漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! 【アニメ・小説版オーバーロード二次】   作:疑似ほにょぺにょこ
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このものがたりはふぃくしょんです。とうじょうするだんたい、ちめい、じんぶつとうはげんじつにそんざいするものといっさいかんけいありません。

今回出ているものは私のオリジナル設定です。
原作にはありません(今後後付け設定で出るかもしれませんが)のでご注意ください。


7章 王国 七罪 ─Jaldabaoth─ 3

「この超位魔法は少々時間がかかる。なのでその合間に私の弟子達を紹介しよう」

 

 そうアインズ・ウール・ゴウンが言うと、となりに黒い何かが生じる。見たことがある。あれは、そう。奴が──アインズ・ウール・ゴウン伯爵が、先日王城の謁見の間に現れた時と同じだ。

 奴が現れた時と同じように、何かがそこから染み出してくる。しかしそれはアンデッドではない。一目見ればただの人間に見えた。

 

「彼女たちは人間のようですわね」

 

 やはり我が娘──ラナーにもあれらが人間であると見えたようだ。

 

「皆が察している通り、彼女たちは人間である。さぁ、皆。自己紹介をなさい」

 

 だが、普通ではない。普通の神経をしている筈がない。皆が一様に伯爵の方を見て『我が神よ』と言ったのだ。新手の宗教のような、そんな簡単な話ですらない。人でありながら、人非ざる者になった。そう思えるような雰囲気があるのだ。

 

「僭越ながら、私は我が神──アインズ・ウール・ゴウン様の弟子を拝命させていただいております、ニニャと申します。かつてはエ・ランテルにて冒険者をやっていました」

「──同じく、我が神アインズ・ウール・ゴウン様の弟子であります、アルシェ・イーブ・リイル・フルトと申します。かつては帝国にてワーカーをやっておりました」

「クーデリカですっ!アインズ様の弟子です。アルシェお姉さまの妹です」

「ウレイリカです。アインズ様の弟子です。お姉さまの妹です」

 

 なんということか。かつて王国で冒険者をやっていたものと、帝国でワーカーをやっていたものを弟子にしていたというのか。これは人間であっても受け入れているというスタンスを見せるためなのか。それとも単純に彼女たちにそれだけの能力があるというのか。

 

「それでは、前座として彼女たちの──」

「ま、待ちたまえ!その子達が身に着けているのは──我が国から盗まれた叡者の額冠ではないのかね!?」

 

 突如上がった声に、周囲がざわりと騒がしくなる。

 

「確かにそれを盗んだ者は居たようだな。確か、クレマンティーヌとかいったか。しかし、あんな欠陥品と、私のモノを一緒にされたくはないな」

「け、欠陥品──だと!?あれは神が齎した至高の一品だぞ!!」

 

 激高し、立ち上がる男──確かスレイン法国の闇の神官長だったはずだ。名前は確かマクシミリアン──そう、マクシミリアン・オライオ・ラギエだったか。

 一瞬でその男の前に伯爵が移動する。しかしそれでも恐れず相対するのは、神官長としての矜持か、それとも後ろに控える神人を信頼しているからなのか。

 

「そ、そもそも貴様はなぜ死の神スルシャーナ様の姿をしている!」

「スルシャーナだと?知らんな。そもそもこれは──《上位道具製造/クリエイト・グレーター・アイテム》──私が作った物なのだよ」

 

 伯爵が魔法を唱えると、彼女たちが身に着けているものと同じものがその手に現れた。それを無造作に神官長に被せたのだ。遠目から見ても驚きが伝わってくる。それがどれほどのものなのかを。

 

「自分で身に着けて分かっただろう。貴様の言う叡者の額冠がどれだけ欠陥だらけだったかをな」

「装備者に、ま──全く制限を掛ける事無く──上位の魔法が使えるようにする装備を──あんなに簡単に作り出すというのか、貴方は──いや、貴方様は一体──」

「制限ならあるとも。装備者の才能という制限が、な。その叡者の額冠・改は、装備者が努力末に得る可能性のあるものを引き出すだけだからな」

 

 本人の魔法の才能を最大限に引き出すアイテムという事なのか。事も無げに言っているが、それがどれほど凄まじいものなのか理解していないのか。いや、それですら『その程度』であると言っているのか。簡単に作り出せる程度のものであると。

 

「強盗に盗まれたようだからな、代わりにそれを持って帰るとよい。なに、対価は要らんよ。その程度のもので良ければな」

 

