金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」(第14回)が開催されました。
今回の議題は高齢社会における金融サービスのあり方です。
議事録は現時点(2018年10月11日)では開示されていませんが、事務局説明資料に筆者が気になる記述がありました。
それは、相続税評価額算出における不動産と有価証券の不均衡・不平等問題です。
今回はこの相続税における不動産と有価証券の不均衡の問題を確認しておきましょう。
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金融審議会の資料
金融審議会「市場ワーキング・グループ」(第14回)では上述のとおり高齢社会における金融サービスが議題となっています。
高齢社会における金融サービスは相続とは切り離せません。
この金融審議会の事務局説明資料には以下の記述がありました。
相続税評価額の算出時に、不動産の時価に、一般的に時価より低いとされる路線価を用いていることなどにより有価証券より有利と考えられている。
左記によって、不動産が金融資産よりも投資対象として選好されていることがないか等について研究を深め、資産選択に歪みが生じないことを目指すことが考えられるのではないか
(出典 金融審議会「市場ワーキング・グループ」(第14回)事務局説明資料 16P)
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/market_wg/siryou/20181011.html
また、みずほ総合研究所が別途提出している資料にも、高齢化の進展に伴いリスク資産比率の低下可能性が指摘され、わが国のリスクマネー供給を維持するためには上場株式等と不動産の相続税評価のイコールフィッティングを実現することが必要と述べられています。まるで、金融庁と事前に擦り合わせたようです。
この有価証券と不動産の相続税評価における不平等、不動産の優位性とはどのようなことなのでしょうか。
以下で確認しましょう。
相続税評価における不動産の優位性
良く耳にすることがあると思いますが、相続税対策には不動産が有効と言われます。
この収益不動産購入による相続対策は、一言でいえば不動産の取引価格(時価)と相続税評価との違いに着目した対策のことです。
相続税は相続税評価額を基に計算されます。一方で、現預金や有価証券(株式等)は時価で相続税の評価をされてしまいます。
不動産の相続税評価額は国税庁の定める路線価(一般的には時価=公示価格の80%程度とされています)等により算定され、一般的に取引価格(時価)よりも低くなります。
また、不動産を他人に賃貸するとさらに相続税評価額が減額となります。
ちなみに目安ではありますが、賃貸不動産の場合は、土地の相続税評価額は時価の58~72%、建物の相続税評価額は時価の35~42%程度に減額されます。
【相続税評価額の算出式】
相続税評価額の算出式は以下となります。
〈土地の相続税評価額〉
土地の相続税評価額=路線価 × 補正率 × (1-借地権割合 × 借地家割合)
この(1-借地権割合 × 借地家割合)は不動産を賃貸することによる減価です。
上記計算式により概ね時価の58~72%以下に減額されるのです。
なお、この借地権割合は国税庁が概ね同一と認められる地域ごとに定めており、路線価図および評価倍率表の各路線または地域ごとに記載されています。借地家割合は国税局長が定める割合とされています。
〈建物の相続税評価額〉
建物の相続税評価額=固定資産税評価額 × (1-借家割合)
固定資産税評価額は時価=公示価格の50~60%程度となります。
そのため建物は時価の35~42%以下に減額されるのです。
【具体的な計算(シミュレーション)】
2億円の不動産を購入する場合を例にとってみます。
<前提>
- 土地=時価1億2,000万円、建物=時価8,000万円を購入
- 土地を自分で使用している場合の相続税評価額は時価の80%と仮定
- 建物の固定資産税評価額は時価の60%と仮定
- 借地権割合=60%、借家権割合=30%、賃貸割合=100%
<相続税評価額シミュレーション>
1.現金で持っていた場合
相続税評価額=2億円
2.土地建物購入後
土地(貸家建付地評価)=7,872万円
建物(貸家評価)=3,360万円
合計=11,232万円
1と2の差額=8,768万円の相続税評価額減となります。
<相続税シミュレーション>
手元資金(相続税評価額)が2億円のままだった場合は、2億円 × 40%-1,700万円=6,300万円となります。
これが、収益不動産を購入し11,232万円の相続税評価額まで減額されると、11,232万円 × 30%-700万円=2,670万円となり約3,500万円の減額となります。
現預金で持っているよりも相続税支払額は半額以下になるのです。
(参考 国税庁ホームページ)
https://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4155.htm
所見
これが不動産の相続税評価の優位性です。
この税制があるからこそ賃貸アパートは投資対象として人気があるのです。
しかし、賃貸アパート建築は過熱しすぎたのかもしれません。金融庁は以前から銀行のアパートローンの増加を問題視しています。
また、シェアハウス問題、スルガ銀行の問題(もはや事件ですが)も起きました。
金融庁は不動産投資および不動産に対する貸出を抑制したいところでしょう。
そこにちょうど良いロジックが見つかったのではないでしょうか。リスクマネー供給を維持するために、不動産と上場株式を中心とした有価証券との平等な取り扱いを行うべき、というロジックです。税制によって資産選択に歪みが生じているならば正した方が良いということです。
税制は金融庁の管轄ではありませんが、金融庁は税制改正の流れを作ろうとしてるのではないでしょうか。
(筆者の浅い考えかもしれませんが。)