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設計者が明かす、カープ3連覇を生んだマツダスタジアムの秘密

「また行きたくなる」球場の思想

圧倒的な強さでセリーグ3連覇を果たした広島東洋カープ。特筆すべきは本拠地マツダスタジアムでの強さだろう。3年間で138勝61敗(9月末現在)。斬新なボールパークで、生え抜きの田中、菊池、丸、鈴木誠也らが躍動した。2009年に移転してから、観客は増え、2015年からは観客動員も200万人を突破し続けている。もちろん強くなるにつれファンが集まったのだが、新スタジアム自体もファンが集まりやすい設計思想で作られていた。スタジアムを設計した建築家の発想とは?

また行きたくなるマツダスタジアム

私は「環境建築家」を自称している。建築だけでなく、環境を設計、デザインする。その環境とは、都市、地域、土木的構築物からインテリア、展示、遊具、家具等、きわめて領域は広い。

そのすべての領域を通して、環境価値を向上させることを私の仕事としている。その重要な使命が多くの人に満足や、喜びを与えられる環境をつくるということである。

人間という動物の意欲には、「面白そうだ→実際に行ってみた→やってみた→満足した→感動した→もう一度行ってみよう」というサイクルがある。

このサイクルがうまくまとまった施設は、必ずリピート率が高まっていく。だからまず入り口のところで、面白そうだと思わせることも大事なのである。

同時に、誰もが来やすい、また来たいと思う仕組みが必要である。私は、どんな施設であっても、設計によって集客力、利用率をいかに高められるかを常に考えている。多くの人に利用してもらうためにはどうすればいいか。決定的なものではなくても、その施設を使ってくれるであろう人たちが満足できるポイントをいくつ用意できるか。

それもできるだけたくさん。友達同士、恋人同士、家族連れなど、多様な属性の人たちが楽しめる要素をできるだけたくさん盛り込んでいる。

カープ3連覇の舞台、マツダスタジアム

私が設計して2009年に完成した新広島市民球場、マツダスタジアム(MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島)にも、いかに人を集めるか、楽しませるか、また来てもらえるようにするかの工夫を随所に詰め込んでいる。

その結果、新広島市民球場の年間入場者数は、旧市民球場の90万人(2000年代半ば)から、1年めで180万人に増えた。その後150万人台だったが、2015年からは200万人を突破、「カープ女子」という流行も生んだ。

スポーツ評論家の二宮清純さんは著書『最強の広島カープ論』(廣済堂新書)で、こう分析している。

《ファン増加の最大の理由は、もちろんチームが強くなっていることだが、(中略)大きいのは、新球場「マツダスタジアム広島」の存在だ。総天然芝で、開放感がある。ウッドデッキや寝ソベリアといった新タイプの観客席など、アミューズメント施設としての工夫がなされている。米国で野球場を「ボールパーク」と言うように、野球を見る喜びの多くはスタジアムの魅力に起因する。

考えてみてほしい。どんなに強いチームでも、勝率はせいぜい6割5分。ということは、10回球場に行って6回勝てばいいほうで、残りは負ける。ほぼ半分、2回に1回しか勝ち試合は見られないのだ。

だから「負けても楽しい」という観戦環境が球場には必要だ。「今日は試合は負けたけど、やっぱり野球っておもしろいよな」とか「広々として気持ちがいいな」「ビール、うまかったな、ホットドッグうまかったな」といった付加価値こそが、ファンを惹きつける。

その付加価値が、マツダスタジアムにはふんだんにある。「行ってみたい」と思わせる球場の存在も、カープ人気復活の理由の一つに違いない。》