オーバーロード ありのままのモモンガ 作:まがお
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エ・ランテルの墓地の方からやってくるスケルトンの集団。
大量のアンデッドを前に、門がいつ破られてもおかしくないと、守衛達は絶望していた。
「門をあけてくださーい!!」
黒いフルプレート姿の骸骨が、門の前に現れる。
先ほどの可愛らしい声は、このアンデッドの頭に引っ付いている子供の声だろう。
突然のアンデッドと子供の登場に驚いたが、二人の首に冒険者のプレートがあることを見て、その場にいた守衛たちは無理やり意識を切り替えた。
モモンガはエ・ランテルの街を疾走してここまでやって来た。
自身の持つアンデッドを探知する
カッコつけて走り出した手前、ンフィーレアの場所は知らないなんて言えない。この事件の元凶が、きっと犯人だと決めつけた、そうであって欲しいと祈る。
もし違っていたら、魔法を使ってどうにかしよう。
門の近くまで来て、ネムが門を開けて欲しいと頼むが、守衛の兵士達には伝わっていないようだ。
「お嬢ちゃん!! 何でそんなプレート付けてるかは知らんが、応援を呼んできてくれ!! 骸骨のアンタも頼む!!」
門の上から叫ぶ守衛たちを見て、人間追い詰められると些細なことは気にしないようだ。
アンデッドのモモンガにまで、そんなことを頼んでいるとは余程焦っているようだ。
「悪いがそんな暇はない、晩御飯が待っているんだ」
鎧姿の骸骨は、助走なしのジャンプで門を軽々と飛び越える。
凄い、凄いとその上ではしゃぐ子供は逞しい限りだ。
数秒思考が止まったが、すぐさま子供を助けなければと行動する。
ロープを垂らそうと、門の向こう側を見下ろすが、そこには何もいない。
あれだけいたアンデッドが全滅していたのだ。
今でも遠くの方から、鉄の塊を何かにぶつけた様な音がしている。
「俺たちは伝説を目にしたのかもしれない。 黒い…… 漆黒の…… いやそんなもんじゃない!! 死の騎士!! デスナイトだ!!」
「デスナイトか…… 大層な名前だが、あのアンデッドには相応しいな。あと子供が可愛かった」
「分かる。天使だな」
完全に誤解される二つ名を付けられていることなど、全く知らないモモンガは、この事件を引き起こした元凶の元まで辿り着いていた。
この集団の名は『ズーラノーン』正確にはズーラノーンという組織に所属する者たちだ。トップに盟主、その下に十二高弟という形の組織だ。さらに12人の高弟には沢山の弟子達がいる。
邪悪な秘密結社であり、近隣諸国から危険視されているカルト集団である。
「カジっちゃ〜ん、餓鬼くっつけた、変なアンデッドがいてるけど?」
「その呼び方はやめろ。さて、どうやって、この――」
「〈
こちらが戦士一人と子供なら、何の問題もないと思っていたのだろう。
即座に戦士の装備を解除し、魔法を打ち込んだモモンガに対応できた者はいなかった。
「先手必勝だな」
今の一連の流れを見ていたネムは、よく分からないけど、モモンガが敵をやっつけたと思い良しとする。
こういう不意打ちとか奇襲はPK戦術としてよく使ったなぁ、速いことはいいことだ、って誰が言ってたっけ。弍式炎雷さんだったかな? そんな事を思い出しながら、モモンガとネムはンフィーレアを探す。
ネムを頭に引っ付けたままなので、暴力的な魔法は一切使っていない。人が死ぬ姿は子供には辛すぎる。
この世界のレベルはモモンガには低すぎて、相手を殺さずに無力化できる魔法などは限られている。物理的な無力化も加減がうまくできる気がしなかったため、魔法が効いてくれて良かったとほっとしていた。
体が痺れて動けずに転がっている連中は、わざわざ連れて行かずとも、このままほっとけば、いずれ他の冒険者達が捕まえてくれるだろう。
墓地の奥、半裸のンフィーレアを見つけた。
頭に変な飾りを付け、両目から血を流し、立ち尽くしている。
心配そうに焦るネムを宥めながら、不審に思ったモモンガは道具鑑定の魔法を唱える。
(叡者の額冠…… これは、珍しいだけのゴミアイテムだな。メリットとデメリットがまるで釣り合わない。外すと発狂とはとんだ呪いのアイテムだ)
「〈
ユグドラシルには存在しなかった効果のアイテムだったので、少しもったいないかもと思ったが、ンフィーレアを見捨てるわけにもいかず叡者の額冠を破壊した。
これで仕上げとばかりに、崩れ落ちたンフィーレアにポーションをぶっかける。
「よし、これでミッション完了だな。リイジーに届けたら、私たちも帰るとしよう」
「うん!!」
アイテムにより肉体の疲労はなくても、精神的には疲れただろうに。
ネムをさっさと休ませてやろうと、
「モモンガ様? 私が何を言いたいか分かりますよね?」
仁王立ちするエンリを前に、休むのはまだまだ先になりそうだと確信した……