なんか気づいたら人外に転生していた件について 作:神坂真之介
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◆偉い人達の話。
とある国の深奥に人の手によって作られたものならぬ、輝くような建造物がある。
神聖不可侵とされるその部屋に12名の人々が集っている。
一人は火の神に仕える最高位の位置にある神官長。
一人は水の神に仕える最高位の位置にある神官長。
一人は風の神に仕える最高位の位置にある神官長。
一人は土の神に仕える最高位の位置にある神官長。
一人は光の神に仕える最高位の位置にある神官長。
一人は闇の神に仕える最高位の位置にある神官長。
一人は司法を司る司法機関長。
一人は行政を司る行政機関長。
一人は立法を司る立法機関長。
一人は魔法開発を担う、研究機関長。
一人は軍を統べる、大元帥。
最後に、法国すべての最上位、最高神官長。
各々が並々ならない年月を生きた純粋な人間種。瞳が宿す輝きと所々に見て取れる所作の中に、その人間性と知性共に仕える神と地位に相応しい年輪と清廉な人格を備えている事が窺い知れる。
それぞれが己が神が遺したと信じる卓に付き彼等は人という種の未来についての協議を行っている。それは彼等が生まれる前から、六大神と呼ばれる神々の時代から明々と受け継がれてきた重要な会議である。
部屋の奥に並び立つ六つの神像に見守られながら彼等は言葉を交わす。
王国の惨状、腐敗したかの国にどう手を加えるべきか、貴族の専横、王権の弱体化への対策。
聖王国の王位継承権問題、竜王国の年々深刻化するビーストマンの襲撃問題と使者からの援助要請の検討。
国外の英雄候補となりうると目される人物の情報に、国内の有望な人材発掘、神の血に連なる神人候補の家系の教育状況等々と議題が推移していく。
「―――次の議題は帝国に関してです。」
「帝国か、確か皇帝の自浄作用がまだ健在だったな」
「貴族の腐敗は王国との差は無い、どうしてついたのだろうな」
「単純に、危機感の差ではないか?少しでも異種族の脅威を知れば、ああも呑気な内輪揉めにはならん」
「当時の神官長達が希望を託した国の筈なのだがな」
「今は帝国の議題じゃ、あの愚か者共の話は後にせい」
「そうだな、帝国まで王国の二の舞になられてはたまらん、皇帝には健在でいて貰わねば」
「今代が賢帝でも後継者が愚かでは意味が無いぞ、そちらはどうなっているのだ?」
「五代遡ってもあの一族は無難に大国を御しておる、偶然ではあるまい、優れた君主教育のノウハウを継承しているのだろう、おそらくかの逸脱者の功績であろうな。」
王国がいっそ見事な腐敗政治を敷き、今も順調に泥沼に進むに対して、帝国は一時の傾きから此処百と数十年で緩やかに健常化の方向に進みつつある。法国側としてもこの流れには好意的であり、同時に王国の二の舞を演じぬように、同国の神殿勢力を通し支援も行ってきた。
逸脱者であるフールーダを召し抱えて以降の帝国の進歩は法国が本来王国に望んだ人の救いとなる国に一番近いと言える、先代皇帝の作り上げた魔法学院は幾人もの第三位階の魔法詠唱者を輩出し、そこから見出されたフールーダの直弟子の中には第四位階に届いた者もいるのだ。
これらと比較すると、王国の迷走振りがボロクソ言われるのは当然と言えた。
帝国内の懸案事項が順次提起され、それに対する対応策を検討し、決定していく、そうしていくうちに問題の議題が上がって来る。
「それで、あの件はどうなったのだ?」
「帝都を襲撃したドラゴンのその後、ですね。」
「うむ、我ら人族への不干渉は、神々と竜王との間で取り交わされた盟約である筈だ、評議国はそれを反故にする気なのか?」
「それに付きまして、評議国からの返答を受けて居ます。」
「ふん、どう言いくるめて来たのやら」
「件のドラゴンは評議国とは無関係である故、世界盟約内容と該当しない。」
「はぁっ!?」
一斉に数名の神官長が驚愕の声を上げる、国と国の交渉は言質をとったものが強く出る、ある意味上げ足の取り合いだが、その返答は予想外だったと見えた。
人の国が複数ありそれぞれが所属する国の別の文化とルールに基づいて行動するようにドラゴンもまた幾つかの所属を持つ、評議国の様に複数のドラゴンが合議する国は少数派に属し大概はモンスター的な縄張りであり支配領域で王の様に振る舞っているものだ。
