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エンジニアも、「なぜやるのか」を意識してほしい。堀譲治(株式会社シャノン 取締役・技術担当)~Forkwellエンジニア成分研究所

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「なぜ」に注力する人は、必要です

――現在の業務内容を教えていただけますか?

堀 開発全体のディレクションです。日常業務は開発部長がやっているのですが、全体のディレクションや意思決定は私が行なっています。製品開発でどういう機能を付けていくかなど、製品企画の取りまとめも行ないます。

最近は、社内のシステムやセキュリティ全般も手広く見ていますね。会社の規模が大きくなって、以前はそれぞれの部門でなんとなくクラウドのシステムを使っていたのですが、クラウドの乱立による問題が生じてきたのでそこを調整したりという感じです。

――堀さんは、ずっと現場にいる形なのでしょうか?

堀 社内システムについては、現場寄りで動いています。製品の開発は現場を見ている部長がいるので、彼らと一緒に作っていくという感じです。自分自身が現場にいるというより、先の話をしていくことが増えてきています。

元々は日本オラクルに新卒でエンジニアとして入社し、QAのエンジニアをやったり、エスカレーションのエンジニアでコードを書いたりしていました。シャノンに入ってからはほとんどコードを書いていません。技術の話はたくさんするのですが、僕自身は書かないというのが、規模の割に珍しい部分かなと思います。

――エンジニアの方だと、やはりコードを書くことにはこだわりがあるかと思います。ご自身でコードを書かなくなったことについて、どのように捉えていらっしゃいますか?

堀 技術のキャッチアップについて、危機感がないと言えばウソになります。ですが、技術とビジネスの両方の知見がある人が間に立つことも大事だと思っています。現場で実務をやるだけだと、どうしても「なぜやるのか」を明確にしないままコードを書いてしまったりするので。「なぜ」に注力する人は必要です。

――シャノンさんに入社されたタイミングで、「マネジメント側に移ってほしい」という要請があったのでしょうか?

堀 そうですね。私が入社した時は15、6人くらいの規模だったんですが、今の副社長と話をし、早い段階でマネジメント側に移りました。

――エンジニアを続けたいという葛藤はなかったでしょうか?

堀 あまりありませんでした。製品のプロデュースをやることに興味がありましたね。

――エンジニアからマネジメントに積極的に転身したい人は比較的少ないと思います、堀さんの立場から見てそうした心理はどのようなものだとお考えですか?

堀 恐らく「開発のマネジメントは雑務であり、エンジニアがやるべきではない」という認識があるのかなと思います。営業のように仕事がハッキリしているものと比べて、何をやっているのかわからないイメージもあるのかなと。ただ、「何を」「何のために」作るのかを考えるのは事業側だけだと難しかったりします。そこを考えることを面白がれる、意味があると思える人がもう少し増えてもいいのかなと思いますね。

製品企画のマネジメントをやるのか開発のマネジメントをやるのかは、当初はハッキリと区別していませんでした。どちらを目指すかは、人によって選択していいかもしれません。

――エンジニアには個性の強い人も多いと思いますが、マネジメントする上で大変だったことはありますか?

堀 接するエンジニアには、総じて恵まれてきたと思います。ただ、素直でないエンジニアだと人の話を聞いていなかったり、意思疎通できなかったりということはありましたね(笑)。

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イチから作るという経験は、大変でしたね

――日本オラクルでは、どのようなお仕事をされていたのでしょうか?

堀 入社してしばらくは、オラクル製品のデータベースを作るツールの国際化テスト部門で、日本語でのテストを行なっていました。次にやったのがJ2EEと呼ばれるJavaのアプリケーションサーバーの、日本でのエスカレーションエンジニアです。

サポートから不具合が上がってくるんですが、大きいお客さんだと「絶対に直してくれ」という要望もあって。通常は本国であるアメリカで修正してもらうんですが、本国と交渉するのは大変なので、日本で修正をやって本国のエンジニアとコミュニケーションをとって、本国の開発チームの中の一員としてコードをいじっていました。この経験はとても大きかったですね。

――業界内で規模の大きかったオラクルから、15人規模のベンチャーであるシャノンに移られたのは、どういった経緯だったのでしょうか?

