CREATIVE X 第2弾
CREATIVE X 第2弾
2018.10.14

『ドラゴンボール』を読んだことのない僕が、先輩に反論するために全巻読了した結果

栄藤 八

こんにちは、アシスタントエディターの栄藤八(@hachi_jejeje)です。他社オウンドメディアの記事コンテンツ制作代行を行う「外部メディアコンテンツ制作チーム」で見習いとして働いています。

突然ですが、みなさんは『ドラゴンボール』という作品をご存知でしょうか。「週刊少年ジャンプ」にて1984年から約10年にわたって連載された長編漫画です。1985年からは単行本も発売され、テレビアニメ化までされている、いわゆる大ヒット作品です。

1992年に生まれた私は、これまでドラゴンボールを読むことなく生きてきました。もちろん作品の存在自体は知っていましたし、アニメの主題歌もどこかで聞いたことはありました。しかし、私にとってのドラゴンボールとは「昔流行った漫画」でしかなかったのです。

そんな私が、今更ドラゴンボールを全巻読むことになったのは、ある出来事がきっかけでした……。

ドラゴンボールハラスメント

先日、先輩方と話しているときに、ひょんなことからドラゴンボールの話題になりました。

私がドラゴンボールを読んだことがないということを知ると、先輩は「コンテンツ制作に携わる人間として、ドラゴンボールを読んだことがないなんてありえない!」と言ってきたのです。

まあ、わからなくもありません。漫画コンテンツの大ヒット作品であるドラゴンボールを読んで勉強することは、確かに重要なことでしょう。

しかし、20数年前に流行った漫画を読むことが現代のコンテンツ制作に果たしてどれほど役立つのでしょうか。いや、そもそもこれはドラゴンボールを読んでいない私に対する嫌がらせなのではないか。もしくは、子供の頃に読んで面白いと感じた自分を正当化するために、後に引けなくなっているのではないか。はたまた、「ドラゴンボールを読め」という一見深そうな課題を与えることで自身の尊厳を守ろうとしているのではないだろうか……。

いずれにしても、ドラゴンボールを読んでいないことを背景に、精神的な苦痛を与えられている以上、これはドラゴンボールハラスメントと言わざるを得ません。ドラハラです。

こうなったら、全巻読んで反論のひとつでもしてやろう、そしてついでに世にはびこるドラハラを滅却してやろう。そんな訳で、決して先輩に言われたからではなく、自分の意思によってドラゴンボールを全巻読むことにしました。

最強宇宙人と愉快な仲間たちのお話

まずはじめに、ドラゴンボールを読んだことがない方のために、どのような作品なのかを簡単にご説明します。

ドラゴンボールは、人気ギャグ漫画『Dr.スランプ』の作家としても有名な鳥山明氏による漫画作品で、中国の伝記『西遊記』をモチーフにして作られています。

主人公である「孫悟空」と愉快な仲間たちが、協力したりしなかったりしながら強い敵たちと戦っていく冒険バトル漫画で、途中、主人公が宇宙人であることが発覚したり、変身したり、死んだり、生き返ったりします。

また、タイトルにもなっている「ドラゴンボール」とは、7つ集めるとどんな願いでも叶えてくれるという秘宝のことであり、物語の重要な鍵を握る要素のひとつとなっています。

反論開始

ドラゴンボールを読了したときの率直な感想は、「やや面白くない」というものでした。読んでいる最中も、「早く次の巻を読みたい!」という、漫画を読むときに感じるあの独特の感情が湧いてこなかったのです。

とはいえ、日本のみならず世界中で多くのファンを持つ伝説の大ヒット作品であることは間違いありません。

何がドラゴンボールを伝説たらしめたのか、そしてなぜ私はその作品にハマることができなかったのか、ということを「ストーリー」「世界観」「時代背景」の3つのテーマに分けて考えてみました。

ストーリー

本作品がヒットした要因のひとつに、「主人公のキャラクター設定」があるのではないかと思います。

主人公である孫悟空は、幼少期から親がいない環境で育てられます。そして物語の途中で、宇宙最強クラスの戦闘種族である「サイヤ人」であることが発覚します。

どうでしょうか、どこかで聞いたことのあるキャラクター設定だと思いませんか。

物心がついた頃から親がおらず、生まれ持った才能を持つ主人公。そしてその才能の理由が

仲間想いの性格で……。そうです、これは英雄物語の黄金パターンなのです!

