僕のヒーローアカデミア~ジンオウガの章~   作:四季の夢
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お見合い回だと思った?――残念、轟くん回でした!

428では御法川 実が一番好きなキャラな私です('ω')ノ

低評価爆撃が過激になってきたぜ……! 上等だ!(;゚Д゚)


第十七話:ライバルとの一時

 ヒーロー名・体験先の話があった日の夜。

 竜牙が部屋でネットサーフィンをし、猫折さんが夕飯の食器を片付けていた時だった。

 竜牙の家のチャイムが鳴り響き、猫折さんがその対応をする。

 それがいつもの光景なので、ここで竜牙が動くこともなかった。

 しかし、今日はいつもと違う事になる。

 

 ドタバタと合格通知の時の様に部屋の外が騒がしい。それからすぐに扉の叩く音も響いた。

 

「りゅ、竜牙さん!? 大変です!」

 

「どうぞ……」

 

 竜牙の言葉を聞くと猫折さんが焦った様子で部屋に入室。その手には何やら大きな封筒を持っていた。

 

「竜牙さん!? 今さっき旦那様の使いの方が来てこれを!」

 

「封筒?」

 

 猫折さんから受け取った封筒は地味に重く、竜牙は中身を取り出すと、現れたのは真っ白な写真入れと手紙。

 

「……写真だ。一体、誰だ?」

 

 竜牙がそれを開くと、そこには一人の女性の写真が飾られていた。

 真っ白な髪の中にある微かな赤み。落ち着いた様子の姿であり、思わず見ている方も落ち着いてしまいそうだ。

 だがそれだけでは意図が分からない。事実上の絶縁状態の父親からの使い。

 写真で何となく察したが、やはり今更感があって信じることが出来ない。

 だから竜牙は手紙に手に取り、それを読んで行く。

 

「……今更なんで?」

 

 その内容を読み、竜牙は思わず頭を抱える。

 手紙に書かれていたのは――“お見合い”・そして相手の名前や親族についてだ。

 そして、その名前を見た時、竜牙は我が目を疑った。

 

「これは……」

 

「竜牙さんどうしました?」

 

 無表情だが様子がおかしいのは気づける。猫折さんが竜牙に尋ねると、竜牙はやや悩んだ表情でベッドに腰かけてしまった。

 

「……猫折さん。少しだけ一人にしてほしい」

 

「えっ――はい、分かりました」

 

 猫折さんは何かを察した。

 いつもと違い、竜牙は何かを一生懸命考えている。

 ならば自分が出来ることはまずは竜牙を信じてあげ、力を貸してほしいと言われたら全力で貸せば良い。

 猫折さんは頭を下げて退出。部屋に残ったのは竜牙だけだった。

 

 

▼▼▼

 

 竜牙が部屋に篭ってから2時間が経過する。

 猫折さんはその間、家のやる事を行いながら竜牙が出てくるの待っていた。

 しかしそろそろ煮詰まってしまうのではないかと思い、猫折さんがお茶を作り出した時だった。

 

 不意に部屋の扉が開き、竜牙が出て来た。

 その表情はどこか疲れ果てているが、まるで意を決した表情で顔を上げる。

 

「猫折さん……頼みがあるんだ」

 

「……なんでしょう」

 

 真剣な表情の竜牙に、猫折さんも覚悟を決めた様に頷く。

 だが、その内容はあまりにも覚悟が重いものだった……。

 

 

▼▼▼ 

 

 

 翌日、雄英高校A組の教室で行われている朝のHRの時間。

 

「……という訳で雷狼寺は事情があって二、三日休むことになった」

 

「休み?」

 

 轟とクラスが若干ざわめく。

 雄英とはいえヒーロー科だ。二、三日の差はあまりにも大きく、それが分からない竜牙ではない。

 ならばそれだけの事情なのだと思う事にするが、轟等の一部のメンバーはただ違和感しか感じなかった。

 

――そして翌日も竜牙休んだ。

 

▼▼▼

 

――都内に佇む一軒の和風の家、というよりも屋敷。

 そこが轟の家だった。

 

(雷狼寺の奴……今日も来なかったな)

