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成果主義とは何なのか(7)
3. なぜ成果主義は評判が悪いのか
(5)人件費削減策としての成果主義の弱点
①企業にとって成果主義導入の狙いは“従来の固定費を変動費化する”ことにある。
②“成果主義の導入は人件費抑制の方便”とよく言われるが、企業の成果主義導入時期と重ねるようにして賃金が減少している。
「成果主義の母国アメリカでは、社内の成績不良者は常に外部に流出していくのが一般的である。成績の悪い社員を解雇し、流動化させることで組織の活性化を維持しようとするわけだ。同時にアメリカでは解雇された社員は同じ業界で雇用されるチャンスがある。しかし、現在の日本は解雇した社員が流動化できるほど労働市場が活発化していないのが現状だ」
(1)でも触れたように、成果主義はバブル後のデフレ不況に対応して導入を決めた場合が多く、人件費の抑制を緊急課題としていました。したがって成果主義賃金への体系変更に伴い、特別原資を会社が用意することは出来ず、現行人件費総額の維持、むしろ減額の形での導入が多かったものと思われます。
賃金原資に余裕がある場合は、体系変更に伴い新賃金が旧賃金より下がる場合でもソフトランディング(激変緩和措置)を数年にわたり実施することを可能とします。その数年間で新体系により減額する理由の解消-たとえば仕事の低格付けであればより高い仕事への復帰や昇格などの再チャレンジも可能ですし、あるいは数年のうちに業績が回復すれば復活する昇給原資で賃金表の書き換えを行い低下した賃金の回復がかのうとなるなどの、旧賃金を大幅に低下させることなく新賃金へ移行することを可能とします。しかしバブル後の不況はこのような余裕はなく、1年程度の激変緩和策をとることしかできず、すぐ到来する1年後の大幅な減額による不満の増大も招いたようです。
実際に、バブル後不況以前の昇給率(昇給率3%程度)があれば新賃金表の書き換えができるので賃金表の増額分で、毎年の人事考課の結果により評価が下がって賃金が下がっても、その減額を賃金表の書き換え差額(ベア相当)で補い、賃金低下分を極めて少なくするか、場合によっては若干の増額を可能にすることもできました。しかしバブル後不況以降の昇給率が1%台の時代では賃率上の書き換えはもはや不可能です。
このように昇給原資が極めて少ない場合は、結果としてその集団での成績不良者の原資を優秀者へ再配分するという形で実施せざるを得ず、集団の責任者の評価への不満や、チームワークや集団行動への忌避行為が発生する可能性が生じます。
また洗い替えの賃金テーブルを導入する場合は、成績超優良者(S評価など)も次はA評価にとどまれば給与が下がるという、マイナス昇給を味わうこととなるから、その緊張感に耐えられない人はそこそこの評価で一定の給与を得たほうが良いという心理を蔓延させやすい。したがって洗い替え方式の場合はモチベーションをあげるよりも下げる方向に大きな刺激を与えることもあるので注意が必要です。
日本の場合は、特にマネジメント職の中高年に対する労働市場からの需要はきわめて少ないといえます。圧倒的な買い手市場になっているので、特に専門性を持たない限り転職により賃金が5割少ないときは3割に下がるということが良く知られています。
従って成果主義賃金導入により出現した大きな賃金格差により賃金が低下すると、不平や不満があっても経済的理由から社外へ転出することは少なく、社内残留を選択する不平不満分子を増大するだけとなってしまいます。こうした状態が続けば会社や組織のモチベーションが下がり、チームワークの悪化、品質の低下、生産性の低下など沈滞ムードが漂い、組織の危機にいたります。
日本の場合閉鎖的な雇用環境を常に意識する必要があるのです。
成果主義とは何なのか(8)
3. なぜ成果主義は評判が悪いのか
(6)新卒雇用システムと年次昇進
「大企業は資質、能力に優れた人材かどうかを見極めたうえで人材を採用しているため、“無能な人物は会社に入ることはない”ことに建前上なっている。入社後に各種の階層別研修、OJTによって育成されることになっており、無気力社員でない限り年数を重ねる毎に能力は向上していくと考えられる」
まさに日本的雇用慣行を象徴すべき指摘です。伝統的な名門企業であればあるほど、高等教育機関や学生の認知度は高く、それゆえに入社志望の学生は多く、特に工学部系は学校推薦という形で特に優秀な学生が紹介され入社するという選別システムを有していました。したがって一定以上の学歴を持つ社員は、将来の幹部候補生として採用され、緻密な人事考課・評価を行わなくとも成果をあげて会社に貢献するということが当然視されるのです。
