子煩悩オーバーロード   作:そらのすけ
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第二話『オママゴトに血はつきもの』

「セバスーただいまー」

 

 ナザリック地下大墳墓へと帰還を果たしたモモンガは早速とある一人のNPC、恐らくはまともなコミュニケーションを図れる唯一の存在であるセバスを呼ぶ為に伝言(メッセージ)を繋げる。

 

『おかえりなさいませっ、ももんがさまっ!』

 

 昨日今日と幼児化したNPC(子供)達の相手をしていた事もあり──特に注意が必要だった第八階層と地上と繋がっている第一階層は真っ先に確認に向かったが──それ以外の全ての階層は未だに見て回る事が出来ていない状況だ。

 

 一刻も早く各階層がどうなっているかの確認をしなければならないのだが如何せん人手が全く足りていない、このままではナザリックの維持にも支障が出るかもしれないと心配性なモモンガは漠然とした不安を抱え始めていた。

 

「すぐに私の部屋に来てくれ、色々と報告を聞きたい」

 

『かしこまりましたっ!』

 

 随分と威勢の良い返答をしてくれるセバスの様子からして特に大きな問題は起こってないようだ、モモンガは安堵しつつも自分の部屋の扉を開け放つ。ちなみに気絶したままの捕虜はその辺に捨て置いていた。

 

「さぁお前達、私の部屋に着いたぞ」

 

「ふぁい…ももんがしゃまぁ…ぐー」

 

「ほらもうちょっとだ頑張れっ──ああ皆ちゃんと靴を脱ぎなさい」

 

「あぃぃ……」

 

 部屋に入るや否やキングサイズのベッドに四人を寝かせていく、靴を脱ぐように言ったは良いがどうやら既に夢の中に旅立った後のようで四人は川の字となって静かな寝息を立て始めてしまった。

 

「はっはっはっ、はしゃぎ過ぎて疲れたようだな。昨日より寝付くのが早い」

 

 一人一人の靴を起こさないように慎重に脱がしていくモモンガ、その表情に変わりは無いが胸中は大変穏やかなものである、既に父親としての心構えは出来上がっている様子だ。

 

「おまたせいたしましたももんがさまっ!せばすでございます!」

 

 全員の靴を脱がし終えて一息ついていた所でセバスが到着した、静かに立ち上がったモモンガが扉をゆっくりと開けると其処に居たのは執事服を身に纏った──小学生ぐらいの年端も行かない少年の姿。

 

(お、おー…やっぱりまだ慣れないなセバスのこの姿は)

 

 人畜無害で人懐っこそうな大きな瞳と、年頃の男の子が抱く根拠の無い自信を全面的に押し出しているこの美少年こそが、──幼児化したセバス・チャン本人である。

 

 ちなみに外見上の変化が最も大きかったモモンガ的TOP3(暫定)では三位にランクインしている、一位はペストーニャで二位はデミウルゴスだ。

 

(…思えば最初に玉座の間でセバスを見た時ビックリしちゃって『誰だお前えええ!?』って言ったの謝ってなかったな…)

 

「う、うむ。良く来てくれたセバス──あぁ…その、話を進める前にセバスに謝らなければならない事がある。昨日は『誰だお前は』なんて言ってしまった件についての事だ、混乱していたとは言え決して言ってはならぬ言葉をお前に浴びせてしまった、済まなかったセバス」

 

「め、めっそうもございませんももんがさまっ!このせばす!たとえももんがさまがぼくをおぼえていなくてもかわらぬちゅうぎをささげるしょぞんでありますっ!」

 

(……な、なんて良い子なんだセバス、しかもちょっとがんばって大人になろうと背伸びしてる感が、こう、なんというか尊いな…たっちさんが見たら喜ぶんじゃないか?………むっ、折角良い気分になっていた所だったのに…こういう時に精神が沈静化されるのは少しムカつくぞ)

 

 テンションが急上昇したのも束の間、即座に沈静化されてしまった事に苛立ちを覚えてしまうがこればかりはセバス達の姿と同様に慣れていくしかない、まだ原因の特定は出来ていないが恐らくはアンデッド全般の種族特性か、もしくは死の支配者(オーバーロード)の種族特性のどちらかだと思われる。

 

 同じアンデッドであるシャルティアやユリには精神の鎮静化が起きている様子が無いので後者の線が濃厚だが確証には至っていない、更なる検証が必要だとモモンガは考えるが生憎今は時間が限られている。

 

 だが、もしそうであるならばこの精神鎮静化問題とは末永い付き合いとなる、少しずつでも折り合いを付けていくべきだろう。

 

(そういえば深く考えてなかったけど…配布されたマジックアイテムの効果時間ってあるのか?説明文あまり見ずに使っちゃったから覚えてないな…)

 

 もしマジックアイテムの効果適用時間が無制限だった場合、今は新米パパのような心境なので心底楽しいと思えているが、これが何十年、何百年と続いたらどうなるだろうかとふとモモンガは考える。

 

 遥か未来の自分はNPC達(子供達)の育児に疲れ切っていやしないだろうか、育児ノイローゼに陥って無理心中を図るなんて事になったりしないだろうか。ナザリックを捨てて立ち去るなんて事になったりしないだろうか。

 

(さ、流石にそんな未来まで今のままだったら自信が無いぞ!?)

