「ジャズ四谷口」的ライヴ見聞記2003

 

「ジャズ四谷口」的 ライヴ見聞記 2003年版(blog風)11月分

 

 

 

「ジャズ四谷口」的 ライヴ見聞記 2003年版(blog風)10月分

 

 

 

「ジャズ四谷口」的 ライヴ見聞記 2003年版(blog風)9月分

 

 

 

「ジャズ四谷口」的 ライヴ見聞記 2003年版(blog風)8月分

 

 

 

【date】2003.7.31
【title】Sadao Watanabe WHEEL OF LIFE featuring Richard Bona
【location】東京国際フォーラム・ホールC
【member】渡辺貞夫(アルト・サックス、ソプラニーノ、フルート)リチャード・ボナ(エレクトリック・ベース、ヴォーカル)エティエンヌ・スタッドウィック(ピアノ、キーボード)クリス・ヤング(ギター)ナサニエル・タウンスレー(ドラムス、パーカッション)スティーヴ・ソーントン(パーカッション)ンジャセ・ニャン(パーカッション)

■「ジャズライフ」の取材で貞夫さんのホール・ライヴへ。この10年ほど、見せていただいている貞夫さんのライヴの中でも1、2を争うすばらしい内容。

【date】2003.7.27
【title】モントレージャズフェスティバル イン 能登2003
【location】和倉温泉シーサイドパーク
【member】MJFハイスクール・オールスター・ビッグバンド with 矢野沙織(アルト・サックス)/森下滋(ピアノ)/KK JAM<窪田宏(キーボード)石川雅春(ドラムス)勝田一樹(サックス)>/The Great Jazz Trio<ハンク・ジョーンズ(ピアノ)ジョージ・ムラーツ(ベース)ジミー・スミス(ドラムス)>/熱帯JAZZ楽団<カルロス菅野(パーカッション)美座良彦(ティンバレス)コスマス・カピッツァ(コンガ)神保彰(ドラムス)高橋ゲタ夫(ベース)森村献(ピアノ)佐々木史郎、鈴木正則、奥村晶、松島啓之(トランペット)中路英明、青木タイセイ(トロンボーン)西田幹(ベース・トロンボーン)近藤和彦、藤陵雅裕(アルト・サックス)野々田万照(テナー・サックス)宮本大路(バリトン・サックス)>

■午前と午後の2便のみという新設の能登空港を利用して、ほぼとんぼ返りの取材。レポートは月刊エレクトーン掲載。午後便で能登空港に着いたのは3時過ぎ。和倉温泉まで乗り合いバス、1時間ほどで到着。すでにフェスは開始時刻を過ぎていたが、取材対象はKK JAMとGJTと熱ジャの3つということで出番までしばらくあったのでホテルで一休みという手もあったけれど、せっかくだから会場へ行って、矢野沙織ちゃんとかゲルシー森下さんとかMJFのビッグバンドを見てみようと、そそくさと出かける。会場は温泉街の海っぺりの公園で、なかなかの雰囲気。MJFのビッグバンドが予想以上に良くて、急遽「原稿にいれましょう」ということになったりする。熱帯JAZZ楽団の熱演が終わったのは11時近く。ホテルに帰る前にKK JAM様ご一行の打ち上げに“ちょっとだけ”寄らせていただいたのだが、気が付いたら午前2時。翌朝は10時便に乗るために空港へ直行。整備不良とやらで1時間ほど待たされて帰京。タビという感じはしなかったが、フェスは楽しかったです。

【date】2003.7.12
【title】EXOTIC JAZZ LOUNGE eweプロデュース ジャズライヴシリースvol.1
【location】杉並ヴァーシティーホール
【member】川嶋哲郎(ts,ss)、大口純一郎(p)、米木康志(b)、田中倫明(perc)、岡部洋一(perc)

■新高円寺から歩いていくという場所のホールで行なわれたイースト・ワークス・エンタテインメントがプロデュースするライヴ。本日の仕切は川嶋哲郎。3部作のナンバーを中心に気持ちよさそうに吹きまくってくれた。紀尾井ホールでの彼のプレイもそうだったが、ホールという空間でのサックスの鳴らし方を楽しんでいる様子が伝わってくる。パフォーマンスという意味では、それはアリだと思う。

【date】2003.7.11
【title】FRED PERRY PRESENTS KING of SKA@東京
【location】新宿リキッドルーム
【member】LIVE act:DOBERMAN / THE MICETEETH / TUFF SESSION / ROCKING TIME DJ:INAMI(東京ロンドン化計画) / TOMMY(DRUM&BASS RECORDS) / YONE(OSAKA SKANKIN' NIGHT) VJ:work FREE

■大阪で大好評だったというスカのイヴェントの東京ヴァージョン。関東・関西それぞれのスカ・バンドとDJが入り乱れてスパ・パーティーをするというもの。リキッドでの5時間ほどのイヴェントはオヂサンには辛かったが(笑)、今勢いがあるという日本のスカ・シーンの一端を肌で味わうことができたおもしろい夜だった。と、オヂサンにはスカに聞こえなかったという部分もあったんだけどね。それにしても、日本にはしっかりとレゲエ・ポップの音楽イディオムが根付いていたということです。

【date】2003.7.5
【title】akiko QUATTRO TOUR 2003
【location】渋谷CLUB QUATTRO
【member】akiko(ヴォーカル)松本圭司(キーボード)平石カツミ(ベース)田中栄二(ドラムス)田中義人(ギター)

■松本バンドをバックにサウンドが非常に締まってきた感のあるakiko。QUATTROでの観客との距離感もつかめている印象があり、レギュラー・イヴェントとして継続してミニ・ライヴを見てみたいというフォーマットになってきた。

【date】2003.7.4
【title】熱帯JAZZ楽団VII~Spain~7thアルバム発売記念公演 熱帯JAZZ楽団“Mambo meets Jazz !!”
【location】中野・なかのZERO大ホール
【member】カルロス菅野(パーカッション)美座良彦(ティンバレス)コスマス・カピッツァ(コンガ)神保彰(ドラムス)高橋ゲタ夫(ベース)森村献(ピアノ)佐々木史郎、鈴木正則、奥村晶、松島啓之(トランペット)中路英明、青木タイセイ(トロンボーン)西田幹(ベース・トロンボーン)近藤和彦、藤陵雅裕(アルト・サックス)野々田万照(テナー・サックス)宮本大路(バリトン・サックス) SpecialGuest:Shiho(from FRIED PRIDE)

■7枚目のアルバムをリリースして絶好調の熱帯JAZZ楽団の東京定例公演。なかのZERO大ホールは音楽関係(特に熱ジャのような大編成)にはPA的に難しいものがあると感じたが、それをある種の「波動」で補えてしまえるのがこのバンドのホントの凄さなのかもしれない。

 

 

 

■2003.8.13更新分

【date】2003.6.30
【title】『MINGA』CD発売記念ライヴ
【location】六本木スイートベイジルSTB139
【member】MINGA<早坂紗知(サックス)永田利樹(ベース)ヤヒロトモヒロ(パーカッション)大儀見元(パーカッション)ワガン・ウジャエ・ローズ(パーカッション)鬼怒無月(ギター)> Guest:おおたか静流

■女性サックス奏者・早坂紗知が結成したワールド・ミュージック指向の新グループ、MINGAのレコ発ライヴ。3パーカッションにラテン・ベースというあたりでラテン・スムース系のフュージョンなのかなぁと想像していると火傷をする(笑)。鬼怒さんはコイルとは別人のヴァリエーション豊かなギターを披露。ゲストのおおたかさんが入るとまた違う雰囲気となる。早坂さんのラインが力強いので、サウンド全体がリズム任せになったりギターの味付け次第になったりしないところが好感触。

【date】2003.6.29
【title】踊る鍵盤!! 魅惑のスガチン・ワールド
【location】下北沢アレイホール
【member】菅野邦彦(ピアノ)小泉清人(ベース、ギター)植松良高(ドラム)小川庸一(コンガ)

ピンポイントの企画ライヴ。菅野邦彦の名前は聞き及んでいたものの、言われてみても「?」というのが正直なところ。というのも無理はなく、60年代後半から70年代初頭にかけてこそ第一線で活躍していたが、その後はブラジルへの放浪の旅など、まさに音楽という秘宝を求めてさまようピアノのインディー・ジョーンズさながらでシーンの動向とは無縁の活動を展開。ところがこの《狂気の鍵盤》に魅せられたファンの尽力で《独演会》を開くことがかなったというわけ。下北沢のアレイホールはいわゆるレンタルの会議場のようなスペースで、真ん中にドカンと置かれたピアノの回りにイスが配置されるという趣向。ちょうど空いていた菅野さんの真後ろという、フツーのライヴでは滅多に体験できないポジションで、彼の動きをジックリを見せていただくことにした。結論、いや~、狂喜乱舞。無意味に多弁なものは饒舌とは言い難いということを思い知らされる。それだけ菅野ピアノは雄弁で内容が濃いということ。ドラムの植松さんの遅刻エピソードも後で知り爆笑。いや~、ジャズメンっていいですねぇ(笑)。

【date】2003.6.27
【title】MITUBISHI HeartーBeat LIVE 藤原大輔
【location】品川・三菱自動車本社ショールーム
【member】藤原大輔(ts,ss) かみむら泰一(ts) 佐藤“ハチ”恭彦(b) 青木延明(ds)

■「ジャズライフ」取材で、三菱自動車の無料ライヴへ。週末の品川のサイバーなオフィス街にジャズが流れる。藤原はphatを終了し、次の段階へ歩を進めているという。当夜はこのフリー・ライヴのための企画ということで、エレクトロニクスも使わず、インプロにも走らず、「ストロード・ロード」や「ターン・アラウンド」「インディア」「グッドバイ・ポークバイ・ハット」といったカヴァーを中心にブリブリとサックスを吹きまくった。

【date】2003.6.26
【title】PE'Z "Cookin'up Melozzy Night"~対峙~
【location】横浜・MotionBlueYOKOHAMA
【member】PE'Z<Ohyama“B.M.W.”Wataru(トランペット) Kadota“JAW”Kousuke(テナー・サックス) ヒイズミマサユ機(キーボード) Nirehara Masahiro(ウッドベース) 航(ドラム)>

■「ジャズライフ」取材でMBYへ。ジャジーなPE'Zとはいかなるものか。のっけからハイテンションでストンと終わるライヴに慣れている彼らだけあって、ジャジーなステージを意識してスタートさせる冒頭では、バンド全体のバランスを取るのに苦労しているような印象を受けたものの、中盤からはジャズ・ライヴ的なテンションにも慣れて、一気にラスト・ランへ。自分たちのスタイルを持っているものの(それが成功しているものの)強みを見せつけられた。

【date】2003.6.24
【title】上野耕路ニュー・アンサンブル
【location】目黒BluesAlleyJapan
【member】上野耕路(ピアノ)松永孝義(ベース)鶴谷智生(ドラム)増井朗人(トロンボーン)赤木りえ(フルート)田沢麻美(トランペット)石田裕美(アルトサックス)矢島恵理子(バリトンサックス)高木鳥長(テナーサックス)秋山かえで(クラリネット)古田儀左エ門(ホルン)国木任光(チューバ)石崎陽子(マリンバ)秋山久美子(ヴォーカル)

■上野耕路がまたなにやら新しい活動を始めるというので目黒詣。基本的にはアルバム『Tropici di Vetro』の発展ではあるものの、アンサンブル指向を強く押し出している。個人的には、非常にまとまりすぎているという部分が不満。端正になりすぎては、失速するように感じる。いろいろなポジションの人が混ざり合って猥雑なパワーを《まき散らす》ことを期待していたので、正直言って《巧すぎる》アンサンブルは意外。これから壊れていくところを見ていきたいと思う。

【date】2003.6.23
【title】日野賢二『ワンダーランド』発売記念ライヴ
【location】六本木スイートベイジルSTB139
【member】日野賢二(ベース)J.R.ロビンソン(ドラム)ペニーK(キーボード)NOBU-K(キーボード)MASA(ギター)石崎忍(サックス)中島オバヲ(パーカッション)Tanya Michelle(ヴォーカル)Guest:日野皓正(トランペット)akiko(ヴォーカル)カルロス菅野(パーカッション)

■「ジャズライフ」の取材でzinoこと日野賢二のライヴへ。彼は日本を代表するジャズ・トランペッター日野皓正の次男。このほど本格的に日本での活動を開始。あの天性の明るさはポイント高し。技量ともに文句なし。これからの活躍に期待。