もともとドラゴンはその強大な性質故に、同族で群れを作らない傾向がある、複数が揃っている場合は大抵一時的な番いであり、子育て期間の間だけだ。
そういう意味では、評議国と無関係のドラゴンは結構な数にのぼるのだろう。
ただ、彼等が先入観で評議国所属のドラゴンだと思った事はそうおかしな事ではない。
基本単独の野良ドラゴンとは己の縄張りとなる土地を探している
一国の精鋭を返り討ちにし、かつ逸脱者の
逸脱者を退け、さらに現皇帝と交渉までおこなったというなら、それは国という概念を正しく理解した知性を備えた上に強大な力を持つ竜王という事だ、そんな元々強大なドラゴンが悪魔合体してスーパー化した様な個体となると、評議国所属としか考えられない。
むろん、世界は広く、法国の感知外の領域は圧倒的に多い。他にも彼等が予想もしない様な巨大な存在は居るだろう。だが、法国が600年にも渡って積み重ねてきた人界の情報網にもそれらしいものはそう多くは無かった。宵闇の竜王等の評議国以外の真なる竜王も居るには居るが、多くは八欲王の時でさえ動かなかった存在だ。だからと言って、外界から人の領域に強大な存在が来訪したならば、情報を司る風花聖典や漆黒聖典候補である『占星千里』の情報系魔法に掛からないとは思えない。
「い、いや、いくら何でも苦しすぎんか?」
「しかし、彼の竜王は国家元首としては誠実な方だ、むろん国益は優先するだろうが」
「無意味な嘘をつくとは思えんな確かに」
「馬鹿な、では情報網と魔法の探知や予知を潜り抜けて突然現れたとでもいうのか?」
「タレントも魔法も、密偵のそれも完璧ではない、人が関わる限りヒューマンエラーからは逃れられん」
「完全に人里離れた場所にその竜が居た場合はどうしようもあるまい?」
「現在収集できる範囲で編纂した資料が此方です。どうぞ皆様ご閲覧ください。」
用意された資料の束が12名それそれぞれに配られる、竜の名称、姿形、種族、想定される年齢段階、取得していると思われるクラス、表向きに判っている目的、いままでの確認された活動。それぞれに念写系の魔法で作られた絵姿が添付されていた。
「体長4m外観から想定される年齢段階は
「馬鹿な!やらかした事から見れば難度100は超える筈じゃぞ!?」
「魔法学院に入学希望とかどういうことだ?上から目線の上位者気取りの奴らが人族に教えを乞う?そんな前例も聞いた事も無いぞ」
「ワシとしては、この短期間での第二位階魔法到達者の急激な増加の方が気になるのだが。」
「件の竜の仕業か?いったい何が目的なのだ、きゃつに一体何の益がある?」
「まさか……プレイヤーか?」
喧々諤々と12名の会議が踊る、時期的に100年周期であるプレイヤーの関与をそれぞれが疑った。だが、プレイヤーにドラゴン種は存在しない。故に彼等は件の竜の後ろに何かが居るのではと考えるに至ったのだ。
それはある意味間違っていないが、実際のプレイヤーは直接かかわっては居ない。間接的には関わっていたと言えるだろうが、それは神ならぬ彼等には判らない事実だった。
「ところで、この念写画は……」
「情報系魔法で術者が確認したものを魔法でスクロール素材に
「なぜ全部、目線があっておるんじゃ?」
「偶然では?」
「全ての念写画がか?」
「魔法で監視されていることに気づかれていたか……」
「竜族の超感覚ならありえるな」
「よく見ると、すべての物で
「確かこの手印は……」
ちなみに、プレイヤー用語でこのハンドサインをダブルピースと言った。
◆今後の話
やぁ、私はへジンマール、バハルス帝国で魔法の研究と修行をしている
さて、私はオーバーロードのファンである、なので、基本的にはモモンガ先生とは友好的に接触したいと思っている、……のだが、ナザリック大墳墓の愉快な皆はそんなに友好的ではない、多少可能性があるのがセバス、ユリ、コキュートス、シズ、ペストーニャ辺りだけれど、基本的に会おうと思うとナザリックに入る必要がある、しかも深部まで、普通に自殺行為である。
まず第一の接触機会はやはり転移初期だろう、この時はモモンガ先生も手探りなので第一異世界人(竜)の客人として接触できればかなりの好感度と重要度を獲得できる。
