オバロ、エタっちゃったよシリーズ   作:神坂真之介
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ふぁて、おーばーろーど2

 アインズウールゴウンというギルドはユグドラシルでも有数のギルドであったが、その方針としてはマイノリティと言わざるを得ないだろう。

 

 PVPならともあれPKギルドと名を馳せる以上それは何方かというとネガティブな印象の集団だ。

 例え内輪では和気藹々としていても、詳しく知らない他のプレイヤーからすれば要注意人物の群れである。

 

 本来は異形種に対するPKに対抗するためのギルドであった筈だが、大半を占める人間プレイヤーから見れば異形種のPKプレイヤー集団でしかない。

 真実など大多数の大きな声の前に掻き消されてしまう、それがまかり通ってしまう程度には心無いプレイヤーは当時のユグドラシルには多かった。

 

 必然的に付き合いの範囲は狭くなり、アインズウールゴウンは身内ばかりが集う狭いコミニティとなった。

 一部ギルドメンバーの現実での知り合いや、個人で親しい関係を築いたもの達とのささやかな交流もあったが、それは本当に例外的なものだ。

 

 ユグラドシルに置いてモモンガは誠実に務めたが、自分よりも楽しい人間は多く居たし、自分よりも優れた人間も多くいた。

 そんな中で自身がアインズウールゴウンのギルド長となったのは、自分が優れ居ていたからではなく、アクの強いメンバーの誰にギルド長という特別な権限を渡しても何をするか判らなかったからこそ。

 割と毒にも薬にもならない自分の様な人間が選ばれたのではないかと思っている。単に自由奔放すぎるメンバーが管理職という義務を嫌っただけなのかもしれないが。

 

 ある時、一方的な友人意識を持つ知人に弱音を零した事がある。

 自分はアインズウールゴウンのギルド長として相応しいのだろうかと。

 

 人を率いる存在感(カリスマ)で言うなら、たっちみー。

 戦略性や知恵の周りでいうなら、ぷにっと萌え。

 知性や年長者としての包容力なら、死獣天朱雀。

 

 ぱっと上げるだけでも、直ぐに三人それらしい名が上がるのだと、だが、友人殿は悩むそぶりも無く答えてのけている。打てば響く鐘の音のように。

 

 

 「何を言わんや、モモンガ殿、たっちみー殿がそんな理由で選ぶはずがないと貴方自身が存じているでしょうに。貴方は仲間の和を重んじ、利他的で、人の欲する所を察する聡明さを持ち、皆の利が釣り合う落とし所を調整する事に長じている、何より、雰囲気とでも言いますか、皆を安心させる空気を纏っています。仁徳とは知性よりも武力よりも人の上に立つ者に必要な要素です」

 

 

 長文による台詞を立て板に水を流すかのように淀みなく、返答が返る。

 正直誰の事を言ってるんだコイツは、と思った事を否定できない。

 というか、モモンガ自身は己にできる事をいっぱいいっぱいになりながら務めていただけなのだ。

 もちろん、皆が楽しくできる様にという気持ちがなかった訳では無いが。適当にやるのは仲間達に失礼だから。

 

 

 

 「私が思うに、純銀の騎士殿はそこを買ったのだと思いますね」

 

 「何か褒め殺しにされている気がするんですが」

 

 「なに、忌憚の無い評価です。」

 

 

 

 笑いを含んだ彼はその返答を翻すことは終ぞなかった。

 終始納得がいかないとモモンガは思ったものだが、それもまたユグドラシルの楽しい思い出の一幕だったと言える。

 

 彼はギルドメンバーではない、何故なら人間種だからだ。

 ギルドの皆で定めた制約により、異形種にあらざる者はギルドメンバーになりえない。

 そも、比較的に親しいとはいえど、知人に過ぎず、アインズウールゴウンの41人とは比べるべくも無い存在だ。

 彼が人族を辞め、異形種に転じたのならば話は別だが、結局彼は異形種となる事は無かった。

 故に彼自身がモモンガを友と呼ぶまで、彼との間には一歩線を引いていた。それは無意識なものではあったが。

 