 

 本当ならば体験先の事で話がしたかったが、今日も竜牙は休んでしまった。

 轟の第一候補、そこは実の親であるエンデヴァー事務所だ。

 思う事があるが、それでもエンデヴァーは確かなNo.2の実績を持っている。

 だからそこを選ぼうとしているのだが、緑谷と竜牙には話を聞いてほしく思っていた轟だった。

 

 そんな中での帰宅。いつも通りの風景であり「ただいま」と言いながら、轟が玄関の戸を開けるとそこには珍しく、姉である冬美の靴があった。

 

(今日は早いんだな……)

 

 姉である冬美は小学校の先生だ。だから時間的に考えて、この時間にいるのは珍しい。

 なんか学校であったのかと轟は思ってしまい、せめて顔は見ておこうと気配のする居間へと向かうと見つけた。

 何やら肩を落とし、悩んだ表情の姉の姿を。

 

「はぁ……う~んどうしたものかなぁ……?」

 

 何やら写真を見ながら頭を抱えている冬美の姿に、本当に珍しい光景だなと思いながら取り敢えず轟は声を掛けることにした。

 

「……ただいま」

 

「!――あっおかえり!? 今日は早かった……ね?」

 

「?……早いのそっちだろ」

 

 やはり様子が変だ。いつもならば母代わりの様に口うるさい姉がやけに挙動不審。

 轟は思わず近づくと、冬美は慌てた様子でテーブルの上の写真を隠そうとする。

 しかしそれがいけなかった。慌てた時の反動で風が起こり、フワリと写真が浮いてしまった。

 

「あっ!」

 

「なんだこの写真?」

 

 しかもそれは轟の足下に落下。冬美が取るよりも先に轟が拾ってしまった。

 拾うだけならまだ良いのだが、しかしその写真の人物は見逃せない相手だった。

 

「!……雷狼寺?」

 

 そうそれは竜牙の写真だった。

 隠し撮りなのだろう。何故か本屋で立ち読みしており、隣には峰田も写っている。

 けれども光景は別にどうでもいい。問題は何故、そんな写真を姉が持っているかだ。

 冬美が隠し撮りする筈もなく、轟は怪しむように姉を見ると、冬美は観念する様に溜息を吐いていた。

 

「バレちゃったか。……実はね――」

 

 冬美は轟に全てを話した。

 父親が勝手にセッティングしたお見合い。そしてこの写真の相手――竜牙がそうなのだと。

 そんな衝撃的な事を聞かされてた轟は、思わず言葉を失ってしまう。

 

「雷狼寺と……見合い?」

 

 姉がクラスメイトと?

 あまりこういう展開に慣れていないが、思ったよりも複雑な気分になるものだと轟は頭を抑える。

 

「やっぱりクラスメイトの子だと気まずいよね?」

 

「多分そうだと思う。……そもそもなんでアイツは見合いなん――」

 

 そこまで言った時、轟は不意に体育祭の時の会話を思い出した。

 

『……ついさっきエンデヴァーが俺の下に来た』

 

『!……何か言われたのか?』

 

『……俺の実家の事や許嫁の有無。――そして俺に、本気で戦って欲しいと言って来た』

 

 許嫁の有無。確かに竜牙はそう言った。

 何故、エンデヴァーがそう言ったのかあの時は気にはならなかった。

 だが実際、それを目の当たりにすれば無関係とは思えない。

 そして、そんな会話だ。轟の脳内にある言葉が今回の件と繋がってしまう。

 

――個性婚。

 

「ッ!――あの野郎!!」

 

 轟は激昂して叫んだ。そしてそのまま今から出ようとするのを冬美が慌てて止めに入る。

 

「待って焦凍! そういうのじゃないから!?」

 

「んな訳ねぇだろ! あの野郎……また繰り返すつもりだ!」

 

 轟は竜牙の家の事を知っている。ならば、母の時の手段を容易に取ることは可能だろう。

 大抵は両親からだが、祖父母の個性を継承するのも珍しくはない。

 ならば突然変異とはいえ、あのエンデヴァーが竜牙の個性を狙うのは安易に考え付いた。

 