【date】2003.6.22
【title】The Synergy Live 2003<石井彰&川嶋哲郎/ジャン=ミシェル・ピルクSOLO/アントニオ・ファラオTRIO>
【location】紀尾井ホール
【member】石井彰(ピアノ)川嶋哲郎(サックス)ジャン=ミシェル・ピルク(ピアノ)アントニオ・ファラオ(ピアノ)マーティン・ジャコノフスキ(ベース)デヤン・テルジッヒ(ドラム)

■シナジー・ライヴの最終日。1stの石井彰のセットには、まずピアノ・ソロから始まって、川嶋のサックスが合流するという構成。川嶋のサックスがホールにこだまして非常に気持ちよさそうだった。2ndのピルクのソロは、抽象画を想像させるような微妙なタッチを盛り込んだ興味深いもの。休憩の時にロビーに出てきたピルクがボクを覚えていて、「やあ、今日のソロはどうだった?」と聞いてきたので(彼はフランス人だが、現在はアメリカに住んでいて、ものすごい早口の英語をしゃべる)、「いや、昨日のトリオの方がよかったなぁ」と言ったら、ムッとしていた(笑)。ごめん、ピルク。ラストはファラオのトリオ。これもソロよりトリオの方がオモシロイ。ヨーロッパの考え方なのだろうか、ドラムがそもそも入っていないクラシックのトリオという考え方のところへ、どうやってジャズ的なリズム・アプローチを盛り込んでいくか、その《絵の描き方》がそれぞれ独創的で、だからオモシロイ状況になってきているのではないだろうか。リズム・キープをしない日本のトリオ、たとえば山下洋輔トリオがヨーロッパで評価されたのも、根本的な視点の違いが存在しているのではないだろうか。

【date】2003.6.21
【title】VALIS LAST LIVE
【location】目黒BluesAlleyJapan
【member】VALIS<布川利樹(ギター)納浩一(ベース)古川初穂(キーボード)木村万作(ドラム)カルロス菅野(パーカッション)小池修(サックス)Guest:藤陵雅裕(サックス)

■シナジー・ライヴ終了後に四ッ谷から南北線で目黒にすっ飛んで、Jフュージョン最強のユニットの1つ、ヴァリスのラスト・ライヴに駆けつける。場内は満員。聞けばちょうど1stが終わったところで、イスにありついてから2ndを待つ。その雰囲気に浸っていると、こうして《ラスト・ライヴ》ができるバンドの幸せというのは、やっぱり《有り難い》ものなのだろうなぁと思う。温かい気持ちになって帰る。

【date】2003.6.21
【title】The Synergy Live 2003<アントニオ・ファラオSOLO/ジャン=ミシェル・ピルクTRIO>
【location】紀尾井ホール
【member】アントニオ・ファラオ(ピアノ)ジャン=ミシェル・ピルク(ピアノ)フランソワ・ムタン(ベース)アリ・オエング(ドラム)

■インタビューをしたジャン=ミシェル・ピルクのライヴを見にシナジー・ライヴへ。1stはイタリアのテクニシャンと噂のアントニオ・ファラオのソロ。もっとガッツンガッツン弾くのかと思っていたら、非常にECM的。やはりヨーロッパにはクラシック~コンテンポラリーをベースとした基礎がシッカリとあるのだろう。《自由に弾いていいよ》というときの、日本人がコピー上手になるのとは正反対な、《楽器をもてあそぶ》ような、演奏者としてのポジショニングの違いのようなものを感じてしまう。2ndのピルク・トリオは噂に違わぬすばらしい内容。不慣れな条件であれだけのトリオ・パフォーマンスを披露できるとは仰天。

【date】2003.6.19
【title】The Synergy Live 2003<トリオ・トウケアット/マリア・ジョアン&マリオ・ラジーニャDUO>
【location】紀尾井ホール
【member】トリオ・トウケアット<リロ・ランタラ(ピアノ)ラミ・エスケリネン(ドラム)エンリケ・シーカザーリ(ベース)>マリア・ジョアン(ヴォーカル&ヴォイス)マリオ・ラジーニャ(ピアノ)

■PAを施さないことを主眼とした《シナジー・ライヴ》を拝見。豪腕と噂されていたフィンランドのピアノ・トリオ、トリオ・トウケアット、キャラクターはなかなかなのだが、ピアノから発せられる音が絡み合っていないような感じ。クラシック・ホールとの相性の問題なのだろうか、コンサート・コンセプトが伝わっていなかったのか。2ndのマリア・ジョアンはすばらしいパフォーマンスを披露してくれた。日本のヴォイス・パフォーマーはまだまだ追いついていないなぁと思う。あるヴォーカリストに「肘の関節や腰骨から声を出す」という話を聞いて、「へぇ~」と思ったことがあるのだが、それをリスナーに伝えられるステージングができてこそ初めて、そんなところから声を出す意味と結果が存在しうるわけで、それを見せられてしまうと、やはり無条件に凄いなぁと思うし、ヴォイスという楽器はほかの楽器より優れていると思わざるを得ない。

【date】2003.6.14
【title】2003 ALL STANDING TOUR "HIGH NUMBERS" FINAL
【location】舞浜・TOKYO BAY NK HALL
【member】東京スカパラダイスオーケストラ<NARGO(トランペット)MASAHIKO KITAHARA(トロンボーン)TATSUYUKI HIYAMUTA(アルトサックス、agitate-man)GAMO(テナーサックス)ATSUSHI YANAKA(バリトンサックス)YUICHI OKI(キーボード)TAKASHI KATO(ギター)TSUYOSHI KAWAKAMI(ベース)HAJIME OHMORI(パーカッション)KIN-ICHI MOTEGI(ドラム)>

■舞浜に降りると、すでにNKホールへ向かうバスに乗るための長い列が。スタンディングで7千入るという場内は着々と人でいっぱいになり、スタートとともにものすごいうねりとなった。ゲストのないシンプルなステージ構成は非常にノリやすく見やすく、MCの位置と意味を示す良い見本に思える。終演後、土砂降りの雨の中を駅に向かう心が萎えてないのは、彼らのパワーがストレートに伝わっているからなのだと思う。

【date】2003.6.13
【title】COIL
【location】江古田BUDDY
【member】COIL<鬼怒無月(ギター)早川岳晴(ベース)田中栄二(ドラム)>

■コイルを聴きにトコトコと江古田へ。遠慮会釈のない音というのはこういうのを言うのだろうか。プログレを通り過ぎて、スラッシュ・メタルっぽさを感じる。ただ、ロックの良い意味での《軽さ》がないのは、音を緻密につないでいるそれぞれの力量のなせる技。繋がれている、いわゆる《破綻のない》、つまりは《責任のある》サウンドが構築されるからこそ、ロック的な《吐き捨てる破壊力》ではなく、《吸い込まれる同一感》がそこに生み出される。強力な磁場にフラフラになって帰途についた。

【date】2003.6.8
【title】熊谷徳明 スペシャル・トリオ
【location】横浜・MotionBlueYOKOHAMA
【member】熊谷徳明(ドラム)窪田 宏(エレクトーン、キーボード)養父 貴(ギター)須藤 満(ベース)

■「月刊エレクトーン」取材で横浜の赤レンガ倉庫街へ。1stセットでは窪田が久々にエレクトーンを演奏。それにつられてか、ドラムの熊谷が「昔、習ってたんですよ~」発言で、一挙に場内は盛り上がり、とうとう熊谷がエレクトーンの前に座る羽目に。習っていた当時コピーしていたというカシオペアの曲を披露して場内は大喝采。1stの終盤には須藤が声のみで出演。2ndには生身も出現して、窪田の足ベースに対抗するかのようなブチブチのベースを披露。MBYは客席との距離のせいか横長のハコのせいか、ミョーな雰囲気になりやすいようで、当夜もハプニングで楽しませてもらった。

【date】2003.6.7
【title】bebe in MARUNOUCHI MUSIC EVOLUTION
【location】丸ビル・マルキューブ
【member】村山桐山ストリングス<桐山なぎさ(第一ヴァイオリン)藤家泉子(第二ヴァイオリン)村山達哉(ヴィオラ)堀沢真己(チェロ)> 立花泰彦(ウッドベース)上村計一郎(ドラム)松本圭司(キーボード)

■丸ビル1階のフリー・スペースで行なわれた無料イヴェント。bebeはジャズの名門レーベル《エマーシー》から日本人初のデビューを果たした歌手。ジャケットやパンフ類などでも着物を着るというようなイメージ戦略を通して、当日もお着物で登場。独特の舌足らずな歌唱法は、《和》をテーマにした彼女のアルバム・コンセプトによくマッチしている(というか、彼女のキャラクターを柱にサウンドをメイクアップしていくという、《ジャズありき》ではないアプローチ)。ということで、明確なイメージ構築のため、あれこれ考えずに楽しめる。バックにはアルバムにも参加している生ストリングスが登場という豪華さで、短い時間ながらも《お値打ち感》のあるステージとなっていた。

【date】2003.6.6
【title】渋谷毅コンサート
【location】上野公園・奏楽堂
【member】渋谷毅(ピアノ)峰厚介(テナーサックス)松風紘一(フルート、アルトサックス、バリトンサックス)関島岳郎(チューバ)外山明(ドラム)飛び入り:林栄一(アルトサックス)

■奏楽堂は上野の音楽学校(現・東京芸術大学)の講堂として使用されていた建築物で、現在は上野公園内に移築・保存されているもの。卒業生である渋谷毅は、この講堂でピアノの練習をしていたという、いわくのある場所でのノンPAコンサート。テーマはエリントンで、エリントン楽曲を渋谷毅がいかに変形クァルテットへアレンジするのかが最大の聴き所。ジャングル・サウンドが墨痕鮮やかな墨絵へと変化する様を、電気的な介在なしに耳で味わう。

【date】2003.6.5
【title】Ayibobo Live Stone Voudou CDリリース記者発表会
【location】汐留・cafe HAICH
【member】アゾール(パーカッション)ブロー・バルクール(ギター)

■アイボボのニュー・アルバムのリリースを記念したイヴェントが、汐留のシティセンターにあるカフェ・ハイチで行なわれた。入り口では駐日ハイチ共和国大使館特命全権大使のマルセル・デュレ氏が自ら出迎えてくれ、ハイチのカクテルと軽食を取りながらのレセプションとなった。アイボボに関しては、ニュー・アルバム『ライヴ・ストーン・ブードゥー』の紹介のほか、ジャン=ポール・ブレリーからネットで届けられたというライヴ映像が披露され、彼のサウンドを待ちわびていたボクらをさらに刺激してくれた。続いてハイチを代表する世界的なパーカッショニストのアゾールとブロー・バルクールによるライヴに移り、シンプルな構成ながらシッカリとした構造を持っているヘイシャン・ミュージックを生体験することができた。

【date】2003.6.3
【title】intoxicate06
【location】青山CAY
【member】マジック・マリック(フルート)ロビー・アミーン(ドラム)ペドリート・マルチネス(パーカッション)石井彰(ピアノ)安ヵ川大樹(ベース)Dice-K(藤原大輔、サックス&エレクトリック)高良久美子(パーカッション)青木タイセイ(トロンボーン)川嶋哲郎(サックス)Tuji(パーカッション)芳垣安洋(ドラム)大友良英(ギター)勝井祐二(ヴァイオリン)

■タワー・レコードのPR誌「musee」が主催するイヴェントの6回目。当夜はまず元phatの藤原大輔とTujiによるパフォーマンス。エレクトロニクスを使用しながらも、phatよりジャズ・インプロヴィゼーションよりな指向性を持ったサウンドを披露。彼が《男気系》ジャズへ近づいていることを歓迎。次は川嶋哲郎、安ヵ川大樹、石井彰とディープ・ルンバのリズムによるセッション。グルーヴの解釈が違っていたにもかかわらず、セッション以上の《バチッ》とした接触があっておもしろい。最後はスペシャル・ユニット《Nudge! Nudge!》の登場。見れて良かった。これらにスペシャル・ゲストでフランスからやってきた巨人フルーティストのマジック・マリックが参加。個人的には藤原大輔のセッションへの参加がいちばんマッチしていたように感じたが、彼のソロのパフォーマンスにも興味が持てた。

【date】2003.6.1
【title】五十嵐はるみニューアルバム発売コンサート Marbles Chat in MARUNOUCHI
【location】東京 丸ビルホール
【member】五十嵐はるみ(ヴォーカル)青柳誠(キーボード、サックス)中村建治(キーボード)納浩一(ベース)小川悦司(ギター)平山恵勇(ドラム、コーラス)横山達治(パーカッション)三松亜美(コーラス)

