。