「雷狼寺だって色々と悩んで乗り越えたんだ!……なのにアイツはそれを簡単に踏みにじって――」

 

「まずは落ち着きなさい!……たとえそうだとしても、私はちゃんと断るつもりだから大丈夫!」

 

「断るって……あの野郎は認めねぇだろ?」

 

 この轟家を支えていると言っても過言ではない冬美。

 彼女がしっかりしているとはいえ、相手はあのエンデヴァーだ。無理矢理も可能性にある。

 

「大丈夫!……それに焦凍がそこまで言うって事は言い子なんだね。だったら尚更、断らないと。こっちのせいでその子の人生は奪う訳にいかないもの」

 

 その言葉に轟は黙った。

 しっかりしていて、唯一父親ともまともな関係を築いているのは冬美だけ。

 その姉がここまで言っているのだから、もしかしたらと轟も少しは思った時だった。

 玄関の扉が開く。

 

「帰ったぞ!」

 

 エンデヴァーが帰宅した様だ。

 そのままズシズシと足音を鳴らし、居間までやってくると轟を真っ先に捉える。

 

「おぉ焦凍……帰ってたのか?」

 

「雷狼寺と見合いさせる気なのか……?」

 

 返事はせず、無意識のうちに目線が鋭くなる轟。

 その後ろで冬美が雰囲気が悪くなるのを感じ、慌ててしまうがエンデヴァーは特に様子は変わらず、平然と答えた。

 

「そうだ。あの個性は更に伸びるぞ? ならば彼はヒーローとして成功するのは確実だ。――となれば冬美を任せる事もでき、将来的には両親の個性を得て素晴らしい子が産まれるだろう!」

 

 相変わらずの自分勝手な言葉だったが、多少は冬美の事を思っている事に轟は安心する。

 だが、その手段はどうしたのかが問題だった。

 

「どうしたんだ?――雷狼寺の親に金でも握らせたのか?」

 

「なんだそんな事が気になっていたのか?……ならば教えてやる。俺は――」

 

――何もしていない。

 

 エンデヴァーはそう言って語り始めた。

 体育祭のすぐ、竜牙の実家である“雷狼寺グループ”の社長である竜牙の父にアポイントを取り、すぐに会いに行ったことを。

 当初、エンデヴァーは金では動かないと判断し、自分の持てる権力と力を材料に竜牙を手に入れようとしていたのだが、実際に会ってそれは無になったという。

 

『好きにしてくれて構わない』

 

 それが竜牙の父が言った言葉。

 見返りを一切求めず、好きにしてくれと言って終わった呆気ない対話に流石のエンデヴァーも驚いたという。

 実の子同士についての会話の筈が、まるでいらないコレクションのトレードの様に安っぽく感じたとエンデヴァーは呟く。

 

「酷い親だったぞあれは……実の子とすら思っていないんじゃないのか?――我が子があんなにも凄い個性を持っているというのに情けない奴等だ。だったらうちが新たな家族になるのが彼にとっても幸せなのではないか?」

 

 その言葉に轟の表情は険しくなった。

 過るのは暗い影を落とす竜牙の姿。仲間の為に両親からの過去の乗り越えたにも関わらず、その実の親は竜牙をなんとも思っていない。

 この父親にすら言われている以上、救いはないと轟が思った時だった。

 

――ピンポーン! と不意にチャイムが鳴り響く。

 

 その音に我に返った冬美は慌ててモニターに近づいて来客を対応する。

 

「はい! どちら様でしょうか?」

 

『突然失礼致します。私、雷狼寺グループの者ですが。――炎司氏と娘さんの冬美さんにお会いできないでしょうか?』

 

「むっ?……なんだいきなり。――まぁ良いだろう出迎えるぞ」

 

「えっお父さん!?」

 

「……雷狼寺グループ」

 

 玄関へ向かうエンデヴァーと後を追う冬美。

 そして竜牙の実家が来た事を気にし、轟もその後を追った。

 

 

▼▼▼

 

 轟が玄関に着くと、そこでは既に玄関に招き入れられた雷狼寺グループの人間――スーツ姿の男性三人がおり、その内の二人がエンデヴァーと対話を行っていた。

 

