子煩悩オーバーロード   作:そらのすけ
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ちょっと後半急ぎ足感があるので後日修正するかもです。


第三話『親の心子知らず、子の心親知らず』

 ニューロリストと別れたモモンガは各階層へと足を運んでNPC達の様子を確認していた。先ず最初に向かった先はシャルティアの守護する第二階層だ。その本人はと言うと現在モモンガの自室でお昼寝タイム中である、本来なら一緒に付き添ってもらいたかったと考えていたモモンガだが折角のお昼寝タイムの邪魔をする訳にはいかない、故に彼は一人で行動していた。現在の彼の思考回路の優先順位は子供達最優先となっておりその他は二の次となっている。

 

 ──親馬鹿ここに極まれり。

 

 取っ組み合って遊んでいる子供のスケルトン達を眺めながらシャルティアの私室に辿り着いたモモンガは、お留守番をしていた二人の吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)と遭遇した。

 

「やあお前達、今各階層の様子を見て回っているんだが何か問題事は起きていないか?」

 

「あいっ!」「あいっ!」

 

 小さな身体には不釣合いなたわわに実った胸を張ってそう返答する二人の吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)。心なしかドヤ顔のように見えなくもない。

 

「…………………?」

 

 続けて紡がれる言葉を待つモモンガだが何時まで経っても目の前の二人は口を開こうとしない。

 

「──んんっ?えっ?何か問題が起きてるの?」

 

「あいっ!」「あいっ!」

 

(あっこれ駄目な奴だー)

 

 モモンガは瞬時にそう悟る。しかしまぁ何か問題があれば喋れなくとも何かしらの行動を示す筈だし本当に何も問題は無いという事だろう、モモンガはそう思う事にした。

 

「う、うむ、分かった。何かあればシャルティアかセバスを通じて報告してくれ、では私は行く」

 

 去り際に二人の頭を撫で撫でするのを忘れない、肉が一切ないので若干痛いかもしれないがなるべく優しく腫れ物を触るかのようにゆっくりと頭を撫でる。

 

「あいっ!」「あいっ!」

 

 去り際にちらりと見えたキラキラとした笑顔で見上げる二人に癒されたモモンガは名残惜しみながらも次の目的地へと向かうのであった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「…いやー、やっぱりあいつのとこも寄らなきゃダメだよね…」

 

 《ユグドラシル》時代、中身は兎も角として見た目が女性プレイヤー達を幾度と無く苦しめたあのNPCの元へ向かう。出来ればあの部屋には踏み込みたくは無い、だが私はナザリックに住まう全てのNPC達の親なのだ、たとえ忌み嫌われているあの生き物の姿をしていたとしても彼は私の息子なのだ、とモモンガは震え上がる骨だけの足に力を籠めてその部屋に突入した。

 

「恐怖公!!ちょ…ちょ、調子はどうだ!?」

 

 自らを奮い立たせるかのように大声をあげてこの領域の支配者の名前を呼ぶ、足元どころか腰の高さまで埋め尽くされた恐怖公の眷属達の感触が骨に伝わってくるのを必死に耐えながら。──しかし返答は無い。

 

(は、早く返事してくれ恐怖公~~~!)

 

 きょろきょろと忙しなく動く赤い眼光が部屋の中を見渡していく、しかし恐怖公と思われる影や姿は一切見当たらない、もしや出掛けているのだろうか?だがそれはありえない、領域守護者という存在は基本的に何か命令でもない限り自分の領域の外に出る事は無い、彼等はそれぞれ獲物が掛かるのを巣の奥でじっと待ち構えているタイプなのだ。

 

 モモンガの胸中に不安が過ぎる、返答が無いという事は何かしらの問題が発生しているという事だ。外敵が侵入したという報告はセバスからは聞いていないので、だとすれば件のマジックアイテムの影響と考えるのが妥当である。モモンガは警戒度を一段階引き上げて彼の眷属達で埋め尽くされた部屋を慎重に進む、勿論踏み潰さないように。

 

「……む?」

 

 そんな事を考えながら奥に進んでいるモモンガの目の前に少しばかり身体の大きい個体が飛んで来る、思わず手で払い除けたくなる衝動に駆られたが、もしそれをしてしまったらそれは虐待行為に他ならない。

 

 子供達の最後の心の拠り所である自分がそれだけは断じてする訳にはいかない、モモンガは慈愛の精神を以ってその個体を手の平に乗せる。

 

「……もしかして恐怖公か?」

 

 モモンガの手の平に降り立った個体が徐に立ち上がり二足歩行状態となった。頭部には金に輝く王冠、背中には棚引く真紅のマント──間違いない、彼こそがこの黒棺(ブラック・カプセル)の領域守護者の恐怖公本人である。

 

(随分と小さくなったな!?)