 アインズウールゴウンのメンバー、その多くが引退していき、さらに少なかった知人達も大半がこの世界(ゲーム)去った。

 そんな中でも、言葉を交わす相手が居た事はモモンガの無聊を慰めていた。

 いまさらながらに思う、一つの事に拘り、友と呼んでも良い人物を、そうと思いもしなかった事は些か不誠実ではなかったかと。

 

 そう、ユグドラシルの終了が差し迫った今になって思うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ☆ユグドラシル最後の日

 某月某日それはDMMRPGユグドラシルサービス終了の日。

 在りし日は100万人単位のプレイヤー人口を誇ったこのゲームも衰退し、現在ではアクセスするプレイヤーも1万人にも満たない。

 

 それでも、昔を懐かしみ一時帰還した者の姿もあり、平時よりは人が多い。

 ここ、アインズウールゴウンが拠点ナザリック大墳墓もまた同様に。

 

 

 その日、在りし日にアインズウールゴウンの黒い粘液ことヘロヘロは懐かしいゲームにログインしていた。

 今の仕事への就職以降、その殺人的な忙しさにまさに命を削りながらの労働を続けてきた彼であったが、青春時代の黄金の一ページとなっていたゲームの終了である。

 

 色の無い就労の日々は着実に彼の心を削り取っていたが

 仲間の呼びかけ、おそらく最後になるだろうそれを受けて、無視を通すほど彼の心は乾いていなかった。

 

 (より良い、もう少しでもいいから余裕がある所に就職できれば、仲間達と偶に遊ぶ位の時間はとれたのになぁ……)

 そう思わずにはいられないが、今の時代、転職等と言う概念はほとんどない、母体となる会社が潰れればそれだけで路頭に迷える。路頭に迷えば命の危機なのだ。

 運よく、別の会社に拾われたのだ、それだけでも御の字だろう。ただ、それが恐ろしくブラックな企業だっとしても。

 

 有給などとある筈も無く、残業手当など当然なく。

 就労時間を大幅にオーバーしたデスマーチの果てに疲れた体を押して懐かしいユグラドシルのゲーム筐体を装着する。

 それでも皆は元気だろうかと、かつての仲間達の事を思い浮かべると、口元に笑みが生まれた。

 

 ログインしてすぐにギルド長であるモモンガに伝言メッセージの魔法で連絡を取る。

 割と早く返事が返り、転移門(ゲート)で迎えられた、ナザリック大墳墓に直接転移はその防衛機構上出来ないので一手間かけつつ、九階層へと移動する。

 

 今となっては記憶もおぼろげだった懐かしい円卓間である。

 そこにはかつて41名の仲間達が居たのだが、人影は残念ながら6つしかない。

 何やら熱心に遠視の鏡を覗いていたが、ヘロヘロの転移に気づくとそれぞれの性格が表れた挨拶を受けた。

 

 

 

 「あ、ヘロヘさんちーっす!」

 「(*'ω'*)ノ」

 「遅い、だが良く来た」

 「( *´艸`)」

 「久しぶりだなぁ、もう少し早けりゃ他の奴らも居たんだが」

 「(*´з`)」

 「へろへろさーん、いつぶりだっけ?」

 「(*´ω`*)」

 「お久しぶりです、本当によく来てくれました、ヘロヘロさん。」

 

 

 

 ちなみに、発言の人物は上から。

 

 ペロロンチーノ

 るし☆ふぁー

 ウルベルト

 るしふぁー

 二式炎雷

 るしふぁー

 やまいこ

 るしふぁー

 モモンガ

 

 である、なんだこのるしふぁーさん率、顔文字の仕様速度が速すぎないだろうか?

 と言うか、日本語をしゃべれこの野郎。などとメンバーの幾人かは思ったが口にはしない。

 次々と上がる歓迎の声に不覚にも現実のヘロヘロの目じりに涙がにじんでいた。

 話を聞くに、少し前ならまだ何人かがログアウトしたばかりなのだとか。

 ギルド長が言うには本日中に41人全員が一度は顔見せに来てくれていたのだという。

 流石はアインズウールゴウンだ、メンバー全員が義理堅いとなんだか自慢したい気分になったのは子供っぽいだろうか。

 

 

 

