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米中衝突を「経済問題」と捉えると見落としてしまう、最も重要なこと

橋爪大三郎の「社会学の窓から」②

覇権をめぐる闘争へ突入

アメリカと中国の、正面衝突が始まった。

中国からの輸入品に関税をかけるというニュースを聞いたとき、人びとはピンと来なかった。GATTやWTOなど、自由貿易の時代が長かったからである。

 

リカードは言う、自由貿易はよい。ヘクシャー=オリーンの定理はいう、自由貿易の結果、すべての国々が利益を得る。要素価格(地代や賃金)も均等に近づく。アメリカは自由世界の守護神として、自由貿易にコミットしていると信じられてきた。

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自由貿易のもとでは、保護関税はルール違反である。中国が、知識財産権侵害などのルール違反を犯した場合、対抗措置で、制裁関税をかけることはできる。最初、人びとは、アメリカの関税も、こうした小競り合いのたぐいかと思った。

だが、その後の展開をみると、これが、正面切っての貿易戦争(中国つぶし)であることは明らかだ。トランプ大統領の気まぐれ、ではない。全面対決を辞さない構えで、以下のように、エスカレートの一途をたどっている。

第1弾 818 品目340億ドル分(25%関税上乗せ)⇒ 7月6日 中国も即報復
第2弾 279 品目160億ドル分(25%関税上乗せ)⇒ 8月23日 中国も即報復
第3弾 5745品目2000億ドル分(当初10%、来年から25%関税上乗せ)⇒ 9月24日 中国も即小幅報復            
第4弾 残る全品目2500億ドル分(25%関税上乗せ)⇒ ?

この経緯をみると、ギャンブルで、相手を大負けさせようとする場合のやり方に似ている。最初、賭け金は小さい。強気で応じていると、途中で賭け金が大きくなり、退くに退けなくなっている。トランプ政権は最初から、第4弾までの段取りを準備したうえで、第1弾を仕掛けたのである。

本格的な米中の衝突になれば、アメリカも損害が大きい。だが、中国の受ける打撃はその程度ではすまない。破滅的だ。赦してもらおうと思えば、メンツを捨てて、降参する。それができなければ、中国経済は、氷山にぶつかったタイタニック号のようになろう。いずれにしても、アメリカは、中国という脅威を取り除くことができる。

そう、これは、米中「貿易戦争」ではない。米中「覇権闘争」である。