「なんだ突然?……まぁ良い。まずは上がってくれ」

 

「いえ事はすぐに済みますのでここで結構でございます」

 

「ならば要件を言え」

 

 忙しいのはお互い様だが、それでもせめて一言入れてから来るのが最低限の礼儀だというもの。

 ややイラついた様子のエンデヴァーだが、二人の男性は流すように続ける。

 

「では単刀直入に言いましょう。――お見合いの断りに参りました」

 

「なにっ!?」

 

「えっ!」

 

 エンデヴァーも冬美も勿論、轟もその言葉に驚きを隠せなかった。

 轟と冬美に関しては好都合ではあるのだが、やはり急過ぎて困惑と同時に裏があるのか勘ぐってしまうがそれが逆に二人を冷静にする。

 だが逆なのがエンデヴァーだ。突然の事に頭に血が上ってしまう。

 

「どういうことだ!! 先日と言っている事が違うではないかぁっ!!」

 

 顔面から炎を放出し、強烈な威圧感を出すエンデヴァーに対応した二人の男性はビビッて腰が引けてしまう。

 これではまともに話せないだろうと、轟が呆れた時だった。

 二人の間から一人の男が現れる。

 

「……ここからは私が直に話そう」

 

 そう言って現れたのは白髪の貫録のある男性だった。

 側近がビビる中、この男はエンデヴァーの態度に臆してはいない。

 

「最初からそうして欲しかったですな……雷狼寺 ミキリ殿?」

 

(ッ!……雷狼寺 ミキリ? じゃあ、こいつが雷狼寺の父親か?)

 

 エンデヴァーが男の名前を口にした事で轟は気付いた。

 言われてみれば確かに竜牙にも面影があり、この男が竜牙の父親なのだと。

 

「互いに多忙でしょう。少しは察してもらいたい。――それで話を戻しますが、見合いは無かった事にしたい」

 

「ふざけるな! 好きにしろと言ったのは貴様だろッ!!」

 

「事情が変わったのだ……代わりに迷惑料ではないが、今度我が社の新商品のCMをあなたに出演してもらおう」

 

「いらん!! 人の娘に恥をかかせた者の態度か!!」

 

 いや誰も恥はかいてない。エンデヴァーの言葉に冬美と轟は呆れ半分、同時に父親の意外な一面に驚いているとミキリへ側近の一人が耳打ちをする。

 

「社長……」

 

「あぁ……もう時間か。ではエンデヴァー氏、私はかえらせてもらう」

 

「待て! 俺は納得してないぞ!」

 

「ならば外に出れば良い。今回の理由が分かる」

 

「むぅ……! 良いだろう!」

 

 外に出る程度で事情が判明するならばいくらでも出てやる。

 そんな勢いでミキリの後を追うエンデヴァーと気になって付いてゆく轟。

 そして二人が出て行ってしまったのだ。当事者である自分も行くしかなく、冬美も後を追った。

 

 

▼▼▼

 

 轟達が家の前に出ると、そこには黒光りの高級車と一般的な車の二台が停車していた。

 高級車の方はミキリの物だろう。しかし一般車の方には轟の見覚えのない女性が立っており、轟達が気づくと礼儀正しく頭を下げてきた。

 反射的に轟達も頭を下げるが、その時に気付いた。

 その女性の隣にいる見覚えのある人物の存在に。

 

「雷狼寺……!」

 

「……よっ。凄く良い家だな轟。和風で威厳も感じる」

 

「――フッそうだろうそうだろう」

 

 竜牙の言葉にエンデヴァーが嬉しそうに頷くが、轟はそんな事はどうでもよかった。

 

「どうしてここにいる? お前、昨日から休んでたろ?」

 

「これでも思ったより早く事が済んだ」

 

 相変わらずのマイペースな竜牙に轟は首を傾げるしかない。

 そんな時に竜牙の父親のミキリ達が竜牙達の隣を横切った。

 

「……」

 

「……」

 

