子煩悩オーバーロード   作:そらのすけ
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第四話『勇者セバスの大冒険-前編-』

 西の方角に沈みゆく太陽が空を紅く染め上げる頃、セバスはエンリ・エモットの自宅に招かれて夕食を共にしていた。

 

「わたし、ネム!あなたの名前は?」

 

「せ、せばす!」

 

 エンリの妹であるネムと自己紹介を交わす、アルベドやシャルティア達より少しばかり年上、丁度自分と同じぐらいの年のネムはセバスにとって今まで接した事のない新鮮な存在であった。

 

「ほらネム、セバス君の分のスープ持っていってあげて」

 

「はーい!」

 

 目に映るもの全てが新鮮に見えたのか、セバスは忙しなくきょろきょろと家の中を見渡す、所々に隙間のある木の板で拵えた窓。土鍋や使い古された調理器具の数々、壁に吊るされた包丁は刃毀れしており碌に切れそうもない。壁には皹が走っており何処からか隙間風が舞い込んできていた。

 

「ふぁ~~~……」

 

 何もかもがナザリックとは違う。

 

 高すぎる天井に一定間隔で吊るされた豪華絢爛なシャンデリア、綺麗に磨き上げられた塵一つ見当たらない床、一体どれ程の価値があるのか想像も付かない調度品の数々。

 

 セバスは改めて自分達の主人である至高の四十一人がどれだけ偉大な存在であるのかを再確認すると同時に、自分達NPCが一体どれだけ恵まれているのかも改めてその身に刻み込む。

 

「スープ持ってきたよー!」

 

「セバス君にはちょっと少ないかもしれないけど…ごめんね」

 

 口を空けて家の中を見渡していたセバスの前にスープの入った皿とスプーンが置かれた、具は煮込まれた少々の野菜しか入っておらず肉など以ての外。

 

 久しぶりのお客様に御馳走を振舞いたいと思っても先日に両親を失い苦しい生活を余儀無くされている現状ではこのスープ一皿がエモット家の精一杯の持て成しである。

 

 エンリは申し訳なく思う、食べたい盛りであろうセバスにお腹の足しにもならないスープしか出す事が出来ない事を。

 

「あ、ありがとうございます…」

 

 スプーンを手に持ち、恐る恐るスープを一口。

 

 …薄い味だった。──否、殆ど味がしないと言ってもいいぐらいだ、幼くなった一般メイド達が一生懸命作ったスープと比べる事すら烏滸がましい程の歴然とした差があった。

 

「…ど、どうかな?」

 

「………おいしい、です」

 

 けれど、そのスープには不思議な温もりが確かに存在していた。

 

 確かに一般メイド達が一生懸命作ったスープの方が美味しいのは確固たる事実だ。

 

 小さな身体でナザリックに生きる全ての生命に、そして今は御隠れになってしまわれた至高の御方々に相応しい食事をという一般メイド達の想いが溢れ出る素晴らしいスープなのだからそれも当然の話だ。

 

 そして今セバスが口にしたこのスープにもその想いに似た力強い何かが確かに存在している事をセバスは感じ取っていた。

 

「えへへっお姉ちゃんのスープは世界一美味しいんだから!」

 

「も、もうっ!煽てたって何も出ないわよネム?」

 

 セバスの真正面に座ってスープを勢い良く飲み干していくネムに、若干頬を染めながらも怒る素振りを見せるエンリ。良く見れば二人の手の平には幾つもの血豆や切り傷が見受けられた、凡そ女の子らしくないゴツゴツとした手だ。

 

 それでもセバスにはその手がとても美しく眩しいものに見えた、日々を一生懸命生きようとする力強さに満ち溢れた手だった。苦しい生活など微塵も感じさせない笑顔で仲良くじゃれ合う姉妹の姿に釘付けになりつつも、セバスは思わずテーブルの下に隠した己の手を覗き見る。

 

 ──傷一つない綺麗な手が、其処にはあった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「えっ!?セバス君ってモモンガ様に御仕えしてるの!?」

 

