転職コンサルタントの過半数が「面談した3人に1人は転職に向かない」と回答。写真はイメージ=PIXTA 採用の「売り手市場」が続く中、事業年度の下半期がスタートする秋は、転職市場も活性化する傾向にある。だが、多くの転職希望者を見てきている人材紹介会社によると、「正直言って、転職すべきでない人」もいるようだ。そんな人には、一定の傾向があることも分かった。
■本人の希望年収と相場年収にギャップ
面談した人のうち、「転職が難しい」と思う人の割合(出典:エン・ジャパン) 転職支援などを手掛けるエン・ジャパン(東京・新宿)が、同社の30~40代向け転職サービスに登録するコンサルタント(転職希望者と企業をマッチングする人材紹介会社の担当者)を対象に「転職が難しい人」についてアンケートを実施し、122人から回答を得た。その結果、半数を超えるコンサルタントが「(転職相談の)面談を行った3人に1人は転職すべきでないと思った」と答えたという。
背景にはどんな実感があるのだろうか。最も多く挙がった理由が「本人希望と転職市場での市場価値のギャップ(72%)」だ。
発生しているのは、主に「希望年収と相場年収のギャップ」。転職検討先の業界・職種の一般的な給与水準を把握せず、求職者側が高すぎる希望年収を提示するケースが多く見られる。また、業種・職種の転換を希望している場合や、転職先でのポジション(役職)を一定以上に限定している場合でも、企業側のニーズとの折り合いが付きにくくなっている。
■「氷河期」世代は大手・有名企業に憧れ?
エン・ジャパンは「30~40代が積んできたキャリアや経験を自社で生かしてほしいと考える企業は増えている。しかし、転職希望者側では役職や報酬への『こだわり』が生まれやすい」(広報)と指摘する。
特に、1990~2000年代の「就職氷河期」に新卒で就活をした40代前後では、「売り手市場」をチャンスに、「不本意入社」だった現在の就業先から大手・有名企業への転職を模索する向きも。ただ、規模や環境が変われば当然、ポジションの面でキャリアアップにつながるとは限らない。調査協力したコンサルタントからは「今の会社で課長だからといって、他の会社でも課長になれるわけではない」といった厳しい声も寄せられている。
■転職回数は募集段階で「指定」されるケースも
「転職回数の多さ」がネックになると答えた割合も64%と高かった。「何回以上から、転職回数が多いと感じるか」と質問を重ねると、「4回(5社経験)」との回答が半数近く、「3回(4社経験)」も3割程度に上った。「3~4回」がボーダーラインになっているようだ。
業界・職種によっては、短期間で勤務先を変えることは珍しくない。経験値の高さが重宝されることもある。だが、自社に定着する人材を期待する企業の多さを反映してか、コンサルタントからは「数年おきに転職していると、今回入社しても再び退職が考えられる」「募集段階で転職回数を指定してくる企業は多い」という声が集まった。
人柄が転職に向かない人の具体的な例(複数回答可、出典:エン・ジャパン) 面と向かって告げられるとショックな本音もあった。「人柄が転職に向かない」と感じたコンサルタントも4割に上ったのだ。人柄とは、具体的には「他責傾向がある(74%)」「謙虚な姿勢に欠ける(70%)」といったもの。
採用面接などで、過去に所属していた企業や上司の悪口を言うのは一般的にも「ご法度」とされる。だが、自分の実績や長所を強調したいあまり、高圧的な話し方になってしまったり、周囲の環境や人間関係に原因があることをほのめかしてしまったりするケースは多いようだ。
コンサルタントからは「自分にも(転職の)原因があると認めないと、何度転職しても同じ壁にぶつかる」「得意技や分野が絞れていない」という声が上がった。さまざまな状況へ柔軟に適応したり、時には自分から周囲へ働きかけたりして物事を推進していく積極性があるかどうかが、転職の成功を分けるポイントになっているようだ。
転職すべきなのか、現職にとどまるべきなのか。見極めるコツはあるのだろうか。ベストセラーとなった「転職の思考法」(ダイヤモンド社)の著者で、採用コンサルティングサービスを提供するワンキャリアの執行役員でもある北野唯我氏は「転職に向いているのは、変化を楽しみ、経験をプラスに結び付けられる人材だ」と話す。
■市場価値を決める3要素
北野唯我氏は「変化を楽しむ気持ちが大事」と話す 同調査の「人柄」のマイナス要素で3番目に多かった「仕事のやり方、方針にこだわりがあり柔軟性がない」という項目に注目。「結果的に周囲に責任を転嫁したり、ネガティブな理由での転職を重ねたりすることにつながる。より本質的な要素だ」とみる。
「市場価値のギャップ」についても、自分に足りない要素を具体的に見極める必要性を強調する。「給料の期待値は、技術資産(専門性や経験)、人的資産(人脈)、業界の生産性(一人当たりが稼げる粗利)の3要素で決まる。一概にスキルだけで市場価値が決まるわけではないので、整理して考えてほしい」(北野氏)
整理に当たり、人材紹介会社のコンサルタントを頼るのも一つの方法だ。ただ、コンサルタントに「転職に向かない」「紹介できる案件が少ない」と言われても、他の採用ルートであれば希望の転職がかなう場合も十分にある。
コンサルタントが転職希望者に企業を紹介するいわゆる「エージェント型」のサービスは、紹介実績に応じて人材紹介会社へ成功報酬が支払われるビジネスモデルで、採用企業側にとってはコストがかさむ。「それだけハイスペックな人材を求めるケースが多い」と北野さんは話す。
「『ビジョンはあるが経験を積むのはこれから』『特定のスキルがずば抜けて優れている』といったタイプの人材には、SNSなどを基盤にしたマッチングサービスや、知人の紹介を通じたリファラル採用の方が適している場合もある」(北野さん)
転職をキャリアアップにつなげるためには、「人材」としての自分を見つめ直すこと、そしてさまざまな転職サービスのビジネスモデルも理解した上で使いこなす意識が大切になりそうだ。
(加藤藍子)
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