パプアニューギニア料理と本格手打ち蕎麦の店が青梅にあるらしい
東京都の西側に位置する青梅市。そこに本国と同じ味のパプアニューギニア料理と、本格的な手打ち蕎麦を食べられる店があるらしい。その店の名は「ニウギニ(NIUGINI)」。
パプアと蕎麦。なんだろう、その国際結婚的な食文化のマリアージュは。
青梅で蕎麦はわかる。まだ行ったことはないけれど、きっと水の綺麗な場所なのだろう。問題はパプアニューギニア料理だ。なぜ青梅。いやでも日本中のどこにあっても「えっ!なんでパプア?」ってなるから、青梅でも別に不思議はないか。
▲はるばる来たぜ青梅駅。意外と近かったけど。
初めてきた青梅は、赤塚不二夫と古い映画看板の街だった。のんびりと観光でもしたら楽しそうだなと思いつつ、まっすぐニウギニを目指す。
住所を頼りに地図を確認しながら路地をウロウロしてたどり着いた先は、なぜか清宝院というお寺の敷地だった。まさかこんな場所にパプアニューギニア料理の店があるとも思えない。
本当は「ニウギニ」なんじゃなくて、ウナギ料理の店で「煮鰻(ニウナギ)」なのではと怪しみだしたその時、壁に色褪せた小さな張り紙を発見した。
▲この辺りのはずなのだが……
▲Cafe Niuginiってどういうことだ。
そこには「カフェ・ニューギニ」と書かれていた。パプアニューギニア料理でも蕎麦でもなくカフェ。パプアニューギニアのコーヒーってどんな味なんだろ。
とりあえず人らしき絵の描かれた矢印の方向へと進んでみると、確かにニウギニは存在していた。まさかの寺の敷地内である。
▲青梅なのにバショウの木が植えられたこの家がニウギニらしい。
▲営業中なんだけど、気持ち的な入りにくさがすごい。
▲その姿で純喫茶を名乗るのか。
すごいな、ニウギニ。普通に歩いているとまず辿りつかない立地に、もし見かけても一見さんなら躊躇するかもという外観だ。入店する前からこれだけ情報量の多い店もなかなかないのでは。
どこから入るのか迷ってしまう扉を開けて、勇気を出して中へと入る。店内にはテーブル席が4つ、そして奥にはカウンターがあるようだ。カフェといえばカフェである。
▲怪しさ100点満点の祭壇があるね。
間取り的にはカフェなのだが、どう見ても怪しい祭壇が目に入ってきてしまう。大丈夫かこの店。
とりあえず適当な席に座ると、しばらくして鼻に棒を差したご主人がお冷を持って登場した。
わー。
▲店主のアポ・ファニウファさん。こう見えて青梅生まれの日本人。鼻に刺しているのはパプアで友情の印としてもらったヒクイドリの骨だ。
ええと、どうしようかな。とりあえず心を落ち着かせるためにも、そしてニウギニという店をちゃんと理解するためにも、注文の前にお話を伺っていいですか。
パプアニューギニアに魅せられた男
「すみません、どっから聞いていいのか迷うのですが、とにかくパプアニューギニアが好きなんですよね?」
「私が子供の頃はテレビで世界紀行の番組とかを頻繁にやっていたので、パプアニューギニアは物心ついた頃から憧れの地でした。裸で暮らすなんて考えられなかったので、いつか裸族のいる国にいってみたいなと。それでアフリカは顔が怖いし、アマゾンは前髪がパッツンだしと子供ながらに考えた結果が、パプアニューギニアだったんです」
「パプアニューギニアってどこでしたっけ」
「アフリカだと勘違いしている人も多いですが、オーストラリアの上にニューギニア島があります。その西側がインドネシア領で、東側が1975年に独立したパプアニューギニアです」
▲子どもの頃に憧れた結果、こんな祭壇ができました。
「その憧れの国へ、本当にいったんですね!」
