「ないてゆるしをこいなしゃい!おろかなにんげんっ!」
「お、御許しをっ!!も、もう動けません!に、肉が裂けてっ!?ああああ!!」
ああ──どうしてこのような事になってしまったのだろう、時を巻き戻せるのであれば今すぐにでもあのアイテムを使う前の時間に戻りたいと、怪しげな仮面と黒を基調としたローブを纏う
(何の考えもなしに配布されたアイテム使っちゃうなんて…ああもう俺の馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿っ!)
自暴自棄に陥っていなければ──、
普段の冷静な自分で居られたならば──、
仲間が誰か一人でも来てくれていれば──、
自らの愚行を止めてくれたかもしれない、そんな「たられば」ばかりが頭に浮かんでは消えていく。しかしそれらはもう叶わない願いである、賽は投げられた後であり最早自らの道は前進しかあり得ないのだ。
彼は──、モモンガという一人の男は嘗ての仲間達が遺していった
しかしそれ自体に然したる不満は無い、元の世界では職場と自宅を往復する毎日で生きながら死んでいる生活を送っていたのだから、それに比べれば今居る世界の方が何百倍も良いのは確かな事である。
だがしかしだ、新たな世界に生まれ変わったと言う事は新たな問題が発生する事も意味している。まぁそれは自分自身の愚かな行為による所為でもあるのだが、とにかくそれが一番の問題点であった。
「わりゃわのかわいいけんぞくたちっ!ももんがしゃまにはむかうおりょかものたちをたべるでありんしゅ!」
「ひ、ひいいいいい!!」
目の前の惨状から眼を背けて真横に視線を寄越せば、突っ立ってドン引きしている傭兵風の男達の姿。何か言いたげな表情でモモンガを見る者達も少数いるようで、その視線を感じたモモンガは努めて冷静に、──見て見ぬ振りをした。
(あ、うん。言いたい事はわかるよ?けど今は何も言わないでくれると助かるな。俺自身どうしたらいいのかわかんないんだからさ)
あの元居た世界で他人を気に掛ける余裕なんかある訳が無い、増してやそれが子供となれば尚更の事だ。家庭を持ち清浄な空気に満たされているアーコロジー内で生活している家族であれば、子供に対する対処の仕方も自然と身に付くのだろうが。
(あ~たっちさんのように俺も家庭を築いていればなぁ…)
しかし悲しいかな──モモンガに色恋沙汰の青春話が降り掛かる事は無く、下半身にぶら下がっていた相棒も唯の一度の活躍の場も与えられぬまま姿形を掻き消してしまった。思わず相棒の居た位置を弄るが手に触れた感触は布一枚だけであり、かえって残酷な現実を見せられる結果に終わってしまい空しくなってしまう。
そんな彼の元へ──いや、モモンガと傭兵風の男達が居る所にトテトテと可愛らしい擬音が付随された二人のダークエルフの姉弟が近寄ってくる。
両者が片手でずるずると引き摺っているモノの存在が無ければ、その姿は大変微笑ましい光景だろう。モモンガ自身も「見て見てパパ!四つ葉のクローバー!パパに上げる!」なんて言われれば喜んで受け取っていたに違いない。
唯、問題のその四つ葉のクローバーは手の平に収まるサイズではなく、それどころかダークエルフの姉弟の身長の優に二倍以上はあろうかと思われる息も絶え絶えの、──
四つ葉のクローバーは希望・誠実・愛情・幸運を象徴にしているのに対して、目の前に差し出された
確かに彼等が今現在遭遇している状況はまさにその言葉通りだ、彼等はその身を以って
「ももんがしゃま!このものたちはなざりっくへとおくってこのよにうまれてきたことをこうかいさせてやるべきでしゅ!」
「そ、そうでしゅ!」
と、キラキラした瞳でモモンガの膝ほどの身長のダークエルフの双子が
きっと。多分。
「良い子だアウラ、マーレ、この者達はナザリックへと送ってニューロリストに引き渡すとしようか。新たな情報が手に入るかもしれんからな」
「ももんがしゃまにほめられたっ!やったー!」
「あ、ありがとうございましゅ!」
「ははっ二人共、何か褒美はいるか?大事な情報源を捕まえた褒美をあげるぞ?」
「良いんでしゅか!?」
「お、お姉しゃん…どうしよう?」
「んと…んと…だ、抱っこが良いでしゅ!」
「ボ、ボクも!」
随分と小柄な──いや以前のアウラとマーレも小さく愛らしい姿ではあったが、今の姿はもっと小さく可愛らしい。
「構わないとも──さあ二人共、私の腕につかまれ」
