就活ルール廃止 人事担当者が「痛年採用」に悲鳴の声
就職活動の事情が大きく変わろうとしている。経団連が“就活ルール”の廃止を表明したことが連日大きく報じられているが、これは採用の現場にどのような影響をもたらすのか。『学歴フィルター』(小学館新書)の著書がある、就職コンサルタントの福島直樹氏が解説する。
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ついに就活ルール廃止が決定された。10月9日の経団連の会長・副会長会議で、2021年卒の就活生(現大学2年生)から、現行の「採用選考に関する指針」は廃止されることになった。現在は大学3年生の3月から説明会解禁、6月から採用面接などの選考解禁と日程が定められ、経団連は会員企業に遵守を求めている。その“就活ルール”がなくなるのだ。
これを受け、政府は10月15日に内閣官房、文部科学省、厚生労働省などで就職活動、新卒採用の在り方について検討会を開く予定だ(全国の大学、短大などで構成する就職問題懇談会や経団連もオブザーバー参加)。
就活ルール廃止で現場の人事担当者には動揺が広がっている。人事は何を感じているかに迫りたい。
まず採用の現状を確認しておこう。企業の採用パターンは主に次の3つに分類できる。
【1】就活ルールを守るパターン
大学3年の3月1日以降に説明会を開始し、6月以降に内々定を出す。主に金融、総合商社などが中心となる。
【2】フライング気味のパターン
大学3年の2月頃のインターンシップ(就労体験)で優秀な学生に目星をつけ、3月から選考開始、4~5月頃から内々定を出す。多くの大手企業がこれに該当する。
【3】就活ルールを完全に無視するパターン
大学3年の夏のインターンシップで優秀な学生に目星をつけ、秋から選考を開始し、冬に内々定を出す。 経団連に加盟していない外資系企業、ベンチャー企業に多いパターンで、通年採用を標榜する企業が多い。
最近の東大生や京大生は、保守的な日本企業より、【3】に該当する外資系コンサルティング会社や外資系投資銀行を志望する傾向が強まっている。
就活サイト「ワンキャリア」が今年5月に東大生と京大生を対象に調査した就職人気ランキングでは、数年前まで人気だった総合商社がランクダウンし、代わりに外資系コンサルティング会社、外資系投資銀行が上位をほぼ独占した。
ただでさえ学生に人気があって優秀な人材が集まりやすいこれらの外資系企業が、就活ルールを守らず早期から学生の採用に動くことに対して、伝統的な日本企業の人事は不満を抱いている。その焦りが、日本の大手企業でも【2】のパターンが増大することにつながったと筆者は推測する。
このように経団連加盟企業でも、フライングする企業が続出し、就活ルールが形骸化しているのが実態だ。就活ルールを遵守する企業では不満が高まり、その圧力が今回のルール廃止へ繋がったと言える。
経営者からすれば、形骸化した就活ルールなどもはや不要、むしろ邪魔、ということなのかもしれないが、早くも現場の人事担当者からは悲鳴があがっている。マスコミ関連企業の人事担当者が語る。
「2015年卒までの新卒採用は『季節商売』でした。12月に始まり4~5月には内定を出して終わる感じです。6月以降は余裕があり人事戦略などを練ることもできた。でも今は、『通年商売』です。夏からインターンが始まり、秋には優秀なインターン学生と接触する、冬にもインターンをやり、3月から公式に選考スタートし、内定を出していき6~7月ごろに終わります。一年中採用を続けているわけで、もう“痛”年採用なんです」
現場の声は悲痛である。予算と手間は増えたが、そのぶん優秀な人材を採用できているかと言えば、そうではないと言う。限られた人材を巡って競合他社も同じ手を打ってくるわけで、当然と言えば当然だ。
そこへ追い打ちをかけるように、就活ルールが廃止される。これによって就活のスタート時期が完全に自由になってしまうと、「早い者勝ち」の状態となり、さらに早期化が進む結果、コストが増大する可能性が高いという。早くに内定を出せば、その後、内定者が入社するまでの期間が長くなり、その間のフォローに追加コストが発生するからだ。
そんな背景もあり、日本経済新聞の調査でも人事の55.1%は今後も経団連が定める新卒一括採用のスケジュールが「必要」と答えている。一方で「不要」は29.5%である。この調査では、「必要」の理由として「学生の学業へ悪影響がある」が目立ったという。
筆者はこの理由を否定しない。しかし人事のもうひとつの本音は、コスト削減にあるのではないか。ルール廃止で自由化となれば、間違いなく早期化に拍車がかかり、どれだけの予算、人員、時間がかかるか予想もつかないからだ。
【プロフィール】ふくしま・なおき/1966年長野県生まれ。就職コンサルタント。上智大学文学部卒業後、大手広告会社勤務を経て、93年より就職に関わる執筆、講演活動、学生の就職支援を行う。最新刊に『学歴フィルター』(小学館新書)がある。