2017年度、陽子線治療センター開設先進医療で地域貢献
東海地域の民間病院として初となる「陽子線治療センター」を建設中の社会医療法人明陽会。同法人の地域での役割や今後を、成田真理事長に聞いた。
◎法人全体で包括的な医療を
当法人の始まりは、1947年に私の祖父が開設した診療所です。1969年に透析治療を開始。三河地区で初となる生体腎移植も実施しました。
1984年に診療所から総合病院である成田記念病院となってからは、地域の急性期医療を担う中核病院として機能。1983年にCT、1991年にMRI、2012年にはPETなどの診断装置も導入しました。
腎結石や尿路結石の治療で切開手術が一般的だった1987年ごろには「ESWL(対外衝撃波結石破砕術)」を開始。「人の優しさと温かさを根源にした先進の医療を目指して」を理念に、地域の皆さんが安心して暮らせるよう、地域医療に取り組んできました。
1996年には、外来透析を中心とした「明陽クリニック」を開設しました。現在の透析ベッド数は148床。透析導入と入院透析は成田記念病院、外来透析は明陽クリニックと役割を分担しています。
同クリニックが入る建物は8階建て。1階〜5階には「老人保健施設明陽苑」があります。ケアセンター、地域包括ケアセンターも併設しています。
さらに2005年、回復期リハビリテーション病院の「第二成田記念病院」(96床)を開設。これによって、急性期から在宅まで患者さんの回復段階に合わせた包括的な医療を提供できる体制が整いました。2010年には社会医療法人明陽会として承認を得ています。
◎超高齢社会で「放射線治療」に注力
日本のがん治療は、手術、化学療法、放射線治療の順で選択されることが多くあります。しかし、欧米では、がんの種類によっては手術よりも放射線治療を選択する人が多い。超高齢社会になった日本で患者さんの予後を考慮すると、今後ますます低侵襲な放射線治療のニーズが高まっていくでしょう。
そこで、成田記念病院は、2012年、現在の豊橋市羽根井本町に新築移転した際、最新の放射線治療装置「トモセラピー」を導入しました。トモセラピーは、正常な細胞を避け、がん細胞に放射線を集中させる照射技術「IMRT(強度変調放射線治療)」と、がんの位置を確認してから治療する「IGRT(画像誘導放射線治療)が可能な放射線治療装置です。
1日1回、15〜20分程度の治療で副作用も少ないため、外来通院での治療が可能。現在は主に前立腺がんなどの治療に使用しています。
旧病院の跡地がJR豊橋駅から徒歩約3分という利便性の高い場所にあります。地域の人々にとって新たながん治療の選択肢になるという考えから、その土地に陽子線治療センターを造ることにしました。敷地があまり広くないため、IBA社(ベルギー:欧州)が開発したコンパクトな陽子線治療装置「Proteus ONE(プロテウスワン)」を導入する予定です。この装置を導入する医療施設は国内で初だと聞いています。
Proteus ONEの大きな特徴は、「ペンシルビームスキャニング照射法」という新しい照射法で、細いビームを腫瘍の形状に合わせて精密に塗りつぶすような照射ができることです。これまでの陽子線治療装置は、拡大照射法でしたが、この装置は複雑な形状をした腫瘍の正確な治療が可能になるため、治療効果の向上と正常組織の機能温存が期待できます。
陽子線治療は、エックス線と比べて最大熱量を放出する位置を調整できるため、病巣の深さに相当する熱量で照射すると病巣までで止まり、その先には進まないという特性(ブラッグピーク)があります。この特性によって病巣のみに集中してダメージを与えることができるため、正常組織へのダメージを最小限に抑えることができるのです。
センター開設にあたって、地域の皆さんに陽子線治療への理解を深めていただくため、定期的に市民公開講座を開いています。今年1月までに4回開催。今後は、静岡県浜松市、県内の岡崎市、豊田市、安城市などにもエリアを広げて講演会を実施する予定です。
先進医療なので、現在は治療費が高いことがネックです。しかし欧米などでは放射線治療のスタンダードです。汎用性の高い治療ですので、今後は日本においても放射線治療の中心になっていくのではないでしょうか。
大学病院やがん診療連携拠点病院とネットワークを構築し、さらにそれを強化しながら、規制にとらわれない、民間ならではのセンター運営を目指したいと思っています。
◎ピンチはチャンス、積極的に挑戦
「医者は医療に集中するのがベスト。経営はその道の専門家に任せろ」というのが祖父の考え方でした。以前は私もそう思っていたのですが、うちのように中規模な民間医療法人は、経営が厳しい時代になってきました。人任せにしておけず、やむなく理事長を引き受けたのです。
しかし、医者としては患者さんを診ないと仕事が面白くない。現在も、理事長と成田記念病院の院長職だけではなく、医師としての仕事も続けています。休みも少なく、仕事は大変ですが、自分が診療することで患者さんに喜んでもらえる。患者さんからの「ありがとう」の言葉と笑顔でモチベーションを維持できているのだと思います。
また、現場にいることで職員たちとも近い感覚で話ができますし、フランクに付き合えます。病院の雰囲気もとても明るいですよ。
私の考えや方針を職員たちに言葉で伝えるのではなく、私自身の行動や姿勢を見てもらうことで、理解してほしいと思っています。
近ごろは医療投資が難しい時代です。医療費は上がらないし、人件費は下げられない。負のスパイラルに入ってしまっているように思えます。しかし、ピンチはチャンス。そういうときこそ思い切って行動すれば勝算はある。新しいことを始めることが困難なときこそ、知恵を絞れば、病院を成長させることができると思います。
現在の課題は陽子線治療センターを軌道に乗せること。気持ちに余裕ができたら、また新しいことを考えて積極的にチャレンジしていきたいですね。