ざっつなオーバーロードIF展開 作:sognathus
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戦闘描写は一切なく、殆ど男二人の地味な話です。
が、原作とは大分違う展開です。
『アインズ様、仰せつかっておりました目標の人間がそちらに近付いております』
「む、そうか」
その時の状況をナザリックより監視していたニグレドからのメッセージでアインズは自分に迫ってくるガゼフの存在を知った。
スキルで殺してしまわないように絶望のオーラⅤを解除して彼女から情報として貰い受けたガゼフが来る向方に自らも歩みを進める。
「あ、見えた」
やがて前方より3人の人影が見えた。
ガゼフはその3人の真ん中におり、両側の2人はアインズが初めて見た気がする人間だったが、ニグレドから即座にその2人に関する情報を得て彼らがガゼフの親しい仲の人間だという事をアインズは把握した。
「ゴウン殿!」
「やぁストロノーフ殿!」
お互いの姿がはっきりと視認できる距離になってガゼフの方からアインズに声を掛けてきた。
その声にアインズを直ぐに応じ、彼はまるで久しぶりに会う知人に対する挨拶のような、そんな気軽さを感じる明るい声を発するのだった。
「ゴウン殿……お久しぶりです」
「そうですね。こうして直接会うのはカルネ村の時以来でしたか」
「……そうですね」
アインズに返事をしながらガゼフは彼が歩いてきた方向を目で追った。
そこには眠るように何の外傷もなく屍となって横たわっている王国軍の兵士たちの身体が低い丘のように連なっていた。
アインズが歩いてきた跡はさながら丘の間に続く小道のようであった。
「やってくれましたなゴウン殿。いや、本当に……よくもここまで……」
果たしてその時のガゼフの声に含まれていた感情はどういうものだったか。
憤りのような称賛するような、そんな何とも言えない感情が渦巻く平坦な声で、彼は呆れ果てたというような顔でアインズにそう言った。
アインズもガゼフの視線の先を追って後ろを振り向きながら少し肩を竦ませて言った。
「申し訳ない……だが向かって来るものだからな」
「っ……。お二人の会話の間に入るご無礼をお許しください。私は王国兵士のクライムと言います。恐れながら貴方にお訊きします! そ、そのお言葉ですとまるで向かってこなければ彼らは死ななかったというように聞こえるのですが……?」
「その通りだクライム君。彼らは私に向かって……いや、近付きさえしなければ死ななかった」
「何だそれは……そんな魔法があるのか……。近付くだけで死ぬなんて……」
天を仰ぎながら悪い冗談だと言わんばかりの表情でそう言った男はブレイン・アングラウスだった。
アインズは彼のその言葉を聞いて軽く笑いながらとんでもない事を言った。
「ははは、それは違いますよ。これは魔法ではない」
「……え?」
ガゼフを含めて、アインズの前の3人は唖然とした顔で彼を見た。
「これは単純に私の力だ。武技みたいなものなので、魔法の行使によって消費する魔力というような消耗も私には発生していないのですよ」
3人は一切の消耗もなく、ただ気ままな歩行だけで数万の人間を殺してここまで来たという怪物に最早返事もできなかったが、唯一人その中でブレインだけが気丈にも無意識からか「化物か」と一言誰にともなく呟くのだった。
「そ、それは……。あっ、つまり今私達が貴方とこうして会話できているという事はその力を解除しているという事ですか?」
「その通りですストロノーフ殿。私は貴方には死んで欲しくなかったのでね」
その言葉はまるでガゼフに付いてきた後ろの2人に関してはどうでも良かったという風にも取れたが、アインズはこの時点でブレインとクライムがガゼフと親しい仲という事情からある程度彼らにも配慮する事を決定していた。
「なるほど。では、後ろの2人も今こうして貴方の前に居られるのもその配慮のおかげという事ですね。……ありがとう」
無数の兵士たちの死体を前にして正直お礼の言葉を言う事が倫理的に誤っている気はしないでもなかったが、ガゼフは何とか己の感情を殺して先ずは目の前の超常の存在の機嫌を損ねない事に全力を尽くす選択をした。
「ストロノーフ殿、無理に礼など言う必要はない。貴方達にとって今の私は敵、それも数万の兵の命を奪った憎き敵という立場である事は私も否定するつもりはない」
「……ではこのやりきれない気持ちは貴方を戦場へと送った帝国へ向けることで、この場は収める事にします。ふぅ…………よし、もうこの話はなしだ。2人もいいな? こう言っては卑怯と思うかもしれないが……戦争だ。王国にこうなる事を避けさせることができなかったという責任が俺に無いとも言い切れない」
「ガゼフ……」
「ストロノーフ様……」
ブレインとクライムは苦渋、片や同情に満ちた顔でガゼフを見つめるだけで特に何も反論する事はなかった。
そんな2人に謝辞の一礼を一度するとガゼフは改めてアインズに向き直って言った。
「それで、ここまで私を生かしてくれた理由は何でしょうか?」
「ああ、うむ。ストロノーフ殿、戦の趨勢、これで決まったという事で良いかな?」