「最初に行こうとしたのが1999年。その頃は大道芸人とか大工をやっていたのですが、チベットなどを回る海外旅行の最後に、やっぱりパプアにいかないと年が越せないだろうと目指したんです。でもいけなかった。ニューギニア島のインドネシア側にコテカ(ペニスケース)をつけて裸で暮らすダニ族がいて、まずそこで一週間ほど一緒に裸で暮らして、その後にパプアへ渡る予定だったんですけれど、そこに凄いダニがいたんですよ」
「話を聞いているだけで、なんだか痒くなってきました」
「全身を刺されて、それが痺れて痒くてどうしようもなくて、これ以上旅をすすめられないなと日本に帰ってきたんです。ダニ族のダニですよ。世界一ひどいダジャレ。痒みが半年以上消えなくて、毎晩体中掻いてベッドを血で濡らしていました。もうみんなから早く医者に行けって言われ続けましたね」
「医者、いかなかったんですか!」
▲ひょうたんで作られたコテカ。先端に紐をつけて、首からぶら下げて保持をする。
「それから日本で内装工事の仕事をやりつつメキシコに行ったりしてたんですけど、ある日の仕事場が旅行会社で、そこの社長がパプアへの直行便が出るよって教えてくれて。じゃあ行くわってチケットをそこで買って。当時はガイドブックも無かったけど、とにかく行けばどうにかなるだろうと。それで行ったらアホみたいに面白い国だったので、一発でハマりましたね」
「ようやく念願のパプアへ。憧れていた裸の生活がありましたか」
「それがパプアニューギニアって、もう裸の部族はほぼいないんです。独立が早く、国民はクリスチャンだったり、ちょっとイメージと違いました。でも村での生活は電気が無かったり、薪で煮炊きをしている。みんな部族の誇りを持っているし、お祭りやお祝いになると、ちゃんと民族的衣装を着て踊るし、古(いにしえ)の文化をずっと守っている。服を着ている、着ていないは関係ないんだなと、自分の中でのわだかまりは消えました」
「ほとんどの日本人が正月やお祭りの時にしか、着物などを着ないのと一緒ですかね」
▲「鼻に棒を差しているのは私だけで珍しがられました」とアポさん。この穴をあけてから花粉症が治ったのだとか。
「向こうでは9月がインディペンデンスデイ(独立記念日)で、日本の正月みたいな感じで祝います。スーパーではレジ打ちのおねえさんが民族衣装を着たり、その店の奥では弓矢を持った泥だらけのマッドメンが徘徊していたり、頭にヒクイドリの羽根をつけて背広で歩いていたりね。日本だと車の前にしめ縄の正月飾りをつけるじゃないですか。パプアもインディペンデンスだと車を羽根とか花で飾るんですよ」
▲部族闘争の最中、沼に潜って隠れたせいでドロドロになった姿を、追ってきた敵の男達が目撃し、「オバケが出た!」と勘違いして逃げたのがマッドメンの始まりと言われている。今はお祭りだったり、お客さんがきたときのウェルカムセレモニーに登場。日本だと獅子舞のようなものだろうか。
▲酋長に許可を取った上で、日本でアポさんが作ったオリジナルのマッドメンマスク。丸焼きから回収した豚の歯に混ざって、治療で抜いた自分の歯も入っている。
「向こうには800くらい民族がいるんですけれど、ある村の人達と仲良くなることができて、そこの酋長が私にアポ・ファニウファって名付けてくれました。9月にある大きなお祭りにあわせて、村人として、アポとしてパプアに毎年帰っています」
▲現地の新聞に祭りのハイライトとして紹介されたアポさん。
「え、今でも毎年パプアまで行っているんですか!」
「今年は村の偉い人が亡くなって喪中ということで、そのお祭りがないから行かないつもりだったんですけど、ある方に現地の案内役を頼まれて、急遽来週から行くことになっちゃって。香典渡さないとなあ」
「そこまでパプアにどっぷりだと、もう精霊が見えたりするんじゃないですか」