■ポップな感覚でファン層をますます広げている五十嵐はるみのレコ発コンサート。場所は都心のニュー・トレンド・スポットとなった丸ビル7階のホール。ニュー・アルバム『マーブルス・チャット』のお披露目とあって、バックも豪華。サウンド的に、ジャジーという方向性とはまた違った《シック》という表現力が加わり、ライヴ自体の構成力も膨らむ好結果を生んでいる。MCに関しては、誰か《ツッコミ》役がいれば、ステージングとしてはほぼ完璧なんだけど(笑)。「これが歌える」という並べ方から、前後の影響の仕方を考えられるゆとりと深さを備えつつあることが伝わってきたことで、これからがまた楽しみになってきた。

 

 

 

■2003.6.10更新分

【date】2003.5.25
【title】BEADY BELLE
【location】渋谷LA FABRIQUE
【member】ベアテ・レック(ヴォーカル)マリユス・レクショー(ベース)エリック・ホルム(ドラム)ヨルン・オイエン(キーボード)

■三槻さんのライヴが8時過ぎに終了、そそくさと失礼させていただき、中野坂上から大江戸線-銀座線を乗り継いで渋谷へ。宇田川町交番近くのカフェにて行なわれているビーディー・ベルのライヴへ滑り込む。8時半のライヴ・スタートに対して、時計を見ると9時10分ほど前。ビーディー・ベルは1993年にオスロ大学で出会ったベアテ・レックとマリユス・レクショーが結成したユニット。2001年にデビュー・アルバムをリリースし、カルテットを核にした北欧アンビエントなコンテンポラリー・サウンドがクラブ・ジャズ・シーンの支持を得たというバックボーンを持つ。会場は(演出かハコの制約かは不明だが)異常に暗く、近くに位置するはずのノルウェーの美女、ベアテ・レックの顔がよく見えない(笑)。彼女は髪を振り乱し、ときおり太極拳的な動きでサウンドと同調しながら、ヴォイスや打ち込み関係と見られる機材を操って、浮遊感のあるクールなビーディー・ベルの世界を紡ぎ出していく。ベースとドラムの繰り出すグルーヴもかなり強烈で、単なるアンビエントとは趣が違う。ジャムっぽさもかなりあるユニットだということが伝わってきた。

【date】2003.5.25
【title】三槻直子セカンド・アルバム発売記念コンサート
【location】中野坂上ハーモニーホール
【member】三槻直子(ヴォーカル)後藤浩二(ピアノ)北川弘幸(ベース)猿渡泰幸(ドラム)SpecialGuest 井上淑彦(サックス)

■トランペットの大野俊三をゲストに迎えた2ndアルバム『デディケイティッド・トゥ・ユー』をリリースした三槻直子の発売記念リサイタル。彼女はすでに活動歴20年、ヴォーカル・スクールの講師としても実績を積み上げている日本ジャズ・ヴォーカル界の重鎮とも言うべき域に達しつつあるが、ヴォーカリストとしてはベテラン然とすることなくチャレンジャブルなパフォーマンスを旨としているところが素晴らしい。当夜もアルバムの核となったピアノ・トリオに加えてスペシャル・ゲストに井上俊彦を迎えてデュオするなど、彼女の好奇心の大きさがサウンドを活性化するのに役立っている場面が多々あって、それが聴き手にも楽しく伝わってきた。

【date】2003.5.23
【title】クリヤ・マコト「Latin Touch」LIVE~マリ・クレール新装刊&J roomレーベル移籍第1弾CD発売記念
【location】六本木スイートベイジルSTB139
【member】クリヤ・マコト(p・key)納浩一(B) 松山修(ds) 池内秀樹(g) 落合徹也(vln) Karen(vo) 住友紀人(key)

■クリヤ・マコトがミュージカル・ディレクターを務める新レーベル“J room”の立ち上げと、その第一弾でリリースされる自らの『ラテン・タッチ』発売を記念するライヴ。ステージに登場したクリヤはまずソロでニュー・アルバムからのナンバー「ウェルカム・ホーム」を演奏。続いてベースとドラムが加わりミシェル・ルグランの「ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング」とつないでいく。平井堅とのコラボレイト曲「世界で一番君が好き」ではヴァイオリンの落合とギターの池内がシャッフルするなど急激に演奏温度が上昇、メンバーも揃っての「アルティメイト・ゾーン」やスティーヴィー・ワンダーの「センド・ワン・ユア・ラヴ」といったグルーヴィーなナンバーを使って、クリヤ流のラテン解釈による“ノリ”を作っていく。
2ndではアルバムでも共演し、6月に中村善郎プロデュースでJ roomからアルバムがリリースされるヴォーカリストKarenが参加して、ジョアン・ドナートとアントニオ・カルロス・ジョビンのスタンダードを披露。後半は再びインストながら、たしかにこれまでの黒人音楽至上主義であったクリヤ・マコトとはひと味違ったサウンドが醸し出され、クラシック/邦楽/ジャズの新たな融合を目指すというこのレーベルで彼がどんな仕掛けを施し、いかなる展開が待ちかまえているのかという期待をたっぷり持たせてくれたステージとなった。

【date】2003.5.20
【title】Saya
【location】渋谷JZ Brat
【member】Saya(ピアノ、ローズ)藤井伸昭(ドラム)杉本智和(ベース)

■ニュー・アルバム『ビューティフル・デイ』のプロモートで来日した、サンフランシスコ在住の新鋭、Sayaのライヴにおじゃま。当夜は初共演となるベース杉本とのコラボも注目。ニュー・ソウル系のリズムとのコラボに興味があるという彼女の新感覚のピアノは、この若いユニットになってより可能性を広げたようだ。モッチリとした曲よりもファンキーなアップ・テンポのナンバーの方が音が刺さって楽しい。杉本-藤井のリズム隊はスリープ・ウォーカーもそうだが、なぜかピアノを躍動させる不思議なヴァイブレーションを備えているような気がする。

【date】2003.5.15
【title】Live Dimensional ー Twelfth "Melody"
【location】六本木スイートベイジルSTB139
【member】DIMENSION<増崎孝司(ギター)小野塚晃(ピアノ、キーボード)勝田一樹(サックス)> 青木智仁(ベース)石川雅春(ドラム)

■ニュー・アルバム『メロディー』をリリースしたディメンションのツアー。札幌・名古屋・神戸と回る初日。今回のアルバムは、これまでのディメのイメージを覆すと行っても過言ではない“ゆったりテンポ”の、タイトル通りメロディーラインが染み渡ってくる内容だったので、それがどのようにライヴに反映されるかが興味津々。ステージへの登場の仕方もかなりのんびりしたカンジだったが(笑)、1曲目はそのニュー・アルバムから「ソング・オブ・マイ・ハート…」をチョイス。リスナーは常に新しいモノをほしがるくせに、実は保守的なイメージを特定対象に求めたがる。変わらなければならないけれど、変わってほしくない部分が残っていないとイヤ……。そんなわがままをこれからディメンションはどうやって処理していくのだろうか。演奏・MCともに全般的にテンションが高く(初日という条件が反映したようだが)、そのためにスローなテンポの曲が主体となっても間延びしたカンジがなかったのは素晴らしいと思った。くつろがせるためのバラードではなく、高ぶった感情をどう効果的に伝えたらいいのか。その難題に対して、彼らは1つの答えを見つけたのかもしれない。

【date】番外

【title】茄子 アンダルシアの夏
【location】試写会
【member】
  原作:黒田硫黄『茄子』より(全3巻/月刊アフタヌーンKC講談社)
  監督・脚本:高坂希太郎
  エグゼクティブ・プロデューサー:椎名保
  プロデューサー:丸山正雄
  美術監督:田中直哉
  撮影監督:白井久男 岸克芳
  編集:瀬山武司
  音楽監督:三間雅文
  効果:倉橋静男
  音楽:本多俊之
  製作:「茄子 アンダルシアの夏」製作委員会
  制作:マッドハウス
  配給:アスミック・エース
2003年7月26日(土)全国夏休みロードショー!

■世界に冠たる宮崎アニメの作画監督として活躍している高坂希太郎の監督デビュー作品。彼自身がレーサーとして体験している自転車レースを題材に、奇才漫画家・黒田硫黄の読み切り1話のコミックを原作として、50分弱のアニメーションを制作することになった――という作品の試写会に行って来ました。京橋の試写室は話題性満点の高坂初作品ということでギッシリ満員。あらすじを資料から拾ってみると「主人公ペペはひたすら走っていた。そこは“ヴェルタ・ア・エスパーニャ”。“ツール・ド・フランス”と並ぶ「世界三大自転車レース」の1つ。勝利に恵まれず、まさに今、レースのまっただ中、解雇されることを知る。やがて生まれ育ったスペイン、アンダルシアの村にさしかかった。その瞬間、様々な思いがよぎる……」。
上映時間を示したとおり、短編のアニメーションということなので、かなりストーリーを絞り込み(というか原作が読み切り1話のようなので膨らませようがないというか)、そのために冒頭で乗り切れないと物語の世界に入っていかれないだろうという難しさは感じた。乗り切る条件としては、まず第一に自転車競技ないしはロードレース、もしくはアウトドアに興味があること。ボクは自転車競技やロードレースの経験や興味はなかったものの、アウトドア好きが幸いして、この映画の「風を切る感じ」にゾクッときて、そのまま持っていかれてしまった。真夏のジリジリとしたアスファルト道路を歩く感じや、登山で稜線に出たときの温度の違う空気の固まりが体を通り抜けていく感じ。そうした“体感的な映像”がこのアニメーションでは見事に表現されている。エピソードを絞った影響で、ラヴ・ストーリーの盛り上がりや、まさに背水の陣で故郷を後にしようとする主人公の心理描写に関しては残念な部分もあったと思うが、レース・アニメに限ってみれば、ラスト・シーン近くの描写などはリアルでかなり興奮させられる。
余談だが、試写が終わって出口に通じるエレベーターを待つ列でバッタリと当作品の音楽担当である本多俊之さんに出会った。「あれ、関係者試写に行かれなかったんですか?」「いや~、2度目なんだよねぇ~」「そうなんですかぁ。そういえば、舞台(3~4月の芸術座「港町十三番地」)お疲れ様でした!」「あ~、見に来てくれてありがとう。でもさぁ、あのあと、アタマが真っ白になっちゃって、台詞が出てこなくなっちゃったりしてね、タイヘンだったんだよ~(笑)」「そんな忙しい時期に、この映画の音楽もやってらしたんですねぇ」「うん、まあ。でもおもしろかったよ。エンディングの清志郎さんの歌(「自転車ショー歌」=小林旭などが歌った「自動車ショー歌」の自転車ヴァージョンを忌野清志郎が歌っているのだ!)、かっこいいでしょ。あれはね、清志郎さんが『同録じゃないとやらない!』って、“セーノ”でクリックもナシにボクらも一緒に音出して録ったヤツなんだよ……」などなど、エレベーターが地下一階から地上一階に出るまでの寸時のご挨拶でいろいろと裏話を語っていただきました。ありがとうございました(笑)。

 

 

 

■2003.5.13更新分

【date】2003.5.12
【title】上野耕路クァルテット
【location】六本木PITINN
【member】上野耕路(pf)増井朗人(tb)松永孝義(b)杉野寿之(ds)

■4月28日にリリースされた新作『TROPICI DI VETRO』でジャズへのアプローチを鮮明に打ち出した上野耕路のピットイン定例ライヴ。まずは単身で登場し、ソロによるパフォーマンスを披露。持ち前のクラシック~現代音楽的な香りがプンプンと漂う中に、ジャズ的なブロック・コードや音のつなぎ方などがちりばめられている。リズムを押さえた分、パラダイムとしてはジャズから遠く感じたが、この仕掛けが後々ボディーブロウのようにジワジワと効いてくることがやがてわかる。数曲のソロの後はトリオでの演奏。ドラムの一定なグルーヴによって曲の表情が一変することがダイレクトに伝わってくる。トロンボーンの増井が入るとさらにメロディーが強調されるようになり、上野耕路が語っていた20世紀ソングライトとしてのジャズの位置を明確に浮き上がらせるような流れになっていることに気づき、「あー、やられた・・・」ということになっていた。2ndセットでは増井とのデュオというトロンボーン・マニア泣かせの演出で、ヒンデミットやアーヴィング・バーリンをプレイするなど、「ならでは」のステージ構成も。アンコールは本編でも披露したバカラック・ナンバーを再演するなど、たっぷりとジャズ・ユニットのエスプリを堪能させてくれたライヴだった。

【date】2003.5.2
【title】Kahimi Karie LIVE2003“COME FLY WITH ME”
【location】SHIBUYA-AX
【member】カヒミ・カリィ(vo),神田朋樹(g),高井康生(g),水谷浩章(b),外山明(ds,per),久米大作(pf,key),菊地成孔(sax),佐々木史郎(tp),仙波清彦(per)

