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KADOKAWA Technology Review
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ビジネス・インパクト There’s no Google Maps for self-driving cars, so this startup is building it

自動運転版グーグル・マップ
ウーバー運転手の「副業」で
覇権狙うベンチャー企業

完全自律運転の実現に必要とされる高精度3Dマップで覇権を狙う米国のスタートアップ企業がある。ウーバーやリフトといった配車サービスのドライバーと契約し、どこよりも早く世界中の都市を網羅した地図データをサブスクリプション・モデルで提供するという。将来はグーグル・マップのように個人の開発者に提供することも視野に入れているというが、地図会社に勝ち目はあるか。 by Elizabeth Woyke2018.10.18

自動運転自動車は障害物を発見するセンサーと、道路や標識、インフラに関する詳細な3Dマップを使って走行する。だがその地図を作成し、常に最新の状態に保つには、莫大な労力が必要だ。サンフランシスコを拠点とするスタートアップ企業マッパー・ドットAI(Mapper.ai)は、オンデマンドで継続的に更新される地図サービスを提供することで、このプロセスを簡素化したいと考えている。

10月4日に一般公開された企業向けの新サービスでは、公道であれば世界中どこでも、地図化したい任意の場所を選択できる。マッパーは現地のドライバーを雇って地理データを収集し、3Dマップに変換して販売する。地図は購入後も定期的に更新され、一連のサービスはサブスクリプションで提供される。

マッパーはこれまで、小規模なグループの顧客を相手に、自律または半自律運転用の地図を作成してきた。現在、アジア、ヨーロッパ、北米の地図を保有している。将来的には、常に更新される、市街地と高速道路の機械向け地図の世界最大のリポジトリの構築を目指している。自律型移動手段はいまのところ、いくつかの企業が限られた数都市でのみ試験している状況だが、マッパーの共同創業者であるニヒル・ナイカル最高経営責任者(CEO)は、今後1、2年で試験が数十の都市に拡大し、総距離は数千キロに拡がると考えている。「自律型移動手段向けの地図としては、まだ大規模なものは開発されていません」とセンサーと地図作成の業務に10年以上にわたって携わってきたナイカルCEOは話す。「我々はどこよりも早く、世界中を網羅した機械用の地図作成をミッションに掲げています。そうすれば、世界中の人に販売できます」。

マッパーの特徴は、フリーランスの運転手のネットワークを使うことで、広い範囲をカバーし、地図の更新速度を確保していることだ。フリーのドライバーの多くがウーバー(Uber)やリフト(Lyft)といった相乗りサービスにも登録しており、客の少ない日中に地図データを収集しているのだ(ウーバーのドライバーの平均収入が1マイルあたり1ドルといわれているが、マッパーはその3倍にあたる1マイルあたり3ドルを支払うことで彼らを惹き付けている)。

マッパーはマッピング機器(製造原価は約350ドル)をドライバーに提供し、ドライバーは自分の車を使って地図データを作る。高価な専用ハードウェアを設計する代わりに、中国の電子商取引サイトであるアリババでセンサーを購入し、データを収集するための自社ソフトウェアを追加する。自動車のバックミラーを覆うタイプの機器は、4台のマシン・ビジョン・カメラとセンサーで直線運動と角運動を測定する。車両の屋根の上には、2台のマシン・ビジョン・カメラ、モーション・センサー、簡素なライダー(LIDAR:レーザーによる画像検出・測距)を設置する。ライダーは3次元構造の形状をとらえるのに優れており、密集した市街地の地図を作成できる。マッパーは誤差5センチ以内で地形を捕らえられると主張しており、他の同様のテクノロジーと精度は同等だという。

1つの地域をマッピングする方法は単純で、ドライバーはマッピング機器と同期させたモバイル・アプリの音声案内に従って車を走らせるだけだ。所定のタスクを終えたら地図情報をマッパーのクラウド・ストレージにアップロードする。アップロードされたデータは、ポイント・クラウド(point cloud:点群)と呼ばれるデータ形式に自動で変換され、別のフリー・ドライバーのチームがデータを確認し、車線区分線や交通標識、信号などの情報を追加する。マッパーは運転データを受信してから通常24時間以内に、完成した地図をWi-Fi経由で顧客に提供する。

マッパーはフリーランスのドライバーが周辺地域をマッピングするための機器を2種類設計した。写真の機器は車の屋根に磁石で設置するタイプで、複数のマシン・ビジョン・カメラ、加速度計、ジャイロスコープ、安価なライダーが搭載されている

このようにドライバーのチームを使い分け、セルフサービス・モデルを採用することで、マッパーは顧客に対してほぼ毎日、地図の更新情報を提供し、指定地域を100%カバーしていることを保証している。「現地のドライバーを確保できれば、顧客に満足してもらえる頻度で車を走らせられます」とマッパーのネーハー・ガーグ製品開発責任者は話す。「変化した環境にのみ時間を割けば良いので、更新はどんどん簡単になっていきます」。

マッパーの地図を使った機密プロジェクトを実施中の自動車メーカーの社員が、匿名を条件に取材に応じてくれた。ヒア(HERE)やトムトム(TomTom)といった大手地図メーカーを使う選択肢もあったが、マッパーを選んだという。「曲がり角をしっかり曲がれるようにプログラムするには、ナビゲーションに使用している地図でどこに位置しているのかを知る必要があります。この新型地図ならローカライズされた情報を織り込めます。GPSだけでは安定性を欠き、十分に予測もできないため、非常に重要なことです」。

ディープマップ(DeepMap)をはじめとする他の同業のスタートアップ企業もローカライズされた地図を作成しているが、顧客自身に情報を集めるように依頼している。こうした企業では自社で地図作成データを保有せず、同じエリアでも顧客ごとに個別の地図を作成していることが多い。ナイカルCEOは、そのような手法は自律型移動手段が開発から生産、実配置の段階に移行した場合、規模の拡大ができないと語る。1つの地図を複数の顧客に販売でき、常に最新の状態に保てるというのに、20人の顧客を相手にサンフランシスコのマーケット・ストリートの地図を20回作るのは理にかなっていないという。

自動運転自動車は今のところ革命的な交通手段として実用化には至っていないが、ナイカルCEOは自社の地図データがイノベーションの基盤になることを期待している。モバイル・アプリの開発者がグーグル・マップの位置情報を利用しているのと同様に、自社の地図を個人の開発者やエンジニアに提供することまで考えている(マッパーの地図にアクセスするための料金を設定するかどうかはまだ決めていないようだが)。「開発者がスターバックスに5人集まっても、自律型移動手段に関するソリューションを開発することはまだできません。ですが我々がその障壁を取り除き、世界中どこにいても機械が読み込める地図を提供できれば、それが可能になります」。

MITテクノロジーレビューは、自動運転による移動手段の変化と都市生活への影響をキーパーソンとともに考えるイベント「Future of Society Conference 2018」を11月30日に開催します。詳しくはこちら
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エリザベス ウォイキ [Elizabeth Woyke]米国版 ビジネス担当編集者
ナネット・バーンズと一緒にMIT Technology Reviewのビジネスレポートの管理、執筆、編集をしています。ビジネス分野ではさまざまな動きがありますが、特に関心があるのは無線通信とIoT、革新的なスタートアップとそのマネタイズ戦略、製造業の将来です。 アジア版タイム誌からキャリアを重ねて、ビジネスウィーク誌とフォーブス誌にも在籍していました。最近では、共著でオライリーメディアから日雇い労働市場に関するeブックを出したり、単著でも『スマートフォン産業の解剖』を2014年に執筆しました。
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