みなさま、こんばんは。
しつこいようですけれど、小学校で読み聞かせのボランティアをしております。
「めんどくさ~い」と「おもしろ~い」が半々・・・(いや、ウソです、ほんとは「めんどくさい」が7割くらい・・・)
でも、メリットがないわけではありません。
なにしろ絵本・児童書は読み放題。
稀に大人向けの本なんかも紛れ込んでいますから、それらを借りることも可能です。
また、近隣の中学校からお手伝いの要請があった場合はなるべくそれに応じますから、中学校図書室にも出入り自由。
中学校の図書室の蔵書はずっと大人向けですし、話題書なんかも充実しているので、地域の公立図書館よりもかなり早く人気の本を借りて読むことができます。
もちろん、「中学生のための」図書室ですから、あまり図々しいことはできませんが、
「これ、今、めっちゃ話題になってる本やん。ほんまに借りてもいいのん?」
と聞くと、
「いいですよー!誰も読まへんし!!」(←あかんと思う。)
という返事が返ってくるので、毎回ありがたく借りることにしています。
で、最近借りて帰った「YA(ヤングアダルト)文学」と呼ばれる中高生向けの本があまりにも大当たり!(←おもしろかったの意)だったので、ぜひご紹介させてください。
1.「3つ数えて走りだせ」
エリック・ペッサン著 平岡敦訳 あすなろ書房
こちらはフランスの現代小説。家出少年の逃亡と冒険譚の顛末。
父親から虐待を受けているアントワーヌと、強制送還に怯える移民の子トニー。
ふたりはある日突然走り出します。なんの目的もなく、一銭のお金も持たずに。
13歳の少年がただひたすら走り続ける小説なのですが、今まさに羽化しようとするサナギを見守っているような、危うくも健やかな印象の残る本です。
彼らは13歳という年齢の子どもが持つにはいささか大きすぎる問題を抱えていますから、彼らの「走り続けること」には、もちろん「逃亡」という要素もあるのでしょう。
抱えきれない問題を背負った子どもに対し、「逃げてもいいんだよ」というメッセージが送られることは日本でもよくありますから、どこの世界でもおんなじようなことはあるんだな、という感想を持ちました。
ただ、もちろん13歳の未成年の子どもたちがいつまでも家出状態のままでいられるはずもなく、彼らの逃亡劇にも終わりの瞬間が訪れます。
アントワーヌは思います。
そうか、ぼくたちはゴールに近づいたんだ。
でも、レースがこんなふうにぶざまに終わるのは嫌だった。敗北は認めたくない。勝って終わりにしたかった。
どうしても勝たなくては。
誰と争うわけでもない、たったふたりで始めた逃亡劇。
でもアントワーヌとトニーのふたりは「勝ち」にこだわります。そしてある方法を使って、彼らは本当に鮮やかな逆転ゴールを決めるのです。
ラストの展開を読んで、私はしみじみと日本人との感覚の違いを感じずにはいられませんでした。
彼らは「逃げる」ことを否定はしない。
でも、言うのです、「戦え」そして「勝て」と。
自由とは人権とは、タダでは手に入らない、戦って勝ち取るものだと。
さすがはフランス、世界に先駆けて人権宣言を打ち出した国だなあ、とつくづく感心する思いのラストでした。
「逃げてもいいんだよ」という子どもたちへのメッセージ。
でも逃げた後のこと、逃げた先のこと。
そのイメージが想像できなければ、「逃げる」ことをためらう子どもがいても不思議ではありません。
今まさに袋小路に迷い込んで、にっちもさっちも行かなくなっている子どもたちがいるとすれば、ぜひこの本を読んでみてほしいと思います。
フランスの街を疾走するアントワーヌとトニーのふたりが、きっと背中を押してくれることでしょう。
2.「スピリットベアにふれた島」
ベン・マイケルセン著 原田勝訳 鈴木出版
主人公は15歳のアメリカ人少年、コール。
金銭的に何不自由のない生活を送っているけれど、両親との関係がうまくいかないコールは問題行動を繰り返し、ある日とうとう同級生のピーターに後遺症が残るほどの怪我を負わせてしまいます。
本来なら刑務所に送られるはずのコールですが、「サークル・ジャスティス」という制度の手続きを経て、アラスカ州南東部の無人島に1年間追放されることになります。