■仙波さんの事務所のお誘いで、カヒミ・カリィのライヴへ足を運んでみた。久米、水谷、外山のリズムセクションに、佐々木、菊地というホーンセクションというのもぜひ見たかったから。左右に大きな白い幕が下げられたAXでは、スタートと同時にイメージ映像が流され、アヴァンギャルドなバックの演奏とともに不可思議な空間が構築されていく。かなりダウナーなサウンドだが、独特の質感があって飽きさせない。英語やフランス語を織り交ぜたカヒミ・カリィのパフォーマンスは、ところどころで映像とリンクするような試みが織り交ぜられ、語るような彼女の歌を引き立てている。クラブ・ビートを仙波清彦のパーカッションが支配し、そこに外山明のフリー・ジャズ系なビートが絡んでいくという手法も興味深い。サウンド的にはブリジット・フォンティーヌやシャルロット・ゲーンズブール、もしくは中学のころに来日公演を見たリック・ウェイクマンの「地底探検」のステージを思い出したりした。ためらいがちなアンコールの拍手とは別に(アンコールじゃなくて最後にメドレーでしめてもよかったような気がする)、非常に本編は意欲的な、アッパー・カルチャーなステージが成立していたと思う。

【date】2003.4.30
【title】Views Of Peace
【location】六本木PITINN
【member】Views Of Peace<日野林晋(サックス) 紺野紗衣(ピアノ、キーボード) 黒瀬浩一(ギター) 鈴木克人(ベース) 染谷忠(ドラム) 吉浦けんじ(パーカッション) guest 平尾ゆみ(ヴォーカル)>

■フュージョン・ユニットTKBや各種ホーンセクション方面で活躍している日野林晋のユニット、ヴュー・オブ・ピースのライヴ。まったり系と聞いて通っているうちにはじけ系のおもしろさも出てきて、バンドとしての方向性が表われてきた。当夜で気づいたのは、このバンドにはファンク・ラインとスムースなカフェ系ラインの2つが混在しているということ。どちらかに一本化されるのではおもしろくないが、思い切って曲や編成を分けてステージングするという手もありそうだと、見ていて楽しくなる。吉浦けんじのパーカッションを核としたアレンジで1つのVOPらしい柱を作り、そこにバスドラを生かしたファンク・サウンドを織り交ぜるなど、新しいキャラクターが作り出せるのではないだろうか。ファンク・ラインはファンク・ラインで生ベースだからおもしろいし。今年の夏はライヴをお休みしてスタジオにはいるということなので、涼しくなってからどうサウンドが変化しているかを楽しみにしたい。

【date】2003.4.26
【title】REALIVE TOUR 2003 春~妙なる音色~
【location】渋谷クラブ・クアトロ
【member】PE'Z<Ohyama“B.M.W.”Wataru(トランペット) Kadota“JAW”Kousuke(テナー・サックス) ヒイズミマサユ機(キーボード) Nirehara Masahiro(ウッドベース) 航(ドラム)> guest 上妻宏光(プラグド津軽三味線)

■「ジャズライフ」誌の取材で雑踏のセンター街を抜けクアトロへ。PE'Zのライヴを初体験。スタンディング・オンリーのクアトロはギュウギュウ。始まるやいなや、ヘッドバンクするフロアの連中。もう、周囲はパンク状態だ(←パンク・ミュージックってことです)。なるほど、世間ではそういうとらえかたをしているのだね。PE'Zのステージングは簡潔にして流麗。気合いと迫力をもってサウンドとなす彼らの有言実行性が現われている。ゲストの上妻宏光はカバー曲「かもめが飛んだ日」とPE'Zの「Akatsuki」に参加。見物でしたぁ~(笑)。1時間30分でアンコールなしのスパッと終了。この潔さはぜひ体験したい。

【date】2003.4.25
【title】乾坤値千金ファイナル
【location】渋谷オーチャードホール
【member】林英哲(和太鼓) 山下洋輔(ピアノ)

■ツアーのスタートであった青山劇場でのステージを拝見し、ラストであるオーチャードのステージにもうかがうことになった。この2つのライヴ、まずは会場の形状が違う。それがどう音に影響するのか。奥行きのある青山劇場に対し、オーチャードは天井が高い。大太鼓は面の垂直方向へ音が投げ出されるため、上方へとせり上がる形のオーチャード、ボクの見ていた3階などでは音が散ってしまうのではと心配していたが、まるでウーハーのように低音の角が取れ、ピアノの打撃音とまろやかに融合することがわかって一安心。山下さんもホールごとにピアノと太鼓の音の芯をどのタイミングで合わせるかなどに(無意識にでも意識的にでも)気を配っているのだろうか。いずれにしろ、音の消え際で見事な協調がとれているデュオ・サウンドを体験するのは非常に楽しい。

【date】2003.4.24
【title】『とりおっ!』リリース記念ブルーノート・ツアー
【location】青山BLUENOTE東京
【member】塩谷哲(ピアノ) 吉野弘志(ベース) 山木秀夫(ドラム)

■「ジャズライフ」誌の取材で青山のブルーノートへ。満を持してジャズ・ピアノの最終形態と言われるトリオに挑戦したアルバム『とりおっ!』をリリースした塩谷哲のツアー。アルバム時点ですでにピアノ・トリオの新解釈がちりばめられていたのだが、それがどうステージに表現されるのかと大いに楽しみにして開演を待つ。以下本誌原稿へ。

【date】2003.4.23
【title】ISSEI LIVE IV
【location】六本木SweetbasilSTB139
【member】野呂一生(g) 和泉宏隆(pf) 熊谷徳明(ds) 亀山アキラ(b) 林良(key)

■カシオペアのリーダーにしてJフュージョン界を代表するコンテンポラリー・ギタリストである野呂一生のソロ・プロジェクトのライヴ。それにしても、野呂さんがフレットレス・ギターにいたくご執心であることが伝わるステージだった。賛否は当然あるとしても、フレットレスによって解放されたギターの未知の部分を探ることがおもしろくてしょうがないといったようすの彼から発せられるサウンドは、それだけでパワーのあるものとなっている。ギターと対峙していることが多いために、音色が単調になるなど、サウンド全体への影響は少なくないのだが、トーン・コントロールの指使いなど、新たに生み出した技を駆使して別の世界を構築しようとしている野呂さんの姿には、やはり惹きつけられずにいられないものが発せられている。簡潔な構成のライヴではあったが、メンバーとのコミュニケーションもだいぶ深まり、今後もソロ・プロジェクトとしてカシオペアと並行して道を深めていくことを期待したい。ハードエッジな野呂サウンドにどうフレットレスが溶け込んでくるのか、それが楽しみだ。

【date】2003.4.22
【title】CD“Bird's Eye Prospects” Memorial Live
【location】目黒BluesAlleyJapan
【member】JunkyFunk<松井秋彦(ピアノ、キーボード) 音川英二(サックス) 岡田次郎(ベース) 島村一徳(ドラム)>

■マレーシア公演を含めて、新譜『バーズ・アイ・プロスペクツ』リリース記念ツアーをずらっと行ない、久々に活動が集中したと思われるジャンキー・ファンクの、ツアー・ラストを飾る東京でのライヴ。各地を回ってきたことを感じさせるバンドとしての音のまとまりが伝わり、非常に高濃度のステージだった。高濃度というのは、流れの時間軸と、それを縦貫する各メンバーの連携が厚いということ。1/16拍ずれても破綻してしまうという緊張感の上に成り立って独特の美学を築いているのがジャンキー・ファンクの音楽だという認識があったのだが、それはそれで各メンバーが限りなくほかのメンバーとの距離確認に気を遣うということでもあり、たとえれば割り箸でピンポン球をはさんでリレーをする運動会競技みたいなものだ。それが当夜は、そのピンポン球を割り箸で挟まずに、ポンと放り投げたりしちゃっても曲がまっとうされるような場面が多々あった。これは進歩なのか変節なのか・・・。新機軸「スタンダード・ア・ラ・ジャンキー・ファンク」といい、もっともっとおもしろいこと、期待してます。

【date】2003.4.18
【title】シリーズ/種を蒔く人「渡辺香津美/ギター・ルネッサンス Vol.1~ソロアルバム『Guitar Renaissance』発売記念~遊弦離脱
【location】銀座・王子ホール
【member】渡辺香津美(ギター)

■「ジャズライフ」誌の取材で王子ホールへ。室内楽用のけっして大きいとはいえない贅沢な空間に、ズラリと例によってギターを並べた渡辺香津美が、本日は1人でそれを埋め尽くしてくれようというのだ。この場所では新譜『ギター・ルネッサンス』の収録も行なわれたのだが、違う曲順で送り出される“生のパフォーマンス”はやっぱり格別。心地よい響きにさらされながら、なぜか眠くならない。その理由は、次の瞬間に渡辺香津美が何をやらかすかわからないという、微妙な緊張感が常に張りつめているからだということを、帰り道の銀座四丁目交差点へと向かう途上でぼんやりと考えていた。

【date】2003.4.16
【title】野間瞳リサイタルVol.II
【location】渋谷クロスタワーホール
【member】野間瞳(vo) 佐々木史郎(tp) 小池修(ts) 片岡雄三(tb) 青柳誠(p) 加瀬達(b) 大坂昌彦 (ds)

■ステージが暗転するとすぐにバックのカベにニューヨークの遠景が映し出されるという演出。今宵のひととき、歌と演奏でニューヨーク・エンターテイメントの世界を味わうというコンサートの趣旨がストレートに伝わるオープニングだ。野間瞳のヴォーカルはレビュー・ショーの雰囲気を伝える明瞭闊達さが特長で、こうした演出が非常にマッチしている。3管を配した演奏陣もゴージャスで、野間の張りのある歌声がますます輝いてくるところが楽しい。トントンと小気味よく進む進行、前後につながりがあり物語性を感じさせる曲配列、休憩なしのロングトレイルなどなど、普段のクラブ・ギグとは違った彼女の魅力が発揮され、酒やつまみ、テーブルさえない空間でありながら惹きつけたままラストまで突入。リサイタル2回目ということもあり、すでに自分の魅力の表現方法と空間の使い分け方などをすっかり掌握したように感じた。

【date】2003.4.14
【title】第75回 アサヒビールロビーコンサート 坂田明と「役立たず a good for nothing」のあり方について その2
【location】吾妻橋・アサヒビール本社ロビー
【member】坂田明3mii 坂田明(サックス、クラリネット) 黒田京子(ピアノ) バカボン鈴木(ベース) 平野公崇(サックス) 港大尋(ピアノ、パーカッション、サックス他)

■浅草・吾妻橋のたもとにあるアサヒビール本社のロビーで不定期に開催されている無料コンサート。この場所は300人以上の収納能力があり、今回もほぼ満席の状態。坂田さんの名前に惹かれて来たと思われる方々も多く、こうしたきっかけで音楽に親しむことはすばらしいと思う。特に坂田さんのような自由なとらえ方で音楽を生み出す人のコンサートを体験できるということは。タイトルに「その2」とあるように、昨年「その1」が行なわれたようなのだが(ボクは見ておりませんでした)、そのときはちょうど坂田さんが伏せられた後のことで、彼は演奏をせずにステージを見守っていたという話だったが、今回は復調、その艶と渋さを増したプレイをたっぷりと聴かせてくれた。良き音楽の後は良き余韻を味わうために浅草逍遥。焼き鳥が旨い「しぶや」が定休日だったため、「神谷バー」で喉を潤して帰宅。

【date】2003.4.11
【title】松本圭司
【location】目黒BluesAlleyJapan
【member】松本圭司(ピアノ) 竹中俊二(ギター) 平石カツミ(ベース) 田中栄二(ドラム) NAOTO(ヴァイオリン) guest 黒沢薫(from ゴスペラーズ)

■元あのバンドのメンバーとして登場、以降も各方面へのサポートで大忙しとなっている注目のキーボーディスト、松本圭司の1stアルバム『ライフ』のリリース記念(フライング)ライブ。会場は立ち見も出るほどの盛況ぶり、いや~みなさん、彼のソロ・プロジェクト、待ちわびていたんですねぇ~。ボクも待ちわびていたことはアルバム『ライフ』のライナーノーツに書きましたので、ご購入の折りにはお目通しください。さてライヴの方は、ピアニスト松本圭司の新境地を余すところなく伝えるにふさわしい充実の内容、と言っておきましょう。トークで気がゆるむととたんにステージがだれるのはファン・サービスとして許しますから(笑)。