 夕食を終えた三人は和やかな雰囲気の中、ベッドに入るまでの束の間の談笑を楽しんでいた。と言っても質問するのは専らエモット姉妹の方でセバスは世継ぎ早に繰り出される質問に答えるだけの自動マシーンと化しているが。

 

「はい、ももんさがさまにおつかえするめいどたちをたばねるしつじちょうをやっております!」

 

「しつじちょうって何?お姉ちゃん」

 

「ほら、貴族さん達がメイドさんを雇うでしょ?その人達に指示を出して仕事を振り分ける人の事よ」

 

「わぁ!私と同い年ぐらいなのにセバス君すごーい!!」

 

 目の前に座る子供が一体どれだけ凄い存在であるのかを、なんとなく理解したネムは無邪気で純粋な称賛の言葉を贈る。一方で姉のエンリは自分が一体どれだけ失礼な振る舞いをしてしまったのかと頭を抱えていた。

 

「…わ、私は命の恩人のモモンガ様に御仕えするセバス君にあんな貧相で質素なスープを提供してしまったって事…?ああぁぁぁ……ど、どうしようこんな事なら私の分のお野菜もセバス君のお皿に入れておけば…ああ、でもあんな質素なスープを出した事自体失礼だよね…」

 

「そ、そんなことは!あのすーぷおいしかったですっ!」

 

 虚ろな瞳でぶつぶつと自らの行いを悔いる言葉を吐き続けるエンリの姿にセバスは精一杯のフォローの言葉を掛ける、しかし今のエンリには全くの逆効果であった。

 

「……ありがとうセバス君、気を遣わせちゃってごめんね……あぁもうどうしよう……」

 

「ねぇねぇ!セバス君は何処から来たの!?」

 

 テーブルに顔を突っ伏して項垂れる姉を無視してネムはセバスとの会話を続けていく、夜はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「じゃあセバス君はモモンガ様の為にお金を稼ぎたいと思ってカルネ村に来たんだね」

 

「はいっ!すこしでもももんがさまのおやくにたちたいとおもって!」

 

 何時の間にか復活したエンリがカルネ村に来た理由をセバスに問う。

 

 父親同然の存在であるモモンガの役に立ちたいなんてなんと健気な少年であろうか、たった一人でお家を離れて外に出てきて心細い筈なのに微塵もそれを感じさせない力強い瞳が非常に眩しい。

 

「うーん…お金を稼ぐ方法かぁ…」

 

 出来ればそんなセバスの願いを叶えてやりたいとエンリは思う、されどこのカルネ村は物々交換が基本であり貨幣が必要な場面は年に数えるほどしかない。村の畑仕事を手伝ってもらおうかなとも考えたがカルネ村が支払える貨幣には限りがある、恐らくモモンガ様が必要とする貨幣の一割にも到底及ばないのではないかとエンリは思い悩む。

 

(村長の家に保管されてるお金を使う訳にもいかないし…)

 

 思い悩んでいたエンリはやがて一つの提案をセバスに提示する、カルネ村ではセバスの願いを叶える事は実質不可能と言って良い、先日の襲撃事件で村の男手が減ってしまい日々を生きる事で精一杯になってしまったカルネ村ではセバスの願いを聞き入れる余裕は存在しないのだ。

 

 だからと言ってこのままセバスとお別れなど以ての外である、今でさえモモンガから受けた恩を仇で返すような真似をしているのだ、これ以上失礼な振る舞いをしてしまっては罪悪感で頭がどうにかなってしまいそうである。

 

(この村じゃあセバス君の役には立てないけど…ンフィーなら…)

 

 頭の片隅に浮かんだ幼馴染の顔を思い出したエンリは、その幼馴染が住む街──エ・ランテルをセバスに紹介する。エ・ランテル一の薬師である幼馴染のンフィーならば、きっとセバスの願いを叶えてくれるのではないかとの一縷の望みに賭けての事だ。

 

「セバス君、この村から南西に進んだところにエ・ランテルっていう街があるんだけど、そこでならお金を稼ぐ手段が一杯あると思うの…、その街なら私の幼馴染もいるから…私の名前を出せば話を聞いてくれると思う」

 

 本当ならば命の恩人の従者にこのような提案はしたくはなかったが、他に選択肢が無いと言うのもまた事実だ。

 

「そのまちにいけばおかねをいっぱいかせぐことができますか!?」

 

「う、うん…た、多分…ンフィーならきっと…………(大丈夫だよね…?)

