フラートできる人とできない人の違い
【登場人物】
清田隆之
桃山商事・代表
1980年生まれの文筆業
森田雄飛
桃山商事・専務
同じく1980年生まれの会社員
ワッコ
桃山商事・係長
1987年生まれの会社員
清田 前編に続いて「フラート」をテーマにお届けします。おさらいすると、フラート(flirt)とは日本語で「恋の戯れ」と訳されることが多い概念で、例えば友達以上恋人未満のザワつく関係や、バーや合コンで誘惑の視線を送り合ったり、なんならちょっとした接触をしたり、そういう“微量のエロス”をふくむやりとりのことを指す言葉です。恋愛の豊かさを探る上で重要な概念だと考えているものの、自分はまだ実感として理解できていないところがあります。
森田 前回、清田とワッコは繰り返し「フラートがわからない/できない」と言ってたよね。
ワッコ 誘惑の視線を送り合うとか、3回死んでもできない気がしてます。
森田 それは死に過ぎじゃない?(笑)
清田 我々のようなフラート弱者がいる一方で、フラートが得意な人もいるよね。身近なところでいうと、桃山商事の元メンバーである佐藤さんなんかはフラート的なやりとりを好む印象がある。
森田 何かっていうと女性に花を渡すよね。
清田 お父さんから引き継いだ習慣だと言ってたね。その前提として「女性はみんな花が好き」という考えがある。だから自信をもって、さらっと渡せるという。
森田 「これで喜ばない女子はいないだろう」っていう確信があるんだろうなあ。
清田 そうだと思う。そしておそらく、花を渡すという行為は「私はあなたを女扱いしてますよ」というメッセージを可視化したものなんだよね。
森田 いわゆる“姫扱い”みたいな。
ワッコ 元メンバーの行動を冷静に分析している(笑)。
清田 「今、あなたのことを女(あるいは男)として見てますよ」っていう信号の交換が、フラートにおける大事な要素なのかもしれない。
森田 それはポイントかもね。「俺は男、お前は女」っていうのを最初に宣言して、関係性を規定するという……だから佐藤さんには女友達がほとんどいないんだろうなあ。
ワッコ 分析からのディス(笑)。確かに「オスだよね、メスだよね」ということを相手と共有しあってないとフラートはできないのかなと思いました。わたしがもし花束もらったら、「これどうすればいいの?」って完全に混乱しちゃいそう。
森田 ワッコは“メス扱い”されることに慣れてないってことだよね。
ワッコ それは身長177センチもある巨女の性(さが)で、自分の中の“メスみ”を消して生きてますからね。
森田 ワッコがフラートできないのは、そのあたりに原因がありそうだなあ。
清田 俺がフラートできないのも同じ原因かも。身長はワッコとは逆で164センチと低め、身体のパーツはどれも丸っこくて男性っぽさが薄く、「社民党の女性議員みたい」と言われることの多い髪型、好んで着るのはフェミニンなブランドの服……と、全体として“オスみ”を消す方向に突っ走っている感があるので。
森田 それでフラートの信号を出しても、相手は気付かないだろうね。
清田 あと、俺が明からさまにフラートを出したら、相手はびっくりするんじゃないかという懸念も……。
ワッコ ちんこついてないと思ってたのに!ってなるのかな。
清田 完全にそうなるでしょ。
森田 難儀な人生だね……。でも、2人とも恋人はできるよね。
ワッコ それでいうと、わたし、これまでの人生で合コンでしか彼氏ができたことないんですよ。合コンってオスとメスが出会う場として開かれるじゃないですか。だから向こうもわたしをメスとして扱うし、わたしも男性のことをオスとして見ることができるんだと思います。
森田 合コンだと普段出してない“メスみ”を安心して出せるっていうのもあるのかな。
ワッコ それもあるかもしれないです。
森田 ワッコは合コンでフラート的なことを経験してるんじゃないの?
ワッコ うーん、思い当たる節がない。
森田 だめかあ。
同窓会でのフラート体験
清田 専務はどうなの? 前編で自分のことを「平均的なフラート経験者」って言ってたけど。
森田 話していて思い出したのは、20年ぶりくらいに開催された同窓会のときのフラートエピソードです。
ワッコ 同窓会フラート! すでにちょっとエロいですね。
森田 とにかく久しぶりだったから結構盛り上がって、「当時好きだった人」を言い合う流れになったんだよ。たぶん同窓会の定番のひとつなんじゃないかと思うんだけど。
清田 なんだよそれ……ずいぶん楽しそうだな!
森田 実際に俺の好きだった女性がその場にいたからどうしようかなと思ったんだけど、酔いも手伝って正直に言ったんだよね。みんな言ってるし。
ワッコ なんだそれ。エモいな!