【date】2003.4.7
【title】J-Trash
【location】六本木SweetbasilSTB139
【member】青柳誠(key/sax)、小池修(sax)、本田雅人(sax)、佐々木史郎(tp)、中路英明(tb)、古川望(g)、中村康就(key)、村上聖(b)、玉木正昭(per)、鶴谷智生(dr)、ミズノマリ

■ダブル・キーボードでパーカッション入りという豪華なリズムセクションにホーンを加えるという、スムース・コンテンポラリーでありながらブラス(真鍮)的にメロディー&アンサンブルを膨らませるというユニークなコンセプトを披露してくれているのがこの青柳誠のプロジェクト、J-Trashだ。ホーン・アンサンブルをジャズ・オーケストラ的な手法に拠らないため、ユニゾンによるメロディーの強調やフュージョン特有のコード展開への対応など、細かく作り込まれていながら全体の印象がポップになっているところがアイデアの勝利と言えるだろう。メンバーもライヴの回数を重ねてきたので、以前のステージよりもソロへの切り替えなどがパキッと決まり、1曲の中でメロディックな部分と感情で押し切る部分のメリハリがより強調されるようになったと感じる。この状態を「まとまってきた」と表現するのか「崩れ始めてイイカンジ」の方が正しいのかは判断が付きかねるが。いずれにしても、バンドという雰囲気が濃くなっていることは確かなようだ。ゲストはparis matchのヴォーカリスト、ミズノマリ。2000年4月にaosisレコードからデビューした男女3人のプロジェクトがparis match。共通する音楽性ゆえに違和感なくステージへと溶け込んでいくところが楽しめたが、やはりインストでメロの厚みがウネウネとコード・チェンジしていくところがJ-Trashの醍醐味。ヴォーカルが入ると「あれ、歌伴・・・?」というテンションの下がり方に複雑な思いがよぎる。逆に、この演出によってJ-Trashのフォーカスがハッキリとリスナーに伝わったとすれば、ミズノマリちゃんの歌のおみやげ付きで大満足、ということなのだが。

 

 

 

■2003.4.7更新分

■2003.4.3 akiko's Holiday Tour
六本木Sweetbasil
akiko(ヴォーカル) 松本圭司(ピアノ) 田中義人(ギター) 平石カツミ(ベース) 田中栄二(ドラム)

ニュー・アルバム『akiko's holiday』のリリース記念ツアーの最終日。アーシーなアレンジの打ち込みSEで登場したakikoが歌い出したのは「ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド」。今回のアルバムのテーマにもなっている、ビリー・ホリデイの愛唱歌として知られるナンバーだが、肩の力を抜いたストレートな歌唱に「あれ、akikoって変わったんじゃない・・・」という印象が伝わってくる。その印象をさらに強くするのは、SEと入れ替わるようにフェイド・インしてきたバックのナマのサウンド。特に松本圭司のアコースティック・ピアノによるバッキングが、フェイクやヴォイス・トーンを必要以上にコントロールすることなくナチュラルに歌おうとしている彼女の歌にすんなりと溶け込んでいる。続く「イージー・リヴィング」にしても、コンサヴァなナンバーをあえて彼女の好きなニュー・ソウルっぽいアレンジにするでもなくサラリと歌い終えてしまうところに、「緊張している」という言葉とは裏腹な、ヴォーカリストとしての“芯”が定まってきたakikoという個性を漂わせ始めている。ステージは休憩なしで、後半はリラックス・ムードも漂ってビート系のナンバーも出るようになったが、それでもやはり基本はあくまでジャジー。極めつけはアンコールの松本とのデュオとなった「ユーヴ・チェンジド」。“サラりとフカい”という表現力を身につけた彼女は、またさらに進化するのだろうというワクワク感をおみやげにしてくれた。

■2003.3.27 ナニワエキスプレス
六本木Sweetbasil
ナニワエキスプレス<清水興(エレクトリック・ベース) 青柳誠(ピアノ、キーボード、サックス) 中村建治(キーボード) 岩見和彦(ギター) 東原力哉(ドラム)>

18年ぶりのニュー・アルバムも完成して、いよいよ本格始動の文字がマジになってきたナニワの、ニュー・アルバム・リリース先行2daysライヴの初日。「やるぞ、やるぞ!」と復活宣言を出してから幾年月(笑)、この2年ぐらいで何回ナニワのライヴを見たことか……。でもようやく、「久々のリユニオン」といういいわけを考えなくてもいい状況になってくれたのは素直にうれしい。実際にサウンド自体も、かなり「今のバンド」になったという印象が強くなった。なによりもナニワの強みは、演奏しているときのメンバーの楽しそうなようすだ。前々回あたりまではそれがちょっと空回りしているようなところも感じたのだけれど、今回は新曲を含めてライヴ・パフォーマンスそのものが平均化すなわち全体に完成度が高まっているという、ご本人たちの「やる気」がひしひしと伝わってくるステージだったのである。
改めてナニワの完成度を味わってみると、彼らの中に潜んでいるプログレの要素がかなりおもしろい「触媒」になって、21世紀のナニワを作る下地になっているのではないかと思えるところがあった。ファンキーでラテン・フュージョンっぽさはマーケット的には意味があるかもしれないけれど、ボクは逆にそのプログレっぽさの方が、熱狂的なアンダーグラウンド・シーンに通じるクールなサウンドの方向性を表現しやすいと思うし、年齢的にも実績的にも彼らが扱うにふさわしい題材ではないかという気がする。
吹っ切れたライヴを見た後は、リスナーも晴れ晴れとするものだ。

■2003.3.26 如月達デュオ
お茶の水NARU
如月達(ギター) 是安則克(ベース)

如月さんから「トリオで近くのライヴハウスに出ますので見に来ませんか」というメールをもらったので、仕事を片づけてから電車に飛び乗ってお茶ナルの2ndへ。入り口で出演者の名前が2人しか書いてないから「?」と思って中に入る。<以下「大人の事情」によって2人になった理由を78文字削除>という話を、挨拶をした如月さんから聞いて着席、ほどなくステージがスタート。
彼のギターは面の使い方、つまり独特のコード進行によって繰り出される音の波を、メンバーが違うタイミングで絡んでいったり、別の壁を作ってギターの波を押し返したりという「行ったり来たりするサウンド」がおもしろいと思ってライヴを見るようになったのだけれど、今回のステージで気がついたのは、ギターの音を面ではなく、粒状にして継続的に残像を変化させていくようなイメージができあがってきているということだった。たとえてみれば、繰り返す波に洗われる砂上の楼閣を間断なく造り続けるような感じだろうか。厳密にはどこかに必ず前の残像があるためにきっちりとした浮遊感は出てこないが、粒状というか泡状というか時間差で形状が変わる曲のようすが特徴的な“味”を出すことに成功していると言えるだろう。これは、モーフィーングのようなイメージのサウンドと表現すればより伝わりやすいだろうか。
ベースの是安とのコラボレーションも、これが初めてのデュオとは思えないほどバランスが良く、リズムやソロのアクセントの山の作り方などに控えめながらも独自の美学がキチンと表現されていて、おもしろいライヴになったと思う。次はスタンダードからちょっとはずれたような楽曲を聴いてみたいなとも思う(ビートルズ・ナンバーを禁じ手にするのもアイデアかも)。

■2003.3.19 舞台『港町十三番地』
日比谷・芸術座
長谷川康夫:作 井上思:演出 本多俊之:音楽

NHKのドラマなんかには出まくりで「レギュラー・キャストなんじゃないの?」と思ってしまうほどなのではあるけれど、実は日本が誇るジャズ&フュージョン・サクソフォニストで映画からドラマに至るまでの音楽監督としても偉大な業績を残している本多俊之。
彼がなんと「初舞台を踏む」ということで「ジャズ四谷口」でも注目、記者発表会へマル秘潜入取材を敢行してその動向を見守っていたのだが、なんと事務所のご配慮で滅多に入手不可能な「芝居のチケット」をいただくことができ、本編を拝見することがかなった。
ナマの芝居は3年ほど前に「葉っぱのフレディ」という島田歌穂主演の劇を、島健さんがナマ劇伴をやっていた関係で見せていただいたことがあって以来だったかな。学生時代は小劇団ブームで、東京乾電池やら少年探偵団やらいろいろと見たりはしていたんだけれど、ゴリゴリの商業演劇は高校時代に見せられた文学座と比較しなければならないという感じ。
正直言ってテンポはそこそこあるし、脚本が練ってあるので(その分、複雑だったかもしれないけれど)あらすじを予習していればかなり楽しめる。本多さんの出番もかなり多く、しかも生演奏に加えてほかの出演者と絡んだりしている。音楽がテープじゃないだけでもすごくゴージャスな感じだが、その音楽演奏によるアクセントが1つ1つ意味のある転換につながっていたりして、「ミュージシャンをフィーチャーしなくちゃいけないお遊び的演出」では決してないところをたっぷり堪能させていただいた。
物語自体も小樽のジャズが流れるグランド・キャバレーが舞台という興味深いもので、宮本信子さんが歌う美空ひばりの「港町十三番地」がどうストーリーのオチに絡んでいくのか、見所の多い作品だった。年齢設定がボクより5~10歳上ということでちょっとその分、感情移入がしづらいところだけが難点だったぐらいだろうか。
カーテンコールを見終わってから楽屋へご挨拶。メイクを落としながら出てきた本多さんは「いや~、こんなタイヘンだとは思わなかったよ~」と言っていたが、目はなぜかライヴハウスの楽屋にいるときよりも輝いて見えたのは気のせいだったのだろうか……。

■2003.3.14 MITUBISHI HEART-BEAT LIVE
三田・三菱自動車本社ショールーム
小沼ようすけトリオ<小沼ようすけ(ギター) 金子雄太(オルガン) 大槻“KALTA”英宣(ドラム)

「ジャズライフ」誌の取材で三菱自動車のショールームへ。ここに来るのも4~5回目になるけれど、前説のオネエサン(同行のヤマモトCマンによると「今日のはキレイ」とのこと)が「このショールームでのライヴもこれが最後」というのでビックリ。なんでも品川の方へ本社が移転するそうです。今後もぜひフリー(無料)ライヴは継続してください。というのも、集まってくる人たちの音楽に対する「熱意」がストレートに伝わってくる企画であると思うから。
で、本日の主役である小沼ようすけ。会場を見渡すと20代と思われる女性ファンが多数。人気ありますね、彼は。ボクが彼を初めて拝見したのは本日もバックを務めている金子雄太のアクアピットというバンドが六本木のBASH!に出演したときのゲストとして。ちょうど1stアルバムを制作し終わったばかりで「デビューするんです」というMCをしていたのを覚えています。そんな彼もすでに2ndアルバムをリリースしてすっかりブレイクしてしまったわけで、トリオ編成の本日のステージではそんなラフな彼の魅力をたっぷりと味わうことができた。非常に器用で巧いという印象を持っていたのだけれど、どちらかというと若干線が細いかなという先入観は、間近で見ることにより雲散霧消。うん、要注目ですよ、何をやり出すかわからないから(笑)。

 

 

 

■2003.3.8更新

■2003.3.6 Bert Seager Live in Japan
新宿・J
バート・シーガー(ピアノ) 吉野弘志(ベース) 池長一美(ドラム)

定期的な来日を果たしている“ピアノの散文詩人”バート・シーガーのライヴ。ボクも昨年見て、一発でその耽美的な世界にハマってしまった1人だ。
厚生年金会館隣のJまでは、ウチから歩いて15分ほど。花粉症にはウレシイ雨だが、集客には残念な天候だったかもしれない。ちょうど2ndセットが始まる10分ほど前。バートさんに挨拶すると、彼も前回のことを覚えてくれていたようで、「昨日(3/5)のライヴ(立川ジェシー・ジェームス)はたくさん見に来てくれていたけど、今日は数えるほどだね」と雑談。でも、「多くの観客がいると、1人1人にボクの感じていることを伝えられていないようで、ちょっと不安になるんだ。だから、今日ぐらい少ない観客の方が、演奏するにはとても良いコンディションなんだよ」との言葉には深い含蓄があると感じた。
吉野-池長とのコンビネーションは回を重ねているだけに見どころも多くなってきた。お互いが安心して任せ合うのではなく、「こうなっても大丈夫」という“安全パイ”とは逆のベクトルで、インプロヴィゼーションとしての会話が進められていく。
be-bopも好きだというバートは、時折アグレッシヴなパッセージを披露することもあるが、音を放りっぱなしにしないで、最後までやさしく包んでから着地させるようなニュアンスが、さざ波のような感動を伝えてくれるのだ。これが病みつきになる原因の1つなのだろうか。
この後、滋賀でレコーディングをして、録り貯めたものを形にしたいということだが、ぜひともより多くのヒトの耳に届くようになればと願っている。

