オーバーロード ありのままのモモンガ 作:まがお
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薬草採取のクエストを受けた、モモンガとネムだったが、採取場所はトブの大森林。
家を出てから一時間も経たずにとんぼ返りである。
「モモンガ様ー!! こっちにも薬草あったよー」
手際良く、薬草を採取するネムを余所に、モモンガは新たな事実に驚愕していた。
(なぜだ、薬草が取れない?! 何度やっても握り潰してしまう!!)
採取スキルを持たないモモンガでは、薬草を上手く取ることが出来ない。
ユグドラシルの縛りが影響していることに気付いたのは、掌を薬草の汁塗れにしてからだった。
結局、モモンガはネムの護衛と場所を見つける事だけに専念し、採取はネムが頑張った。
今のネムは服装こそ村娘だが、付けている指輪など、数々の装飾品の効果により、様々な耐性を得ていた。モモンガの装備している
アダマンタイト級の冒険者でも、傷一つ付けられないほど、防御面での性能に特化させている。この世界ではほとんど無敵状態だ。
色々あったが、薬草を集め終わり、冒険者組合に報告しにエ・ランテルに戻った。
組合員の顔が引き攣っていたが、やはりまだ私のことが怖いのだろう。
エ・ランテルからトブの大森林までを、数時間で往復してきた事に驚いているとは、モモンガもネムも気がつかなかった。
初クエストを成功させた二人は、記念に何か買おうかと、街を散策していた。
「そうだ、折角だしンフィー君に会いたいです。ポーション売ってるお店なんです」
ネムからの提案に、この世界のポーションはまだちゃんと確認していなかったと思い、了承する。
ンフィーレアの祖母であり、エ・ランテル一の薬師と名高い、リイジー・バレアレの店へと向かった二人だったが、辿り着く前に周囲が騒がしくなりだした。
「アンデッドだ!! 墓地から大量のアンデッドが街に襲って来てる!!」
「おい、ここにもアンデッドが来てるぞ?!」
街の人々が騒いでいる様子から、どうやら緊急事態らしい。
このままではとばっちりで自分まで討伐されそうだ。
巻き込まれる前に帰ろうと思ったが、ネムが一人の老婆を見つける。
「リイジーお婆ちゃん!!」
「ああっ、ネムちゃんか。それにアンタはアンデッドかい? 今はそんな事はどうでも良いさね。ンフィーレアが、ンフィーレアが拐われちまったんじゃ!! 救助の依頼を冒険者にしようにも、この騒ぎで冒険者組合は人がみんな出払っちまってるんじゃよ……」
すごいなこの婆さん、俺をスルー出来たのはこの世界に来て貴方が初めてだ。
ネムがこちらを見ている。その上目遣いは反則だ、抗えるわけがない。
元々ネムに激甘のモモンガには余り関係がないが。
「仕方ないな、晩御飯までに帰らないとエンリに叱られてしまう。ンフィーレアを見つけてさっさと帰ろう」
ネムには伝わったが、リイジーはまだ分かっていないようだ。
「アンタ、いったい何を……」
いつものようにネムを肩車し、何でもないことのように言う。
「安心するがいい、リイジー・バレアレよ。お前の孫は私たちが連れて帰ろう。初回サービスだ、特別に無料で依頼を受けてやろう」
リイジーは、そう言って走り出したアンデッドの背中を、呆然と見つめるのだった。