難点は大まかな時期の予想は出来るが正確に何時、何処にナザリックが出現するか分からない事で、ついでに言うとセバス達が地上探索をする時間はほんの数時間もない事だ。情報系魔法を用意して定期的に探すという手段もあるが情報隠蔽の為に気軽に攻性防壁が張られている所なので軽率な事をすると術者と周辺が爆死するので考え物だ。しかし、かなりの高難易度だが接触に成功した場合のメリットは極めて高いと思う。世界征服発言からのナザリック全力運転前なのでモモンガ先生の舵取りがかなり利くのだ、いまさらあれは冗談だったと言えない状況になる前なら色々敷居は低いからな。
次に第二の機会はカルネ村、正式な名称と位置関係からかなり発見が現実的だったので、此処数年の活動で場所を特定し接触は済んでいる。法国の欺瞞部隊襲撃イベントが発生するか、いつ起きるか、それを察知できるか、という問題点もあるが、カルネ村の位置情報はナザリック大墳墓の位置を特定する起点にもなるので、此処を把握して置く事は無駄にはならないと思う。ともあれ、ナザリックとの接触をする場合、この辺が一番有力でベターな選択だろう。現在、魔法修行で習得した第五位階魔法【
第三の機会は、エ・ランテルのンフィーの依頼辺りだろうか、居てくれるかはわからないがモモンガ先生の漆黒の剣への好感度は割と高めなので、便乗して仲を深める事が出来そうだ。
ともあれシャルティア洗脳以降はナザリックの警戒度が格段に上昇するので、それまでに何がしかの接触を図りたい所だ。出来れば法国がいらん事をする状況自体を回避したいが。私が洗脳されても困るし漆黒聖典は英雄級部隊だから全員30レベル以上なのでおそらく40レベル前後程度の私では囲んでボコられて狩られるだろう多分。
ゲヘナは遠慮したい、うっかりNPCを傷つけると敵認定されるしな、王国VS帝国の戦争もパスしたい。ドラゴンとか目立つじゃん、沢山の高レベルアンデッドに集られるのも、仔山羊の贄もノーサンキューなのである。基本物語が後半に向かう程に、モモンガ先生との友好を結ぶための難易度が上がっていくので早めに接触したい所だ。ただ、あまり先の方まで考えても色々な変化に予定が合わなくなりそうなので、最初の三つを目標にして準備するとしよう。
もっとも下手すると私という
さて、第一のスタンスが『友好』である訳だが、第二のスタンスも考えておく必要はあるだろう。
友好が叶わなかった場合の予定は『挑戦』である。
オーバーロードに挑んで敗れるのはオバロの花形と言えるだろう。ニグンさんとか父上殿とか六腕とか天武みたく出落ちとなる場合もあるが、というかかなりの高確率でそっち?
ファンとしてはそれはそれで本望な気もするが、純粋な現地人とは言い難い私だが、現地人(竜)の一頭として出落ちで終わらない活躍はして見せたくもある。ついでに言うと100年以上も人生(竜生?)を過ごすと色々なものに愛着も出て来る。ドワーフの国や友人には私の死後もそれなりに平和に過ごして欲しいし、ガゼフや帝国の生徒達なんかの知り合いにだって進んで不幸にしたくはない。
とは言え個人としても集団としてもナザリックとの戦力差が圧倒的なので勝利するのは難しいというか、不可能だろう。実力差的に同じ土俵に立つ事すら厳しい、ついでに言うとモモンガ先生の時間魔法は対処不能だ。少なくともこの世界に時間魔法の使い手は……そういえば、先日覚えた
ともあれ、多くのナザリックの守護者達はともあれ、モモンガ先生にとって現地人が馬鹿にできない存在だと改めて思ってくれれば問題ない、100レベルに届きうる可能性を示せば支配や従属よりも別の選択も増えるだろう。下手に強いからこそ、徹底的に叩きに来る可能性もあるのだが、第二のスタンスは『挑戦』と私は決めた、なのでそこは我儘を通させてもらおう。
さて、その上で必要なのはやはり戦力だ、私のレベルアップも必要だが、個人戦力だけでは如何ともし難い。一人で全ての魔法を習得できるわけではないし、一人で全てのクラスをカバー出来る訳でも無い。やはり有力な味方が欲しい所だ。そうなると私の影響範囲の種族が強化されるように働きかけるのは悪くない。
ドワーフの国の開発能力の強化もだ、魔法学院からのアイテム開発志望を留学生にと提案も良い。カッツェ平原に代表する
古田爺は今後を考えると下手に強化するとヤバそうだよ、モモンガ先生に即落ち2コマだものね。最近定期的にカッツェ平原でアンデッドを蹂躙しに行ってると聞くけどね。
総合的な強化はこんな感じで良いだろう、しかし、飛び抜けた個人も欲しいと思う。具体的に言うと逸脱者級の仲間だね、此方の候補はガゼフだ、とりあえず、トランジェリットで良い結果が出たので価値観破壊に私の直接の姉弟をちょっとしばいて貰う様に
