米アドビシステムズが主催の世界最大のクリエイティビティ・カンファレンス「Adobe MAX 2018」(ロサンゼルス)。二日目の10月16日は「スニークス」と題してAdobeの研究中の技術が発表されました。スニークスはAdobe MAXで最大の盛り上がりをみせる恒例の人気イベントです。

▼ 2018年10月16日(米国時間)の目玉プログラム「スニークス」

ここで発表されたものは現時点では製品に搭載されていないものの将来的に製品に組み込まれるかもしれない技術。本記事では11のテクノロジーを、現地のイベントに自費参加したスタッフ(池田)がレポートします。

今年は、画像解析にAIの「Adobe Sensei」を活用した次世代技術が多く扱われました。

▼ Adobe MAX 2018には14,000人が参加。写真は巨大な会場の一部。ビールを片手に発表を愉しむ

フォント解析によって、他の字体も作る技術

字体のパターンを学習して、全文字のフォントを生成する技術「#FontPhoria」。

文字をチーズの穴のようにくり抜いた装飾をした用意したとします。これは他の文字に適用しようとすると、人力で手間のかかる作業です。

AIによってパス化されたフォントを自動解析。他の文字にも「チーズの穴」を適用できます。

実はフォントとして認識されているので、自由入力ができるテキストとして扱えるようになります。「CHEESE」を「SPICY」という文字列に変更してます。

アウトライン化されてしまった文字からもフォントを復元できます。血塗られたフォントなど、Adobe Senseiがどういう加工をしたいのか意図を汲み取って解析してます(下写真)。

ここに表示されていない文字も、テキスト再編集ができます。「DEAD」という文字が「SNEAK」に変更されています。

再編集できなくなったアウトラインデータを提供されて困る「業界あるある」が解消されるでしょう。

写真で撮った文字を認識させると、同じ雰囲気のフォントを作ってしまいます。

動画から被写体をレイヤー分離する技術

動画の最初の一コマをマスクするだけで、すべてのコマが自動で切り抜き可能な状態にする技術「#ProjectFastMask」。

動画の被写体の輪郭を何箇所かクリックするとAdobe Senseiが被写体の輪郭を認識します。

このあと、動画のすべてのコマを自動的に解析し、マスク(映像の切り抜き箇所を指定すること)を作ってくれます。

マスク化されているので、被写体と背景の間にレイヤーを挟み込んでも自然な仕上がりになります。

素人が手取りで撮影したようコンテンツでもAIが自動的に解釈してマスクを作ってくれます。

障害物が入っても、障害物を認識してマスクしてくれます。

きれいに合成できました。

アニメーション付きブラシ

ブラシでインタラクティブなアニメーションを描ける技術「#BrushBounty」。

イラストの中でブラシを描くと、そこに雨を降らせられます。この雨はアニメーションしています。

雨の降りはあとから強さをパラメーターで変えたりできます。アニメーションだけでなく、雨音(サウンド)もブラシに含まれています。

また、風になびく髪の毛も作れます。色の変化や物理法則で動きを加えています。

データ連動も可能で、実際の都市の天気と同期させたり、朝と夜の背景を切り替えることも可能。ハッシュタグのツイート数によって、リアルタイムにエネルギー弾の大きさを変化させています。

イラストに骨格を自動的に入れる技術

Adobe Illustratorの未来の技術。イラストのキャラクターを自動的に解析して、ボーンを入れる技術「#ProjectGoodBones」。

Illustratorで描いた恐竜や人の体型をAdobe Senseiが認識して自動的に骨組み(ボーン)を作成。骨格から自在に体型を動かすことができます。

ボーンなので、ドラッグするだけの簡単操作で手足を動かすことも可能。
複数のポーズを作れば、アニメーション制作に役立ちます。GIFアニメーションも作れます。

被写体を画面内に収める技術

被写体を自動的にフレームの内側に収め続ける技術「#ProjectSmoothOperator」。

Instagramのストーリーに横長動画を投稿すると中央で切り抜かれるため、被写体がフレームアウトすることもあります。

Adobe Senseiが被写体の位置を認識して、フレームアウトしないように切り抜きます。車が見切れてしまう動画でも、Adobe Senseiが自動的に車を追いかけ見切れないように処理されます。

結果として、ツール変換後は常に車が映っています。

スカイダイビングで動きの激しい被写体でもAdobe Senseiが自動で追いかけ、見切れないようにトリミングしてくれます。

鼻歌が楽器演奏になる演奏技術

人間の声を他の楽器に変換する演奏技術「#ProjectKazoo」。

鼻歌を録音しすると、音程を解析します。

人間の声をバイオリンに変換します。

アルトをソプラノにも変えられます。

笛で吹いた音を録音してサックスに変えることも可能。あまりに衝撃的な発表に会場が歓喜にあふれています。

まとめ〜Adobe Senseiが示す未来のクリエイティブの姿

スニークスの冒頭で、ツイートの反応が多い技術は実用化の可能性が高まると言及されていました。おもしろいと思った技術があれば、ツイートすると手元で使える日が近づくでしょう。過去の例を挙げると、Photoshopのディフォグ(霧を増減させる)機能やマッチフォント機能もかつてスニークスで発表された技術です。

2年前の2016年から人工知能の活用に舵を切ったAdobe。クリエイティブの未来を垣間見たAdobe MAX 2018。これから、どのような進化を続けていくのでしょうか。

(残りの5つの技術は執筆中です。少々おまちください)

Adobe MAX 2018のレポートは他にも書いています。あわせてご覧くださいませ。