オバロ、エタっちゃったよシリーズ 作:神坂真之介
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そしてマイナスベクトルに傾いたカルマ値を備えた存在は押し並べてその影響を受け相応の損害を受けるに至った。
要約するとカルマ極マイナス値キャラクターは大体10ターンに渡る継続ダメージ∞という頭のオカシイ数値を受けて大抵死んだ。
それは、最終日のユグドラシルのそこら中で起きていたワールドアイテムぶっぱの一つに過ぎなかったが、そんなものがそこら中で起きているあたり、正に盛大な花火大会である。
さて、観測者の皆様にはいまさらの事であるがワールドアイテムは数々の無体な能力を持つ。
ゲーム上からデータ丸ごとデリート、魔法システムの改竄、運営に直接打診し大体どんな願いでも叶う等々、そしてそれらに対して抵抗の余地は無い、と言う、いかれた性能を誇っている。
それでも共通の欠点も備えている、それが同じワールドアイテム所持者はその効果を打ち消せる、である。
そして、アインズウールゴウンはゲーム上200しか存在できないワールドアイテムの内十一種を所持するギルドである。
もっとも、その貴重性故に重要なタイミングでしか持ち出しは許されないし個人での占有など以ての外である
そして現在はゲーム終了数時間前である、特に持ち出す理由も無かったが故に、久しく離れたメンバーであったが故に、彼等はワールドアイテムを所持しては居ない。
ナザリックの在住のエネミーの多くはカルマ値がマイナスでないものを除き、恐るべきダメージにより即死や瀕死となっていた。
自動ポップモンスターは現在全てが綺麗に消えている。
そして第九階層円卓の間には常時通称モモンガ玉と呼び親しまれるワールドアイテムを装備するモモンガの姿しか残っていない。
ここ、円卓の間にて駄弁っていた6人のメンバーもまた『
さらりとモモンガの掌で『山河社稷図』が躍る。
巻き取られた巻物状のそれがトイレットペーパーが転がる様にその絵図を広げると今まで姿を消していた6人の姿が再度出現する。
「あー、びっくりした」
「(;_;)/~~~」
「酷い切り札を見たぞ」
「いや、ある意味、我らに挑む以上当然だったか」
「最終日だもんね、そりゃ、ラストエリクサーを使わない選択肢は無いよねぇ」
「めがーめがぁぁぁ!?」
「だ、大丈夫ですかペロさん」
……その姿は健在である。ついでに6人のプレアデスと執事のセバスの姿もある。
『山河社稷図』アインズウールゴウンの保有するワールドアイテムの一つ、対象を隔離空間に取り込む特殊なワールドアイテムである。
此処まで情報が出ればわかるであろうが、『光輪の善神』の発動の瞬間、モモンガはこれを発動する事により、その隔離空間に仲間達を取り込み、その効果範囲外としたのである。
もともとカルマ値極善のセバスや善寄りのユリ・アルファは『光輪の善神』対象外だが、さすがのモモンガも個々のNPCのスペックまで完全把握している訳ではないのでまとめて取り込んだのだ。
「しかし、よく山河社稷図なんてものをピンポイントで持っていたものだ。」
「流石うちのギルド長、もしもの時には頼りになるね」
「(*´ω`*)」
「目がぁぁぁぁぁぁぁ」
「こんなこともあろうかと!は浪漫だよな。」
「いやぁ、そもそも、セイバーさん今回本気中の本気で攻略に来るって言ってましたんで、ワールドアイテム位持ち込みそうだと思いまして。」
弱冠一名、バードマンが強烈なエフェクト光の尊い犠牲となったが皆は気にしなかった。あと三分もすれば元気になるだろうし。
和やかに会話が続く中でも遠隔の鏡の向こう側では白騎士が前進を続け、すでに8層の守護者達は沈黙し、無人の荒野を行くがごとしであった。
「さて、どうする?よもやモモンガ卿渾身の最強戦力が抜かれるとは思わなんだが」
「ソロに最終防衛ラインを抜かれるとは思わなかったね」
メラメラと仲間達から立ち上るのはヤル気というなの覇気である。
興が乗ったとか、なんか燃えて来たーとかやまいこさんが女教師怒りの鉄拳を素振りしてシャドーとかそんな感じのサムシング。
ゲーム最終日にきて和やかな終わりよりも、燃え尽きるぜヒートな闘争本能に火ついてきた様子であった。
「( `ー´)ノ」
「いやホントはちょっと、皆に挨拶してログアウトする気だったけど……。」