堀 オラクルはデータベースやアプリケーションサーバーといったパッケージ製品を売る会社ですが、転職した2005年当時はウェブサービスが台頭してきている時代でした。

2000年くらいからBtoCが流行り始めていて、アメリカではAmazonなどの企業が台頭してきていました。エンジニアとして「今後はウェブサービスの時代だ」という感触がありましたね。パッケージ製品はバージョン管理が大変で、お客さんのところに行かないと問題解決も難しい。「いつかなくなってしまうだろう」と思いました。

一方、ウェブサービスはこちらでどんどん勝手にバージョンアップできます。転職先としてはアメリカも検討したのですがたまたまシャノンに出会い、日本ではあまりなかったBtoBのウェブサービスの開発に携われるならやってみようかなと思って入社を決めました。

――入社の前後で印象が違った部分はありましたか?

堀 入る前は、「行ってから考えよう」くらいの気持ちだったんですけど(笑)。「商品を売ることは、こんなに大変なんだな」という気づきはありましたね。オラクルでは、エンジニアの立場として「作っておけば勝手に売れる」くらいの気持ちでいました。作るということについても、イチから作るという経験がなかったので。イチから作ってさらにメンテナンスして変えていく、ということは大変だなと実感しました。

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何の課題を、どう解決するのか。

――業務を行なう上で大事にしていることはありますか?

堀 取締役としては、「何の課題をどう解決するのか」という部分を大事にしています。

課題設定そのものを間違えてしまうことは、よく起きます。日々業務を行なっていると課題はたくさん起こるので。その時点で重要でないものに惑わされず、本当にお客さんや世の中にとって解決すべき課題に少ないリソースを注ぐことが大事だと思っています。どのような課題であれ解決すること自体はできるのですが、適切な課題を見つけることは難しいですね。

――問題を選定する精度は、上がってきていると感じられますか?

堀 上がってきていると思います。自分なりに思うのは、ミクロの視点とマクロの視点の行き来が、エンジニア時代よりも速くできるようになってきたかなと。目の前のお客さんなどのミクロなレベルと、お客さんたちを群で捉える、世の中全体のマクロなレベルとの往復ですね。昔はそういう目線は無かったので、そのあたりは視野に幅が出るようになったと思います。

――では、エンジニアとして業務で大事にすべきことは何でしょう?

堀 原理原則ですね。パソコンでいうと、CPU、メモリ、ディスク、ネットワークなどで動いているという原理は20年来変わっていません。原理原則を押さえた上で応用を利かせることは、大事にしています。

エンジニアをやっていたときは王道の教科書や、他のエンジニアが良いと言っている書籍を日本語、英語問わずで読むようにしていました。逆に、無駄な情報をつかまされかねない薄っぺらい本は読まないようにしていましたね。公式のマニュアルなど、一次情報にあたることも気を付けています。

――ご自身の成長のために日々行なっていることはありますか?

堀 会社にいると社内の情報だけになりがちなので、できるだけ外に情報を取りに行くことは心がけています。外部のイベントやカンファレンスに行ったり、英語圏の先進的な情報を見たり。マーケットリサーチや他社IRといった統計的な資料なども、読める力がついてきたということもあり、昔より読むようになりました。

――他のメンバーの成長を促すためにやっていることはありますか?

堀 会社として、本を買ったり勉強会に行くのは自由にしています。あとは、個々人での勉強だけでは成長に限界があると思うので。仕事の範疇で自身の120パーセントの力が必要になるような、未体験の事項を含むようなプロジェクトに、企画として仕上げるようにしています。

業種上、どうしても過去の仕事と連続性を持ったものになりがちなんですけど、できるだけ変化を入れていく。最近よく言っているのは、新しいサービスを開発するのは比較的簡単だけど、「今売れているサービスを変え続けていくのは、どこの企業もやりきれていない」ということですね。

多くの人が使っていて、何億というお金が動いているサービスを改変するのは簡単なことではありません。しかし、そのような「走っているものを変える」という体験ができるのが、うちの良いところだと伝えています。

――「一番大きなインプットは仕事」というのには納得です。

堀 日常の8割は仕事なので。仕事以外の2割の中で何かをやるより、8割の仕事の中で新しいことをすることが成長に資すると思います。

――各人への負荷調整の部分は、堀さんのエンジニアとしての経験が生きている部分でしょうか?