「……見えるとか見えないをお客さんの前でいっちゃうと、いろいろね。集客に影響があるといけないので、いわないようにしています。ただ、祟られているのは確かですね。向こうはブラックマジックが盛んなので。お金が無くても、どんなことをしてでも、9月にパプアへ戻らなきゃいけない術が掛かっています。来週行くことになったのも、もう自分の意志じゃないですからね。先月くらいから携帯電話に国際ワン切りが掛かって来るし。ちょっと話がある、でもお金が掛かるからお前から電話してこいと」
「国際ワン切りって初めて聞きました」
▲店にあった諸星大二郎さんの本。マッドメンのマスクを前に読むと緊張感があってよい。
「パプアとアポさんの密接な関係はわかりました。で、ここって何の店なんですか。お寺の敷地内ですよね?」
「この場所はお寺さんの貸家で、元々は知り合いのおばさんが座布団に座ってピザを食べながらコーヒーを飲む店をやっていたんですが、2011年にそこをやめるとなって、もったいないから僕がやるよ!ってノリで引き継ぎました」
「この寺の息子さんという訳ではないんですね」
「違います。立地も悪いんで、そんなにお客さんは来ないだろうからアトリエ代わりにしようと思っていたんです。もし間違ってお客さんがきたら私の好きなコーヒーでも出そうかなくらいで。コーヒーが好きで毎年パプアから豆を担いできていたので、それを出しているうちに、いつのまにかこんな感じになっちゃって」
▲お手製のマスクを被らせていただきました。インスタ撮影の持ち運び用にと軽い粘土で作ったそうで、意外と軽い。
「さっき近くで見かけた張り紙は、その頃のものなんですね」
「最初はコーヒーをメインに、カレーとかをちょっと作っていたんですけれど、お客さんが向こうの料理を食べてみたいと。知らない訳じゃないんで、出したらネットの口コミでちょっと広まって。パプアニューギニア料理を食べさせる店が日本になかったんですね。
意外と食べに来る人がいたんですけれど、それが一周すると予約がなくなって。やっぱりパプアの料理がどうしても食べたいというよりは、外国料理の経験値を上げるために来るのであって、よっぽどのもの好きじゃないとリピートはしてくれませんね。まずどんな味だかわかってくる方はいないし。本当に素材だけの素朴な料理なので、あんまり癖にはならないんです。それで手打ち蕎麦も始めました」
「あ、本当に蕎麦も出しているんだ」
自家製粉の蕎麦粉から注文ごとに作る、手打ちの十割蕎麦
「どっからつっこんでいいのかわからなくなる店なんですけれど、誰が何と言おうと、うちは石臼挽きの本格蕎麦屋ですから。お蕎麦はご注文を受けてから打たせていただきます!」
「その格好で手打ち蕎麦ですか」
「パプアニューギニア料理っていうイメージが強すぎて他のことが一切伝わらないですけど、こう見えてパプアニューギニア歴の倍くらい蕎麦打ち歴が長いんです。20歳くらいから打っているので。飲食店で働いた経験はないんですけど、凝り性なんですよ。
パプアニューギニア料理のイメージを消そうと格闘して、蕎麦屋にしてやろうと頑張ったんですが、この格好だし。じゃあ蕎麦屋の老舗っていうことにしたらわかりやすいだろうと、100年前からあった老舗の三代目っていう設定にしたら、わりとみんな信じちゃって。こりゃまずいとやめました」
「なるほどー。今日はパプアニューギニア料理のコースを予約してありますけど、せっかくだからその前に蕎麦をいただけますか。よろしければ蕎麦に対するこだわりも教えてください」
▲手打ち蕎麦とカレーとパプアニューギニア料理が揃ったカフェ、それがニウギニ。
「蕎麦に関しては……聞かない方がいいです。蕎麦の話をしだすと長いし、いきなり面白くない人間になります。パプアニューギニアに関しては適当に対応できるんですけれど、蕎麦に関してはこだわりが強すぎて、真面目になっちゃうんです」
「そんな格好で言われましても。どこまで冗談なのかがわからないので、説明してもらっていいですか」