「ああ、完敗だ。私は一戦士長に過ぎないが、それでもまだ過半以上の兵力残っているとはいえ『貴方一人』で6万近くの兵を葬ったという戦果に対して王国は敗北を認めるべきだと私は思う」
「そうですか。では国王陛下にその進言自体は……」
「任せて下さい。何人かの力を借りて……そうするまでもないかも知れないが、王への進言は責任を持って行います」
「よろしい。では此度の戦争に私が加担する事を決めた動機を先ずお話します」
「ええ、是非お願いします」
ガゼフはここからが本題だということを本能で察して表情を引き締めた。
恐らく今からアインズが語る事は6万の兵の命という戦果相応の何かを求めてくるのは明らかだった。
アインズは軽く咳払いを一度するとこんな話をした。
「私はかねてより自分の『国』というものが欲しかった。その為に準備もした。国を手に入れた時に組み込む内政のシステムなど言わずもがなだ。当然それらを担う人材に関しても万全の状態だ」
「話の腰を折って申し訳ない。ゴウン殿、それはつまり、貴方はこの戦の勝利者としてもしや……」
「うむ。国を興すにはまず領土が必要だろう? 故に私はリ・エスディーゼ王国に私へのエ・ランテルの割譲を要求する」
ある程度予想はできていたとはいえ、アインズの言葉は3人には衝撃だった。
まさかアンデッドが自らの国欲しさに人間の戦争に加担し、見事その目的を達するなんて悪い方の夢物語のようだった。
「もしこの要求を飲むのなら私は以下のことを誓約します」
「そ、それは……?」
ガゼフは自然と乾いていた口で苦労しながらアインズに訊いた。
「一つ、私に領土を割譲した時点でリ・エスティーゼ王国を我が国の同盟国とする事。これによって我が国は盟主国としてあらゆる国難に協力し、貴国を助けることを約束します」
「……」
戦勝国らしい有無を言わさぬ物言いにガゼフは気圧され気味だったが、それでもアインズの言葉を冷静に頭の中では吟味していた。
「ゴウン殿、それはつまり王国が同盟国なることでこれ以降帝国の脅威に晒されない、と取ってもよろしいのでしょうか?」
「察しが良いですねストロノーフ殿。その通り、ここまで力を示した私に、そして我が国と同盟を結んだ国に帝国がちょっかいを出す事は考え難いですよね? まぁ私は、王国と同盟が成立したら帝国にもこの同盟に加入するよう提案するつもりですけどね。断ることは、まぁないでしょう」
「なるほど、同盟国同士となればお互いが戦う事もなくなる……」
「その通り。ましてや私はアンデッド。不死身です。同盟が成立すれば王国と帝国が争うことは永遠になくなる。……皇帝は相当悔しがるでしょうけどね」
「私は政治に疎いのですが、悪い話ではない、という気はしますね」
「そうですか。話を理解してくれているようで私も嬉しいです。いや、私もなかなかに弁達者なのだな」
ここに来て2人を取り巻く雰囲気は談笑が発生するくらい和やかなものになりつつあった。
そんな2人をブレインとクライムは微妙な顔で見ているのだった。
「ああ、そうだ誓約はもう一つあるのです」
「なんでしょう」
「敗北を認め、同盟を承知して頂けるのなら、私は貴方達を今日此処では殺しません」
「……」
ガゼフはこの言葉にハッとした目でアインズを見た。
その話はまるで自分が王国に対して人質扱いされているようで正直気分が良くなかった。
だがアインズはそんなガゼフを気にかける様子もなく、今度は彼の後ろに先程から控え続けていたブレインとクライムを見ながら話を続けた。
「ストロノーフ殿、今貴方と後ろの2人は、この様子を何処かで見守っている者たちにはどう映るでしょうね?」
「え?」
ガゼフ達3人はアインズの言葉の意味が解らなくて異口同音した。
「数万の命を瞬く間に奪ってきた私に物怖じなく近付き、そして今なおこうして私と
「いや、まさか……」
ガゼフはアインズが言わんとしている事を何となく察してまさかと思った。
後ろではブレインも同じ結論に達したようで微妙な表情をし、その隣のクライムだけがまだ理解できず眉を潜めていた。
「勿論私が魔法の効果を切ったと思われるかもしれない。が、生きて戻ることによって貴方達はきっと数万の命を奪った怪物に物怖じなく接し、そして終戦の条件を取り付けてきた者としてきっと英雄扱い。つまり王国にとって失いたくない存在になるのではないでしょうか?」
「……つまり私を利用したと?」
戦士の誇りを利用されたようで剣呑な声出し憮然とした表情をしたガゼフにアインズは頭を振りながら言った。
「いや、結果としてこれが良いかな、と思い至っただけです」
「……? というと?」
「正直に言えば、私は貴方を自分の仲間にしたかった。だが、それは難しそうだという結論に達したからせめて貴方を上手く生かす選択をした、といったところです」
「え、それは……」
大量に死者を出した殺戮者でありながら唐突にそんな当事者に似つかわしくない人間臭さを出したアインズにガゼフは戸惑った。
アインズはそんな彼を真っ直ぐ見ながら思ったことを言った。
「本当の仲間とは力ずくでは出来ない、という事です。だからこそ私は貴方に人間でありながら安易に失いたくない魅力を感じた」
そう言うとアインズは話が決まったら帝国に伝えてくれと一言だけ言うとフライの魔法でどこかへ飛び去っていった。
ガゼフ生存ルート完了!