マインドフルネスで心を整える

米シリコンバレー・リポート5 今この瞬間に集中すれば不安や恐れから開放される

  • 日経トップリーダー編集部

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2018年10月11日(木)

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 世界のICT(情報通信技術)をリードする米シリコンバレー。そこからAI(人工知能)革命という新たなうねりが起きつつある今、日本の中小・ベンチャー企業は、どう受け止め、どう対応すればいいのか。それを探るため、日本の中堅・中小企業経営者らが7月23日~27日、スタンフォード大学の専門家や現地で働く日本人社員などのもとを訪れた。主催は、シリコンバレーに拠点を構える日系企業で、米・スタートアップ企業と日本の中小企業の協業を支援する、ブリリアント・ホープ。日経トップリーダーと日経BP総研 中堅・中小ラボが企画・協力をした。ここではそこで語られた米シリコンバレーの最新動向を複数回にわたって紹介する。3回目は、スタンフォード大学心理学者のスティーヴン・マーフィ重松氏が、学生や卒業生の間で大きな支持を集める心のあり方「マインドフルネス」をグループワークで経営者に伝えた様子をリポートする。

 皆さん、はじめまして。私は、ここスタンフォード大学で「マインドフルネス」という心のあり方を学生に教えている心理学者です。東京で米国人の父と日本人の母の間に生まれた私は、1歳のときに家族で米国に移住しました。そして、ハーバード大学で臨床心理学の博士号を取得して教鞭を取った後、日本に戻って東京大学でも12年教えました。その後、16年ほど前からスタンフォード大学に移って現職に就いています。

 日米のいわゆる超一流大学を渡り歩いてきましたが、どの大学も「いい教育」、言い換えれば、心をベースにした教育があまりできていないと私は感じています。知識はたくさん教えますが。そうすると、何が起きるのか。心を病む学生が現れ始めるのです。

スティーヴン・マーフィ重松氏(写真左端)
東京都生まれ、米国育ち。ハーバード大学で臨床心理学の博士号取得後、東京大学留学生センター、同大学院教育学研究科助教授などを経て、現職。マインドフルネスの概念をベースに、生きる力やグローバルスキルを高める専門家として、教育・医療・ビジネスなどの分野で国際的に活動中。著書に『スタンフォード大学マインドフルネス教室』(講談社、2016 年)『From Mindfulness to Heartfulness: Transforming Self and Society with Compassion 』(Berrett-Koehler, 2018) などがある

 「スタンフォード・ダック・シンドローム」はその典型例です。これは少なからぬスタンフォード大学の学生が陥る症状を示した造語。100人中、5人ほどしか合格できない狭き門を潜り抜けて入学したスタンフォード大学の学生は、余裕があって優雅に過ごしているように見えます。しかし、迷いや葛藤、自分はどうあるべきかについて心の中で不安を抱えている人が多い。これがちょうど水面を優雅に泳ぐカモが、実は水面下で激しく足で水をかいている様子に似ているので、ダックと名付けられました。

 実際、全米の学生を対象にしたある調査でも、約8割の人が心の教育を望んでいるという結果が出ています。こうしたことから、心の教育を大学に根付かせて学生を救いたいと私は考えて、マインドフルネスを教えるようになったのです。

今この瞬間に集中する心のあり方

 では、マインドフルネスとは何か。日本語に訳すと「念」になります。過去でも未来でもなく、今、この瞬間を生きていることに集中する心のあり方と、集中するまでのプロセス全般を指します。最初は少しイメージしづらいかもしれないので、マインドフルネスを体験できる簡単な練習をしてみましょう(中小企業経営者に干しブドウが配られる)。

 今配った干しブドウを手のひらに載せてよく見てください。大きさや色、表面の形状など。次に鼻を近づけて香りをかいでみてください。どんな香りがしますか。次に指の間に挟んで感触を確かめてみてください。どんな印象を持つでしょうか。今度は口の中に入れて舌の上で感触を味わってみてください。いかがでしょうか。

 では、この干しブドウがこの場所に届くまでの過程を少し想像してみてください。土に種が植えられて日光と水を得ながら、ブドウの木が育ちました。ブドウの実がなって収穫され、干される。さらに、箱詰めして出荷され、スーパーの店頭に並ぶ。それを私が買いに行って配った結果、今皆さんの口の中にある。そんなことを考えながら、噛んで食べてみてください。これを「レーズン・エクササイズ」もしくは食べ物をじっくり味わう「マインドフルネス・イーティング」と言います。少し感想を発表してください(中小企業経営者が一人ずつ感想を述べる)。

「いつも何気なく食べているが、ストーリーを聞いて、食べるのがもったいなく感じた」
「一粒が大きく感じた」
「食べた時に味というより温かさのようなものを感じた」
「いつもよりたくさん噛んだ」
「干しブドウができる過程を考えてもいなかった。ずっと口に含んでいたくなった」……。

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