その無人島での経験がコールの考え方を変え、彼は徐々に自らの行動を見つめ直していき、そして最後には被害者であるピーターの心の救済にも関わるようになっていくのです。
正直に言いますと、刑務所送りの代わりに無人島に送られるなんて、あまりにも荒唐無稽な設定だと思いました。
でも、作者の筆力の高さはそんな雑感を吹き飛ばすに十分で、読んでいる私は物語にすっかり引き込まれてしまいました。
特に、無人島で重傷を負い、生死の狭間をさまようコールの描写は必読に値します。
小さく非力な鳥のヒナにさえ怒りの感情を爆発させていたコールが、嵐の後でそのヒナを心配して、
「おまえら、だいじょうぶか?」
と声をかけるシーン。
コール少年の心情の変化が高い説得力で表現された名場面だと思います。
また、この本の本筋からは外れますが、白人を中心とする西洋社会が、それ以外の文明に対してようやくにしてリスペクトをし始めたような気がして、感慨深いものがありました。
コールが受けた「サークル・ジャスティス」という制度は北アメリカ先住民の間で受け継がれてきた犯罪関係者の処遇を決定する風習で、私たちが想像する現行の裁判制度とは少し趣を異にしますが、アメリカでは実際に少しずつ導入され始めているのだとか。
「北アメリカ先住民」
要するにインディアンやエスキモーを指すのだと思うのですが、そういった人々がこれまでどのように遇されてきたのかを思うと、その風習をアメリカ社会が取り入れていくことの意義を深く感じずにはいられません。
これまで啓蒙的というか、ある種押し付け主義の一面もあった西洋文明とその社会が、それ以外の社会の在り様を受け入れつつあることが、この本からも読み取れるような気がします。
余談ですが、この本は過去に課題図書に選定されたことがあるので、どこの図書館でも蔵書をたくさん抱えているはずです。
今調べたら大阪市立図書館の場合、その蔵書は25冊。予約は1冊も入ってません!
ということで、最寄りの図書館でもすぐに手に入ると思います。ぜひぜひ図書館へGO!
3.「ヒトラーと暮らした少年」
ジョン・ボイン著 原田勝訳 あすなろ書房
両親を相次いで亡くした少年ピエロは、叔母が住み込みで働くヒトラー総統の別荘・ベルクホークに引き取られます。
権力者と間近に生活するうちに、無垢な少年は徐々に変質していき・・・
ユダヤ人の少年と兄弟のように仲良くパリで育ち、列車の中でユダヤ人が席を追われるのを見て、「この席は空いていますよ」と止めようとするほど純粋で無垢であった少年が、権力者のそばで生活するうちにだんだんと変わっていってしまう様を、淡々とした筆致で描き出してします。
読んでいて、なまじなホラー小説よりも恐ろしく感じられました。
ピエロ少年はヒトラーのそばで成長するうちに、ユダヤ人への偏見に染まり、ユダヤ人の友人からの手紙を隠すようになり、ヒトラーの歓心を得るため、あるいは自分の立場を守るために、恩人である叔母を売り、その仲間を売り、そしていつか、自分の恋心を受け入れてくれない女性をその一家ごと売るようになります。
幼く非力で、でも素直でやさしい少年が権力者の影響を受けて、だんだんと「虎の威を借りる狐」になっていくのを見るのは心かき乱されることでした。
また、権力者のお気に入りとなった少年の言葉を無批判に「忖度」し続ける周囲の大人たちの態度も身につまされるものがありました。
純粋だからこそ、周囲のものをたやすく吸収してしまう子どもたち。
ナチスの時代だけが特殊だったとどうして言えるでしょうか。
中国の紅衛兵を連想せずにはいられませんでした。
「統帥権干犯」という言葉が乱用されたわが国の歴史も。
権力者に阿り、変質していく心、その醜さと弱さから、どれだけの人が無縁でいられるのでしょうか。
同じ状況に陥った時、それを跳ね返すだけの強さが自分に備わっているのだろうかと、何度でも自問せずにはいられなくなる1冊でした。
以上3冊。
どれもほんとにおもしろくって、最後まで一気に読めます。
このブログに中高生の読者さんはいないと思いますが、その保護者の方はいらっしゃるのではないかしら。
息子さん、お嬢さまにぴったりですが、大人が読んでも十分おもしろい本ばかり。マミーさん超絶オススメ。
もしもお時間があったらぜひ読んでみてくださいね!