▲その格好のままで、店内にある製麺スペースで本当に蕎麦を打ち始めた。
▲マッドメンと石臼が並んでいる。
「わかりました。まず蕎麦粉は石臼で北海道産の蕎麦の実を殻ごと挽いています。やっぱり自分で挽いた粉じゃないと納得できません。殻以外の食べられるところをギリギリまで粉にした、色黒の蕎麦粉です。
その粉で打つのはつなぎを一切使わない十割蕎麦。小麦粉が入ると、蕎麦粉の茹で加減に合わせたときに、どうしても小麦粉が生煮えになる。それがどうも嫌でね」
「真面目じゃないですか」
▲こま板を使わずに蕎麦を切っていく。何者なんだろう。
「蕎麦ってピスタチオとかナッツ的な香りがわかるようになると、そこにハマっちゃうんですよ。それを求めて食べに行くし、自分でも打つ。
鰹節は蕎麦の香りの邪魔になるので、あえてつゆに使いません。大根おろしの汁にかえし(醤油とザラメなどを煮込んだもの)を少々入れていただくか、干し椎茸と昆布で出汁をとってかえしをあわせたクルミダレでどうぞ。あっさりとこってりです」
「本当に真面目じゃないですか」
▲蕎麦の話になると、急に口調までも変わるアポさん。
▲こだわりの詰まった蕎麦が出てきた。
粒子の粗い石臼挽き、さらに殻ごと挽いた挽きぐるみである。この蕎麦粉でつなぎなしの十割蕎麦を作るのには卓越した技術が必須となる。こういう蕎麦は打ち立てを茹でないとすぐ切れてしまうので、面倒でも注文があってから打つスタイルになったのだろう。
麺肌にざらつきのある打ち立ての蕎麦をいただくと、鰹節でこの香りを消したくないという気持ちがわかったような気がした。確かにナッツのような香りがフワッとするのだ。蕎麦でこれだけの香りを感じたのは初めてかもしれない。
▲麺として成立するギリギリのラインを攻めている蕎麦。
大根おろしであっさりといただくも良し、濃すぎないクルミのタレでいただくも良し。クルミはこの蕎麦と同じ方向性の香りであり、邪魔をしないで加速させてくれる。僅かな酸味を感じるタレの隠し味は梅酢だとか。大真面目だ。
「顔に似合わず真面目にやっております。説得力はありませんが」
大使館も認めたパプアニューギニア料理
蕎麦をすすった後となるが、ようやくここからが本日の目的、パプアニューギニア料理のフルコースとなる。こちらは2名以上からで要予約。
似たような料理の南国定食というメニューもあるが、こちらはあくまで簡易版で、掛ける手間暇がだいぶ違うとのこと。パプアニューギニア大使館も認めた本格的な現地の味を確かめたいなら、迷わずケチらずコースを頼みたい。
ただし、良くも悪くも現地の味そのものなので、「美味しい食事」ではなく「特別な経験」として楽しむべきだろう。
▲全く理解できないメニュー表。
コースの最初に出てきたのは、マンブークッキング、カウカウ、クッキングバナナ、サクサクの盛り合わせである。バナナ以外はチンプンカンプンだ。
▲なにやら竹筒を持ってきたアポさん。
「マンブーはピジン語(現地で使われている英語に近い言語)で竹。英語だとバンブーですね。竹筒の中に食材を入れて、直火で調理するのがマンブークッキング。これはハイランド(高地)の料理なので、日本でいったら長野県みたいに海のないエリアで食べられている伝統料理です」
▲竹筒の中から食材が出てきた。
「具は鶏肉とミニトマトとショウガ。それに青菜なんですが、マンブークッキングで使われる現地の野菜は手に入らないので、向こうで食べた味をツルムラサキとホウレン草と春菊の組み合わせで再現しています」
▲上から時計回りに、カウカウ(サツマイモ)、クッキングバナナ、タロイモ代わりのサトイモ、サクサク、マンブークッキング。これだけでお腹いっぱいになりそうな一皿だ。
マンブークッキングは味付けが一切されていないそうだが、癖のある野菜がハーブのように効いており、意外と味が濃くて美味しく食べられる。
