WBA世界バンタム級王者井上尚弥が“70秒KO”をして、WBC世界ライトフライ級王者拳四朗がV3を達成した7日、会場の横浜アリーナで、東京の記者から「え?」という一言を聞いた。私が「最近、おもろい試合が多いから、ええよな。田中-木村戦もめちゃおもろかったし」と言うと「田中の試合って、そんな良かったんですか?」と返された。
…そんな良かったんですかて…めちゃめちゃええ試合やったがな…って君、知らんか…。
9月24日、名古屋の武田テバオーシャンアリーナで行われたWBO世界フライ級タイトルマッチ。挑戦者の同級1位田中恒成が、王者木村翔を2-0の僅差判定で破った。プロ12戦目の世界3階級制覇は、パウンド・フォー・パウンド最強とされるWBA世界ライト級スーパー王者ロマチェンコに並ぶ世界最速タイの快挙になった。
それ以上にタフな王者に、スピード&テクニックが際立つ挑戦者が真っ向から打ち合いに応じた内容が、すごかった。どつき合い、拳闘。どんな言葉を使っても、表現が陳腐になるほどの死闘。井上の“70秒KO”もええけど、現時点で年間ベストバウトを選ぶなら田中-木村戦に勝るものはない。そう思う。
ところが、テレビ中継はCBCによる中部ローカルの生放送。関東地区は後日録画放送。関西地区に至っては放送自体なかった。
テレビ局にはテレビ局の事情があるでしょう。「数字(視聴率)が取れないから」とか「スポンサーがつかないから」とか。放送枠の問題もあるか。慈善事業やないですからね。
ウチらの業界かて、ネタの「価値」と同時に「売れる紙面」を考える。読者が見たら「何でこれが1面やねん」ということは、ままあると思います。だから、わかる。わかるけど、今回ばかりはやりきれん思いが残った。
ここからは、半分愚痴ですわ。
田中-木村戦は戦前から、おもろい試合になることは分かってた。北京、ロンドン五輪のライトフライ級で金メダルをとった中国の英雄・鄒市明(ぞう・しみん)から、敵地に乗り込み、KOでベルトを奪い、初防衛戦、V2戦もKOで防衛した王者木村のラッシングファイトに、挑戦者田中がどう挑むのか? ボクシングファンの興味をそそる要素はてんこ盛りやった。
それなのに、全国中継できませんか? まあ仮にできんにしても、録画中継をせんエリアがあるなんて、いくら何でも、それはないんと違います? あの試合を見れんかった関西のボクシングファンは大損です。命を削るような殴り合いを演じた2人も、気の毒やないですか。
世界3階級王者田中は、ボクシング担当歴の浅い、素人記者の私が見てもすごいです。所属の畑中ジムの畑中清詞会長に「次の試合は全国中継で?」と意向を聞くと「もちろん。それ以外は考えてない」。初防衛戦は来年3月あたりが有力です。活字メディアが一生懸命頑張っても、テレビには絶対かなわん一面もある。だからこそ、次こそは、何とぞよろしくお願いいたします。
【加藤裕一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)