太平洋に向かった巨大な「海洋清掃マシン」は、プラスティックごみを本当に回収できるのか?

に漂う大量のプラスティックごみを回収すべくつくられた、全長600mの海洋清掃マシン。NPO団体「オーシャン・クリーンアップ」が開発したこの装置が、サンフランシスコから太平洋に向けて出港した。非常に野心的な目標を掲げるこのプロジェクトだが、専門家たちからは懐疑的な意見も出ている。

Ocean Cleanup 1

PHOTOGRAPH BY MICHELLE GROSKOPF

とある非常に野心的な“プロジェクト”が9月8日にサンフランシスコを出発し、ゴールデンゲート峡を越えて太平洋へと乗り出した。

この全長600mにもなるプラスティック製チューブに網をぶら下げたU字型の装置は、オーシャン・クリーンアップという団体が発明したものだ。この装置は船で240海里(約444km)沖まで運ばれ、試運転が行われるという。

試運転がうまくいけば、装置はさらに1,000海里(約1,850km)沖の「太平洋ごみベルト」まで運ばれる。浮遊するプラスティックごみを、そこで自動運転でかき集めるのだ。そして6週間ごとにやって来る回収船が集められたプラスティックをすくい上げ、ごみ収集車のように運んでいく。

オーシャン・クリーンアップによると、目標は5年間でごみベルトのプラスティックごみを半減させることだという。

専門家たちからは懸念も

いま世界中の海洋が、深刻なプラスティックごみ問題を抱えている。5兆個を超えるプラスティック片は海を汚染し、ごみベルトは拡大を続ける一方だ。この事態を受け、オーシャン・クリーンアップは寄付者や企業から4,000万ドルの資金を調達した。

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しかし多くの科学者が、オーシャン・クリーンアップの計画には“穴”があると考えている。

今年6月、海洋科学専門ウェブサイト「サザン・フライド・サイエンス」は、海洋プラスティック汚染の専門家15名を対象にアンケートを実施した。その結果、半数以上がこのプロジェクトに深刻な懸念を示し、愚策と評した人も数名いた。

「確かに野心的な試みですが、これまで多くの人が知恵を絞ってきた複雑きわまる問題を単純にとらえすぎています」。オーシャン・クリーンアップの活動を研究してきた海洋学者キム・マルティーニは、『WIRED』US版にそう語る。

問題のひとつは、プラスティックが海中のどの深さにどのように散在しているか解明できていないことだ。「海面に浮かんだままのプラスティックは多くない、というのが実際のところです。多くの研究結果が、プラスティックは下に沈んでいくことを示しています」と、マルティーニは言う。

例えばペットボトルは、中に水が溜まるため海底に沈んでしまう。細かく砕けたプラスティック片が、くるくる回りながら海中を上下することもあるだろう。海上に浮かんだオーシャン・クリーンアップの装置は、海面付近のかけらをうまく引っ掛けることはできるかもしれないが、最長3mしか海中に伸ばせないポリウレタン製の網では、届く範囲も限られる。

「プラスティックを1カ所に集めることで、生物を引きつけてしまうこともあり得ます」とマルティーニは言う。「海洋ごみの上で休むものもいれば、その中で成長するものもあるでしょう。海はちょっとした砂漠のようなものです。わずかな日陰のために、魚は驚くほど活動します」

海洋生物たちへの影響は?

もうひとつの懸念は、バクテリアや藻などの微生物が装置の表面で繁殖を始めることだ。水の抵抗が増したり装置が重くなったりすることで、網の動きが変わってしまう恐れがある。

だがオーシャン・クリーンアップによると、装置の表面は最大限滑らかになるよう設計されており、そうした生物の繁殖を防ぐ仕様になっているという。彼らは好奇心旺盛な海の生き物たちが装置に寄って来る可能性はあることは認めながらも、システムは安全だと断言する。

「われわれは、巻き込み事故のリスクが基本的にゼロになるようこのシステムを設計しました。魚やクジラといった生物が装置に接近しても、比較的無害と言えます」と、オーシャン・クリーンアップの技術部長を務めるアルジェン・チャレマは語る。

それでも、放浪する漁網が装置に絡みつき、ウミガメなどの海洋生物を捕獲してしまう可能性はある(オーシャン・クリーンアップの研究によると、太平洋ゴミベルトの半分が海を漂う網である可能性もあるという)。しかし、プラスティック問題に対して何の手も打たずにいても、海の生き物を救うことはできないのだ。

装置そのものが汚染につながる可能性は?

雨ざらしの海そのものが、このシステムを崩壊させ、プラスティック問題の片棒を担がせることになるという課題もある。このシステム自体も、結局は全長600mのプラスティックでできているからだ。

プラスティックを傷め、細かく分解してしまう紫外線も悩みの種になるだろう。だがオーシャン・クリーンアップいわく、装置に使われているプラスティックは高密度ポリエチレンで、紫外線をはね返せるという。

「意図通りに機能したとして、この装置はどんな微細プラスティック粒子を発生させることになるのでしょう」。そう語るのは、米国海洋教育協会に所属する海洋学者カーラ・ラヴェンダー・ローだ。

さらに悪いことに、嵐に襲われて装置が壊れる可能性もある。「ナノサイズに砕けたプラスティックの粒子が200mにわたってまき散らされれば、周辺一帯が覆い尽くされてしまいます」

オーシャン・クリーンアップは、数百回にわたるスケールモデル試験と、北海でのプロトタイプ試験を実施したという。100年に一度の大規模な嵐にも耐える設計のシステムだと、彼らは付け加えた。さらに、装置が太平洋ごみベルトの渦の外に出てしまうことがあっても、現場にボートを向かわせて元の位置に戻すとのことだ。

より堅実な方法をとる団体も

オーシャン・クリーンアップの計画に関する懸念を考えると、よりリスクの低いターゲットを対象に海洋清掃活動を行うほうが賢明ではないか、とローは考える。「プラスティックごみの発生源とおぼしき場所や、河川の近くに焦点を絞ってはどうでしょう」と彼女は提言する。

非営利組織、ウォーターフロント・パートナーシップ・オブ・ボルティモアがとっているのがこの手法だ。彼らは、巨大な外輪を備えた2隻のごみ収集船を運航している。

「ミスター・トラッシュ・ホイール」と「プロフェッサー・トラッシュ・ホイール」の愛称で親しまれる目玉の飛び出たこの船は、川の流れを動力とする。外輪が水中のごみをすくい上げ、船に積まれた収集箱に放り込んでいくのだ(川の流れが遅すぎる場合は太陽光発電で外輪を動かすという)。これまでに2隻で合計900トンのごみをボルティモア周辺の河川から回収したという。

一方、オーシャン・クリーンアップの計画はもっと野心的だ。数週間かけてシステムの最初の点検を済ませたら、いよいよ海洋に出て作業を開始することになる。最終的な目標は、60基の巨大パイプを海上に浮かべることにある。

「彼らは壮大な実験を始めようとしています」とローは言う。「わたしならこんなやり方で、それも太平洋の真ん中まで行って、何かしようとは思いません。でもまあ、なりゆきを見守りましょう」

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