 その間際に両者、会話を一切交わさない。ミキリは一瞬だが竜牙に顔を向けたが、竜牙に動きはない。 

 ミキリもすぐに顔を戻してしまい、それで二人の再会は終わりだ。

 まるで他人の様な会話と空気にエンデヴァー達も言葉を失うが、ミキリはそのまま乗車して去って行ってしまう。

 そうなると、残っているのは竜牙と女性――猫折さんだけだ。

 

「どういう事か説明を求めるぞ?」

 

 察したのかエンデヴァーは竜牙の前に立って問い詰めた。

 

「……父親に会ってきました。お見合いを取り消す為に」

 

「なんだと! 何故だ!?……冬美か? 写真で見て冬美を気に入らなかったのか!!――君は知らんかも知れんが冬美は良くできた娘だぞ!――家事は勿論、嫁にはいつでも出せるぞ!!」

 

「やめてお父さん!! ここ外だよ!?」

 

 ご近所迷惑と言うよりも恥ずかしい冬美がエンデヴァーを止めるのだが、別に竜牙は冬美がどうとかいう話ではなかった。

 

「エンデヴァー……あなたは俺の“個性”が目的だったのでは?」

 

「む、むぅ……確かにそうだが、君自身に才能を感じたのもある。君ならば冬美を託せるぞ!」

 

 この度の見合い。エンデヴァーの狙いは個性ではあったが、それだけの為には娘を差し出すつもりはなかった。

 だが竜牙は結果を出しており、年下ともあって娘ならどうにかするだろうと思っての事。

 前科はあるのだが、今回に関しては確かな将来有望な相手を選んだ親心。

 自分が親だからと悪い虫は寄ってこないが、それだけならば娘が婚期を逃してしまう。

 父親として孫は見たいエンデヴァーの結果がこれだ。

 

 しかし、竜牙はその首を横へと振った。

 

「……家族になる相手は自分で選びたい」

 

「……むぅ」

 

 真剣な表情で言い放った竜牙にエンデヴァーも思わず後退り。

 そのまま距離を取ってしまい、その隙に轟が竜牙と話しだした。

 

「雷狼寺……大丈夫だったのか? お前、両親とは……」

 

「会うのに一日掛かったが問題ない。――それに俺は、個性で誰かの人生を狂わせるのが嫌だっただけだ。だからお前が気にする事はない」

 

 轟はその竜牙の言葉に声が出せなかった。

 この間、轟は母に会いに行った。その時でも勇気はかなり必要だったのだ。

 自分と違い、両親との溝が更に深い竜牙が父親に会いに行くのにはどれだけ勇気が必要だったか。

 しかもそれは自分の為ではなく、相手である姉の為であり、同時に事情を知っている自分の為だったのではないかと轟は感じていた。

 

 すると、冬美が二人の下へと近寄ってきた。

 

「えっと……初めましてだよね? 焦凍の姉の轟 冬美です」

 

「雷狼寺 竜牙です。初めまして」

 

「うん、いつも焦凍がありがとね!」

 

「……そういうの良いって」

 

 他愛もない会話をしながら轟が恥ずかしそうにした時だった。

 彼のポケットから写真が落ちた。そしてそれはそのままエンデヴァーの下へ向かい、彼は反射的に掴んだ。

 

(これは……彼の写真か。――む?)

 

 隠し撮りの竜牙の写真。それを見たエンデヴァーは気付いた。

 写真の竜牙だが、その手に持っている雑誌。それはグラビアの雑誌だったのだ。隣の峰田も同じ物を読んでいるが、二人共羞恥心を出しておらず堂々と読んでいる。

 

――まさか。

 

 何かに気づいたエンデヴァーは、そのまま娘である冬美と会話をしている竜牙はジッと見つめて観察を始める。

 そして気付く。――竜牙の視線が時折、冬美の胸や首に向けられている事に。

 至近距離でありながら隠密プロの様に気付かれない動き。無表情だが、何故か嬉しそうに見えるのは気のせいではないだろう。

 

――見合いをさせなくとも堕とせたのではないか?