 

 普段から気弱な性格の幼馴染の顔が浮かんだエンリは煮え切らない返事をする。

 

 確かに頼りになる場面もあるにはあるのだが、如何せん普段ののほほんとした性格がそれに待ったをかけてしまうのだ、本当にセバス君にンフィーを紹介して大丈夫なのだろうかとエンリはまたも頭を抱えるのであった。

 

「え・らんてる…!そこにいけばももんがさまののぞみを!」

 

 やはりカルネ村に来て正解であったとセバスは俄然やる気に満ち溢れていく。そんな様子のセバスを見て不安気な様子のエンリだが、こうなったら幼馴染に全てを託すしかないと覚悟を決めるのであった。

 

「じゃあそろそろお休みしないと、明朝から出発しないとエ・ランテルに着くのが真夜中になっちゃうからね」

 

 そしてもう夜も遅い事もありセバスはエモット家に一泊する事となった。

 

 しっかり者のセバスでも忍び寄る睡魔に抗う術を持ち合わせていなかったらしく、うつらうつらと夢の中に旅立とうとしていた。ここらへんは先に舟を漕ぎ始めたネムと同じく年相応なんだなとエンリはセバスを見て微笑みを浮かべる。

 

 しかしこのまま隙間風の吹く此処で寝てしまったら風邪を引く可能性がある、それだけは決してあってはならない事だ。テーブルに突っ伏してしまったセバスを器用に背負ってエンリは一つの部屋にセバスを運び入れた。

 

「お父さんとお母さんの寝室…使わせて貰うね」

 

 今はもう使われていない両親の寝室にセバスを運んでそっとベッドへ寝かし付ける、普段からネムに同じ事をしていた事もあり手際良く──なかなか筋肉質な身体に多少ドギマギしながらもセバスはお布団の中へ押し込まれていった。

 

「おやすみ、セバス君」

 

 スヤスヤと眠るセバスにおやすみの言葉を贈り、エンリは音を出さないように静かにその部屋を退出する。

 

「……ももんがさまぁ…まっていてくだしゃい…」

 

 去り際に聞こえたセバスの寝言に、エンリはもし弟が居たとしたらこんな感じの毎日を送っていたのかなとセバスとネムと一緒に暮らす毎日を想像しつつ寝室を後にした。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 翌朝の朝霧漂うカルネ村の広場に数人の人影が見える。時刻は明朝、初夏の季節だが陽が昇りきっていない事もありまだまだ肌寒さが身に沁みる時刻である。

 

「ありがとうございました、エンリさん!」

 

 その内の一人は勿論セバス本人だ。一晩ぐっすりと眠ったお陰で心身ともに力が満ち溢れている様子が分かる。

 

「本当に大丈夫?私も付き添いで行った方が…」

 

「ぼく、こうみえてもLv100ですから!だいじょうぶです!」

 

「れ、れべるひゃく…?」

 

 見送りに出てきていたエンリは厚い毛布に包まりながらセバスの身を案じていた、エンリとしてはセバス一人でエ・ランテルに向かわせる事に抵抗を覚えていた為付き添いとして同行する意思を伝えたのだが、セバスはこれ以上の迷惑を掛ける訳にはいかないとしてエンリの申し出をばっさりと拒否するのであった。

 

「セバス君また遊びに来てねーー!!」

 

「うん、またあそぼうね!」

 

 すっかり仲良くなったネムとの別れの挨拶もそこそこにセバスはエ・ランテルがある方角へ視線を向ける、この道を真っ直ぐに歩いて行けば夜になる頃には辿り着くとの事だが勿論セバスに歩いていくなどという選択肢は最初から無い。