■2003.3.1 ORQUESTA DE 4 PIEZAS
神田・東京TUC
ORQUESTA DE 4 PIEZAS<香取良彦(ヴィブラフォン、マリンバ) 天野清継(ギター) 松浦直樹(エレクトリック・ベース) ヤヒロトモヒロ(パーカッション)>

1stアルバム『ピエサス1』をリリースした、オルケスタ・デ・クアトロ・ピエサスのライヴを拝見した。
土砂降りの岩本町は静まり返っていたが、TUCの中は熱気ムンムン。ステージ部分にはヴィブラフォンとマリンバの2機が並んで壮観。本日はゲスト抜きの“シンプルなOD4P”をジックリ堪能しようという趣向。
当日は強い雨もさることながら、管制システムのトラブルで飛行機の離発着が大幅に乱れたため、メンバーの到着にも支障があったそうで、久々のライヴにもかかわらず十分なリハーサルが取れなかったとか。そんなことで“あの難しいカトリアン教授の譜面”を演奏しなければならないメンバーの皆さんの必死で楽しそうな表情を、こちら側でも楽しみながらというライヴが粛々と進行。
アルバム『ピエサス1』は、香取さん本人も「ちょっと大人しく聞こえるみたいなんですよね」と言っていたけど、確かにカフェ・ミュージックっぽいような、斜に構えた香取アレンジの雰囲気が強い仕上がりだったように感じた。一方のライヴでは、各楽器のヴォリューム・バランスにもよるのだけれど、ベースとパーカッションのリズム軸がグンと浮き出てきて、それでいてラテンっぽい悪い意味での「隙間」が程よく埋まった、勢いのあるラテン・コンテンポラリーとしての表情を感じることができた。

■2003.2.28 荒武裕一郎トリオ+1
新宿ピットイン
荒武裕一朗(ピアノ) 安東昇(ベース) 井上功一(ドラム) ゲスト:井手直行(アルトサックス)

2002年5月号「ジャズライフ」誌のディスク・レビューで彼の1stアルバム『アイ・ディグ・イット』を担当した。以下がその引用。
--
「炸裂する若さの中に個性が融合する骨太トリオ」
 これはまた末頼もしいトリオが登場した。リーダーの荒武裕一朗は1974年生まれでピアノを本田竹広に師事という経歴。1998年に自己クァルテットを結成し、そこに参加していたのが今回のトリオのメンバーである安東と力武だった。安東が同い年、力武が1年年長というバリバリの若手ユニットである。
音は一聴してパワフル&パーカッシヴというビ・バップ系列の雄々しいもの。しかし、スロー・ダウンしたときのニュアンスなどにはウェットな情感がにじみ出し、音を並べるだけではないセンスの良さが見える。ベースの安東の音の太さと固さは荒武のピアノにベスト・マッチして、すでに定評のある力武のグルーヴと合流しても3人のそれぞれの“立場”が消えない。骨太なトリオだ。
--
その荒武さんから、今年になってメールが届いた。なんでも首の骨を骨折して、昨年8月から静養していたというのだ。今年になって活動を再開したからと、ライヴに誘われた。1月末のスケジュールが合わなかったので、なんとか2月中には見ておきたいと思い、チェックしてみるとこの日の昼ピに出演。ならばと仕事を片づけてから出かけてみた。
ライヴでは、アルバムでも伝わってきた骨太さを感じながらも、力技だけではない繊細な表現力に魅了された。エンディングでのまとめ方など粗い部分もあるものの、フレーズ1つ1つが古さを感じさせない、しかしbe-bopの伝統を拡張した、メインストリーマーとしての存在感をうかがわせるプレイだった。正式に本田珠也クァルテットに参加するということで、ますます注目度アップとなることだろう。

■2003.2.21 山木秀夫-後藤次利プロジェクト
Motion Blue YOKOHAMA
山木秀夫(ドラム) 後藤次利(ベース) 今剛(ギター) 松本圭司(キーボード)and more

帰れなくなる危険を承知して、赤レンガ倉庫のモーション・ブルー2ndセットへと出向く。9時半スタートだから、四谷を出るのは8時過ぎ。この時間に京浜東北線に揺られて横浜をめざすというのは、高校時代の夜遊びを思い出すようでコソバユイ(笑)。
海っ縁はパラパラと雨模様なせいか、2月にしてはちょっと暖かい。しかし、すでに9時近くとなると、さすがの赤レンガ近辺も人影がまばらだ。ところが、モーション・ブルーは満員で、案内されたのは相席。「何が起きるかわからない」という、山木-後藤プロジェクトに寄せるみんなの期待が高いことをうかがわせる。
昨年暮には、インストア・ライヴという形で山木秀夫の衝撃作『Q』を披露したこのプロジェクト。今夜はアルバム参加の今剛に、新鋭の松本圭司を迎えての“フル出動”。まずは山木と後藤の登場でシロフォンとベースが空間をかき乱す。かき乱された空間に、今と松本のウェットなサウンドが広がっていく。山木-後藤がハードでゴリゴリな感触だとしたら、今-松本はウォームでウネウネしている。それぞれが厚みのある音を惜しみなく放出しているにも関わらず、空間は一向に埋まる様子がない。それはおそらく、リスナーが砂漠の砂のように彼らの音を吸い尽くそうとしているからなのだろう。「もっと、もっと!」激しく脳波を刺激するビートによって醸し出されたランナーズ・ハイにも似たリスナーのテンションが、さらにプレイヤーをエモーショナルにしていく。いわゆる“ボトムス”のコラボレーション・プロジェクト、どう発展していくのか楽しみにしたい。

■2003.2.20 芸術座3・4月公演「港町十三番地」製作発表とミニ・コンサート
日比谷シャンテ地下2階 シャンテ・プラザ
出席:宮本信子 近藤正臣 鈴木綜馬 高嶺ふぶき 尾藤イサオ 本多俊之

昼夜あわせて四十数ステージを生演奏するという、過酷な初舞台に挑む本多俊之さんがどんな顔で記者会見するのかを見たいというやじ馬根性で、公開の会見場へ潜入することにした。
冷たい雨の降る昼前に会場の日比谷シャンテに到着。地下二階に設けられたステージのスペースでは、すでにTVカメラなどのチェックが始まっている。入口で「会見をみたいのですが」と声を掛けてみると、「一般の方はコチラ」と席に導かれる。会見45分前というのに、すでに7割ぐらいの席が埋まっている。20~30代の女性が多い。誰が目当てなのだろうか。本を読みながら時間を潰しているうちに、本番開始。主演の宮本信子さんら総勢6人が登場。最初に1人ずつ挨拶。その後は記者質問。こういうのを傍観しているのはけっこうおもしろい。続いて、3曲ほど劇中使用のナンバーを、本多クァルテット+歌という形で披露。劇の舞台が小樽のキャバレーということで、ジャズを中心に演奏されることから本多さんへのオファーが(宮本さんから直々にだそうです)あったということで、本編ではタップリとキャバレー黄金期のスウィンギーなナンバーが楽しめるのだろう。最後は、劇のタイトルにもなっている「港町十三番地」で締め。サックスがキャバレー・チューニングかなと思うところなど、きっと本多さんのことだからかなり凝ってサウンド・メイクをして臨むんだろう。それにしても、劇伴とも違う、演じながらの演奏の本番を何十回も繰り返すというのはどういう経験になるのだろうか。終わってからぜひとも感想をお聞きしたい。

■2003.2.15 林英哲meets山下洋輔「乾坤値千金」東京公演
こどもの城・青山劇場
林英哲(太鼓) 山下洋輔(ピアノ)

青山劇場に入り、座席へ向かって階段を降りていると、後ろから肩を叩かれた。誰かと思ったら、近所に住んでいた友人のカミサン。つい最近、新潟の方に引っ越したのに、こんなところで会うなんて……。「どうしたの?」「あ、ワタシ、英哲さんの追っかけやっているって言ったじゃない!」「あ、そうだっけ」ということだそうです。とにかく、場内にはこうした“邦楽系の熱心なファン”が多く詰めかけているという雰囲気がヒシヒシと伝わってくる状態。
幕開けから、これでもかと強烈なコラボレーションが展開される。和太鼓の場合は特に、テンションの低いところで相手の様子を探るということがほとんど不可能なため、身じろぎもせずに攻めの一手。それをピアノが受けてしまうのでは、音量的にバランスがとれない。洋輔さんも攻める攻める。ここ数年、アメリカン・トリオやオーケストラ、八向山、室内楽といろいろなピアノによる“破壊スタイル”を見せていただいたが、今晩のプレイはそのなかでもさらに凄まじいものとなった。休憩になってロビーに出ると、そこここで、「よく弦が切れないねぇ~」と話題持ち切り。ダイナミクスは別にして、テンションを落とした状態ではおそらく太鼓の波動にかき消されてしまうのだろう。青山劇場の音響的なコンディションも良く、念願の共演は「ますますピアノと太鼓でおもしろいことがやれそうだ」という記念すべき成功の第一歩を印す結果を生むことができたようだ。

■2003.2.14 blue breath
NHKホール
ケイコ・リー with DOKIDOKI Monsters/小沼ようすけバンド/中村善郎バンド&菊丘ひろみ/TOKUバンド/マイケル・フランクス・バンド/日野皓正バンド

「ジャズライフ」誌の取材で“ブルー・ブレス”ライヴへ。このイヴェントは、ソニー・レコーズからリリースされている『ブルー・ブレス』というコンピレーション・アルバムをそのままライヴで実現してしまおうという、言ってみれば“コンピレーション・ライヴ”である。まあ、ジャズ・フェスならこういう顔合わせもアリだとは思うが、この企画のおもしろいところは、アルバムに収録したCMや映画、ドラマなどでおなじみのヒット・チューンを軸に展開される、ということろだろう。
6thセットでそれぞれ3~4曲にもかかわらずトータル3時間超という長丁場ではあったが、満足度は高い。惜しむらくは、食事のできないホール・コンサートだったので、カップルが音楽を満喫した後に、残り少ないバレンタイン・ナイトを楽しむべくお店を探すのがタイヘンだったのではないか、ということだけかな(笑)。

■2003.2.12 村田陽一セッション
調布GINZ
村田陽一(トロンボーン) 安部潤(キーボード) 石成正人(ギター) グレッグ・リー(エレクトリック・ベース)

打ち合わせを終えて渋谷駅へ出たのが7時過ぎ。ちょっと遅れてしまったかなと、帰宅ラッシュですし詰めの井の頭線に慌てて乗り込み、明大前で乗り換えて調布へ。時計を見るとほぼ8時に近づきつつあるが、経験値で「まだライヴは始まっていないだろう」と焦らないように目的地を探す。幸い、前日にホームページから地図をプリントアウトしておいたので、それを見ながら次第に住宅地へと進んでいく。線路を潜るというめずらしいシチュエーションを体験してすぐに、噂の「調布GINZ」はあった。
店内はほぼ正方形で、予想よりもかなり広い。アメリカン・パブという装飾だろうか。カウンターに案内され、リーズナブルなメニューから(リーズナブルだったので)デキャンタのワインとオススメのマメ煮込みを頼んでステージの方へ振り返る。なるほど、これが噂の“中地下”ステージか、と感心。店自体が階段を降りて半地下にあたるロフトとなっており、その半分ほどがさらに地下に沈んでいる。奈落でライヴ、という趣向かもしれない。ただ、カウンターの背の高いイスでも前のテーブル席のヒトの頭が邪魔になるときがあるのは残念。
ステージは静かに始まった。
村田さんから「おもしろいことになってる」と誘われて、好奇心がうずいて来てみたライヴだったが、キーボードがハーモナイゼーションを担当し、エレクトリック・ベースがサブ・メロディー、ギターがリズムと別の和音展開という中で、気持ちよさそうにトロンボーンが泳いでいる。石成のスティール・アコースティック・ギターが魔法のようにいろいろな質感を表現するため、サウンド全体がアコースティックともエレクトリックともつかない、なのにシッカリとグルーヴの核を持っているクァルテットの“顔”が見えてくる。
余計な装飾を取り払う意味でも、コード楽器としてのキーボードとギターという取り合わせは(難しいと言われるが)成功しているように思えた。ベースもスラップによるタイムの頭の遅れがないために、ギターのカッティングとの相性がいい。精密な高級時計の設計図を見るようなバンドの組み合わせ。そうした基盤の上で、デコレートされたトロンボーンが思いきりダイナミクスの広さを表現する。
最後に、某有名ドラマーのサンプリング・ループを交えたファンク・ナンバーという“いたずら”も楽しんで、終電が迫る調布駅へと引き返す時刻になった。

 

 

 

