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# 自衛隊

友人と酒を飲むのもNG…自衛隊の秘密情報部隊「別班」をご存じか

帝国陸軍から引き継がれた負の遺伝子

プレッシャーで〝壊れて〟しまうエリートたち

身分を偽装した自衛官に海外でスパイ活動をさせている、陸上自衛隊の「別班」という非公然秘密情報部隊をご存じだろうか。

「別班」は、ロシア、中国、韓国、東欧などにダミーの民間会社をつくり、民間人として送り込んだ「別班員」にヒューミント(人的情報収集活動)を展開させている。日本国内でも、在日朝鮮人を抱き込み、北朝鮮に入国させて情報を送らせる一方、在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総聯)にも協力者をつくり、内部で工作活動をさせている。

たしかにアメリカのDIA(国防情報局)のように、海外にもヒューミントを行う軍事組織は存在する。しかし、いずれも文民統制(シビリアンコントロール)、あるいは政治のコントロールが利いており、首相や防衛相がその存在さえ知らされていない「別班」とは明確に異なる。

張作霖爆殺事件や柳条湖事件を独断で実行した旧関東軍の謀略を持ち出すまでもなく、政治のコントロールを受けずに、組織の指揮命令系統から外れた「別班」のような部隊の独走は、国家の外交や安全保障を損なう恐れがあり、極めて危うい組織といえるのだ。

 

そうした組織の一員=別班員になるためには、陸上自衛隊小平学校(現・情報学校)の心理戦防護課程という、特殊な教育・訓練をするコースを修了する必要がある(このコースは、謀略・諜報・宣伝・防諜といった、いわゆる「秘密戦」に従事する特務機関員や情報将校を養成するための教育訓練機関として設置された、旧陸軍中野学校の流れをくんでいる)。

詳細については拙著『自衛隊の闇組織――秘密情報部隊「別班」の正体』(講談社現代新書)に譲るが、心理戦防護課程に入るための面接試験では、「休憩時間に行ったトイレのタイルの色を言え」と尋ねられたり、大陸の形だけが描かれた世界地図を示して「X国の位置を示せ」といった質問がされるという(いずれの問いも、中野学校の入試問題と酷似している)。

同課程を首席で修了した者のうち、一定の基準に達した人しか名を連ねることができないほどのエリート集団=別班には、厳しい掟があるともいう。いわく、出身校の同窓会や同期会には出席するな、友人と呑むな、年賀状は出すな、近所付き合いも禁止、自宅には表札を出すな、通勤ルートは毎日変えろ……。

外部との接触を完全に断つよう要求される別班員たちは、ものすごいプレッシャーを受けており、班員の半数ぐらいは、精神的に、あるいは社会的に適応できず、〝壊れて〟しまったという。誰にも言えない、違法な仕事をさせられているのだから無理もない。「こんな非合法なことはできない」と辞める別班員もいたようだ。