 そう言うと伯爵は元の場所に戻った。あの巨大な魔法陣の中央に。魔法の詠唱中とのことだったが、移動することも出来るのか。伯爵にとって無防備というものは無いのかもしれない。

 想定以上のものを無料で手に入れてしまった神官長はそれ以上何も言う事もできず、無言で座ってしまって居る。まぁそれも仕方のないことだろう。粗探しをしたかったのかもしれないが、伯爵の方が何枚も上手だっただけだ。

 

「さて。話が脱線してしまって申し訳ない。余興を続けるとしよう。クーデリカ、ウレイリカ」

 

 最初を飾るのは幼い二人のようだ。見た目からしておよそ5歳程度だろうか。見た目通りならば、の話だが。

 

「この二人は第三位階魔法まで扱えるようになっている。まずはこの二人が前座をみてもらうとしよう」

 

 そう言うと、二人は私たちの方に一礼した後に前方へと歩いていく。先に居るは35万を超す大軍勢だというのに、まるでピクニックに行くかのような雰囲気すらある。

 

「いくよ、クーデ」

「うん、ウレイ」

 

 だが、私は──我々は忘れていたのだ。彼女たちがあのアインズ・ウール・ゴウン伯爵の弟子であることを。ただの『第三位階のマジックキャスター』ではないことを。

 

「ごっ──合成魔法!?」

 

 その叫びはバハルス帝国の方から聞こえてきた。確かあの声は帝国の主席宮廷魔術師のフールーダ・パラダインのはずだ。ただ一人で国を落すとさえ言われるあの男が驚くほどのことが、今目の前で起きているという事になる。

 目の前にある鏡には二人の姿が映し出されている。幼い可憐な双子の少女の姿が。まるでお遊戯をやるかのようにあどけない表情で。

 しかし、それがどれほど凄まじく。どれほど恐ろしく。そしてどれほど凄惨な魔法なのかを目の当たりにすることになるのだ。

 

「位階魔法の低位には、少々特殊な法則がある。特定の法則で、特定の組み合わせをすることで二つの魔法を一つの魔法に昇華させることが出来るのだ。そして見るべきはその発動範囲にある。威力こそその位階の強さだが、範囲性能は群を抜いて広くなるのだ。さぁ見るがいい!」

 

そう伯爵が言うと同時に、二人の詠唱が終わる。それは阿鼻叫喚の幕開けの合図であった。

 

「《火球/ファイヤーボール》」「《電撃球/エレクトロ・スフィア》」

 

 同時に発動された魔法は上空へと消えていく。

 

「「《共鳴魔法・爆雷雨/シンクロマジック・バースト・レイン》」」

 

 二人の声に反応するかのように、上空へと消えた二つの魔法がローブルの兵へと降り注いだ。

 そう、振り──注いだ。落ちたのではない。まるで上空に何百というマジックキャスターが居たのではないかと錯覚するほどの無数の炎と雷の魔法が、雨の如く降り注いだのだ。

 

「なんと──なんという──」

 

 そう呟いたのは我が息子バルブロだったか。ちらりと見る顔は酷く青ざめている。

 凄まじい射程である。通常の魔法ならば届くはずもないほどにまだ遠いのだ。直接見ようとしても、相手の表情どころか顔すら分からない程の距離だというのに。だというのにその雨は最前列だけでなく、隊の中ほどまで降り注いでいた。

 一撃一撃は確かに第三位階魔法程度の威力なのだろう。だからこその阿鼻叫喚。だからこその地獄絵図である。一発当たった程度で即死はしない。だが振ってくるのは一発ではない。何十何百、いや何千何万という魔法の雨が降り注いでくるのだ。避けた者は良い。だが一発でも当たれば動きが鈍る。その鈍った身体に何度も魔法が貫いていく。

 ただの第三位階魔法。その二つの魔法を掛け合わせただけでこれほどの効果を生み出す凶悪な魔法と化すというのか。

 

「よくやった、二人とも」

 

 伯爵はその阿鼻叫喚を見ても何も気にした様子はなく、上手くやれたと二人の頭を撫でている。戦局を一変させるほどの凄まじい魔法を披露したというのに。この程度はまだ序の口──前座であるという事なのか。

 嬉しそうに撫でられる二人の少女は、年相応に幼い笑顔のまま伯爵に撫でられている。その部分だけ切り取ってみれば、微笑ましい絵となろう。その背景が地獄絵図でなければ。

 