■2003.2.12更新分

■2003.2.10 TKB & BEAT THE CLUB
小岩 eM SEVEN
梶川朋希(ギター) 野田博(ベース) 山本ヒロアキ(キーボード) 町田浩明(ドラム) 杉谷忠志(タップ) 安井希久子(パーカッション) 岸川恭子(ヴォイス、ヴォーカル)

中央・総武線にヒョイと飛び乗って小岩へ。eM SEVENはサウンドスタジオMの2階にあるライヴ・スポットで、スタンディングだと120人というキャパの、距離感がグッドな空間。1stセットはSight Lineというハード・フュージョン系インスト・バンドが登場、メンバーはギター、ベース、キーボード、ドラムというシンプルなスタイルながら、ハードな楽曲を次々と披露して、なかなかの腕前だと感心。「ソー・ホワット」のアレンジ、特にギターとベースの合わせかななんかはソリッド感が出ていて、このバンドらしさを感じた。個人的にはギターのサステインがもうちょっとほしいところなんだけど。ドラムのテンションが高くていいです。JIMSAKUのカヴァーなど、聴かせてくれるバンドでした。
セッティング・チェンジを素早く終えて、2ndセットは“この場限り”というTKBとビート・ザ・クラブ(BTC)の合同ユニットのステージ。TKBは当サイトでも紹介しているハード系フュージョン・バンドの有望株。ビート・ザ・クラブは、TKBのドラマーである町田浩明が結成した、タップとパーカッションとヴォイスというユニークな編成のユニット。この編成で、町田の曲であるTKBオリジナルや、もう1つの町田のユニット、MICRO STONEのオリジナルをプレイ。だから、当夜はBTCが増えたのか、TKBが壊れたのか、どっちがどうなっているのかわからないサウンドが期待される、というワケだ(笑)。
総評としては、TKBのサウンドの幅もかなり広いと思っていたけれど、まだまだ“壊れる”余地は十分にあると感じた。当夜はフロントの1人、サックスの日野林が抜けていたのだけれど、ヴォイスとギターのスリルとサスペンスあふれるやりとりが披露されるなど、目線がステージを右往左往させられることしばしばであった。さらに、天井の低さと照明の加減からだろうか、近距離で体験するタップ・パフォーマンスのすごさにも圧倒される。ギミックなTKBサウンドのリズムに、基本的にはそれほど変化を加えられないはずのニンゲンの足によるパルスが、その肉体表現とともに発せられることによって、四次元的な感覚へと誘ってくれるのだ。杉谷のパフォーマンスは、ゲスト参加だった六本木ピットインのTKBライヴでも見ていたが、ステージの“見せ方”としては当夜の方に圧倒的な存在感があった。照明や曲の組み方など難しい面もあったのだろうが、これだけの“成功例”を見せられたからには、次を大いに期待したい。
それにしても、皆さん、“地元”ということでいい演奏しますね。こういうスポットが自分の街にあるというのはうらやましいです、小岩。eM SEVENはロック系のライヴが多いようだけれど、NervioやValisといったマニアック系フュージョン・バンド(笑)の出演もあるようなので、要注目。あと、ほかにもライヴハウスがあるので、いろいろと足を運んでみたいと思っています。

■2003.2.9 喜多直毅+The Tangophobics
ヤマハ銀座店1Fミュージックステージ
喜多直毅(ヴァイオリン) 阪田宏彰(チェロ)、竹内永和(ギター)、飯田俊明(ピアノ)、田中伸司(ベース)

タンゴ界の新星・喜多直毅率いるユニット、ザ・タンゴフォビクスのフリー(無料)コンサート。喜多はタンゴの本場・ブエノスアイレスで修業。気鋭のミュージシャンを集めて、最もタンゴっぽい楽器であるバンドネオンを用いないタンゴのバンドを結成した。ピアノこそ弦は見えないが、大小の弦楽器ばかりが並ぶ様は一種異様でもあり、そのエキゾチックな違和感が、どちらかというと甘味の強いタンゴの曲調をビリリと締めて、現代感覚へと誘ってくれる。ヴァイオリンの早弾きはもちろんすごくて見飽きないのだが、それ以外にもクラシックでもジャズでも用いないテクニックがふんだんに使われるところは見ていて新鮮。チェロとのユニゾンやハーモナイズ、あるいはコントラバス・ベースの刻み方も特殊で、カルチャー・ショックを体験できる。喜多さんは先日(2003.1.15@代々木naru)拝見した黒田京子さん(ピアノ)とのデュオなど、積極的に他流セッションにも参加されているようなので、今後の活動を楽しみにしたい。

■2003.2.8 KKJAM
目黒BluesAlleyJapan
KKJAM<石川雅春(ドラム)、勝田一樹(サックス)、窪田宏(キーボード)>

昨年9月にBAJで行なわれたセッションの第二弾。もともとは石川の発案で勝田とファンキーなセッションができないかと考えていたところに窪田が参加して誕生したユニット。K(窪田)K(勝田)にI(石川)を加えて命名しようとしたところ、「オレはいいから・・・」(by石川)とういことになったそうだ(「石川さんもオトナになったもんだ」by“KKJAM”命名者Tマスター)。石川さんに「ファンキーなオルガン・ユニットというと、マイケル・ブレッカーがやってましたよね、あれはギター入ってましたけど・・・」と言ったところ「そうそう、ギター入っちゃうと、フツーなんだよね」とういことでした。圧巻は窪田のフット&キーボード・ベース。そう、このユニットにはベーシストもいないのである。なのにローキック炸裂のファンキー・グルーヴ。「とりあえず今年1年はやる!」とのこと。いやいや、さらに進化させてほしいです。ライヴ・レポートは月刊エレクトーンに掲載予定。

■2003.2.4 Woong San
青山BODY & SOUL
Woong San (ヴォーカル) 森下滋(ピアノ) 佐瀬正(ベース) 村上寛(ドラム) 鈴木央紹(テナー・サックス) guest:Toku(フリューゲルホーン)

韓国で活躍している女性ヴォーカリスト、Woong San(ウン・サン)の日本進出プロモーションということで、青山の老舗ライヴハウス、ボディ・アンド・ソウルで行なわれたライヴを拝見した。バックにはベテランの村上寛に若手の佐瀬と森下という組み合わせのトリオ、そこへ関西で売り出し中という“要注目”の鈴木が入ったクァルテット編成。ウン・サンとの顔合わせはいずれも初めてとのこと。
まずはクァルテットでスタート。be-bopのグルーヴィーなナンバー「オー・プリヴァーヴ」をいきなり各人フル・パワーでぶつけ合い、バンドの拠り所をどこまで広げていくかの調整を済ませておく(というふうに見えるぐらい「気を抜くなヨ!」というオープニング)。そして、「ラヴ・フォー・セール」でウン・サンが入ってくるのだが、まずこのリズム・フェチなナンバーで、彼女のジャズ・ヴォーカリストのレベルが高いマニアック度を有していることを見せつけてくれた。声のトーンは独特の“コリア・ミスティ”な感じなのだが、その印象は曲の内容によって次々と変化していく。テクニックに加えて“演じ手”としての力量も並々ならぬところを披露。ステージ進行も、日本語はまだまだ不自由ながら好感触。深夜に及ぶステージはあっという間という感じでチェゴ(最高!)だった。
すでにニューヨーク録音の音源で日本デビューを待つばかりということだが、今から楽しみだ。加えて、イントロデューシング・ステージとなった鈴木央紹のサックスも、圧倒的なパワーとテクニックを備えていた“新生来京”だったことを記憶しておきたい。

■2003.2.3 Views Of Peace
六本木Pitinn
Views Of Peace(ヴューズ・オブ・ピース)<日野林晋(サックス) 紺野紗衣(ピアノ、キーボード) 黒瀬浩一(ギター) 鈴木克人(ウッドベース) 染谷忠(ドラム) よしうらけんじ(パーカッション)> guest 平尾由美(ヴォーカル)

サックスの日野林晋率いる6人組のフュージョン・ユニット、ヴューズ・オブ・ピース。昨年の秋(2002.11.10)に日野林さんから「ボクのユニットのライヴがあるんだけど・・・」というメールをもらったので、その“ピットイン初出演”のステージを見に行った。
事前情報では、彼が参加しているTKBのようなハード&メタリックな感触とは違う、ソフトな方向性のサウンドということだった。初体験の印象は、確かにカフェっぽい方向性はあるが、メロディアスな“核”のあるおもしろいバンドだなというもので、付け加えれば、もうちょっとメンバーの“得意技”を味わえるようなステージを期待したい――そんな勝手な感想を伝えて帰途についた覚えがある。
さて、そのVOPがどうなったのか、というところが当夜の楽しみ。
まず、1曲目が始まるとすぐに、ぐっとシェイプアップされたサウンドが伝わってきた。“まったりとしたサウンド”というものは、輪郭が曖昧な、光同士が交じり合ったようなイメージのものであるけれど、当夜のVOPのそれは、全体像をフットライトで漠然と浮き上がらせながら、各個人へのスポットライトをより鮮明に照らしつけるような“立体感”がでてきている。このバンドは、テンポ設定が微妙なところも特徴なのだが(それが“ゆったり感”の醸成にもつながっている)、立体感が付くことで“まったり”が“もったり”とならない効果を生み出すわけだ。さらに、速いテンポのファンキー・チューンが対照的に引き立つという好影響にもつながっていく。
ソロ回しも長く取り、ライヴを見ている者が「今、ステージのそのポイントで起きていることを自分はちゃんと見ている」という実感=安心感=満足を与える結果を導くことにも成功、とまあ、そんなコムズカシい言い方をしなくったって十分に楽しいステージを披露してくれた、ということなんだけど(笑)。
ゲストのヴォーカルという演出も、進行にメリハリを付けるだけでなく、インストとの音域のバランスが変化することによる“バンドの表情”の違いを楽しめて興味深かった。ヴォーカルに限らず参加者が増えれば、その分全体のバランスを取るための“支点”の位置が変わるわけなのだが、具体的にはインストでテーマ部分をユニゾンで強調するような手法を取っていたところが、ヴォーカルが入ることで主旋律と伴奏を分け、組み合わせ=アレンジへと発展することで当然サウンドが変化する。音の選び方はもちろん、音域の幅の取り方や厚みの付け方に“意志”が要求されるというわけだ。比較的、ミドル・レンジに音が集中しているVOPのサウンドに、ヴォーカルの平尾由美のハイ・レンジの音質が加わることで、このバンドの違う面が見えてくるような気がする。
レンジという面では、ボトムがサステインの少ないウッド・ベースと、比較的に高めに切り詰めている感のあるバスドラで“キレ”を良くしているところも、バンド・サウンドとしてのおもしろい試みのように思える。などなど。あとはまた、次の機会に。

 

 2003年1月に見聞したライヴ

 

■2003.1.29 SLEEP WALKER 1stアルバム・リリース・ツアー
Motion Blue YOKOHAMA
SLEEP WALKER<中村雅人(サックス)、吉澤はじめ(ピアノ)、杉本智和(ウッド・ベース)、藤井伸昭(ドラム)>

モーション・ブルー・ヨコハマにはすでに何度か足を運んではいたのだけれど、いずれも取材ということで編集担当と一緒だったため、「横浜駅からタクシーで行きましょう!」ということになっていた。が、横浜駅周辺が夕方はかなり込み合うため、「なんだかなぁ…」と思っていたので、当夜は地図を確かめてから歩こうと思って、東海道線を横浜で降り、根岸線に乗り換えて桜木町へ回った。ランドマーク・タワーを左に見ながら駅前を進むと、“汽車道”という遊歩道が現れる。かつて倉庫街を走っていた貨物線路を歩道にしたものらしく、一直線にモーション・ブルーのある赤レンガ倉庫街まで歩いて行けるのだ。が、すでに日も暮れた湾岸地帯には風が吹きすさび、気温は零度、体感でマイナス。寒さに唸りながら速足で現地に到着。
モーション・ブルーの受付には、すでに開演予定時間間近というのにいまだ列が連なり、ボクもその最後について入場を待つ。すると遠くからサックスの雄叫びが……。あれれ、もう始まっちゃったのかと思って、ようやく中に入って行くと、まだ始まっていない。そう、サックスの中村さんが楽屋でワンワンと吠えているのが聞こえていたのだ。その音を聴くだけでもう気分はスピリチュアル・ジャズへの期待へと膨らんでいく。
登場したメンバーがセッティングを終えると、まず中村さんが「昨日はメンバー紹介も忘れてしまったから」と最初に必要事項を伝達(笑)。そして「AI-NO-KAWA」をはじめとするスリープ・ウォーカーの世界へと誘ってくれる。モンド・グロッソなどの名前を出すまでもなく、世界で認められているクラブ系ミュージシャンのユニットではあるが、その“ナマ”にかける気迫は尋常ではない。個人的には、楽屋から漏れ聞こえてきた楽器を締め上げるようなサックスがステージではちょっとオトナなプレイになっていたのと、それぞれのソロ・プレイを尊重するようなアプローチは評価できるのだが、インタープレイ的なパート同士のぶつかり合いのような部分がもうちょっと見たかったなぁというあたりが心残り。とはいえ、さまざまなリズムの要素をうまく取り込んだ独自のグルーヴはすばらしく、カウンター席の背の高いイスの上でいつの間にかグラングランと状態を揺らしている自分に気づいたころには1stセットのエンディングを迎えていた。もう1セットという後ろ髪を「終電が心配だし仕事もあるし」という理由でバッサリと切り(ってすでに坊主アタマだけど)再び海沿いの寒い道を駅に向かった夜だった。