 

 サービス終了時、恐怖公を含む《五大最悪》は玉座の間には召集していなかったので、モモンガが実際に恐怖公の姿を見るのは今回が初めてであった。断じて姿を見るのが嫌だったからとかではない、とモモンガは誰に向けているのか、心の中で言い訳する。

 

 手の平の上でモモンガに向かって丁寧にお辞儀する恐怖公、見た目は完全なGだが彼の礼儀作法には目を見張るものがあった、上流階級の礼儀作法にはからっきしのモモンガでさえもその所作には思わず見蕩れてしまうぐらいに。

 

「喋る事は出来るか恐怖公?」

 

 モモンガの言葉に頷き身振り手振りで何やら伝えようとする恐怖公、しかしその努力空しくモモンガは首を傾げるだけで上手く伝わらない、やがて恐怖公は悩む素振りを見せ始める。

 

「……駄目、と言う事か?小さくなりすぎて口が退化したのか?…ならば伝言(メッセージ)も駄目か、口に出して言葉にする必要があるからな…」

 

 モモンガの呟いた言葉に勢い良く反応を示す恐怖公、やがてモモンガの脳裏に聞いた事のない声が響き渡った。

 

『流石はモモンガ様で御座います。この恐怖公、余りにも発する声が小さくなってしまいモモンガ様にどうお伝えすれば良いか悩んでいたところで御座いました』

 

「おおっ!」

 

 久方ぶりのまともな返答に思わず歓喜の声をあげるモモンガ。ハッキリとした発音と惚れ惚れするような声色が彼の声帯が十分に発達している事を如実に語っていた、しかもそれだけではない。

 

「幼児化の影響は無いのか?いや、身体が小さくなっているし影響は出ているみたいだが……」

 

 恐怖公の身体を角度を変えて様々な視点から観察すると、どうも成長途中の若齢幼虫の段階にあるようだ。人間で言うところの高校生や大学生辺りだと言えば手っ取り早いだろうか。自身の身体が変化している事も確り認識しているようだし、他の子供達に比べたらマジックアイテムの影響はそれ程受けていないようである。

 

(……だんだん分かってきたぞ、玉座の間からどれだけ離れていたかで効果に違いが出ているみたいだな)

 

『つい先日の事で御座いますかな、気が付けばこの部屋の天井が随分と高くなっている事に気付きまして我輩の眷属達に今の姿がどうなっているのかを確認して貰ったところ、眷属達と大して変わらない大きさになっていたようです』

 

 成る程これは大きな収穫だ、これだけ自己を確立出来ているのであればモモンガとセバスが頭を捻って必死に考えたナザリック防衛計画に恐怖公を組み込む事も可能だろう、もしくは防衛指揮官の役職を与えるのも有りかもしれない。

 

(…待てよ、恐怖公がこの程度の影響で済んでいるなら第三階層のグラントも期待が持てるんじゃないか?)

 

 そうと決まれば善は急げだ、恐怖公に労いの言葉を掛けてモモンガは足早に第三階層へと向かう事にした。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 一方その頃、第九階層でプレアデスの姉妹達の遊び相手を務めながらセバスは一つの事を考えていた。

 

(ももんがさまのためになにかおやくにたてることはないかなぁ…)

 

 セバス達NPCの存在意義は至高の御方々の役に立つ事、唯それだけしかない。姿形が変わってもその事実だけは決して変わる事はない。だがモモンガは言う、「お前達が無事で居てくれるだけで十分だ」と。

 

 モモンガとしては本心から出た言葉なのだろう、それは嘘偽りの無い言葉であると断言出来る、しかしセバスが求めている言葉は違う言葉だ。

 

 子供と言うのは何よりも親に認めてもらいたい褒めてもらいたいと考える生き物である、その承認欲求を親は満たしてやらなければならない。

 

 それを怠ったが最後、待っているのは──「反抗期」である。

 

「がるるるるっ!」

 

 じゃれついてくるルプスレギナの頭を片手で押さえ──、

 

「あーうー!」

 

 ──もう片手でエントマを高い高いする。

 

「「…ユリおねえしゃま、てかげんしてくれませんか?」」

 

「やっ!」

 

「………………………バブゥ」

 

 ユリやナーベラル、ソリュシャンはボードゲームに夢中になっているようで一固まりになって静かに遊んでいた、そんな姉達を身動ぎ一つせず体育座りして眺めているシズ、非常に手の掛からない良く出来た娘達だとセバスはその光景をそっと見守る。

 

(ももんがさまはぼくたちをたいせつなこどもであるとおっしゃってくれた、きずつけたくないといってくれた…でもぼくはそれでもももんがさまのおやくにたちたい)