後、数人欲しい所だが、やはり直接育てる直弟子的なのを作るべきだろうか、ガゼフが何とかしてくれたら妹や弟も育てよう。
そんな訳で、今直接で行くなら弟子の募集かね、少しアレだけど、古田爺に相談しようか。
◆とある
彼女が魔法学院に入学したのは六歳の頃になる、多くの
それから三年の履修課程を彼女は幼いながらも真面目に務め、9歳にして第二位階の魔法を修めるほどの結果を出した。
そんな彼女は現在、ある意味苦境に立たされている。あまりの威圧感に心がへし折れそうである、立ち上る二つの夥しい魔力のオーラを前に、今すぐ泣き叫びたい。むしろ9歳の年齢で良くその状況に耐えている、驚異的な自制心と言えた。
「よく来てくれた、楽にしてくれて構わないぞ」
いえ無理です、と反射的に出かけた言葉を彼女は飲み込む、頭上から響く地響きの様な声はそれはもう、重々しく、9歳に何してくれとんじゃと言いたくなるプレッシャーである。
彼女の身長の五倍強の体躯を誇るその存在に悪気はないのだろうが、体長30cm程の猫が大体五倍の150cmに大型化した場合、その鳴き声は「にゃー」ではなく「ゴォン」とか「ガァン」見たいな重低音になる。体格が生み出す変化だ。その更に数倍の巨体から出る声は人語として解する事が出来ても声その物がちょっとした衝撃波みたいな威力を持っている。
「ふぉふぉ、その図体で言われて楽にするのは難しいぞ、へジンマール殿」
好々爺とした表情の老人がそんな事をのたまうが、この老人は老人で彼女にとって負担が大きい。立ち上る魔力のオーラが見た事も無い程に強大な圧力を伴っており、正直彼女は吐きそうな胃腸を必死で宥めている。身分的な意味でも雲の上に居るこの老人に醜態を見せるのは自身の命や実家の社会的生命が終わりかねないので本当に必死だった。
彼女の9歳らしからぬ早熟な聡明さ、パンピーとは言い難い有能さが生み出した悲劇と言えたかもしれない。
片や、帝国最高にして最も偉大なるとも謳われる大魔法使いフールーダ・パラダイン。
片や、帝国最強とも呼ばれる(帝国所属ではない)白い竜へジンマール。
指先一つで彼女と実家を吹き飛ばせる一人と一頭である。なんでこんな所に自分が居るのかわからない。
「君の優秀な成績を見せて貰った、実技に理論共に素晴らしい水準だ。」
「その年で、第二位階に到達する才能も目を見張るものがある、将来が楽しみじゃな」
「フールーダ翁よ、私としては年齢で彼女を低学年に留めておくのは惜しいと思う」
「飛び級を認めるというのじゃな」
「それも良いが、私としてはより彼女の才覚を伸ばしたい」
「ふむ……なるほど、では……」
「そう、翁の推察通り……」
なんで途中で会話が曖昧になるんだろうとぼんやりとした頭で思う、飛び級させるという話は昨今の授業に目新しいものが無くなって来ていた彼女としては朗報と言えたが、会話がツーとカーとなり始めた辺りで言い知れない不安を感じ始めていた。
だが、彼女に選択肢は無いと言って良い、上位者からの命令というのは逆らえるものでは無いのだ、特に彼女の様な若輩には、その事を生まれ故に彼女はよく理解していた。なので頷いてしまった。受けてしまったのだ。
「―――ではそういう事だ、アルシェ・イーブ・リイル・フルト、これより君は私とフールーダ翁の直弟子となる」
「はい、承りました。」
「うむ、よい返事を貰えてうれしく思うぞ、共に魔法の深淵を目指そうではないか」
「後の指示は後日送ろう、以上だ。」
退出していく一人と一頭に頭を下げたまま彼女は動けないままだった。脳が事態を理解するのを拒否していたのだ。だが、それでもジワジワと先ほどの会話の意味が浸透してくる。
「―――え?」
直弟子である、帝国魔法学院生徒としてみると大躍進な訳だが、頭が良くてもどんなに聡明でも9歳、彼女は9歳である。今後ゲロを吐きそうな魔力を放ってる大魔法爺と物理的に
「―――え?」
かくて彼女、アルシェは魔法バカと鬼ドラゴンの手中に収まってしまった。
彼等がぶっこんでくる無茶振りを受け続けた彼女が、将来帝国六大魔法使いの一人『竜の魔女』または『大魔法使いの正統後継者』と呼ばれるのは数年後、彼女が18歳程になる頃の事である。
気づいたら(^ω^)ペロペロ爺が第8位階に。
アルシェたんは叩いて伸ばせばできる子だと思っている。