「「えへへっ」」
ゲームだった《ユグドラシル》の世界では当たり前であったR18要素が、この世界では解除されている事は既に確認済みだ。このようにモモンガがNPCではあるが異性であるアウラを抱っこしてもハラスメント警告によって垢バンされる事は無くなっている。きっとこの事実を
(…確かにこの可愛さは殺人級だな、ペロロンチーノさんの言っていた事も今なら少しは理解出来るかも)
これが俗に言う『バブみ』と言う物だっただろうか、確か昔ペロロンチーノが『マーレを見ているとバブみを感じてオギャりたい気持ちになってくる』等と言っていたのを頭の片隅に思い浮かべるモモンガ、成る程この感情がそうなのだろう、何か業の深い世界を覗いた気分ではあるが。
「むっ、マーレ?頬に血が付いているじゃないか、ちゃんと拭き拭きしないと…、済まないがアウラ少し降りてくれるか?両手が塞がっていては血を拭き取る事が出来ない」
「あぅ…わ、わかりました…」
「…あまり落ち込んでくれるなアウラ、あとで必ず遊ぶ時間を作ると約束しよう」
「──は、はいっ!」
…良い笑顔だ、率直にモモンガはそう思っていた、矢張り子供は笑顔でなくてはならない。
とりあえずアルベドとシャルティアはまだ遊び足りない様子だしこのまま放置しておいても構わないだろう、その際に生じる二次災害は無視するとして。モモンガは綺麗な布をアイテムボックスから取り出してマーレの頬に付いた血を拭き拭きし始める。
「モモンガ殿!!最早彼らに敵意は微塵も存在しない!どうか子供達を止めて頂きたい!!」
そんなモモンガへ声を掛けたのは傭兵集団のリーダーである男であった。事前に聞いた彼の名前はガゼフ・ストロノーフと言い近隣にある国家、リ・エスティーゼ王国の戦士長を務めている男なのだとか。
「むっ、いやしかしだな…アルベドとシャルティアもまだ遊び足りないようだし…」
「人の命をなんだと思っているのだ貴殿は!?敵とは言えこのような殺され方があって良い筈がないだろう!モモンガ殿に慈悲は無いのか!?」
(おおう、いやそうは言われてもなー)
《ユグドラシル》でプレイしていた自身の分身、──
モモンガにとってナザリックに属するNPC達以外が死のうがどうなろうが知ったこっちゃないのだ。
「──よしっ、綺麗に拭き取れたな…ふう、分かったよ戦士長殿。そろそろお昼寝の時間だしな」
マーレを地面に降ろしながら答えられた望みどおりの返答に安堵の表情を浮かべるガゼフ、その理由に些か物申したいところではあるがぐずぐずしていては本当にスレイン法国の人間達が全滅してしまう。
いや既に全滅しているかもしれない、既に見渡す限り無事に立っている人間は皆無であった、倒れ伏すスレイン法国の
「アルベドー」
「ひゃいっ!」
一人の男に馬乗りになって尻を叩くという──所謂お馬さんゴッコを楽しんでいたアルベドがモモンガの声に即座に反応して一目散に駆け出していく。
情け容赦ない音速を超える鞭の連打を浴び続けていた尻の肉は見るも無残に削ぎ落とされてしまっており、血に塗れた尾骶骨がお陽様の元に曝け出された男の姿が明らかとなる。
「──っ!!」
「マジかよ…」
「…何と残酷な」
どれだけ鍛えていようがLv100の暴力を受け続けては耐えられる訳が無い、男は既に事切れておりその表情は絶望と苦痛に染まり切っていた。
その悲惨な状態に絶句するガゼフ達。
そしてシャルティアはと言うと召喚した眷属達を使って捕まったが最後、その場で食い殺される命懸けの鬼ごっこで遊んでいた。狼のような黒い影に覆われた眷属が次々と男達に飛び掛ってはその喉元を食い破っていくその様は正に地獄絵図と言う他無い、しかもその惨状を起こしているのが幼い女子であるのだからガゼフ達にとって性質の悪い悪夢にしか見えないだろう。
血飛沫が舞って四肢が舞う中に一人佇むは幼い女子、シャルティアだ。
その表情は愉悦に染まり切っており、三日月に歪んだ口は裂けているのではないかと思う程。決して幼女がして良い表情では無い、唯一の救いなのはシャルティアがモモンガ達に背中を向けている事だろう、そのお陰でシャルティアのあられもない顔が見られずに済んでいるのだから。
(しっかしこうやって見るとペロロンチーノさんもとんでもないNPC作って逝ってくれたもんだよなぁ)
──死んでません。大事な事なのでもう一度言おう、死んでません。