堀 そうですね。人を見ながら調整をしたり、「期待しているよ」と声をかけたり。「なぜやるのか」という部分をエンジニアにきちんと説明するように心がけています。ピラミッドを建てるとして、目的を伝えず「石を100個積みなさい」ではモチベーションが上がりません。

――組織を率いていくことに興味がある人に向けて、アドバイスはありますか?

堀 お客さんの視点を通じて経営にコミットすることですね。「お客さんにとってどうか」という視点は、エンジニアにはどうしても欠落しがちなので。

例えば新しい企画が上に通らなかったとして、ただ文句を言うのではなく「経営サイドが通してくれなかったのはなぜか」を突き詰めて考える。目線も変わるし、仕事自体もやりやすくなると思います。技術を追求するだけでなく、お客さんの目線に切り替えられるよう日々想像する努力をするといいかもしれません。

――CTOとしてのプレッシャーは大きいと思いますが、モチベーションはどのように保っていますか?

堀 会社を大きくするより、「自分たちがやっていることを広く届ける」というところを目指すことですかね。あとは、単純にできることが増えているということは面白いですよ。マーケティングの世界は変化も早く、同じことをやってるうちに飽きてしまうケースも少ないです。そこも、モチベーションを保っていられる理由かと思います。

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専門性は、事業をやるための手段だと思います。

――ここからは、堀さんが働く上で大切にしていることについて、「事業内容」「仲間」「会社愛」「お金」「専門性向上」「働き方自由度」の6つの項目から合計20点になるよう、点数を振り分けていただきます。

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・専門性向上 1

もちろん専門性がないとだめですが、あくまでも「事業をやるための手段」として考えています。大事なんですが、(専門家を)目指したことはあまりないですね。

・仲間 5

誰とやるかは本当に大事だと思います。事業の中身もそうですが、一人では大したことはできません。意思疎通でストレスが多すぎるとうまくいかないので、仲間は重要です。

エンジニアの採用に関しては、事業内容への共感が非常に大事だと実感しました。ここがズレているとすぐ辞めてしまったりということが起きるので。今は会社のブログを公開しているので、ミスマッチは少なくなったと思います。

・お金 3

もちろん大事ですが、第一の目的にはならないですね。あくまで事業、製品が第一です。良い製品を作ってちゃんとマーケティングすれば、お金はついてくるとは思っています。

・事業内容 5

「どんな事業でもやりようだよな」と思っているところもあるんですが、熱意を持ってやれるかという意味でやはり大事かと思います。

・働き方自由度 3

うちはまあまあ自由なんじゃないかと思っています。毎朝8時から集合して、みたいな感じだとしんどいかなと(笑)。家庭のある方が、不自由なく働ける程度の自由さはあった方がいいかなと思います。

・会社愛 3

シャノンという会社のことはもちろん大事ですが、どちらかというとお客さんや一緒に働いている社員といった人たちに対しての思いが強いですね。

――最後に、転職を志す方に向けてメッセージをお願いします。

エンジニアは視野が狭くなりがちなので、広い視野を持ったうえでいくつか専門性を持てると生きやすくなるし、目の前にチャンスが来たときに掴むことができると思います。

例えば「新しくサービスを作りたい」となったときにも広い視野が必要で、これは大企業よりベンチャーの方が得やすい部分もあるのかなと。視野を広げるには、自分から意識して外側を見に行かないといけないので、そういう機会を作るようにすべきだと思いますね。

<了>

ライター:澤山大輔


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