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ゲノム編集で大量生産「食用ほおずき」は遺伝子組み換え食品なのか

米国の政府当局は意外な判定

英語名で「グラウンド・チェリー(ground cherry)」という果実を御存じだろうか? 文字通り訳せば「地表のサクランボ」という意味だが、本当は「ほおずき」の仲間で、日本では実際「食用ほおずき」と呼ばれている。

口に入れるとミニトマトのような食感と、パイナップルにも似た甘酸っぱい味がするらしい。食通の方なら御存じかもしれないが、筆者は正直、今まで、これを食べたことがないし、スーパーやコンビニなどで見かけたこともない。

グラウンド・チェリーは中南米原産の珍しい果物で、食料品店の棚に常時置かれる主要食品というより、農家が自主運営する地元市場や農園などで売られている希少食品のようだ。

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栽培・収穫が難しいオーファン・クロップ

こうした珍しい果物や野菜などは一般に「orphan crop(孤児作物)」と呼ばれている。農家にとって栽培や収穫が難しいため、主要作物のような大量生産に適していないから、そう呼ばれるようになったという。

実際、グラウンド・チェリーの場合、従来の品種改良法では、実を大きくすることが難しかった。また(この実をつける)ほおずき属の当該植物は乱雑な茂みを形成する上、実が熟す前に地表に落下してしまう傾向があるため、その収穫も難しい(「地表のサクランボ」という呼称の由来がここにある)。

 

今、最新鋭の遺伝子操作技術である「ゲノム編集」を使って、こうした栽培・収穫の難しい希少作物を品種改良し、それによって収穫量を増加させることで、一般消費者がスーパーの棚から手軽に買えるようにする取り組みが始まっている。

https://www.nature.com/articles/s41477-018-0259-x

ピンポイントの遺伝子操作で収量が急増

今月1日に発表された上記論文によれば、米コールド・スプリング・ハーバー研究所の科学者グループは(第3世代のゲノム編集技術)クリスパー・キャス9を使ってグラウンド・チェリーを品種改良し、その実を大きくすると共に、より多数の実を結ばせることに成功した。

さらに当該植物の乱雑な生え方を解消することにも成功し、これらの改良全てによって、グラウンド・チェリーの収穫量を大幅に増加させることができたという。

ここには高精度の遺伝子操作を可能とするクリスパーの真骨頂が現れている。

これまでの「選択育種」や「異種交配」など伝統的な品種改良法、あるいは1970年代に開発された「遺伝子組み換え」技術などに比べ、クリスパーでは遺伝子操作の精度が桁違いにアップした。この結果、農作物のゲノム(DNA)上に存在する特定の遺伝子を、ピンポイントで改変できるようになった。

特にグラウンド・チェリーの場合、これと似たDNAを有するトマトの研究から、「Self Pruning(SP)」と呼ばれる遺伝子が、その収穫量を増加させる上で決定的な役割を果たしていることが知られている。

そこでコールド・スプリング・ハーバー研究所の科学者グループは今回、このSP遺伝子をクリスパーで改変することにより、グラウンド・チェリーの実を従来より24%大きくし、実の数を50%増加させることに成功した。