いつの間にか姿を消していたペロロンチーノの姿が再び現れればそれはフル装備。
それに合わせる様に仲間達の姿が消えてはまた現れる、それは在りし日の最強の姿。
「あ、僕も、装備取りに行きたいんでモモンガさん指輪もらえますかね?」
「ええ、もちろん」
「くくく、他の連中がこのシチュを知ったら悔しがるな」
ナザリックは不落の拠点、ならここはひとつ最後の最後まで不敗でありたい。
最終防衛線が突破されて此処に居たり、7人の心はちょっとばかり一つになった。
・アインズウールゴウン・ラストエイスず☆だいじぇすと
まず最初にプレアデスとセバスが第九階層の要所の守護に配置された。
これはナザリックに残されたNPC戦力の一つとして、白騎士セイバーの手の内を少しでも引き出す為である
今までの各階層守護者との戦闘を確認できていれば少しでも傾向と対策をとれただろうが、彼等が攻略者を認識したのがデミウルゴス戦からであったが故の事である。
しかし、戦闘は地味かつ堅実に終了。奇策も無くただのプレイヤースキルのみによる勝利である。
余りの危なげの無さに不機嫌にウルベルトの一言
「実はたっちみーの別アバターじゃないのかあれ?」
嘗てギルメン複数を相手にしてなお勝利を収めたAOGきっての最強近接戦闘者のチートじみた技量を思い出したのは他のメンバーも同様である。それでも、幾つかの消耗型のアイテムを消費させしめたのは行幸だと言える。
ただし、切り札はいまだに切られていない。いや、すでに善神の光輪という特大の切り札を切った後ではあるが。
もともと、ワールドアイテムを要するAOGに対するガチ攻略である。最低でも世界級対策に世界級装備を一つはまだ手元に残していると予想される上にペロロンチーノからこの様な一言も出ている。
「あ、バザーで世界級が叩き売られてたよ。最終日だから捨て値だった。」
これにはモモンガも天を仰いだ。
世界に一つのオンリー壊れアイテムが露店に並ぶとか世紀末である。実際ユグラドシル最後の日なので、皆ラストはるまげどーんであった。
下手すると一つ以上のワールドアイテムが飛び出すかもしれない、嫌なびっくり箱だ。
第九階層以降に時間稼ぎができるのは玉座の間の手前のモンスターコンボのみである。
これは100レベルパーティー複数を全滅せしめる戦力として配置されている初見であれば、此処で止まる筈だが。
その昔、たっちみーさんに模擬戦をさせた所、初見クリアーをされた記憶がモモンガとヘロヘロにはあった。
止められると、断言はできなかった。
時間はあまりない、セバス達が稼いだ時間で、緊急対策会議が開かれ、手早く戦術が構築される。
判りやすいのが残存戦力の大量投入である、67体のゴーレムと四色のクリスタルモンスター、そして7人による波状攻撃で逐次セイバーの手の内を晒す前に一気に叩くという案、作戦もあったものでは無いが相手がワールドアイテムと言う核爆弾級の真価を見せる前に最大戦力で沈黙させるというのはむしろ理に適っていると言える。
だが、此処で待ったが掛かる。ウルベルトの悪のプライドロールであった。
「数に頼んでリンチとか王者のする事ではないぞ、ドンと構えて、迎え撃て」
ペロロンチーノが異を唱え、やまいこは脳筋思考でウルベルトを支持する。
どうせなら最後は派手に魅せる戦闘がやりたいというプロレス思考もあったと思われる。
遅れてやって来た死獣天朱雀は状況を理解できなかったが、戦闘職ではなかったのでパーティプレイ推奨と割と地味に主張。
「あ、俺は忍者だからコソコソやる」
空気を読まず弐式炎雷は奇襲からのバックアタックを宣言、忍者が不意打ちして何が悪いバーローとの事。
ヘロヘロは武器を劣化させるからと先陣を切ると乗り気であるが、その実そろそろ眠気が酷く寝落ちしそうなので
今戦わないと、戦う前に敗北外決定しそうだという、世知辛い理由である。
るし☆ふぁーは皆が気づいた時には、レメゲトンゴーレムを起動しすでに戦って敗れて死に戻りしていた。
「( ;∀;)」
「何に勝手に先走ってんだお前!?」
なおAOGメンバーの内モモンガを含め現在でもギルドメンバーであるのは4人のみであり、残りは脱退している。
死亡した場合のリスポーンポイントはヘロヘロとモモンガ以外はナザリック外となるので、るし☆ふぁーは事実上脱落であった。
喧々諤々と円陣が組まれて作戦と順番が構築される。
