一般人にはわからない、大型トラックがノロノロ運転にならざるを得ない事情
そこで今回からは、トラックを運転するドライバーの裏事情を説明しながら、彼らが日頃、周囲のドライバーに「知っておいてほしい」、「分かってほしい」と思っていることを、数回に分けていくつか紹介していこうと思う。
今回紹介したいのは、「トラックドライバーがノロノロ運転をする理由」だ。シーンによってその理由は変わってくるため、それぞれ分けて解説していくことにする。
1.一般道や渋滞の中をノロノロ走る理由
一般道や高速道路が渋滞している際に、前を大きく空けてノロノロ走っているトラックを見たことがあるだろう。その理由にはいくつかあるのだが、遠くまで見渡せる車高の高い大型トラックは、途中で加速したり止まったりしなくてもいい「一定の低速度」で走る方が楽だということが前提にある。
というのも、トラックの多くはマニュアル車。オートマチック車のように、ただアクセルを踏めば前進してくれるものではなく、速度を変える度にクラッチを踏み、シフトチェンジ(ギアチェンジ)をしなければならない。
また、一度完全停止させたトラックを発進させ、元のスピードに戻すには、手間も時間も燃料もかかる。特に、荷物を満載したトラックが急な上り坂で止まると、シフトチェンジやクラッチ操作はより煩雑になり、場合によっては前にも後ろにも身動きできなくなってしまうことがあるため、ドライバーはトラックを不要に止めたくないのだ。
シフトチェンジは、慣れれば決して難しい作業ではないが、信号の多い一般道や渋滞中の高速道路では、その回数は必然的に増える。こうした小さな作業の繰り返しが、少しずつ疲労として蓄積されていくため、トラックドライバーは数台先までのクルマの流れを見ながら、なるべく定速で走ろうとするのだ。
そんな中、時折「こうした大型トラックのノロノロ運転が渋滞を作っている」という声を聞くことがあるのだが、渋滞を発生させるのは「ノロノロ運転」ではなく、無駄に光らせる「ブレーキランプ」で、それに反応した後方のドライバーが次々にブレーキを踏むことのほうが要因としては圧倒的に大きい。
トラックドライバーのほとんどは、こうした現象や、車間距離を取ることこそ、渋滞を作らない第一条件であることを知っているのだ。
そして、トラックドライバーがノロノロ運転をする最大の理由が、「バタ踏みの回避」だ。
大型トラックは短時間の間に不要にブレーキを踏み続けると、ブレーキが全く効かなくなることがある。トラック業界の間では、こうした踏み方を「バタ踏み」と呼んでおり、過去にはバタ踏みが原因の死亡事故も多く発生している。
そのメカニズムについての細かい説明は避けるが、簡単に言うと、トラックのブレーキはエアブレーキといって、不要に踏み込んだり頻繁に踏み続けたりすると、エアタンクに貯まっていた空気がなくなり、ブレーキが効かなくなってしまうことがあるのだ。
特に山道や渋滞では、前のクルマのブレーキランプにいちいち反応してブレーキを踏んでいると、こうした危険が生じやすくなるため、なるべくゆっくり走ることで、ブレーキを踏まなくてもいいように走ろうと日々努めているのである。