 

 そう思ったエンデヴァーの考え。実はこれが正しい事に気づいたの流石と言うべきか。

 少なくとも、今回の策は無意味だったのは間違いない。

 

 

▼▼▼

 

 

 あの後、竜牙と轟。そして冬美は近くの公園に来ていた。

 静かな所で話がしたいという轟の考えであり、冬美は珍しい弟の姿を母親に教える為と言って勝手に着いてきた。

 だが、途中でジュースでも買ってくると言って席を外して残った二人はブランコに乗りながら話を続けていた。

 

「……お母さんに会ってきたのか?」

 

「ああ……元気そうだった。――泣いて謝って……笑って許してくれたよ」

 

「優しいな……二人共。そして良かったな手遅れにならなくて。――俺の様になったら本当におしまいだ」

 

「親父さんと会って……どうだった?」

 

 轟は恐る恐ると問いかける。

 

「十年ぶり……だったがそれだけだった。もう親への心が無いんだろう。特に何も感じなかった」

 

「なら双子の妹達はどうなんだ?……いんだろ?」

 

「同じ事。会う機会もなければ、会ってどうすれば良い?――俺の家族は家政婦の猫折さん達だけだ」

 

 竜牙の言葉に轟は黙った。

 もしかしたら、自分が竜牙みたいになっていたかもしれない。

 母から逃げ、父親に憎しみだけを抱き、兄や姉達すら拒絶していたかもしれない。

 そう思うと今になって怖く感じた轟は話を変えることにした。

 

「そう言えば体験先は決めたのか?」

 

「あぁ……第三まで候補は決めたが、やっぱりリューキュウを第一にした。轟はどうだ?……同じぐらい量はあったろ?」

 

「俺も決めた……エンデヴァー事務所だ」

 

 未だに許していない父親。しかしそれでもNo.2ヒーローだ。

 その力・姿を受け入れたかったのだ。

 

「受け入れて……そして盗めるものは盗むさ。俺だってオールマイトに憧れたんだからな」

 

「……お前もなれるだろ。俺がなれるって言われたんだ。ライバルのお前がなれない筈がない」

 

「ライバルって思ってくれてたんだな?」

 

「お前と戦う時はいつもギリギリだからな。……次戦えば負けるのは俺かもしれない」

 

「……そうか。ありがとな」

 

 ブランコを小さく漕ぎながら互いに話し続ける二人。

 夕日も沈み出す中、轟は思い出すように竜牙へノートを差し出す。

 

「そういえば授業、休んでたろ? このノート使ってくれ」

 

「……わるい。かなり助かる。――じゃあ、礼じゃないがこれ見るか?」

 

 そう言って竜牙がノートの代わりに差し出したのは紙袋に入った一冊の雑誌。

 既に封は開けられており、轟が紙袋から取り出す。

 

――それはグラビア雑誌だった。

 

「なんだこれ……?」

 

「俺と峰田と上鳴が愛読している雑誌だ。最近の推しはこの異形系アイドルだ」

 

「……いやそう言われても分かんねぇ」

 

 竜牙が開くページを陣取る異形系グラビアアイドル。

 中々に攻めたポーズを取っており、無表情で竜牙は説明するが、同じく無表情のまま轟は理解できなかった。 

 その後も竜牙が説明し、轟が首を捻る光景が続く。

 しかし、この光景は公園で高校生二人がグラビア雑誌を堂々と読んでいる光景でしかない。

 だからそれがいけなかった。

 

「ふ、二人共……なにしてるの?」

 

 ジュースの缶が落ちた音に引っ張られ、竜牙と轟が振り向くと、そこには震えながら自分達を見ている冬美の姿があった。

 

「……健全な行動」

 

「……健全な行動らしい?」

 

 竜牙の言葉に釣られて轟もそう呟くが、相手は小学校の教師。その教師魂の火がついてしまった。

 

「せめて読む場所は選びなさい!!」

 

 その後、仲良く怒られる二人は帰る間際に色々と雑誌を貸す約束をする。

 竜牙は同志を増やすため。轟は友達との話題作りの為に。

 

「……ところで、冬美さんって凄く美人だな」

 

「……今言うのかそれ?」

 

 帰る間際に呟いた竜牙の言葉を聞き、少し耳郎達の気持ちが知れた轟だった。

 

 

END







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