 

 結婚経験なぞある訳が無いし更には恋愛経験も無い童貞である、そんな自分に百人に迫りそうなNPC達(子供達)の育児なんて「それなんて無理ゲー?」状態だ、モモンガは今になって漸く責任の重大さに気付くのであった。

 

「ももんがさま?」

 

「あ、ああすまない…少し考え事をしていた…──ありがとうセバス、では報告を聞こうか」

 

「はいっ!」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 セバスの報告を聞き終えたモモンガは、頬に傷のある男を引き摺りながら各階層の様子を見つつとある場所を目指していた──この世界に来た直後の事を考えながら。

 

 折角最期なのだからサービスが終了する前にこの瞳に刻み込んでおこうと役割上動く事の出来ないNPCを除いた主要NPC達を玉座の間に召集していたのは不幸中の幸いだったに違いない、さもなければ全階層を駆けずり回る結果になっていただろうからだ。

 

(……使用した直後に視界が暗転したのはビックリしたなぁ…まぁ処理が重いから仕方ないんだろうけど)

 

 流石にあれだけの数のNPC達に影響を及ぼす効果を持っているマジックアイテムである、使用した直後に視界が暗転しロード中と表示されるのも納得してしまうというもの。

 

(…多分その時にサービス終了しちゃったんだろうなぁ)

 

 思えば、その時に零時を越えてしまっていたのだろう。視界が復帰する直前に聞こえてきた部屋一杯に響き渡る泣き叫ぶ声と、視界が復帰して幼児化したNPC達の姿を見たモモンガが口をポカーンと開けて数秒フリーズしてしまうのも無理はなかった。

 

(……ゲームの頃から自我があったのか?じゃないといくら幼児になったとはいえ何の理由も無く泣き叫ぶ事なんて無いよな?わかんないけど…)

 

 彼等がどのような思いで此処にいるのかを、NPC達の胸中を知る術をモモンガは持ち合わせていない。

 

 一人寂しく二度と戻って来る事のない立ち去って往った仲間達の名前を呟くモモンガの姿を彼等は一体どの様な思いで見ていただろうか、きっと創造主に捨てられた事を理解して形振り構わず泣き叫びたい衝動に駆られていたに違いない。

 

 しかし彼等は考えた、──最後まで残られていたモモンガ様が至高の御方々を失った悲しみに堪えて今でも自分達を見捨てずにこの地に残ってくれているのだから、私達が悲しみに暮れる訳にはいかないと彼等は湧き上がる衝動を寸での所で堪えていたのだ。

 

 だがそんな彼等の決意を知る由もないモモンガが使用したマジックアイテムによって、その決意は呆気なく決壊してしまうのであった。

 

(…そういえば皆は幼児化しちゃったけど俺だけ何の変化もないよな?使用者には効果は及ばないのか?)

 

 考えても考えても分からない事だらけである、そしてそれを知る術はもう失われてしまった。となれば何時までも過去の愚行を悔いていても仕方が無い、子供達を元に戻す手段を探す為に行動を起こすべきである。

 

(…この人間が良い情報を持っている事を願うしかないか~)

 

 未だに目覚める気配の無い魔法詠唱者(マジックキャスター)らしき筋骨隆々な男を片手でひょいっと持ち上げて全身を舐め回すように観察する。

 

 高級そうな法衣、数十人の部隊を指揮する隊長、国の貴重な「切り札」である水晶型のマジックアイテムを渡される程の地位、以上の要素から比較的地位の高い人間なのではとモモンガは推測する。名前を聞く間もなくアルベド達がおっぱじめてしまった為未だに名前を知らないのは…まぁこの際かまわない、ニューロリストに吐かせて貰えればそれで良いのだ。

 

(頼むぞ~有益な情報持っててくれよ~、じゃないとセバスのお願いを聞いた意味が無くなってしまう)

 

 子供達をなんとか寝かし付けて暫く経った頃、遠隔視の鏡を使用して周辺の様子をセバスと共に偵察していた時の事だ。

 

 遠隔視の鏡の操作に四苦八苦しつつも小一時間掛けてカルネ村を発見したまでは良かった。

 

 だがその村が襲われているのを見たモモンガは即座にカルネ村への接触を断念する方針に舵を取る、理由は単純、今はまだ外に目を向けるには時期尚早だからだ。

 

 しかし既に事態は動き始めていた、カルネ村の惨状を目撃したセバスは父親譲りの正義感を露にしモモンガに懇願したのである「たすけにいきましょうももんがさまっ!」と。

 