 

例えば、ファンタジー小説であり、映画作品としても有名な『ハリー・ポッター』でも、主人公のハリーは幼い頃に両親を失い、伯母夫婦の家で育てられます。そして物語の途中で、両親が偉大な魔法使いだったことを知り、自身も魔法界に足を踏み入れていきます。

また、同じジャンプ作品でも同様のキャラクター設定をとる作品は数多くあります。例えば、人気漫画『ONE PIECE』の主人公ルフィも、幼少期から両親がいない境遇で育てられ、物語の途中で「Dの意思を継ぐもの」であることが判明していきます。

 

このような主人公のキャラクター設定には、高貴な身分から落ちてしまったという悲劇、そしてその境遇に立ち向かい栄光を手にするというサクセスストーリー、といった読者の心を掴む要素があるのではないでしょうか。

 

しかし、ことストーリーの内容については、作り込まれた作品というわけではないように感じました。第1巻の表紙裏コメントでは、作者の鳥山明氏自身が次のように言っています。

ドラゴンボールの舞台は、なんとなく中国風ではありますが、とくに中国だという限定はしていません。時代も、いったいいつ頃なのか決めてありません。全体のストーリーは、簡単にはできていますが、細部やラストは、いきあたりばったりで作っていこうと思っています。その方が、ボク自身も、この先、どうしようか、というハラハラ感や、なにを描いてもいいわけですから、楽しめるのです。
(出典:鳥山 明『ドラゴンボール 1巻』表紙裏)

本作品は、いきあたりばったりで作られているのです。

もちろん、それが読者の想像を超えるストーリー展開に繋がっている可能性は大いにありますが、私としては「ゴールのない物語」に感じてしまったのです。

これといった目的やゴールもなくストーリーが進んでいくので、主人公を応援したい気持ちになれず、ただ淡々と物語が進んでいくように感じてしまいました。いきあたりばったりな書き方は、「奇想天外な物語」を作ることはできても、「物語の奥深さ」を作り出すことはできないのではないでしょうか。

世界観

ドラゴンボールを読んでいると、初めから終わりまで至る場面でツッコミを入れたくなってしまいます。

交通事故の被害者に対していきなり発砲する登場人物の異常さ、当たり前のように言葉を喋る動物たち、空を飛んだりビーム的なやつを出せる人間、大量発生する宇宙人、時の流れを遅くする空間……。

ここでは書ききれないほどのツッコミどころに溢れているのです。

しかし、このようなことは漫画やアニメ、映画をみているとよくあることで、「何を今更」と思うかもしれません。

なぜここまで敏感にツッコミどころを粗探ししてしまうのか、それは私の性格が心底悪いからでも、私が関西人でありツッコミ能力に長けているからでもなく、ひとえに作品の「世界観の弱さ」が原因なのではないかと考えました。

例えば上記に挙げたヒット作品などでは、非現実的で独特の世界観を前提にしてストーリーが作られています。魔法界や大海賊時代など、それぞれの作品でそれぞれの世界観を作り込んでいるのです。

だからこそ、その世界観にどっぷりとのめり込むことができ、不可解な出来事が起きたとしても「この世界では普通なんだ」と納得し、違和感なく読み進めていくことができます。

一方、ドラゴンボールでは私たちが生きているような世界に近い世界観を前提にして物語が繰り広げられています。だからこそ、現実世界において不可解な出来事が起きる度に、現実に引き戻されてツッコミを入れたくなってしまうのです。

この世界観の弱さが、本作品への没入感を削いでしまっているような気がしてなりません。

時代背景

子供の頃にドラゴンボールを読んでいたという人たちに、「よかった点」を聞いてまわったところ、「絵がうまい」やら「ストーリー展開が斬新」やら「なんてったって鳥山明が最高」やら、様々な回答が返ってきました。

確かに、鳥山明氏によるイラストレーターレベルの絵は、読者を物語に引き込む力があるように感じます。私も「やや面白くない」と感じたこの作品を、サラッと読み切ってしまったという事実があり、これは絵のうまさや、読者の目線の動かし方まで考えられた構図によるものなのかもしれません。

ストーリーに関しても、当時はまだ「黄金パターン」のキャラクター設定を採用している作品がそこまで多く世に出ているわけではなく、さらに作者の「いきあたりばったり」な書き方も相まって斬新な物語だと感じた読者が多かったのではないでしょうか。

また、ドラゴンボールを書く前の作品である『Dr.スランプ』がヒットしたことで、「あの鳥山明の作品だ」という箔がついていたのかもしれません。

そしてもう一つ、インターネットがまだ普及していなかった1980年代後半の余暇の過ごし方は、スマホで当たり前のようにゲームができる今ほどに選択肢が多くなかったのではないかと思うのです。

 

果たして1992年に生まれ21世紀を生きてきた私にとって、これらの「よかった点」は通じるのでしょうか。

ドラゴンボールから多大な影響を受け、さらに改良を加えてきた作品を読んでいる私にとって、ドラゴンボールは「よくある絵」であり「どこかで読んだことのある物語」に感じてしまったのです。もちろん、巨人の肩の上に立つそれらの作品だけを評価している訳ではありませんが、先にそれらの作品を読んでしまっている私にとって、このように感じてしまうことは仕方がないことでもあるかと思うのです。

先輩へのメッセージ

ドラゴンボールを全巻読んでみて、当時ドラゴンボールがヒットした理由が少しわかったような気がしました。そして、当時子どもだった先輩方にとって衝撃的で感動的な漫画だったのだろうと感じました。

また、今でもなお受け継がれる「キャラクター設定」や「絵の書き方」の元とともいえる作品を読めたことは、結果として良い経験だったように思います。

しかし、面白いかと聞かれると……個人的には、やや面白くなかったという結論に至りました。理由は上記の通りです。

 

とりあえず……漫画喫茶で全巻読むのがとても大変だったので今度ご飯おごってください。