あの人たちが暮らす実際の24時間がとうとうテレビ欄になった
僕はテレビが好きで、これまで10年くらいテレビで仕事をしてきた。
そのテレビを観るときにガイドとなるのが、ご存知「テレビ欄」である。1日24時間の中で何が放送されるか、たちどころにわかる表だ。
このテレビ欄を使い、僕らの24時間のスケジュールをテレビ欄にしたら、おさまりが良くなるのでは無いか?
「みんなが暮らす実際の24時間」をリサーチして生まれたテレビ欄を、在京テレビ局と同じ7局分並べてみた。さっそく見ていこう。
筆者の24時間をテレビ欄にした
まずは筆者自身が過ごす実際の24時間をテレビ欄にした。朝はおはよう日本ならぬ「おはよう辰井」からスタート。
そのあと「くうふく(主演 安藤サクラ)」に耐えながら、ダラダラな朝をスタートさせる「あさダラ(MCとんねるず)」がはじまる。
そして10時ごろから仕事。筆者がコワーキングスペースで働く様子を延々と生放送する番組「辰井の仕事中継(解説 村田兆治 実況 刈屋富士雄)」がスタート。視聴率は限りなくゼロに近いはずだ。
そして12時45分からは吉野家へ。筆者が愛用している80円引き定期券を使ってカレーと豚汁を食べる。
午後1時30分からは「ザ・移動」。そして午後2時からは国会図書館へ。ここで昼の目玉ワイド番組「ハナタカ!国会図書館(MCくりぃむしちゅー)」がはじまる。
カレーを食べたあと、延々と仕事をするだけの番組
そして午後6時30分からは「突撃!辰井の夕ごはん(出演 ヨネスケ)」。筆者がココイチ納豆カレーを食う様子を超ハイスピードカメラで捉える番組だ。
そして午後7時10分からは「ザ・仕事2」。作業を黙々と片付ける新感覚沈黙バラエティ。「良いところでまさかのウィンドウズアップデートが入る」などの仕事の日常を静かに見守る番組だ。視聴率が極端に低いときに出る「※」は免れないだろう。
午後9時45分からは「銭湯 禁断の男湯生中継」。鶴瓶師匠以来の衝撃がお茶の間にやってくる。
午後10時10分からは「吉田類の家飲み放浪記」。特に放浪もせず、ただただライフやローソンストア100のPBチューハイで酔っぱらい、醜態をカメラに晒す番組だ。
午後11時30分からは「寝る準備」。筆者の華麗な歯磨き姿を5.1サラウンドのシャカシャカ音とともにご覧に入れよう。
最後に0時からは「就寝」。筆者がスマホやテレビを眺めながらウダウダする様子が味わえるクロージング的番組である。
実際にこういったテレビ局があったら「2日で倒産」は免れないが、こういった形だ。
そしてテレビ欄にはやはり複数の放送局が必要である。この要領でほかも作っていこう。
寝すぎ、猫の1日
続いては猫の番組表である。スケジュールに関してはこの記事を参考にさせていただいた。
猫はとにかく寝る。7時に起床したら、また8時には寝てしまう。「羽鳥スイミンショー(司会 羽鳥慎一)」はそんな二度寝する気持ちよさそうな猫を見つめる番組だ。筆者の番組よりは50倍視聴率良さそう。
そして9時からは関根潤三さんの解説による「ひなたぼっこ中継」。10時からは「FNNスーパーおやつタイム(司会 露木茂)」。
11時30分からは「キューピー30分睡眠グ」である。猫の生活は「うらやましさ」ばかりだ。
あまりに寝すぎるので放送休止も多発。やっと夜8時に「ドキッ!丸ごと猫!猫だらけの運動会(MC田代まさし 森口博子)」で元気に動いたと思ったら、夜11時には「プロフェッショナル睡眠の流儀(EDテーマ スガシカオ)」のOAとともに寝てしまう。
さすがダラダラの王様・猫による放送局である。だがスカパーあたりがこんな放送局を作ったら、ランニングコストが少ないので意外と良い気もするぞ。
凄惨なテレビADの1日
続いてはテレビ業界に欠かせない汗かき役、AD。彼らの労働環境は極めて悲惨である(最近ようやく少しはマシになったと聞くが)。
過労まっしぐらの彼らの1日を、末席の放送作家でもあった私が傍目に見た感じでテレビ欄にした。
朝8時、ディレクターから叩き起こされての「バッド!モーニング」から1日がはじまる。視聴率資料を送るなどの多岐にわたる雑務をこなす。
そして10時30分から資料づくり、そして12時から「番組全体会議中継」へとなだれ込む、息をもつかせぬスケジューリングが待っている。
地獄、朝まで生会議
昼の間も働き詰めで、夜9時40分に「ザ・収録準備ショー」。会議までの時間でいそいそと小道具を作り明日の収録に備える。
そして夜11時には悪夢の「朝まで生カイギ!(MC田原総一朗)」。収録までの余裕がないときなどに時々あるバッドイベントだ。みんな疲れの色が隠せない中、延々と会議が続いていく。
そして会議終了後の4時30分、ADは崩れ落ち、並べた椅子の上でつかの間の戦士の休息を取るのである。極めておそろしい番組ばかりが並ぶテレビ欄に仕上がった。
徳川家康の1日をテレビ欄にした
続いては「家康の1日テレビ」である。筑摩書房「江戸時代図誌〈4〉江戸一」で徳川将軍の生活習慣をリサーチし、反映した番組表がこちら。
