嫁に頼まれて、面倒くさいと思いつつも、スーパーに買い物に行くことがよくある。
スーパーにはいろんな客層がいる。
単身赴任なのかな? 独身なのかな? 新婚なのかな? 今日は記念日なのかな?
割と人間ウォッチしながら、無駄に空想を膨らませたりもしている。まぁ、余計なお世話だけどね。
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お兄ちゃんママ
そんな中、客層に似つかわしくない、中学生の男の子が、妙に気になっていた。
別に、中学生がスーパーにいてもおかしくはない。
部活動の後輩のパシリだって十分にあり得る。
でも、明らかに生活用品を購入したり、食料品を品定めをする姿に、いつしか、興味を惹かれるようになっていった。
ある時、未就学児と思われる妹を連れて、買い物に来ているのを目撃した。
ねぇ、お兄ちゃんママ
このお菓子を買って..
”お兄ちゃんママ このお菓子買って”
小さく頷く彼の姿が、なんとなく微笑ましかった。
お兄ちゃんママ...?
名詞が二つ入っていることに、些か疑問を感じる。
会計を済ませて、レジ袋に商品を詰めている最中も少年が気になり、目で追っていると、情報通ではあるのだが、情報漏洩でもある、近所のおばさんに出くわした。
『ここだけの話なんだけど・・・
- お母さんが、難病で入院しているけど危ないんだってねぇ。
- あの子がいつも、買い物してお父さんと夕食作っているみたい。
- チビちゃんもいるのに可哀想だね。
◎△$♪×¥●&%#....だってねえ』
ここだけの話ねぇ〜。
あんたの話は、いつもどんだけ~。全ての情報がリークしてしまうよ。まぁいいや。喋らなきゃ害はないし。
『そっか、頑張ってんだ。あの子なりに。』
なんとなく、自分の過去を重ねていたのかも…。
僕の母親は、病弱で入退院を繰り返していた。
小学生の時から、母親は病院に居ると認識が強かった。通知票も病室に持っていく感じだったから。
学校から帰り、夕方になると、近くのスーパーに買い物に行っては夕食の準備をする。
建設業で土方をしていた父親の爪が、常に真っ黒だったから、少し潔癖症の自分としては、父親が作る料理を想像しては躊躇していた。
なんとなく夕食の準備は自分がするからと、父親に啖呵をきっていた。父親の手料理を、喰らうならば自分で作るって思っていた。
そういう家庭環境と割り切っていたから、あまり苦ではなかった。それでも、子供の時に母親がいないと子供は大変だと、今更ながらに思える。
『生きる』って『食べる』ことが優先される。
遊びたい気持ちを押し殺してでも、食事を作ることは大切だからね。
先日、スーパーで、お兄ちゃんママに出会った。
彼は僕の事なんて、もちろん微塵も知らない。
彼が、レジで会計をしている後ろに、ちょうど僕が並んでいた。
お会計は、¥2328 になります。
値引きしないわよ。うふふ..。
彼は、マジックテープ式の財布を、何度もビリビリと音を立てながら眺めている。
どうやらお金が足りないらしい。商品を戻していいかを店員に聞いていた。
足りない分は、僕が支払いますから。
レジはそのままでお願いします。
彼は、申し訳なさそうにお辞儀をした。
タイミングが良すぎるよね。
でも、全く気にしなくてもいい。多分、僕は君のストーカーなのかもね。
『頑張りなよ』
彼に対して、ふと呟いてしまった。
彼は、丁寧に会釈をしてくれた。
ごめん~。余計なお節介だ。
ふと、心の声が漏れてしまった。
お兄ちゃんママ..。頑張るんだぞ。
気軽に『頑張れ』とは言いづらくなった時代。
精神疾患で悩まれている方が、実に400万人いるという厚生労働省の統計データを見た。
会社を長期間休んでいた後輩に、何も事情を知らず『頑張れ』と言った事がある。
『軽々しく頑張れと言わないで下さい』
怒られてしまった。その後に、上司からも『軽々しく頑張れと口にするな』と釘をさされた。
彼の仕事の分はどうすれば...。
お前が、頑張れ...。
日本語は難しい...。あっ、脱線してしまった。
それでも、僕は彼に頑張れと言いたい。
いろいろな、家庭事情はある。家族が病気で苦しんでいる家庭はごまんとある。
彼もまた、そういう家族の一つかも知れない。
彼に与えられた一つの試練。彼自身が乗り越えていかなければいけない壁。
大変なことでも、いつの日かきっと糧になるときがくる。大切に日々を過ごしてもらいたいと思う。
お兄ちゃんママと叫ぶ、チビちゃんのためにも、早く良くなって退院してほしいと切に願っている。
彼の母親のように病気で苦しまれている方。
何もできませんが、良くなられることを心から願っています。
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