一部のマニア達にとっては「我々の業界では御褒美です!」と言うのかも知れないがこれは明らかに度が過ぎている行為だ、少なくともガゼフ達にとっては。
「シャルティアー」
「はいでありんしゅ!」
自身を呼ぶ声にアルベド同様即座に反応したシャルティアが転移魔法を行使してモモンガの頭上に姿を現した、あわよくばそのまま至高の御方に抱き留めて貰おうという子供故の可愛らしい動機が微笑ましい。
「おっと」
「わたしがゆいいつしはいできぬいとしきももんがしゃまぁ…わたしのすべてをしゃさげるでありんしゅ」
言葉足らずながらもモモンガの胸の中で愛を囁くシャルティア、其処へ駆け寄ってきたアルベドが鬼の形相でシャルティアに暴力的な言葉をお見舞いしていく。
「びっち!あばずれっ!やつめうなぎっ!○□▲×□!はなれなしゃい!」
「おーっほっほっほっ!ごりらはじめんにはいつくばってるほうがおにあいでありんしゅ!」
モモンガの足元でぴょんぴょん飛び跳ねながら放送禁止用語を次々と放っていくアルベドに、シャルティアは余裕綽々とばかりに高笑いしてアルベドを見下ろしていた、否、見下していると言う表現の方が正しいか。
「こらこら、二人共仲良くしなさい」
ほんわかムードのモモンガワールドではあるがその周囲は悲壮な雰囲気となっている、アルベドとシャルティアが主の元へ戻ったお陰で漸く生存者の捜索を開始する事が出来たのだ。
しかし結果は、まぁお察しの状況である。
「副長、生き残りはいたか?」
「戦士長…生存者は皆無、生き残りは彼等の足元に居る二名だけです…」
ガゼフから副長と呼ばれた男が答える、矢張りと言うべきか予想通りの返答にやるせない気持ちに溢れるガゼフ、自分達の命を狙いに来たとは言え…この死に方は敵ながら同情してしまうものがあった。しかしながら自分達を殺す為だけに無関係な民達を巻き添えにした事を許すつもりは無い。
(…しかしどうしたものか、唯一の生き残りはモモンガ殿が捕らえたあの二名のみ。出来れば犯人として王都へ連行したいところだが…)
問題は果たしてモモンガがそれを許すかどうかだ、村を救ってくれた恩人として出来れば穏便に済ませたい、というか選択肢を間違えれば次は自分達が彼等のあとを追う事になるのは明白だ。
「…モモンガ殿、申し訳ないのだが貴殿が捕らえたそこの二名、いや一名だけで構わない。私達に任せては貰えないだろうか?」
八つの瞳がガゼフを見上げる、モモンガの周囲できゃっきゃっうふふと戯れていた
戦士としての勘が囁いている、これ以上口を開けば即座に殺されると──。
(こ、これ程とは…)
彼等は、兵器だ。
唯、主の命令に従い、主が敵と定めた敵を、黙々と殺戮するだけの意思を持った兵器。遭遇してしまえば最期、無邪気な暴力が自らに降り掛からぬ様祈る事しか出来る事は無い。
襲い来る圧倒的なまでの重圧が、このまま踏み潰されてしまうのではないかと思ってしまうほど重圧がガゼフ達に重く圧し掛かる。
「──ああ、構わないとも。一人いれば情報は手に入るだろうし…じゃあこっちの頬に傷のある男は頂いていこうかな」
両肩にアルベドとシャルティアを乗せ、両腕でアウラとマーレを抱き抱えたモモンガが軽い口調でそう答えると、今まで感じていた重圧が嘘であったかのようにふっと和らいでいく。
「あ、ああ。…協力に感謝するモモンガ殿」
「それじゃあ私達は帰らせて貰おう、子供達を寝かし付けなくてはいけないからな。村の人達に宜しく伝えておいてくれ戦士長殿。──
開いた
「さて、昼寝の時間だなお前達…セバスは大丈夫だろうか…全員寝かし付けてくれていると助かるんだが」
モモンガの腕の中の二人は既に夢現な様子だ、両肩に乗っている二人も器用にバランスを保ちながら夢の中へ旅立とうとしていた。
「帰ったら全員分のミルクを用意して…オムツ…はどうなんだ?全員排泄するのか?ううむ…分からない事だらけだが…存外に楽しいなこれは」
まさか自分が育児に悩む瞬間がこようとは夢にも思っていなかった、最初こそ糞運営に文句を言っていたモモンガだが、何時の間にやら今の状況を楽しんでいる自分がいる事に気付く。
「そうか、これが〝親〟という気持ちなのか…ふむ、まぁ──悪くない」
モモンガ様を今流行のTS女体化してやろうかと思ってたけど書き直しちゃった。
幼児化したNPC達に母性本能でキュンキュンしてしまうモモンガ様…見たい、見たくない?誰か書いて(。・ω・。)