擬似著作権

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擬似著作権(ぎじちょさくけん)は福井健策弁護士(著作権法専門)が提唱する「理論的には著作権ではないが、社会で事実上、それに近いような扱いを受けている」ものを指す[1]。擬似著作権という名称であるが実際には擬似的な知的財産権全般を指すという。

擬似著作権の最大の弊害は、社会がその情報を自由に使えなくなることであり、もっともな理由があるものもあるが、「言ったもの勝ち」「権利のように振舞えば勝ち」というような例が見られるという。[2] 日本人はクレームを受ける事が悪である、訴訟を起こされたら大変であるという気質がある為、相手の言い分を飲みやすい傾向がある。これが擬似著作権増加の一因となっている。[1]

擬似著作権の例[編集]

建築物の写真[1]
著作権法第46条の許諾不要が認められているため自由に扱える。しかし寺社の中には「撮影禁止」の張り紙が貼られていることが多い。
ペットの肖像権[1]
ペットに肖像権があるなら公園で写真を取ることができない。
料理の著作権[1]
料理の外観は、鑑賞対象になるほどの芸術性があるような場合を除き、著作物となる例は殆どない。
「オリンピック」「ワールドカップ」の知的財産権
オリンピックやワールドカップが近づくと、イベントやまつわる権利を管理しているIOCやFIFA等の団体から報道機関に対して、「オリンピックはIOCなどの知的財産なので雑誌の表紙や広告にその言葉を勝手に書いてはいけない」「『FIFAワールドカップ』という正式名称を書くこと」「TMやRを書くこと」という内容の通達が来ることがある。
グッズを無断で売り出せば商標権侵害となるが雑誌の記事中で言葉を使っても商標権やその他の権利は殆ど及ばず、IOCやFIFAの通達の根拠はかなり希薄である。
しかし、出版社はこの要請を完全に無視する事は出来ないため、それなりに守られている。[2]
また、IOCの要請に基づき広告審査機構(JARO)が「アンブッシュ・マーケティング」(便乗商法/便乗広告)対策として公表したNGワード集に対して、単にオリンピックという競技を指し示す為に記述的使用として言葉を使うのは基本的に違法ではない、過剰な言葉狩りによる東京オリンピック応援禁止令かと批判している。 [3]
水曜日のカンパネラ「ヒカシュー」騒動
バンドである水曜日のカンパネラが、他のバンドであるヒカシュータイトルにした楽曲をアルバムに収録したところ、3年程経ってからバンドのヒカシュー側から抗議を受けた。水曜日のカンパネラはこれを受け、謝罪し楽曲タイトルのヒカシューを名無しの権兵衛に変更した。
しかし、団体名やキャラクター名に通常は著作権は認めらない。仮にヒカシューが登録商標であったとしても、言葉自体を独占する事は出来ず、作品のタイトルに使う程度であれば商標権は及ばない。パブリシティ権も対象は限定的であり、作品のタイトルでは関係がない。[4]
パブリックドメインの使用料[5]
著作権が切れパブリックドメイン化したものは許可なく使用できる。しかし、権利を主張されたり、利用者側が支払う必要のない使用料(ライセンス料)を支払う事がある。
権利を主張する相手が欧米の者であったり、「権利表示」が複雑であったりする場合等に顕著である。

など

その他[編集]

一般社団法人日本映像・音楽ライブラリー協会は、あるコンテンツを無許諾で自由に使用できるにも関わらず、あたかも権利者であるかのように「擬似権利」を主張するケースがあり、「擬似権利者」の存在はコンテンツ制作者や利用者にとって無駄な負担の原因となってしまっていると主張している。 [6]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e [1]『著作権の世紀』の著者、福井健策弁護士に聞く 「疑似著作権」広がり懸念
  2. ^ a b 「著作権の世紀 変わる『情報の独占制度』」集英社
  3. ^ オリンピック応援禁止令?--ツイート禁止通知と「アンブッシュ」規制法の足音
  4. ^ [2]人名・グループ名を作品タイトルに使ってはいけない? ~水曜日のカンパネラ「ヒカシュー」騒動と疑似著作権~
  5. ^ [3]擬似著作権: ピーターラビット、お前に永遠の命をあげよう 福井健策|コラム | 骨董通り法律事務所 For the Arts
  6. ^ 「あの建物」や「あのロゴ」などの「疑似権利」にも鋭くきりこむ!2020年に向けての著作権セミナーを、一般社団法人 日本映像・音楽ライブラリー協会が開催

関連項目[編集]