ざっつなオーバーロードIF展開 作:sognathus
<< 前の話
あと原作よりもっと抜き打ちのアインズ様の電撃訪問となっているので、その場にいる人物にデミウルゴス、コキュートス、ビクティム、影武者はいません。
※今回の話のモチーフとなった原作のエピソードの二次創作は結構あるので、ありきたりの流れに退屈する可能性が大いにあると思います。
「セバスが裏切った?」
アインズはソリュシャンからの不穏な内容の報告に思わず耳を疑った。
だが、彼女の声の真剣さからそれが偽りであることはなさそうだったし、何より今現在に至るまでNPCたちが自分に対して背信的な態度を見せた事はなかった為、結局事実だと結論した。
しかし重要なのはその内容である。
一体どのような行いに対してソリュシャンは裏切りだと判断したのだろう。
アインズはそれを確認した。
「で、裏切りというのはセバスは何をしたんだ?」
ソリュシャンから事の詳細を聞いてアインズは実にセバスらしい行動だと先ず思った。
そしてそれを裏切り、問題のある行動だと判断したソリュシャンの事も理解できた。
なのでアインズは先ずはソリュシャンの機転を褒め、それからセバスが館に戻ったら自分に知らせるようにと指示をした。
(なるほどなぁ……確かにそれは組織からしたら問題のある行動だよな。だけど裏切りとまで言うのは……まぁあいつらからしたら俺に対する行為としてはそう思えたんだろうな)
アインズは自分の今の境遇が現実世界の会社で言うところの管理職、またはバイトを管理する社員のように思えた。
彼らをまとめるのは大変だが、それでも現実世界の仕事と比べれば、娯楽の延長のような現在の状況を考えると決して嫌ではない。
寧ろ楽しい、やり甲斐のある環境にいるとさえ思えた。
そんな風にアインズが自分の元いた世界と今いる世界の事を比べながら物思いに耽っているところにセバスの帰還の報告がソリュシャンよりメッセージで伝えられた。
「セバス」
「?! アインズ様?!」
突然後ろから声を掛けられ、振り向いた先に主がいたのでセバスは激しく狼狽えた。
その様子を見てアインズはソリュシャンに自分が来ることをセバスにも伝えるよう指示するのを失念していた事に気付いた。
(いやでも、普通は伝えていてもおかしくはないよな。うーん、いや、もしかしたら……)
アインズはセバスの後ろにいたソリュシャンをちらりと見た。
彼女はいつもと変わらない様子に見えたが、アインズはどことなく感じる雰囲気がツンと尖ったもののように感じた。
(もしセバスが動揺するのを見越した上でわざと伝えてなかったとしたら、こいつもなかなか意地悪なところがあるな)
「セバス、まぁ落ち着け」
「は、は……これはお見苦しいところを……」
「良い良い。取り敢えず応接室に来てくれるか? あるよなソリュシャン? そこまで私を案内してくれ」
「は、こちらです」
「セバス?」
「は、畏まりました」
突然のアインズの訪問、そして何処となく普段より冷たく感じたソリュシャンの自分に対する視線。
セバスはそれだけで事態の大凡の見当が付いた。
セバスはこれから起こる展開を予想して、アインズの背中を見つめながらズシリと重い気持ちになるのだった。
「さて、セバス。先ずは突然訪問してすまないな」
「いえ、アインズ様が謝罪される必要など微塵もありません。寧ろ常に出迎えられる心構えを怠っていた私に非があります」
「いや、そこまで身構えなくても良い。疲れるだろう。ソリュシャンも楽にしろ」
「はい、ありがとうございます」
ソリュシャンはそう言って一礼をしたものの、特に座ったりはせずに元の姿勢のまま体の前で手を合わせた。
どうやらセバスと同じく気を抜く事には抵抗があるらしい。
アインズはそんな2人の献身的とも言っていい真面目ぶりを心の中で嬉しく思いながら、セバスの方を向いて一度フムと頷くと話し始めた。
「セバス、その様子では大方の予想が付いているみたいだな?」
「は、私が拾った人間……ツアレの事だと愚考致します」
『ツアレ』
『人間の女』ならまだしも感情が籠もった声で人間の名前を言うセバスにソリュシャンは密かに気分を悪くした。
人間軽視の傾向が強い方であるソリュシャンはどうしてもその人間に配慮を感じるセバスの態度が気になるのだった。