まず最初に四色のクリスタルの間でヘロヘロとウルベルトが迎え撃ちそれが抜かれたならぺロロンチーノとやまいこ、死獣天朱雀がパーティ戦を挑み、それでもだめならモモンガがトリを務め、弐式炎雷は自由な遊撃を任された形に相なる。
息をつく間もなくセイバーが玉座の間に近づき、緊張のPVP初戦が始まる。
ちなみに、るし☆ふぁーは彼等の心から綺麗さっぱりなかったことにされていた。
「良くぞ来た、我らが居城に攻め入りし勇猛にして愚かなるもの、だがそれも此処までの運命だと知るがいい」
「己が
「zzzzz……」
「吠えたな
「是!」
「zzzzzzz……」
カッコいいロールプレイで応酬を決めるウルベルトとセイバーの二人だが。
この時すでにヘロヘロ氏は限界を迎えていた、台無しである。
それをあえて見無い事にして彼等はロールプレイを続行する、此れはこれで強者であった。
戦いは一人戦わず脱落したとはいえ、5対1である、数の上ならウルベルト側が優勢と見えるがその実、4色のクリスタルモンスターは何方かと言うと後衛タイプなので、後衛×5という残念バランス、本来存在していた67体の レメゲトンゴーレムが落とされた上に、タンク役の脱落が大変痛かった。
バフは効かしておいたが、それは相手も同じ条件、何気に部は悪い。
足の速い攻撃魔法や複合属性の魔法を使い、デバフにバッドステータス、の特異系属性攻撃各種を叩きつけて行く。
手応えが伝えて来る、物理、魔法への防御力が高い。おそらく基本はタンク系なのだろう。
クリスタルからの地水火風は効果が薄い。
毒、効果なし
時間、効果なし
無、効果薄し
神聖、効果薄し
致死、効果無し
……効果なし、効果なし、効果なし、効果微、効果薄し……呪い、効果大―――これか!
「―――怨嗟を束ねし我が声を聴け、血の涙湛えし悲嘆の願い、届かざる祈りの果てに反転せしめ我が絶怒!」
特に必要の無い詠唱が何の思考も必要とせず、赴くがままに言葉となり、
超位魔法の前兆に、いち早く白騎士は気づいたが、それでも間合いを詰める前に四色のクリスタルがそれぞれの属性の防壁を展開し、これを足止めする。
『―――禍れよ世界!《大呪詛蠱毒厭魅》』
かくてウルベルト渾身の呪詛魔法が広間を包み込んだ。
広大な球体状の立体型魔法陣が現世と幽世の境界線を切り開き、超位魔法の効果範囲に悍ましい肉色の異形が留 まるところを知らず生まれ落ちて行く、増殖し続けるそれは、ついには力場の全てが肉の異形に満たした。
それは虚無より生まれ世界の果ての終末に全てを虚無へと還す、
瞬間ダメージこそ、
例えると一度に9999のダメージを与えるのではなく、秒間200程の防御無視のダメージを100秒間継続して与える魔法だとか思えば良い。
グロテスクな肉塊は蠕動し蠢動し超位魔法で形成された力場すらも押し広げ肥大化していく
100レベルプレイヤーと言えど無事では済まない魔法の直撃は戦線を大いに有利に傾けるに十分の筈だが、かつて廃神プレイヤーと呼ばれた41人の一人であるウルベルトは気を抜く事は無い。
無数の魔法を展開し、維持し、積み重ねて次に備える、戦士型のカンストプレイヤーの耐久力は極めて高い、たとえ最高火力の攻撃が決まったとしてもそれで勝負が決まる事は在り得ない、それに熟練のPVPでは最初の弱点が次の瞬間には完全耐性に切り変わる事も少なくないのだ。
耐性突破により状態異常の足止めできる状態にしたが、既にそれは解除されている可能性がある、いやむしろ既に機能していないと想定するべきだ。
その想定を肯定するように、超位魔法の力場が縦に割ける空間が引き裂かれ
「―――
それはユグドラシル公式チート職業《クラス》ワールドチャンピオンの持つ代表的な
正しく使えばワールドアイテムの特殊能力すらも相殺可能という攻防一体のスキル、防御力も破格なら攻撃力も破格、第十位階魔法
超位魔法や大災厄にも比肩しうる物理系最高峰の攻撃手段だが、それでも耐久力に優れるカンスト近接職を一撃で倒す様な事は出来ない。
―――だが、逆を言えば、100レベルと言えども耐久力に劣りさらに物理防御の低い魔法職は一撃でも甚大なダメージとなると言う事でもある。特にウルベルトは
「……勇猛なる者よ、卿を称賛しよう……見事だ。」
ザァッっと切り裂かれた体の内側から炎が奔り崩壊してく、悪魔王はそれでもなお大きく礼をとって見せた。
その後ろでヘロヘロが寝落ちで