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サイト遮断 政府主導に無理がある

 法制化を前提に事を急ぐ政府の姿勢にもともと無理があった。海賊版サイトへの接続を強制的に遮断する「ブロッキング」である。

 政府が設けた有識者会議が、報告書のとりまとめを断念した。会議自体を無期限で延期している。意見の対立は埋まらず、話し合いは最後まで紛糾した。

 来年の国会への法案提出を目指す政府のもくろみはつまずいた。議論を尽くさないまま方向づけはできない。遮断の法制化はいったん棚上げすべきだ。

 漫画や雑誌を無料で読める海賊版サイトは、著作権を侵害し、出版社にも大きな損害を与えている。対策は急務である。

 ただ、ブロッキングは、誰がどのサイトを見るかを漏らさず把握することが前提になる。憲法が定める「通信の秘密」を侵害し、プライバシーや内心の自由を脅かす恐れが大きい。

 特定のサイトへの接続を遮ることは、検閲にもつながりかねない。表現の自由を保障する憲法は検閲を厳しく禁じている。

 有識者会議では、法制化を求める出版業界の委員と、反対する通信業界や弁護士らの溝があらわになった。事務局の内閣府は両論併記の案を示したが、反対派はそれも法制化の根拠になるとして、了承しなかった。

 政府は4月、悪質な3サイトを指定して通信事業者に自主的な遮断を要請するとともに、法制化の方針を示した。有識者会議の議論が始まったのは6月である。

 そもそも、憲法や民主主義の根幹に関わる問題を、数カ月、閉じた場で話し合っただけで済ませられるはずがない。しかも、委員に漫画家らは入っていない。著作権の侵害をめぐる議論を当事者不在で進めていいのかも疑問だ。

 政府による介入は、自由であるべきインターネットの本質的な価値を損なうことにもつながる。民間の取り組みを優先し、どうしても限界がある場合に法による規制を考えるのが筋だ。いきなり政府が乗り出すべきではない。

 ブロッキング以外にも、打てる手はある。東京地裁は最近、接続を効率化するサービスの事業者に、海賊版サイト運営者の情報開示を命じる仮処分を出した。運営者を突きとめ、有効な対策を取れる可能性がある。

 議論が空中分解したままにしておくわけにいかない。意見の違いがあるからこそ、出版社、通信事業者ら関係業界が連携し、民間主体で、幅広い層が参加できる話し合いの場を設けたい。

(10月17日)

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