「向こうの主食はカウカウというサツマイモがメインです。それと甘くないクッキングバナナ。海の方だとタロイモとかヤムイモも食べますね。タロイモはでっかいサトイモで、日本なら京芋が近いかな。サクサクはサゴヤシの幹からとる澱粉に、ジャガイモとサトイモとココナッツミルクを混ぜて焼いたものです。結果的に大根餅みたいですが」
▲独特の酸味がある焼きバナナ。
「クッキングバナナはフィリピンからの輸入品で、この時期は船の中で熟成してしまうので、なかなか現地で食べるような青いままのボソボソしたバナナが手に入らないんです。向こうは熟成という概念がないみたいで。僕は青いバナナが苦手なので、これくらいの方が美味しいと思いますけど。
どれも日本人の舌には合わせておりません。海から離れた場所だと塩も貴重品だったので、味付けは一切なしです。といっても、今は塩やマギーの調味料が浸透しちゃって、どこでも手に入りますが。おかげで高血圧がすごい増えているみたいです」
どれも素材そのものが味わえて、現地ではこういう感じの食事なんだろうなというのが、しっかりと伝わってくる料理達。このままでも食べられるが、ちょっと塩をつけるとやはり美味しく、塩無しの味に戻れなくなってしまうのが経験としておもしろかった。
焼かれた石が味の決め手、ピックムームー
続いて運ばれてきたのは、なにやら葉っぱがはみ出した土鍋である。
「ピックムームー、豚の蒸し焼きです。朝から石を焼いて作りました。やっぱり石を焼いて使うと、料理に石の出汁とかが出るんですよね。日本でも焼けた石を入れて作る味噌汁とかあるじゃないですか。味が全然違うんですよ!」
▲ピックムームーは石を焼く手間が味の決め手。
「現地では石を大量に並べてその上で焚火をして作ります。石を焼いて窪みを作って、バナナの葉っぱを並べて、その中に食材と石を入れて、土で埋めるんですね。そこにバナナの葉っぱの枝部分を突っ込んで水を送り込んで蒸し焼きにします。
向こうは豚が財産なので、長老がなくなったりとか、隣の村からお嫁さんが来たときとかに、豚をしめて作るごちそうです」
▲鍋の中の金網の下に焼けた石と水が入っていて、具の中の石とダブルの熱で食材を蒸し焼きにしてある。
「向こうだと野菜は巨大なゼンマイとか謎のシダ植物なんですが、それをツルムラサキと小松菜とカブの葉っぱで再現しました。これも味付けはしていません。
このムームーは来日したパプアニューギニアの首相にも、ホテルニューオータニのパーティーで食べていただいた本格的料理です」
▲肉の塊と芋と葉っぱ。プリミティブなご馳走だ。
石の味はわからなかったが、蒸し焼きにされた肉はとても柔らかく、その肉汁が染みた芋や野菜も、調味料無しで十分美味しい。といいつつ塩をつけてしまうのだが。
いつかテレビでみた現地のごちそうって、きっとこういう味なんだなという体験が、まさか青梅でできるとは。
▲パプアニューギニア首相の歓迎パーティーで、一人だけ現地の格好をしているアポさん。大使館公認のマスコット的存在だとか。
ところでサツマイモが主食のパプアニューギニアには、その品種が30種類くらいあり、とにかく芋をよく食べるそうだ。芋ばっかり食べていると喉に詰まってしまいそうだが、これは日本人が唾液の少ない民族だからであり、芋が主食のパプアの人は唾液が多いので、飲み物がなくても詰まらないのだとか。
そんな芋好きのパプアにアポさんが日本から芋羊羹をお土産として持っていったところ、これが超絶的な人気となり、村が崩壊するかと思うほどの芋羊羹争奪戦へと発展。まず子供には絶対にあげない。そして大人は自分の脇とかに隠す。それくらいの人気ぶりだったそうだ。パプアからのワン切りは、芋羊羹を買って来いと言うメッセージだったのかも。
もしパプアにいく機会があれば、お土産に芋羊羹を持っていくと人気者になれるだろう。