森田 彼女はそれを聞いて少し照れて嬉しそうにしていて、こちらをちらっと見て目が合った。「おっ」と思いましたね。ちなみに彼女は既婚者でした。
清田 エロゲかよ……。
森田 それから少しして、彼女が終電やばいから帰るって言い出したんだよね。なんとなく俺が送る流れになり、一緒に店を出て歩き出して、どちらからともなく手をつないだ。
ワッコ そ、それは、なんかつなぐ前にあったんすか? サイン的なやつは。
森田 それは、飲み会中に「好きだった」っていう好意を示したから。
清田 じゃあもう、あそこからフラートはおっぱじまってたのね!?
森田 こっちがわかりやすい好意を送ったら、彼女は「悪い気はしないな」って思ったんじゃないのかな。「昔好きだった」ことをわざわざ言うのは、「今もちょっと好き」って伝えるのと一緒だよね。目も合ったし。だからなんとなく手をつないで、そのあと駅の改札口でキスして……。
清田 キス!!!!!!!!!!!!!!!!
ワッコ チッス!!!!!!!!!!!!!!
森田 でもそれでバイバイして、おしまいだよ。その後も特に連絡を取り合ってはしてないし。
清田 なんだよそれ……専務が遠い星の人に見えるよ。
ワッコ あの。。。ごめんなさい、そういうのって人口のどれぐらいが経験しているものなんでしょうか?
清田 総務省とか、統計出してないの?
ワッコ 『フラート白書』とかないんですか!?
森田 ちょっと動揺しすぎでしょ(笑)。
フラートのギャンブル性
森田 二人の童貞感に圧倒されてますが、それはともかく、「昔好きでした」と口に出す行為は、さっきの佐藤さんの“花”に機能として似ていて、わかりやすいフラートの信号だよね。
清田 フラート弱者としては、手をつないだりキスしたりしたそのときが「なんでもない状態からフラートに移行した瞬間」なのかなと思ってしまうんだけど、その前段階からフラートは始まってるってことだよね。
森田 好意を行為に移すのは、勇気のいることだからね。
清田 完全に清水の舞台ですよ、キヨミズ!
森田 それを間違えると関係性によってはハラスメントにつながるしね。
ワッコ 確かに、おじさんが勘違いしていきなり触ってきた、みたいなことはよく聞きますよね。
森田 ニコ生の放送回では、「フラートな好意を表現したくて、お試しフラートのジャブを打つ」っていうコメントが寄せられたよね。
清田 ジャブか~。ジャブを打つのすら怖えよ。フラートにはギャンブルっぽい要素があるわけじゃない? たとえ「昔好きだった人は誰?」っていう告白大会がもしあったとしても言う自信ないわ。それだってひとつの賭けなわけで。
ワッコ 言えない言えない。
清田 言えないよね。
森田 フラート弱者の連帯感がすごい(笑)。でも、なんで言えないの?
清田 気持ち悪がられたらつらいし相手に申し訳ないし、言ってるときの自分もキモいって思ってしまう。
森田 自己評価と自意識の問題か。
ワッコ わたしは、相手がかわいそうってちょっと思っちゃいます。
森田 それも極端だなあ。
ワッコ バーで初対面同士で……みたいな話とかもそうですけど、ある程度かわいくないとフラートになるのは無理ではないかという考えが自分の中にあるんですよね。学生時代、クラスの一軍の人たちは男女できゃっきゃしてましたよ。でもそんなのは一軍にしか許されない。デカくてブスな自分が男性を男性として魅力に思ってるなんていうのは、伝えちゃヤバイことだと思ってました!
清田 超わかる。俺も性的な空気を出した途端、「お前ちんこない系だから仲良くしてやってたのに」「契約違反じゃね?」と思われるんじゃないかという恐怖が……。
ワッコ 「三軍以下は自分にまんこあると言ってしまってはいけない」という思い込みが抜けません。
森田 ニコ生で「ワッコさんかわいい!」とか、コメントきてるよ?
ワッコ 一度インストールしてしまったカースト意識はなかなか捨てられないって感じがあるんですよね。わたしが好意を示したら喜ぶ人もいるとはなかなか考えられない。番組で「フラートできる人は余裕がある」というコメントもありましたけど、すごいわかります。さっきの専務の話も、チッスまでしたのにがっつかないのは、なんかおしゃれ。
清田 わかる。おしゃれだよね。
森田 そうなのかなあ。
清田 だってさ、セックス貧乏性というか、「ここまできたらワンチャンあんじゃね?」とはならないわけだもんね。
森田 うーん、その場で「いいな」「楽しいな」って思うだけって感じなんだよね。
ワッコ おしゃれだな~。
清田 刹那的エロスを楽しむというか、その“粋”な感じがおしゃれなんだよなあ。今回の結論は「フラートはおしゃれ」ということで!
森田 なんだその結論は(笑)。
チッスをする森田専務と、驚いている清田代表とワッコ係長
(次回は「フラート」後編をお届けします)
構成:森田雄飛
文:清田隆之・森田雄飛・ワッコ
桃山商事、ニコ生はじめたってよ!
ニコニコチャンネル
「桃山商事の恋愛よももやまばなし」