6時からの「家康めざましテレビ(司会 三宅・永島アナ)」にはじまり、8時に「家康の朝ごはん生中継(解説 江夏豊)」。
さらに「おとなの経書購読講座」「とっさのひとふり剣術講座」へ続く将軍らしい番組表だ。
徳川がゴチになります
政務を昼間にこなした後の、ゴールデンタイムの番組表。家康は夜6時に夕食をとるので、その時間から「ぐるナイ 徳川がゴチになります!(MCナインティナイン)」を放送。
そして夜9時には就寝である。凛々しい将軍の寝顔を生中継。大奥と懇ろになっている様子を超赤外線カメラで観られるかも知れないので必見だ。
あのコナン作者、青山剛昌のハードな1日が番組表に
続いてはあの名探偵コナン作者・青山剛昌氏の1日である。
漫画家はADに負けない激務である。青山氏も「青山剛昌 30周年本(小学館)」で自らのタイムスケジュールを公開しているが、「忙しすぎる……」とファンの間で話題となったほど。それが1日のテレビ欄になるとこうなる。
コナン作者の朝は午前2時30分のとくダネ!ならぬ「仕事ダネ!(司会 小倉智昭)」からはじまる。もはやまだ夜である。
7時間以上にわたる超ワイド番組のあとは、「仕事ノンストップ!」がスタート。これにはMCの設楽統も目をひんむくだろう。
そして夜はトンカツやカレーを15分でかき込む。短い番組「つかの間の夕ごはん」で淡々とした食事風景を密着したあとは、お待ちかねの「生放送!FNS仕事祭」。
作画中は20時間労働を5日連続で行う青山剛昌の姿が映し出される。その背中にはMCの露木茂と楠田枝里子も涙を禁じ得ないはずだ。
トランプ大統領の1日もテレビ欄に
ここで政界からビッグゲストの登場。アメリカのトランプ大統領である。彼のスケジュールは、ニューヨーク・タイムズやBBCなどがキャッチしているので、それを参考にテレビ欄を作ろう。
あまり寝ないことがモットーのトランプの朝は早い、5時30分起床。テレビが大好きで、朝からどんどん観るのが日課だ。
また朝6時30分からの番組「ドキッ!朝電話」にもある通り、こんな朝っぱらから側近たちにガンガン電話をしまくっているという。そしてスキあればツイート。この3つがトランプの番組表を構成している。
トランプはマクドナルドが大好きで、お気に入りの組み合わせは「ビッグマック2個、フィレオフィッシュ2個、チョコレートシェイク(2420キロカロリー)」であるという。それをバリバリ食う様子を生中継するという、悪趣味な番組がお昼に。
ちなみにさっきから「エグゼクティブタイム」なる番組が多いが、これはテレビを観て、電話やツイートなどをする時間だとか。
「トランプ大統領の1日テレビ」ではニュース速報ならぬ、ツイート速報も注視しよう。
最後は「地球46億年を1日にしたテレビ」
よく「地球46億年の歴史を1日にすると……」なる見せ方があるが、ラストはそれも豪快にテレビ欄にしてしまう。神をも恐れぬ番組の表がこちら。
午前1時15分に地球テレビ「海誕生SP」がOA。同4時に「単細胞生物誕生祭」が放送。さらに放送休止をはさみ、同8時から「ドッキリ 光合成細菌シアノバクテリア誕生SP」の放送である。
実は地球46億年の前半は比較的できごとが少なく、そのために番組もやや大雑把な編成になっている。
地球46億年あるが、「全球凍結ナンデス!(正午からOA)」という氷河期の様子をお届けする番組など、生命の香りがしない番組が多い。
実はみんなが知っている恐竜やらいろんな動物が出てくるのは1日も残り3時間を切ってからだ。
午後9時から怒涛のように「カンブリア爆発(MC村上龍 小池栄子)」、「デボン紀志村どうぶつ園(MC志村けん)」「恐竜さま!(MCさまぁ~ず)」などの番組がOAされる。「地球、ペース配分を考えてくれ」と言わんばかりの番組編成だ。
そして午後11時40分からは「ガッツ石松の哺乳類最高」がOAされ、このへんでやっと哺乳類が発展してくる。そして人類が誕生し番組がOAされるのは1日の放送が終わるたった2分前である。
妙にダイナミックかつ、視聴率意識のない編成方針。数字主義のテレビ朝日ならまず編成部のクビが飛ぶだろう。
いろんな人・モノの24時間がテレビ欄になった
いよいよ完成した、類を見ないテレビ欄。これである。
どうだ、大切な時間をドブに捨てたのがありありと見えてくるだろう。どうかまじまじと見てほしい。これに注力してしまった僕の傷が少し癒えるから。
5~8chの番組表
注目の夜帯はこんな感じ
テレビ欄はすごかった
日本のテレビ本放送開始は1953年。そこから65年、微調整を重ねながら生き残ってきた「テレビ欄」というフォーマットの底力を思い知った。
あなたの家族の24時間もまるっとテレビ欄にしてみると良いかも知れない。似ているところ、違うところ、マネしたいところ、直させたいところが立ちどころに洗い出せるだろう。
そして「猫とADの1日の“差”」はあまりにも大きすぎた。頑張れADさん。
ちなみに僕が以前やりとりしていた女性ADさんの電話の待ちうたが、「猫になりたい(スピッツ)」だったことを思い出した。いま元気かな。