写真:松井雄希

日本の女の子の「盛る技術」を、世界が後追いする理由

その凄さに気づく人は少ないけれど…

女の子たちが外見を作るために行う「盛り」。その「盛り」を支援する技術をシンデレラテクノロジーと名付け、研究しているのが東京大学大学院情報理工学系研究科で特任研究員をしている久保友香さん。シンデレラテクノロジーを駆使して女の子が探していたのは王子様じゃなくて、仲間だった……!? 

複雑に暗号化された「盛り」によるビジュアルコミュニケーション。そこから分析する、女の子の不思議な生態とは。

「盛り」を支えるシンデレラテクノロジーとは

女の子が見た目を作ることを「盛る」と言うことがあるのをご存知でしょうか。よく男性に誤解されることがありますが、「盛る」目的はモテではありません。「モテたい」とか、「美人になりたい」がためではなく、女の子コミュニティの中でのコミュニケーション手段、それが「盛り」なのです。その「盛り」を支援する技術をシンデレラテクノロジーと呼んでいます。

ここ20年ほど発展してきたシンデレラテクノロジーの柱は3つ。デジタル画像処理で見た目をバーチャルに加工する「セルフィーマシン技術」と、プラスチック製の化粧道具で見た目を実際に加工する「プラスチックコスメ技術」、不特定多数の人とのビジュアルコミュニケーションを可能にした「ソーシャルステージ技術」です。これらが日本の女の子たちの「盛り」の文化を支えています。

 

「盛り」という言葉はいつからあるか

「盛り」という言葉が使われはじめたのは2002年ごろ。写真上のバーチャルな顔「バーチャルアイデンティティ」が、実際のリアルな自分「リアルアイデンティティ」より先に、不特定多数の人から広く見られるようになったことがキッカケでした。

以前は「バーチャルアイデンティティ」が不特定多数に見られるようなことは、芸能人などでもない限りありませんでした。

写真:松井雄希

しかし、95年にプリクラ(「プリクラ」はセガの商標、正式名称は「プリントシール機」)が誕生したことでそれが一変。女の子たちはプリクラのシールを貼る「プリ帳」を作って、友達と交換したプリクラを貼り、友達同士で見せ合うようになりました。そこで「バーチャルアイデンティティ」が、友達の友達のそのまた友達にまで見られるようになったのです。

その後、プリクラの画像処理技術も発展していきました。95年に誕生した最初のプリクラは、撮った写真をそのまま印刷する機械でしたが、98年に誕生した機械『アートマジック』などからは肌と髪の色を加工するデジタル処理が入るようになります。そして2002年の『劇的美写』にはストロボが搭載され、デジタル処理と光学処理を組み合わせて肌や髪の加工がされるようになりました。

すると小麦色の肌をした女の子たちは、目の周りや鼻筋に真っ白のハイライトを入れるような濃いメイクをすると、ストロボで色が飛び、プリクラ写真の上できれいな立体感を強調できることに気がつきます。そしてリアルに見れば濃すぎるけれど、プリクラ写真の上ではおかしくないようなメイクをするようになったのです。

そう、一般の女の子たちが「バーチャルアイデンティティ」を持ち、その上で、プリクラの画像処理技術とメイクとを組み合わせて顔を作るようになった時に生まれたのが「盛り」という言葉でした。