オーバーロード ありのままのモモンガ 作:まがお
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トブの大森林にあるごくごく普通の一軒家。この近くには魔物は一切近寄って来ないため、この森で一番安全な場所である。
カルネ村に住む村娘、エンリ・エモットは、モモンガから話があると言われてやってきていた。
(ネムと一緒じゃなくて、私だけに話があるって珍しいわね…… いったい何の話なんだろう?)
モモンガは別に毎日冒険に出ているわけでは無い。
姉妹で過ごす時間も、大切だろうと思っているので、かなりの頻度で休みを入れている。
そんなモモンガが、エンリだけを呼び出すことは珍しいと言える。
「モモンガ様、話って何ですか?」
「いや、エンリは今一人で家を維持しているのだろう? 畑のこともあるし、何かと大変ではないかと思ってな」
私達姉妹の、命の恩人であるモモンガ様は優しい。
普段からこのように気遣ってくれており、アンデッドとは思えないような性格だ。
「あまり、私は表立って手伝えない。ならばエンリが強くなれば、仕事が楽になるんじゃないかと思ってな」
「待ってください、どういうことですか?」
「パワーレベリングによる、エンリの強化だよ」
「意味がわかりません……」
「エンリが魔物を倒す、レベルが上がる。身体が強くなって、仕事が楽になる。簡単だろ?」
「モモンガ、待って」
とんでもないことを言い出したモモンガに、エンリは思わず敬称が外れる。
この人は常識をどこかに置いてきたのだろうか?
アンデッドに常識を求める方が、間違っているのかもしれないが、今更である。
「まぁ、モノは試しと言うじゃないか。姉妹だけで暮らしてるんだから、強くて困ることはないはずだ」
こうして、
「ほらほら、まだまだ出せるからドンドン殴りなさい」
「あぁ!! もうっ!! このっ!!」
モモンガから魔法によるフル強化を施され、魔法のガントレットを渡されたエンリは、次々とアンデッドを殴り倒していた。
モモンガの生み出した様々なアンデッドは動かないため、危ないことはない。
若干スケルトン系を殴る時だけ、執拗な気がするが、気のせいだ。
サンドバッグを殴る行為は、夜遅くまで続き、森には鈍い打撃音が響き渡っていた。
数日後、村では元気に働くエンリの姿がある。
畑仕事を猛スピードで終わらせているのに、汗一つかいていない。
強くなって仕事を楽にするという、モモンガの目論見は成功したようだ。
「――動かない相手とはいえ、まさか上位アンデッドまで殴り倒すとは…… エンリには才能があったのかな?」
アダマンタイト級冒険者を、遥かに凌駕する村娘が誕生したが、モモンガは気にしなかった。