 

 一刻も早くお金を稼いでモモンガに報告して褒められたいという想いが今にも爆発しそうになっているのだ、それをなんとか押さえ込みセバスはぐぐぐっと膝を折り曲げて両脚に力を籠める。

 

「いってまいりますっ!!」

 

 この世界においてLv100と言う存在は伝説や神話に登場する規格外な存在である、その気になれば国一つを容易く一日で滅ぼせる程の力を持っているのだ。…そんな存在が全力でヨーイドンッをすればどうなるのかは想像に容易いだろう。

 

「ゲホゲホッ!な、何が起きたのっ!?」

 

「お姉ちゃん何処ー!?」

 

 爆音が響き渡ったと思ったら次は土煙が二人を襲った、あっという間に視界が閉ざされ二人は真横に居た筈のお互いの姿すら視認出来ないほどの土煙を全身に浴びる。

 

 眼を閉じ続けて数十秒、漸く瞼の裏にまで光が届いてきた事を察知してエンリは目を抉じ開けた。

 

「………う、うそ…」

 

 セバスが踏み抜いたであろう地面が大きく、深く、抉れていた。

 

 抉れた土や石がカルネ村の入口付近にまで飛び散っている、もし人が居れば大怪我を負っていたに違いない。もし自分達がセバスの背後に立っていたら…なんて恐ろしい想像までしたエンリは軽く意識を失いかける。

 

「お、お姉ちゃん」

 

 そんなエンリの意識を引き留めたのはネムの声、繋ぎ止められた意識を声のした方向に向けると何処か遠くを眺めるネムの姿。

 

「ネム!?無事!?」

 

 慌てて駆け寄り最愛の妹の身体に怪我が無いか確認するエンリ。

 

(良かった──怪我は無いみたい…)

 

「凄いよお姉ちゃん!セバス君もう見えなくなっちゃった!!」

 

「えっ!?」

 

 エンリにされるがままだった土塗れのネムが遠くの方を指差しながらはしゃぎ回る、その指先に釣られるままにエンリはゆっくりと背後を振り返った。

 

 遥か遠方まで続く土煙が盛大に舞い上がっているのは誰の仕業だろう、セバス君かな?いや違うよね、いやでもまさかそんなと現実逃避するエンリ。

 

「すごーい!セバス君すごーい!!」

 

 頭の天辺から足の先まで土塗れになったエンリは隣ではしゃぎ回るネムの言葉に漸く現実を認識する。

 

「…あ、あははっ………も、もうだめ…」

 

 騒ぎを聞きつけて駆け寄ってきたゴブリンのジュゲム達に後を任せて、エンリは乾いた笑いと共に静かにその意識を手放した。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 エ・ランテル。

 

 リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、スレイン法国の三国の中心に存在するこの街には、商人から冒険者、様々な物資や交易品などが集まる街として知られている要衝である。

 

 その街に仲間達と別行動をとっていた一人の女性冒険者の姿があった。

 

(出発は明後日、それまでは自由行動だから久しぶりに羽目を外しても鬼リーダーは怒らない筈、というかもう限界)

 

 アダマンタイト級冒険者《蒼の薔薇》の一員であるティナが大通りを行き交う人々に鋭い視線を向けている、その瞳はまるで獲物を狙う猛禽類のようだ。彼女は静かに自身の御眼鏡に適う獲物が通るのをじっと影に潜んで待ち構えていた。

 

『依頼は粗方片付いたから明後日の出発まで自由行動にしましょう、皆も休暇が必要でしょうし』

 

 ここ暫くは依頼を片付ける毎日であった為、少しは休暇も必要だろうと彼女の言う鬼リーダーの一声で出発までの間彼女達は束の間の休暇を与えられた。

 

 その瞬間自由行動を許可されたティナは脇目も振らず猛スピードでその場から離れて大通りへと向かっていく、背後から聞こえてくる鬼リーダーの『出発は明後日だからねー!?』と言う声を無視して。

 

 依頼を片付ける毎日で一人の時間すら碌に取れぬまま早数ヶ月、ティナはもう色々と限界であった、我慢に我慢を重ねてきたお陰でそれはもう色々と酷い状態である。

 

 一刻も早く解消しなければ理性を失って今この場でおっぱじめかねない程に、──彼女の性欲は限界を迎えていた。

 

 そしてついに待ちに待った獲物がティナの目の前を通り過ぎる。

 

(──ショタ発見ッ!!!)