したがって一定のポストにつくまでは年次昇格という形で実施され、粒より集団から誰を一歩早く選別するのかということが人事考課上の関心事となります。キャリア形成上も各部門で定められたエリート教育用の配置換えや訓練によって先輩と同様に育成されるという形となります。このような運用は特にホワイトカラーに多く存在していたといえます。
「能力があるのかないのかを判断するために、重箱の隅を突っつくような評価で社員の不況を買うよりも、同期を一緒に昇格させれば文句も出ない。」
こうした新卒採用から始まる年次昇格の考え方は、組織に広く浸透しており、能力主義といえどもこれを払拭するのは容易ではなかったともいえます。
オイルショック等の経済環境の変化は能力主義の導入を促し、それまでの年齢や勤続を主体とする人事制度の仕組みに風穴を空けることとなりました。能力主義として脚光を浴びた職能資格制度は、職務遂行能力によって決定されるものであり、能力主義は基本的には年次概念とは異なるものです。大学を出たもののそれだけでは課長になれない時代が来たとも言われたのでした。
しかし能力主義が導入されても長い間しみついた価値観や行動を変えるのは簡単ではなく、職能資格制度にも年次昇格的な考え方が残り、それまでの制度と同様な運用が実施される結果となっていきました。実際のケースとしてよく言われるのが最初の役職である指導職的な役割への昇格までは、同学歴間で大きな昇格年次の格差はなく、横一線での昇格が一般的であったと言うことです。
「本当に職務遂行能力が高ければ、同期の中でも社内資格がどんどん先に上がって職能資格も高くなり、逆に職務遂行能力が向上しなければ、職能給もあがらず、そうやって同期の間で大きく格差がつくはずである。だが当時の日本は高度成長期であり社員が働くほど儲かる状況であった。また経済も順調であったため、多くの企業では社員間の格差が開くことを嫌い年功的な運用を行って、実質的に年功賃金と変わらない状況になってしまった。」
能力主義を導入したときは環境が厳しいだけに、ドラスティックに改革されたかに見えますが、経済環境が少しでも回復し余裕がでると、リバウンドが起こりました。その結果長く慣れ親しんできた年次昇進という処遇の考え方に回帰するのです。
私の経験からいっても、職場は賃金格差を設け競争心をあおって業績を伸ばすことよりも、回りがはっきりと格差を認める時期まで同一処遇を維持し、職場内のチームワークやグループワークによる業績向上策を選ぶことが多いと思います。
「一旦入社すればどんな社員でも技術を修得させることにより、長期にわたって会社の発展に寄与することが可能な時代だった。若いときに賃金が低くても、いずれ年齢や勤続年数が高まるにつれて賃金が上がることを約束される。このような年功賃金を社員も会社も平等な制度と感じていたことも多かった。まさに終身雇用と年功賃金は一体ものと信じられていたのだった。」
新卒入社から始まる終身雇用・長期雇用を軸とする日本企業においては、同期や先輩後輩といった秩序を重視し、同期生の中での相対的な序列や位置づけ、職場の先輩をしのぐ仕事をしたかなどとモチベーションの源をそこに見出すことが多いものと思われます。
長い間に培われていった新卒採用という文化は、年次昇格を美徳とする企業文化を醸成し、組織内での格差や評価よりも“いい仕事を行ったか”ということに価値観を持つように教育されていったのです。それを可能にしたのは安定した企業環境と緩やかな技術進歩でした。
私も入社してしばらくして上司に「自分の評価は気にしてはならない。自分が良いと思ったことを実行することに気を配れ」ということをたびたび言われた記憶があります。
仕事も先輩に教わり、先輩の移動や配置転換で、その先輩の後につくというのが当然のこととされていた時代でありました。
しかし近年学生、若手社員において長期勤続を美徳とする考え方が薄れてきており、こうした集団が過半数を占めるようになれば自ずと年次昇格的な考え方は崩壊していくものと思われます。
今の日本が世界で置かれている状況は、決して安泰とはいえません。中国や韓国そして東南アジアからの激しい追い上げや欧米諸国との競争など、従来よりもはるかに厳しい環境が続いているといっても過言ではありません。そうした中では企業は日々改革や革新につとめ競争力を高めていかなければならないのです。このためには実力のある人が抜擢され、リーダーとなって企業を統率していかなければなりません。この目的のためには年次昇格昇進といった秩序は打破される必要があります。
企業はこの問題に注力して、人材の選抜や育成に注力しなければなりません。そのためのルールが能力主義であり成果主義であったはずと思います。
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(2018/6/1)
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