 「ところで、皆さん、遠視の鏡を熱心に見てましたが」

 「ああ、そうそう、今ナザリックは攻め込まれていまして」

 「( `ー´)ノ」

 「なんと、8階層まで来てるんすよ!」

 「すごいよねー、しかもソロ。」

 「途中の階層守護者戦も見応えあったな」

 「モモンガ卿が言うに、此処数年ナザリック攻略を続けて来た。ある意味生き字引の様な輩だそうだからな」

 

 

 

 ナザリックに挑んだ回数実に2000を超えるというから驚きである、どんだけナザリックが好きなんだ。

 作った側としても冥利に尽きるというものだ、そこまで言われれば興味も沸くので件のプレイヤーをヘロヘロも覗いてみた。

 真っ白な全身鎧に身を包む白騎士とでもいうべき姿が目に映り、仲間の一人、ナザリック最強こと純銀の騎士たっちみーが思い出された。

 

 

 

 「あれ?この人、もしかしてセイバーさん?」

 「ヘロヘロ卿も知っているのか、吾輩は知らんのだが、どんな輩だ?」

 「たっちみーさんみたいなタイプの人だね正義漢、異形種狩りPKのPKKとか一緒にしたことあるよ」

 「なるほど熱血馬鹿か」

 「この人もユグラドシル続けてたんだね、僕も余裕が欲しかったなぁ、モモンガさんに聞いたけどまだ未解明の謎とか未踏破地域あるんでしょ?」

 「ワールドサーチャーズが解明しているかもしれませんがね。」

 

 

 

 ワイワイと和やかな会話が進む中で白騎士は8階層の荒野を進む、ポップするアンデット系エネミーを凱旋一色に薙ぎ払う姿は無駄が無く、いっそ美しい。

 たっちみーと比べても遜色ない、体を動かす事になれた、玄人の所作だと思える。

 セイバーの中の人もリアルではそっち系の仕事の人なのかもしれないと、何気なくヘロヘロは思った。

 しかし、その快進撃も此処までだろうと、ヘロヘロも他の眺める6人もそう考えていた。

 階層守護者のヴィクティムとナザリックの切り札のコンボは1500人のプレイヤーを全滅させたほどのチートと呼ばれて久しい代物だ、たっちみー本人でも無理と言う相手である、正直ソロでは無理だろう。

 

 そう考えるなかで異形の天使の断末魔とそこから畳みかけられるナザリックの秘密兵器達が姿を現す。

 これで終了である、8階層をソロで単独制覇と言うだけで偉業なのだ、何も恥ずべき事ではなく、むしろ称賛すらしたい。

 サービス終了日になってまでナザリックに拘わった所に好感を覚えるもする。

 なんなら、何か残念賞として六階層で話でもしてみたいが、そう思い、ヘロヘロはモモンガに進言をと考えた。 ――――しかし、此処で事態は急転する。

 

 白騎士が在るものを取り出したのだ、それは長くユグドラシルを離れたヘロヘロの朧な記憶を刺激する。

 あれは……ヘロヘロが記憶のひもを手繰るなか、メンバーの誰かが驚愕の声をあげる

 

 

 

 

 「ワールドアイテム―――光輪の善神だと!?」

 

 

 

 

 光輪の善神(アフラマズダー)

 世界級アイテムの中でも更にとびぬけた力を持つ20のアイテムの一つ

 カルマ値-の対象に絶大な効果を発揮する、その効果範囲は世界一つを覆い尽くすレベル。

 それはカルマ値極-が大半を占める。ナザリックにとって天敵ともいうべき最悪のワールドアイテムであった。

 

 光輪となって広がり、ワールドアイテムの名に恥じない、ど派手で荘厳なエフェクトが奔る。

 ゲームと言うシステム上、ナザリックと言う拠点が破壊されると言う事は無いが、叩き出されるダメージは恐らく拠点に耐久値が存在した場合破壊するに十二分、地形が吹き飛んでお釣りがきそうなレベルだろう。

 

 ワールドアイテムの光はそのまま第九階層の彼らの元まで届き。

 荘厳な輝きと音響が彼らの声すら飲み込んだ。

 

 

 




ギルメンの皆さんは基本的に3,4年前くらい情報と、二次創作とかで当時イメージした感じで書かれています。







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