 

 くりくりとした大きな瞳、眩いばかりの金髪、容姿端麗なその少年が何かを口走りながらきょろきょろと辺りを見渡しながら歩いている。

 

 まるで絵画の中からそのまま飛び出してきたかのようなその美少年は人混みの中であっても眩い黄金のような輝きを放っていた。

 

 道行く人の──主に貴婦人や若い女性達の視線が美少年に集中している、中にはティナと同じ様に少年の身体を舐め回す欲望に塗れた視線を送っている同業者らしき女性もいた。

 

(あの少年は狙われている、私が助けてやらないと(私の獲物、絶対に渡さない))

 

 一先ずは此処から離れるべきだ。ティナは瞬時に物陰から飛び出して忍術で道行く人の影を伝いつつ少年の背後まで忍び寄り声を掛ける。

 

「えっと……ばれあれやくひんてん…ばれあれ…」

 

「少年」

 

「えっ──あ、はい?」

 

「こっちきて」

 

「えっ!?」

 

 少年の返事も待たずにティナは傷一つない綺麗な手を強引に引いて大通りから連れ去っていく、背後から複数の舌打ちが聞こえてくるのを無視してティナは人気の少ない路地裏へと少年を引っ張っていった。

 

「あ、あの!?なんなんですか!?」

 

「………少年は狙われていた、だから私が助けた」

 

 周囲に人が居ない事を確認したティナは振り返って少年にそう答える、自分の事は棚に上げて。

 

「ぼ、ぼくが!?」

 

「大通りは色々と危険が一杯、あんな無防備に歩いてたら私を攫ってくださいと言っているようなものだよ」

 

 事実少年は攫われてしまっているが、自分の事は棚に上げている目の前の女に。

 

「そ、そうだったんですか…」

 

「少年は何しに此処に来たの?」

 

 膝を折り曲げて少年と同じ目線まで腰を曲げるティナ。目の前の少年ぐらいの年の頃は対等な関係を望むものであるという自身の経験則に基づいての行動である。

 

 これまで幾多の少年達をその毒牙に掛けて…いや助けてきたのだ、それぐらいの事は熟知しているティナである。

 

「お、おかねをかせぎに…」

 

 ──やったぜ、ここまでくればゴールはもう目の前である。

 

「お金?何故必要なの?」

 

「えっと…ももんがさまにほめてもらいたくて!」

 

 モモンガ様なる人物は恐らく貴族なのだろう、少年の着ている服から察するのは容易い。

 

 少年は執事見習いと言ったところだろうか、そして恐らくは見習い卒業試験のようなものを行っている最中なのだろう、付近に少年の関係者らしき人物が居なかった事は少々気掛かりではあるが…いやもしかしたらあの不躾な視線を送っていた者達の誰かがそうだったかもしれない、まぁ今となっては最早関係のない事ではあるが。

 

「お金なら私が沢山持っている、私の御願いを聞いてくれたら謝礼としてお金を上げるけど…どう?」

 

「ほ、ほんとうですか!?なんでもいってください!」

 

 ──ちょろい。

 

「一晩、いや二晩──私の夜の相手をして欲しい、謝礼は弾む」

 

「よるのあいて…?えっとおはなしでもすればよいのでしょうか?」

 

「まぁそんな感じ、じゃあ行こうか」

 

 ティナは少年の手を引いて歩き始める、少年は──セバスはその手を掴み大人しくティナの後を着いていってしまった。

 

 行き先は勿論、行きずりの男女がとある目的で入る建物が密集している一角である。




「あれ、いつもならこの時間にセバス来るのに…寝坊しちゃったか?…起こしにいくか」






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