アインズもセバスがツアレと名前を呼んだ事に気付いたようだったが、ソリュシャンとは逆に何処か楽しげな、まるでからかっているような雰囲気でセバスに言った。
「ツアレ? そうか、その人間はツアレというのだな?」
「は、はい」
「……女か?」
「え、ええ……」
「ふむ、そうかそうか……」
骸骨の顔なので例え笑っていてもそれは他者から見たらそれが判らないのだが、その場にいたせバスとソリュシャンには確かにアインズが笑っているように思えた。
それも声を発する笑いではなく、何処となく卑らしさを感じるニヤニヤとしたものだった。
「セバス、その女を一度見てみたい。連れてきてくれ」
「え? は、は。畏まりました暫しお待ちを」
「ああ、悪いが5分くらい時間をかけて来てくれ」
「え? それはつまり5分後に、という事で……?」
「そういう事だ。部屋を出て5分後に連れてきてくれ」
「……? 畏まりました。では」
ガチャリとドアが閉まる音がしてアインズとソリュシャンだけになるとアインズはこらえていた笑いをついに漏らしてしまった。
「っ……ふふ」
「アインズ様?」
「ああ、すまないソリュシャン。あいつが助けた女のことでいちいち緊張する様子が愛らしくてな」
「愛らしい……?」
てっきり厳しい叱責がセバスに飛ぶと予想していたソリュシャンはアインズのこの意外な言葉に眉を寄せて首を傾げた。
アインズは尚も小さく吹き出しながらソリュシャンを見て言った。
「ソリュシャン私はな、セバスの今回の行動自体にはそれほど不快感を感じていない。が、組織としては確かに問題のある行動だったとは思っている」
「……? と仰いますと?」
「恐らくセバスの行動原理にはあいつを創造したたっちさんの存在が大きく影響している」
「たっち・みー様が……?」
「そうだ。たっちさんの性格は知っているか? とにかく正義感が強くて、困っている人がいたら助けるのは当たり前、と公言していた人だ。そんなたっちさんが創ったキャラだから、セバスはカルマ値も極善だし、その関係もあって色濃くたっちさんの性格の影響も受けてしまったのだろう」
「なるほど」
「親の影響から本能として取りたい行動と、私へ絶対の忠誠を誓う気持ち、その板挟みであいつはどれだけ苦悩したのだろうな」
「……」
「言っておくがお前には一切非はない。断言するが正しい行動だったと私は思う。だからこそこの場があるわけだしな」
「そ、そんな……。私はこうした方が宜しいかとナザリックの事を思って……」
「そうやって自分で判断し、ちゃんと私に教えてくれたのが良かったのだ。ソリュシャンお手柄だったぞ。今回は表での活動の件も含めてよく働いてくれた」
「アインズ様……」
津波のように押し寄せる賛辞にソリュシャンは感激から惚けた顔となる。
アインズからすればただの言葉でここまで嬉しそうにするのかとチョロさに申し訳無さを感じる程であった。
「……」
一連の会話を扉の向こうで聞いていたセバスはアインズの優しさに、感激から一人黙ってただただ涙していた。
それから目頭を押さえて何とか涙を抑えると何かを決意した真剣な表情でツアレが居る部屋へと向かうのだった。
(過ちを犯したこの身に何と過分なお優しいお言葉とご配慮。……今後アインズ様に背く行動は決して取るまい。下される命には全身全霊を持って応え、鉄の意志で必ずや果たさん)
「ツアレを連れて参りましたアインズ様」
「ああ。ん……?」
アインズの姿を見て一瞬恐れる表情をするも、気丈にも直ぐに持ち直し自ら彼の前に進み出たツアレを見てアインズは何か頭にひっかかるものを感じた。
僅かに身を乗り出して改めてツアレを見つめるアインズにセバスは軽く驚き、ツアレは僅かに身を竦ませた。
ソリュシャンはといえば、敬愛する主が人間如きの雌に何か気を引かれている様子に明確に嫉妬し、口の端を人知れず噛むのだった。
(なんだ……? こいつ何処かで見たことあるような……? いや、顔か……? あっ、そういえばあいつに似ている気がする)
アインズの脳裏に少し前に助けた冒険者パーティーのある人物の顔が浮かんだ。
「お前がツアレか?」
「は、はい……」
「なぁ、これは私の予想なんだが、お前は妹とか姉はいないか?」
「え?!」
アインズの言葉にツアレは驚きに目を見張る。
どうやら予想は当たっていそうだとアインズは思った。
