オーバーロード ありのままのモモンガ   作:まがお
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営業マンは伊達じゃない

 トブの大森林にある一軒の家。ネムにとって、もはや第二の実家のように寛げる場所である。

 そんな場所に今、張り詰めた空気が流れていた。

 

 自身の姉と恩人のモモンガが、朝からずっと向かいあって座っている様子を、ネムは固唾を飲んで見守る。

 

 

「――というわけでして、私が提供させていただく本企画は、妹様の成長にも繋がる、素晴らしい経験となる事をお約束させて頂きます」

 

 

 モモンガは、ネムの出稼ぎで得られるメリットを、エンリに全力でアピールすることで活動の許可を貰おうとしていた。

 

 決まったな。今回のプレゼンは会心の出来だ。

 

 社会人として培ってきた経験を惜しげも無く発揮したモモンガ。

 エンリの反応が気になり、様子を伺う。しかし、俯いていて、表情がよく分からない。心なしか眉間に皺も寄っているように見える。

 プレゼン用の口調が気になったのだろうか…… そんな風に考えていると、エンリがゆっくりと口を開いた。

 

 

「モモンガ様……」

 

「……なんでしょうか」

 

「本音は?」

 

「ネムと冒険がしたい」

 

「モ・モ・ン・ガ・様ぁぁぁ‼︎⁈」

 

 

 この骨はまったくもう‼︎ 命の恩人に言う台詞では無いが、馬鹿なのではないだろうか。普段は落ち着いてて、優しい方なのに……

 

 私が重い物を持っていると、姿を隠したまま代わりに運んでくれたりもする。

 周りから見たらポルターガイストだが、そんなことは気にしない。

 村でもよく見かける光景で、最近は誰も驚かなくなってきた。

 

 

「はぁぁ、分かりました‼︎ 危険な仕事はしないこと‼︎ 暗くなる前に帰って来ること‼︎ いいですね‼︎」

 

 

 溜息を吐きながら、結局折れる事にした。

 このまま止めても、必ず何かをやらかす気がするし、約束を取り付けただけマシだろう。

 

 

「ありがとう、お姉ちゃん‼︎ ネムも頑張る‼︎」

 

「おおっ‼︎ ありがとう、エンリ。安心してくれ、例え世界を滅ぼすような怪物が襲って来たとしても、ネムには傷一つ付けさせないと誓おう。それに私が本気を出せば、どんな所からでも一瞬で帰って来れる。晩御飯までにはネムを送り届けるよ」

 

 

 さっそく冒険に行くぞとばかりに、妹を肩車しながら飛び出していった。

 

 エンリはモモンガ達の背中を見送りながら、妹が元気に笑ってくれるなら、それでいいかと小さく笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルの冒険者組合では、再び緊張した空気が流れていた。

 受付嬢は先日の事は夢では無かったと思いながら、クエストボードの前に立つ、二人組の冒険者を見る。

 目をキラキラと輝かせ、笑顔でボードを見ている女の子、それを肩車する眼鏡をかけたアンデッド。二人の首には真新しい、銅のプレートが輝いていた。

 

 なぜ魔獣登録をした骸骨にプレートがあるのかだと?

 私にも欲しいと言われたからだ、あげた私は悪くない。

 

 

 文字を翻訳するマジックアイテムを使いながら、モモンガはクエストを選んでいた。

 

 

(せっかくネムもやる気なんだし、討伐系よりも、一緒に出来る採取系の方がいいかな?)

 

 

「ネム、これなんかどうだ?薬草採取のクエストだ。ネムはこういうの得意じゃないか?」

 

「うん‼ お姉ちゃんの手伝いしてたから、薬草のことはちょっとわかるよ‼」

 

 そうか、ネムは偉いなと褒めながら、このクエストを受けることに決めた。

 手頃なクエストのようだし、報酬が大していいわけでもないが最初は成功させることの方が大事だろう。

 張り出されていた紙を受付嬢に持っていきクエストを受注する。

 

 受注されたクエストを確認し、受付嬢は首をかしげる。

 薬草を取るだけのクエストだ、珍しい所はなにもないはず…… 

 

 何がそんなに楽しいのか、嬉しそうに組合を出て行く二人を、物珍しそうに周りは見ていた。

 

 

 

 

 








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