■2003.1.22 Euro-Vox
新宿Pitinn
Euro-Vox(ユーロ・ヴォックス)<松井秋彦(ピアノ、エレクトリック・ギター)、前田祐希(ヴォーカル)、大坪寛彦(ウッド・ベース)、島村一徳(ドラム)>

松井秋彦率いるCPJユニットの1つ、ユーロ・ヴォックスの新宿ピットイン初お目見え。登場したメンバーを見ると、なぜかピットインのステージにすんなり溶け込んでいる。というのも、ベースがウッドだからということに気付いた。CPJのイメージはエレクトリックが強かったので、それだけでもこのユニットの特異性がわかってもらえるだろうか。サウンドに関しては、ヴォーカルの前田祐希のMCにもあったように、「やる気を無くす」というコンセプトがあるためか、確かに脱力系のカフェっぽい方向性は出ているように感じる。曲の途中で催眠作用が伝わってくるのも意図的なものなのだろうか、としばし音のゆりかごに揺られながら寝入りばなの心地よさと戦いながら、懸命に理性を働かせて考えてみる。CPJユニットであるから当然、松井の楽曲をプレイしていて、ゆえに共通のコード感があるのだけれど、まったりとしたリズムのおかげで変拍子が影を潜め、そのせいかほかのCPJユニットで感じるようなメ浮遊感モがあまりない。浮遊感がないということは、落ち着きがあるということにもつながるので、そのためにメ眠気モが喚起されるという周到なサウンド・コンセプトがもたらされているのかもしれない。ただ、メ眠気モといっても羽毛布団にくるまれたような心地よいそれとは違い、寝過ごしを心配しながらあらがえない電車でのうたた寝のような不自然な姿勢を強いられての睡魔、あるいは「金縛り」のような感覚が潜んでいる音の世界と言った方が近いのではないだろうか。かつてジャズ・シーンの先人たちがスタンダード曲「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」で試みたような音楽的な試行錯誤がハイブリッドな形で表現された、新しいアコースティック・フュージョン、マットなコンテンポラリー・サウンドを追求するユニットとして活動を見続けたい。
--------------------------------
翌日、松井さんから「どうでしたー、Euro-Voxはー?」というメールが来たので、上記のメモを返信したら、再び「遠慮なく、補足させていただきますね。」とメールが返ってきたので、それも併せて掲載しちゃいましょう。
--------------------------------
やる気をなくす、というところが、「やる気のない感じ」という言い方をしたと思います。意図的になにか変えるというよりは、脱力して、自然にしていて、やる気がないままにまかせる、という感じのつもりです。
で、今、この説明しにくい、Euro-Voxのコンセプトをいくつかのキーワードで言うと、「盛り下がり系」もしくは「まったり系」(日本語として問題があるんですが)「するめ系」「アナログ系」もしくは「アコースティック系」
「するめ系」 は、自分の中では、渋めの曲に見られる傾向です。子供の頃からある傾向として、第一印象があまりぱっとしないレコードをなんべんも聴いていて、だんだんじわじわと好きになってきて、結果的に、どうしようもなく好きになってしまうことがたまにあったんです。こんな感じになれる雰囲気の曲が多いのが、Euro-Voxの傾向なんです。(お、言いきったか?)
CPJの活動の中で、僕はかなりエレクトリックなものが殆どという状態ですが、自分にとってはあまりここのところなかった、アコースティックなもの、そして歌ものへの挑戦が、このEuro-Voxという形に現れたという感じでしょうか。
--------------------------------
ということだそうです。

■2003.1.17 越智順子CD発売記念ライヴ
渋谷JZ brat
越智順子(ヴォーカル)、デイヴィッド・キコスキー(ピアノ)、納浩一(ウッド・ベース)、江藤良人(ドラム)

昨年11月に2ndアルバム『ホワット・ドゥ・ユー・ウォント・フォー“ラヴ”?』をリリースした越智順子のリリース記念ライヴ。
JZ名物 Today's Cocktail“Ribbon in the Sky”を飲みながら(このライヴハウスでは、当日の出演者に合わせてオリジナルのカクテルを出している。当夜はシャンパンとブルー・キュラソーを入れたロング・タイプのカクテル。名前は彼女のアルバムの収録曲で、スティーヴィー・ワンダーの名曲)スタートを待ちわびる。まずはピアノ・トリオが登場して「ワルツ・フォー・デビー」。いや~、生キコスキーの初体験。バラードながら左手の使い方が尋常ではなく、思わず背伸びをして鍵盤を懸命に見ようとしている大人げない自分に気づいて自粛。オチジュン登場で曲調はガラリとファンキーに変わり、「イッツ・トゥ・レイト」。東京へ進出した3年ぐらい前からすでに“貫録”は十分だったが(失礼!)ステージの空間を把握して歌の立体感を作って行くプロの作業はますます磨きがかかったという印象。1曲目のワン・コーラスから安心して身を任せられるという波動が伝わってくる。「リボン・イン・ザ・スカイ」を歌ってMC。テンポアップの「テル・ミー・サムシング・グッド」から「フラミンゴ」「ドナドナ」へと続く流れも見事で、特に「ドナドナ」は場内の空気をサッと変えるほどのインパクトを持っており、食事をしながらおしゃべりをしながらという客席が一瞬静寂に包まれていたほど。アルバム・タイトル・チューンの「ホワット~」、そしてリクエストの多いという「スペイン」でオチジュン・ワールドを満喫させてくれてエンディングへ。アンコールは「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」でホロリとさせるところもニクイ演出で、セットを終了した。

■2003.1.15 喜多直毅・黒田京子 デュオ
代々木ナル
喜多直毅(ヴァイオリン)、黒田京子(ピアノ)

タンゴ・ヴァイオリニストという異色の存在である喜多直毅さんのナマを見ておこうと思ってヨナル(=代々木ナル)初見参。喜多さんのことは、彼が昨年リリースしたアルバム『ハイパー・タンゴ』を、プロデュースした徳永伸一郎さん(ライター)から送っていただいていて、非常に興味津々だった。当夜のライヴはヨナルのスペシャルで、黒田京子ミーツ・シリーズという企画とのこと。黒田さんの童謡からフリーまでなんでもござれという懐の深さは体験済みだったので、そこに気鋭のヴァイオリニストがどうインプロヴァイズされるかが見てみたかった。
1stセットにはちょっと間に合いそうもなかったので、仕事の区切りの良いところまで済ませてからJRに乗って代々木へ。ホーム中央に新たにできた北口改札を出て、だいたいこのあたりだろうと見当をつけていたブロックを探すと、比較的スンナリと看板を発見。階段を降りて行くとまだ1stの最中だった。腰を下ろしてオーダーをする間も、すでに喜多さんのヴァイオリンにグイグイと引き込まれていく。『ハイパー・タンゴ』ではヴァリエーションの豊かさにポイントを置いている部分もあったので、彼の弦の軋みのような部分まで集中することができてなかった自分を反省。それとともに、彼の粗削りながら迫力のある弓さばきにあぜん。速いパッセージも、単に“流麗”などという言葉では片づけさせない、荒々しい息遣いそのままの情感表現が付帯する。そうした男性っぽさのなかでテーマの終わりやブリッジなどにチラリと見せる艶っぽさがなんとも悩ましい。インドからヨーロッパ経由で南アメリカまで広がっていったヴァイオリン+ラテン音楽というもののもっているヴァイタリティと哀愁がそこはかとなくにじみ合わされ、独自の表情となって現れている。ラカトシュはキツすぎる、葉加瀬太郎はラカトシュよりも聴きやすい、なんて好みが見えてきている方ならもちろん、いやいやもっとヴァイオリンで熱くなりたいとお望みの方もチェックをお勧めしたいプレイヤーの登場だ。

■2003.1.12 TKB
六本木Pitinn
TKB<町田浩明(ドラム)野田博(ベース)山本ヒロアキ(キーボード、ピアノ)日野林晋(サックス)梶川朋希(ギター)>

1月25日に4thアルバム『バック・イン・タイム』をリリースするフュージョン・ユニットTKBが、リリース先行ライヴを行なった。タイトルに引用されたスライ&ファミリー・ストーンのBGMでメンバーが登場、1stセットはニュー・アルバム以前の曲ばかりだったが、その分、ステージングが非常に凝っていて、今までにないTKBを遠慮なく観客にぶつけてくる。2ndは新譜からの楽曲が中心。ゲストを交えて“見せる”ことを意識した進行。なるほど、アルバムは音が頼りとなるが、それを再現して聞かせるだけではライヴの意味が薄くなるから、見せる方へ意識を持って行こうというアプローチだろうか。サウンドは、TKBらしさが表現された浮遊感のあるライン/コードが思いきりの良いリズム層と非常によいバランスを保ち、前にも増してファンキーなグルーヴ感が湧出してくるようになったと感じた。ベタベタしていないのに熱さを感じる、独特の高揚感が表現されていたライヴだった。

■2003.1.11 山下洋輔の新春“超”即興絵巻
初台・東京オペラシティコンサートホール:タケミツメモリアル
山下洋輔(ピアノ)原朋直(トランペット)川嶋哲郎(テナー&ソプラノ・サックス)栗山和樹(指揮・編曲)新春超風楽団<神田寛明(フルート)最上峰行(オーボエ)井上俊次(ファゴット)加藤明久(クラリネット)松本健司(クラリネット)山根孝司(クラリネット)郡尚恵(クラリネット)彦坂眞一郎(テナー・サクソフォン)栃尾克樹(バリトン・サクソフォン)井川明彦(トランペット)今井仁志(ホルン)中島大之(ホルン)池上亘(トロンボーン)杉山康人(チューバ)山本修(コントラバス)植松透(ティンパニー)竹島悟史(パーカッション)>

「ジャズライフ」の取材でタケミツメモリアル・ホールへ。このところの新年行事となっているオペラシティの新春恒例ジャズ企画。山下さんが担当するのは今年で3回目。1stセットは、さきごろ病に伏せた日本が誇るインプロヴァイザー、富樫雅彦の楽曲集。初演となった「マイ・ワンダフル・ライフ」というバラッドがことのほかすばらしく、うなって聴いていると隣の編集D氏に終わってから「富澤さん、唸ってましたね~」と冷やかされた。いや~、それぐらい感動した。2ndはクラシック吹奏楽士による新春超風楽団(17人編成)に原朋直と川嶋哲郎がフロントを飾っての4楽章協奏曲。こちらは慣れたせいなのか、協奏曲がいまひとつピンと来ない。ただ、アンコールのアドリヴ合戦などはニューイヤー・コンサートらしい余興で楽しかった。

■2003.1.10 Hirotaka Izumi Solo Piano 2003 New Year
溜池・サントリーホール(小ホール)
和泉宏隆(pf)

古巣のT-SQUAREが25周年という節目で、再びサポート・メンバーとしてスケジュールめじろ押しという噂を聞いていた和泉宏隆が、2002年にリリースして完結させたソロ・ピアノ4部作を記念するライヴを行なった。会場はアコースティックな鳴りを楽しむには最適なサントリーホールの小ホール。まずは倍音の重なり具合を確かめるように音を置きながらウォーミング・アップ、徐々にその耽美的なピアノ世界へと誘ってくれる。和泉のピアノはテンションを開かない、モダン・ジャズのピアノとは性格の異なるものなのだが、時折見せるブルージーな表情や、端正な指使いのなかにも浮き上がってくるユーモラスな表現など、“環境系”という言葉だけでは収め切れない、豊かな風景と感情を見せてくれる。特に最近の作品では、ピアノという楽器自体を自然のなかに置いて同化させるような作風が見てとれ、アイデアだけではないピアノへのアプローチが伝わってくるようで興味深かった。あとはMCのギャグ、なんとかしてください(笑)。