 そんなセバスに父親であるたっち・みーの面影を見たモモンガはセバスの懇願を受け入れる事にした、そうする事でたっち・みーの恩義に報いる事が出来ると、そしてセバスを自身の身勝手な理由で創り変えてしまった己の罪を少しでも贖う為に──モモンガはカルネ村への介入を決意する。

 

 というかそうしないとセバス自身が今にも飛び出していきそうな感じだったのでどの道変わらなかったかもしれないが。

 

 モモンガとセバスだけでカルネ村に向かう事になっていればカルネ村の運命は大きく変わっていたのかもしれない。セバスに注視していた事も原因の一つなのは間違いないが、カルネ村が切迫した状況であり一刻の猶予も無かった事も後の惨劇を作り出す原因となっていたのもまた事実だろう。

 

 …コソコソと二人の様子を少しだけ開いた扉の隙間から覗いていた複数の視線に、二人は終ぞ気付く事が出来なかったのだ。

 

 

◇◆◇

 

 

 

「ニューロリスト、お前に頼みたい事が…うお!?」

 

 ノックもせずに扉を開け放ったモモンガが悪いのは誰の目から見ても明らかだが、如何せんその先にいる人物が人物なので同情の念を禁じえない。

 

「あらやだん!ももんがさまがきがえちゅうにたずねてくるなんてん!や~っとわたしのみりょくにきづいてくれたのねん!」

 

 幾分身体の縮んだニューロリストがボンテージを着用しようと四苦八苦している姿を見たモモンガは慌てて扉を閉める。──入浴でもしていたのだろうか、水死体の身体からは花の良い香りが漂っていた。

 

「す、すまん!!」

 

 ニューロリストの性別は中性、故に男性の特徴である股間の一物や女性の象徴である胸の脂肪もバッチリ備わっているのだが、モモンガとしては性格や言葉遣いが完全に女性のそれであったので女性として接していた。慌てて扉を閉めたのも女性の生着替えを覗いてしまったという自責の念に駆られての事だ。

 

 だが彼はバッチリと見てしまった、水分を多く含んだ所為で肥大化したそれらが振り返った際にバルンバルンと揺れる様を。

 

(……………吐きそう)

 

 壁に手を付き項垂れる、実際に吐く事は最早不可能な身体な訳だが…そう、気分の問題だ。

 

「ももんがさま~ん、はいってもよろしくてよん」

 

 改めて部屋の主から入室の許可が下りたので沈んだ気分のまま再び扉に手を伸ばし開け放ったモモンガはニューロリストと再会を果たす。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 ニューロリスト・ペインキル。

 

 ナザリック地下大墳墓特別情報収集官──別名、拷問官とも言う。

 

 《ユグドラシル》では唯の自己満足のフレーバーテキストであったが、この世界ではそのフレーバーテキスト通りに沿って行動する者が数多く存在する、中にはフレーバーテキスト自体が無い者もいるのだがそういった者達は創造主達の性格や行動を真似る傾向にあるらしい。九階層のスイートルームで仲良く遊ぶプレアデスの姉妹達や守護者達を眺めていたからこそ気付いた事であった。

 

 そしてこのニューロリストはナザリックに連行された捕虜達から情報を引き出す為の拷問を得意としているNPCだ。

 

「この人間から情報を引き出して欲しい、それが終わり次第報告書を作成してセバスに渡しておいてくれるか?私は各階層の確認をしなければならんのでな」

 

 そう言ってモモンガは片手に持っていた男をずいっとニューロリストの目の前に差し出した。

 

「わかったわん!おねえさんにまかせてよん!」

 

「う、うむ…任せたぞニューロリスト。良い報告を期待している」

 

 どうにもニューロリストのペースに慣れる事が出来ない、というか若干苦手意識すら芽生え始めていたので会話もそこそこに足早に拷問部屋を後にする事にした。

 

「やっぱりオママゴトといったらごうもんよねん」

 

(……オママゴトと言ったらやっぱり拷問だよねって何そのパワーワード)

 

 ツッコミ所満載だったがモモンガはその衝動をぐっと堪える、これが拷問のスペシャリストであるニューロリストのやり方なのであれば素人である自分が口を出すべきではないだろう。ここはプロに任せておくべきだ、モモンガはニューロリストに強制的に叩き起こされた男の悲鳴をその背に浴びながらその部屋から逃げるように立ち去って行った。

 

 後に残されたのは、がっちりと手足を拘束され衣服を全て剥ぎ取られた男とクネクネと拷問危惧の準備をするニューロリストのみ、薄暗い良い雰囲気の密室に男女(?)が裸で居ればこれから始まるのは一つしかない。

 

──そう、オママゴト(拷問)である。

 




ニューロリストの口調がわからない、キングボンビーみたいになってもうた(。・ω・。)あってる?







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