「さぁ、続いてはもう少し派手に行こうか!ニニャ、アルシェ」

 

 あれは派手ではないのか。地味なのか。伯爵の基準は一体どこにあるのだろうか。人非ざるが故に、生を冒涜する行為は大したことでは無いと言うのか。

 伯爵に呼ばれた二人は明らかに先ほどの少女達とは違う。先ほどの紹介を鵜呑みにするならば、元冒険者と元ワーカーだ。しかしその雰囲気は明らかに普通のそれとは違う。

 

「ガゼフよ、あの子達を知っているか」

「いえ、初めて見ます。王国冒険者と名乗っていたニニャ殿の名すらも知りません」

「俺も知らねえ。俺もガゼフも知らねえってことは、恐らくは上位の冒険者じゃねえな。ただ、あのアルシェって方は──」

 

 ガゼフの隣に座るブレイン・アングラウスがバハルス帝国の方を指さしている。そこに居たのは愕然とする主席宮廷魔術師だ。遠くで聞きづらいが、どうやら彼の元弟子であったらしい。しかし様子がおかしい。

 

「確かあのフールーダって奴は、相手の魔力を見ることが出来るんじゃなかったか」

「なるほど。元弟子であった者が予想以上に急成長していて驚いているのか」

「ですが、驚き方が少し異常ではありませんか?」

 

 娘の騎士であるクライムの言う通り、驚いているというよりも愕然としている感じである。元弟子ということなのだから、弟子の才能を見いだせなかったのか。あの主席宮廷魔術師ですら見いだせなかった才能を、あの伯爵は見出したのか。

 

「さて、先ほどは下位の位階魔法を見てもらった。では、今度は上位の位階魔法を見てもらうとしよう。二人は第九位階魔法と一部の第十位階魔法まで習得している。単純に使っても強い上位の位階魔法であるが、上位のマジックキャスターにとって連携することは非常に大事な行為である。それを極める先にあるものをお見せしよう。二人とも、いけるな」

 

 第三位階魔法ですらあの被害だったのだ。死者こそそこまで多くは無いだろうが、負傷者は既に万を優に超えているだろう。事実既にローブルの足並みは止まってしまっているのだ。あの鏡越しでなくとも、相手の動揺が伝わってくる。あんなものを超えるものを見せるというのか。

 

「これはもう、戦争とは言えねえな」

「だから、余興か──」

 

 圧倒的強者が弱者を蹂躙する劇は確かにある。しかしそれはあくまで劇である。空想の産物だ。だが今目の前に起きているのは空想ではない。現実なのである。

 幕の上がった劇を誰も止めることはできない。

 悲壮感漂う、ガゼフとブレインの呟きに背筋が凍る。

 

「こちら、本日のメインとなります。A9ランクのテンダーロインステーキでございます」

 

 そんなあまりな現実を前にしながら、こうして眼前に並べられる最高級の食事の数々。あまりの旨さに口に運ぶ手は止まらぬ。喉を潤すワインのなんと甘美な事か。

 現実と非現実。本来であれば共に現実であるはずなのにそう思えてしまう程に隔絶した世界が共存しているこの空間は異様という他ない。

 周囲を見回しても、誰も食事を止める者はいない。あまりに非現実的であるが故に事実を受け入れられないのか。そう思うが、そんな生易しい人間などここには殆ど居はしない。意図的に現実を現実と受け止められる者ばかりが集められているのだ。

 

「全て伯爵の──アインズ・ウール・ゴウン伯爵の思惑通りという訳か──」

 

 力なくナイフを肉に通す。まるで抵抗など無い。音もなく切れる肉片を口へと運んだ。

 とろけるように柔らかい口当たり。芳醇な香り。甘みと酸味が口いっぱいに広がっていく。

 

──嗚呼、旨い。

 




 クーデとウレイ頑張りました回でございました。
 この共鳴魔法については前々から思って居た話です。案外あの色々はっちゃけたユグドラシルならあるんじゃないか、と。対人戦闘の多いあのゲームならば共鳴魔法や合成魔法はあるだろうと。
 そういう思いから作ってみました。次話ではニニャとアルシェの合体魔法です。

なお、ニニャは公式上偽名ですが本名が不明であるため、生き返った時点で偽名をそのまま本名とすることになりました。
なのでツアレもこの作品ではナザリックに来た時点でツアレニーニャからツアレに改名したということにしてあります。

この辺りは公式設定と違って紛らわしいところでもありますのでご了承くださいませ。






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