「その反応はいそうだな? もしかしてニニャとかいう名前だったりするか?」
「わ、私は……私の名前は……本名はツアレニーニャといいます」
「ツアレ、ニーニャ……ニニャ……ああ、当たりか?」
「あ、あな……」
「ゴウン様」
「え?」
「ゴウン様とお呼びなさい」
つい自分の妹を知ってるかも知れないと問い質そうツアレがしたところで、横からセバスの固い声がした。
彼を見ると初めて見る厳しい目をしていた。
ここは失礼があってはならない。
それが下手をしたらセバスにも迷惑を掛ける事になるかもしれないと判断したツアレは、謝罪の礼をすると居住まいを正してアインズに言った。
「失礼致しました。ゴウン様は……あの……私の妹をご存知なのですか?」
「多分、といったところだな。本人から詳しいことを聞いたわけではないが。お前の妹である可能性は高いと思う」
(なんかあいつ性別隠してたみたいだし、多分当たりかな)
「そ、そうですか。でも良かった……妹は生きているかもしれないんですね……」
ツアレがホッと安堵の表情をしたのも束の間、アインズがそれを遮るように今度はセバスを見て話を続けた。
「悪いがその話は後だ。でだセバス」
「至高の御方のご命令には絶対服従致します」
「ん……」
アインズが話の全容を言う前に片膝を突いて絶対服従の意を示すセバス。
その態度からは、これから下されるかも知れない彼にとって如何なる非情な命であっても必ず従うという強い意志が目に見えて解った。
「そうか……。お前は自分が犯した失態を理解しているんだな?」
「はっ」
「私が忠誠の証を示せと言うかも知れない、という事も予想できていそうだな?」
「殺せと申されるのでしたら……」
「ふむ」
殺せという不穏な言葉にツアレはビクリと震え、それが自分のことであることを何となく悟った。
見る限り眼の前のアンデッドはセバスの目上の存在のようだった。
そして自分を助けた事がアインズと呼ばれるアンデッドに迷惑をかけるという失態をセバスが犯してしまい、それを咎められているのだと、セバスの一言からツアレはそこまで悟ったのだった。
「……」
正直死ぬのは怖い。
震える唇をそうさせまいと我慢しようするので精一杯だった。
だがこれまでに何度も早く死にたいと思うほどの辛い目にも遭ってきた。
だからどうせ死ぬなら、命の恩人である誠実な
「セバス様……」
アインズとセバスの間に立ち、ゆっくりとした動作で跪き頭を垂れ、ツアレは自分の首をセバスに差し出した。
「ツアレ……」
セバスはここに来てツアレの器量の良さ、察しの良さに感心していた。
それは意外にもソリュシャンも同じで、劣等種族ながら自分の運命を誰よりも悟り、臆病で貧弱に見えた彼女が逃げ出しもせずに話の流れを汲んで自ら命を差し出してきた事を純粋に見直していた。
一方アインズはといえば……。
(え、なにこれ)
軽く脅すだけで反省を促すつもりだったのに、勝手にシリアスな流れになってきたのでか内心かなり焦っていた。
セバスが拳を振り上げて彼女の後頭部に狙いを定めたところでセバスもツアレも本気であることが解ったのでアインズは慌てて(表面上は冷静に)言った。
「待て。私はまだ何も言っていないぞ?」
「っ、失礼しましたアインズ様!」
確かに主の承諾もなしに勝手に事を進めようとしていたことは無礼であった。
セバスは直ぐに姿勢を正して一歩下がると謝罪の礼をした。
そしてその事を解っていながらも部屋を取り巻く雰囲気から言葉を挟むべきではないと独自に判断していたソリュシャンもまた、己の無礼をセバスに倣って謝罪した。
「ああうん、いいんだ。お前から行動で示してくれたので今回は不問とする。あと今回の件の経緯は私自ら他の守護者に伝える。ソリュシャン異論はるか?」
「適切なご判断かと存じます」
「うむ。ではそういう事だセバス」
「重ね重ねアインズ様には篤い御慈悲を賜り、感謝の言葉もございません」
「はは、良い良い。それよりツアレのこれからの処遇について話そうか」
この後はツアレ本人からセバスの傍に居たいのでナザリックで働きたいと希望し、アインズがそれを表での活動に対するセバスへの褒美とする事で彼女は原作と同じポジションになります。
ソリュシャンに対する褒美の話とかは単話でやってみたいですね。