日本人は投資嫌いだーー。そう指摘する識者は多い。実際、「日本の個人金融資産1800兆円のうち、半分以上が預金である」という調査結果もある(第一生命経済研究所調べ)。
しかし、なぜ我が国は「投資後進国」になってしまったのだろう? そこには日本特有の事情があった。
日英の財務省、マッキンゼーを経て「ロボアドバイザー(ITを活用し高度なアルゴリズムで資産運用を代行するサービス)」で起業した、ウェルスナビCEOの柴山和久氏に解説いただいた。
取材・文/伊達直太 撮影/山上徳幸
日本人の個人資産をまとめると1800兆円ほどになるらしい。
そのうちの約52%が預貯金として運用(保管といった方が実態に近い)されていることから「日本人は貯蓄好きな国民」とよく言われる。
外国のデータと比べてみても、ドイツ、フランス、英国など欧州先進国の預貯金の率は20〜30%台であり、米国は13%しかない。この数値からも、日本人が投資と距離をおいていることがわかるだろう。
ただし、果たして投資が嫌いなのかというと、そうとも言い切れない。
例えば、2018年は仮想通貨が大きな話題となった。為替市場にはミセスワタナベ(FX取引をする会社員や主婦のこと)と呼ばれる多数の個人投資家の存在がある。
一方では投資を敬遠し、その一方でハイリスクの投資を選好する。日本人の投資感覚はどこかいびつで、世界的に見ても珍しいのかもしれない。
「好き嫌いというより、投資をする必要がなかった結果として預貯金での運用が主流になっているのだと思います」
と、柴山和久さんはいう。
柴山さんはロボアドバイザー運用で知られるウェルスナビのCEOで、先進国の投資事情に詳しい。ロボアドバイザーは、「全自動の資産運用サービス」のことだ。
「団塊世代より上の人たちは、個人で積極的に投資する必要がありませんでした。というのは、手厚い年金制度があり、終身雇用に伴う退職金があったため、自分で資産形成しなくても国と会社が老後の面倒をみてくれる社会だったのです」
一方、欧州や米国にはそういった環境がなかった。
「欧州の福祉国家は医療や年金といった支えが充実していますが、日本のような終身雇用制度はありません。米国にも終身雇用制度はなく、オバマケアの法改正が行われるまで医療保険も個人の選択制でした。欧米の人たちは、人生設計の大前提として、自分で資産を作り、備えないといけない社会で生きているわけです」
環境が違えば行動も変わる。日本人が預貯金を選び、投資を遠ざけてきたのは、わざわざ投資のリスクを取らなくても安定した人生を送れたからなのである。
「投資が必要ない時代」は、かれこれ数十年続いた。
その結果、投資はますます日本人と遠くなったと柴山さんは見ている。
「国全体として何十年にも渡って投資と距離をおいてきたため、投資に関する知識やノウハウが蓄積されていません。最近は投資に興味を持つ人も増えつつあるのですが、何をしてよいかわからず、誰に相談すればよいかもわからないというのが実態なのだと思います」
周りを見渡してみても、職場などで投資や運用の相談をする人は少ない。お金に関することは家族ともあまり話さないという人も多いのではないか。
その点、投資が身近な米国は様子が異なる。