これが現在のパプアニューギニア料理、マギーライス
蕎麦を食べた後に肉や芋をたっぷりと食べ、お腹はもう一杯なのだが、ここで出てきたのがマギーライスである。
白米の上にインスタントラーメンが乗っている一皿だ。なんだこれ。
「この20~30年でパプアでもお米を食べるようになったのですが、向こうで食べるライスには、絶対にマギーのインスタントラーメンがかかっているんです。パプアにマギーの工場があるんですよ。ライスとラーメンはセット、どこの地域でも。
作り方は、ツナ缶と野菜を炒めて、そこに水とインスタントラーメンを崩したものと粉スープを入れて、クタクタになるまで煮ます。ご飯はココナッツミルクを入れて硬めに炊いてあります」
▲調味料無しのパプア料理でリセットされた舌に飛び込んでくる味の洪水。
マギーライス、日本のラーメンライスとはまったく違う食文化だ。先程まで塩味程度の食事をしていたところに、急にはっきりと「味」が現れて、うますぎて舌がびっくりしている。
伝統的な食事を守れとか、化学調味料を使うなとか余所者が言いがちだけど、この味を知ったら戻れないよなーと思ってしまう。まさに時代を変える味だ。
▲PNG(パプアニューギニア)MADEのマギーヌードル。
「このコースというのは、私がパプアニューギニアで食べた料理の順であり、パプアニューギニアにおける食文化の歴史でもあります。調味料無しの時代から、塩が出回るようになり、そしてマギーが浸透した過程です。サゴヤシの澱粉が主食の地域にいったら、ゼリー状のドロドロに煮たものに、このラーメンが入っていました」
飛行機で運んでくるコーヒーがうまい
最後は毎年パプアから運んでくるという豆で淹れたコーヒーで締める。
「向こうにコーヒーを飲む文化は元々なかったんですが、19世紀にジャマイカから苗が運ばれてきて、コーヒー農園ができました。アラビカのティピカ種、ブルーマウンテンと同じものを栽培しています。
向こうではコーヒー豆を国が全部買い取ります。お金のために栽培していて、自分達ではほとんど飲まない。飲むのは紅茶ですね。ヤカンに一つだけティーバッグを入れて、色だけ絞り出して、そこに大量の砂糖と粉ミルクを入れて飲む。
それでも最近はネスカフェニューギニブレンドを村の人間も飲むようになってきましたね。話のタネに買ってみたんだけど、私が世界中で飲んできたネスカフェの中でも一番うまい。ちゃんとパプアのコーヒーの味がするんですよ。焼き芋のような」
▲パプアニューギニアのコーヒー。今までの流れから味はまったく期待していなかったが、これがうまいのだ。
「これは私の村にある工場で現地の人が焙煎したものなんですが、初代のボスが北欧の人で、その人に習ったやり方を守って、野生の勘で絶妙の焙煎をしています。自分じゃまったく飲まないのに。これに勝てるコーヒー豆が手に入らないので、しょうがないから飛行機で運べる重量のギリギリまで毎年担いで帰ってくるんです」
ニウギニ、行けば楽しい店だろうなと思っていたけれど、想像以上に心が躍る場所だった。ちなみにメニューにあるカレーは、味のないパプアニューギニア料理の反動で開発した、スパイスたっぷりの激辛カシミール風カレーで、これもまた評判が良いのだとか。
純粋に料理の味だけを比べれば、現代の日本人の舌には明らかに蕎麦やカレーの方がうまいのだろうけれど、異文化体験としてはパプアニューギニアのフルコース料理は最高だ。
この店の空間に、この店の料理に、そしてアポさんという真面目な奇人に興味があるという方は、ぜひ青梅まで足を運んでみていただきたい。
※不定休なので、行かれる際にはホームページ、ツイッター、フェイスブック、インスタグラムなどを確認してください。
紹介したお店
ニウギニ(NIUGINI)
住所:青梅市大柳町1203 清宝院内
TEL:050-1282-1799