 

 ──親の心子知らず、子の心親知らず。

 

 子育てデビューしたばかりのモモンガではセバス達との距離感を掴めずに空回りするのは必然と言うもの、親子の関係を築くに当たって何よりも重要な「対話」を怠った結果、間違った成長をする事も多々ある。

 

 モモンガはセバスに関して一つの思い違いをしていた、自分の言う事に素直に従ってくれる良く出来た子供であると。だがそうではない、それはナザリックに属する全てのNPC達に言える事だ、セバスだけがたまたま意思疎通が上手くいっただけであってモモンガはそれに頼っているに過ぎないのだ。

 

(えっと、ももんがさまはいつか「がいか」をかせぎにいかないとっておっしゃっていたから、それをかせぐてつだいを……「がいか」ってなんだろう?)

 

 頭に???マークを浮かべながら「がいか」について考える、しかし悲しいかなセバスにはその答えを導き出せる程の頭脳は無かった。ならばどうするか、自身の気持ちを過保護なモモンガに伝えれば却下されてしまうのは目に見えている、子供とは言えそれぐらいの事はセバスとて理解していた。

 

(えっと、しゃるてぃあをおこして…きのういったかるねむらにおくってもらおう!あのむらのひとたちにきけばわかるかも!)

 

 今のセバスを突き動かしているのは唯一つ、モモンガの役に立って褒めて貰うという事だけ。時として子供の行動力と言うものは大人の想像を遥かに凌駕する。

 

(まっていてくださいももんがさまっ!このせばすがももんがさまのもとめる「がいか」なるものをかせいでまいりますっ!)

 

 唯の子供と侮るなかれ、その中身はLv百の絶対強者であり、悪を決して許さない正義感に溢れたヒーローであり、パンチ一つで民家を粉砕し、悪人を抹殺する事が出来る存在である。

 

 そんな存在が親の目を盗んで外に繰り出せばどうなるかなど火を見るより明らかだろう。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 セバスがそんな事を考えているとは露知らないモモンガは、恐怖公とグラントと彼等の眷属達を中心とした防衛部隊を第一階層に配置する計画を第九階層に向かう道すがらに構築していく。

 

(ふっふっふっ、セバスに良い報告が出来るぞ!)

 

 ルンルン気分でモモンガは次なる目的地──第四階層の湖底に沈むガルガンチュアの元へ向かっていた。

 

(おっ、いたいた)

 

 澄み切った水面を覗き込むと見えた巨体、赤く脈動する瞳と胸元を走る真紅の線が特徴的な戦略級攻城ゴーレム、それがガルガンチュアだ。

 

「うーん、こいつもなかなか小さくなってるな、それでも十メートル以上はありそうだけど」

 

 全長を測ろうにもガルガンチュアを動かす訳にはいかない、あくまで置き場所に困ったからこの地底湖に沈めているだけであって決して防衛用のゴーレムではなく、ガルガンチュアの真価は攻城戦にあるのだ。便宜上第四階層守護者の地位を与えてはいるが防衛に動かす事は出来ないので実質意味は無い。

 

 その為もし第三階層を突破されたら第四階層は素通りされてしまう事になる、しかし階層守護者に次いでLvの高いグラントが突破される事態は恐らく起こる事はないだろう。

 

(…王国最強と言われる戦士がアレだし、そのアレを抹殺する為の部隊もアレだもんなぁ)

 

 この世界の強者や英雄と呼ばれる存在達のLvは軒並み低下しているらしくナザリックの脅威にはならない存在ばかりだ、しかしそれで油断するつもりはモモンガには毛頭無い。

 

(まぁ、まだアレより強い人間とかが居るかもしれないし油断は出来ないけど)

 

 PvPにおいて何よりも重要なのは情報と準備だ、それを怠らない者が生き残り怠った者は骸と化し朽ちていく。その慎重さがあるからこそモモンガのPvPの勝率はロールプレイを重視しているにも拘らず五割を超えているのだ。

 

「よし、第五階層に行こう。多分今ならコキュートスが居る筈だ」

 

 ほぼ同時期、既にセバスはナザリックを離れてしまっておりカルネ村の入口に立っていた。その事実をモモンガはまったく知らぬままに、辿り着いた第五階層で雪合戦中だったコキュートスと雪女郎達の中に乱入し夢中になって雪玉を放り投げていた。

 

 唯一セバスの行方を知っているであろうシャルティアは再び夢の中へと旅立っており、直前に遊び相手を務めていたプレアデスの姉妹達を確り寝かし付けた後に行動に移ったようでセバスの行動を報告する者は皆無であった。

 その事実も重なり結局セバスの行動にモモンガが気付いたのは、モ第九階層に帰還してからの事であった。







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